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浦和地方裁判所 昭和54年(ワ)613号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

被告の主張する抗弁は、次のとおりである。

「一 錯誤による無効

1 本件売買契約は、次に述べるとおり、被告の売渡しの意思表示の重要部分に錯誤があり、無効である。

(一) 被告の父中村眞一は、昭和四七年八月、被告に対し、本件土地を含む被告所有の数十筆の土地について、その所有権が自己にあることを前提とする訴訟(浦和地方裁判所同年(ワ)第四八六号所有権移転登記抹消等請求事件)を提起した。被告は、原告夫婦の紹介と協力によつて、右事件を塩津務弁護士に委任して応訴した。

(二) 原告は、その頃から、右係争中の土地に目を付け、被告に対し、その一部を安値で譲つてほしい旨強く希望した。本件土地は、当時3.3平方メートル当たり一六万ないし一七万円の価額であつたが、被告は、原告の前記協力に対する感謝の意もあつて、昭和四八年七月二三日、本件土地を時価の三分の二を下廻る九〇〇万円(3.3平方メートル当たり九万円)という格安の値段で売渡すことにした。

(三) ところで、前記訴訟の第一審は被告が勝訴し、眞一がこれに控訴(東京高等裁判所昭和五二年(ネ)第二五八九号事件)していたが、昭和五四年二月一六日のその和解期日において、眞一の訴訟代理人から、被告に対し、本件土地と一部重複する被告名義の別紙第二目録の土地につき、眞一と原告ほか一名間に昭和四八年一月三一日付の売買があり、これを解約する金銭として八〇〇万円及び利息分を和解金として支払つてもらいたい旨の申入れがあつた。被告は、このとき始めて、原告が、本件売買契約当時すでに、眞一との間に右のような土地売買(代金は3.3平方メートル当たり一〇万円)をし、係争の当事者双方から両天びんによる大利を期していた事実を知つた。

(四) 被告は、本件売買契約当時、右のような原告の背信行為を知つていたならば、原告に対し、本件土地売渡しの意思表示はしなかつたし、また、このことは、原告において当然知り、又は知ることができたはずである。

2 仮に、眞一・原告間の右土地売買が貸金担保の趣旨であつたとしても、次に述べるとおり、被告の意思表示に錯誤があることに変りはない。

(一) 眞一・被告間の前記訴訟は、眞一の女性問題とこれに伴う財産浪費が原因となつている紛争であつた。そのため、被告側は、原告夫婦に対し、再三、貸金であれ、その他の名目であれ、眞一の女性関係継続と浪費につながることとなる金銭の提供は絶対しないでほしい旨要請していた。

(二) ところが、原告は、本件売買契約の日より数か月前の昭和四八年一月三一日、永井明と共同で、眞一に対し、前記土地売買の手付金名下に一〇〇万円を交付し、眞一の女性関係の継続と浪費につながる金銭の提供となる結果を招来させた。このことは、被告の係争中の相手に荷担したことであつて、明らかに被告に対する背信行為である。

(三) 被告は、本件売買契約当時、眞一に金銭を提供したという原告の背信行為を知つていたならば、本件土地売渡しの意思表示はしなかつたし、また、このことは、原告において当然知り、又は知ることができたはずである。」

【判旨】

二そこで、被告の抗弁について判断する。

1 錯誤について

一般に、土地の売買は、売主が土地所有権を移転し、買主が代金を支払うことを要素とする契約であるから、売買をするに至つた動機にくい違いがあつたり、また、一方当事者が相手当事者の性格や過去の行動等を誤解していたりしても、それらの動機・性格・行動等が特に契約の内容として表示されていない限り、単なる動機の錯誤であつて、売買の効力には影響がないといわなければならない。

ところで、被告は、原告に対する感謝もあつて、本件土地を格安の値段で売渡した旨主張する。

証人真塩茂及び同槇本義夫の各証言によると、被告の義兄である真塩茂(本件売買契約の斡旋者)と原告夫婦とはかねて知合であり、被告も、昭和四七年中に起こつた父中村眞一との間の訴訟について、原告の夫から塩津務弁護士を紹介された経緯があつたこと、本件売買契約に際し、3.3平方メートル当たり一〇万円の言い値であつたのが最終的に九万円となつたことが認められ、これらの事実から、売買代金を決定するについて被告側に好意的な配慮があつたことは推認できるけれども、そうかといつて、本件売買契約が、売主において経済的利益を度外視して、個人的縁故のみに基づいた、いわば恩恵的な取引であつたとまでは認められない(本件土地の時価が被告主張の3.3平方メートル当たり一六、七万円であつたことの確実な資料もない)。

また、被告は、原告が、重複する土地を被告とその父の双方から買つて大利を期したとも主張するが、本件の全証拠によつても、原告がそのような意図を有していた事実は認めることができない。

そして、その余の被告の主張は、要するに、(一) 契約前に原告の背信行為があつた、(二) その行為を知つていたら、被告は本件土地を原告に売渡さなかつたとの二点に帰着する。しかし、本件売買契約にあつては、その内容として、特に買主の善行(例えば、過去において売主の係争中の相手と協力した事実のないこと)を条件づけた事実は全く認められない以上、右は、売渡しの意思を決定するまでの内心の過程に係わる事柄に過ぎないから、果して原告に背信行為があつたかどうかを問うまでもなく、錯誤の主張は成立しえない。 (橋本攻)

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