浦和地方裁判所 昭和54年(ワ)788号 判決 1983年6月24日
原告
株式会社リバーカウンター
右代表者
田村忠
右訴訟代理人
市江昭
被告
株式会社大稲産業
右代表者
中村利治
右訴訟代理人
松尾敏夫
主文
一 被告は原告に対し、金二〇〇万円及び内金五〇万円に対する昭和五四年九月一四日から、内金一五〇万円に対する昭和五七年八月二一日から各完済までの年六分による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余は被告の各負担とする。
四 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金五三五万七六六一円及び内金二三五万七六六一円に対する昭和五四年九月一四日から、内金三〇〇万円に対する昭和五七年八月二一日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、水力と円舟によるリバーカウンターの製造技術の供与及びその施設の施工を業とする会社である。
2 原告は、昭和五三年一二月一二日、被告との間に、左記契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(一) 契約の目的 原告は被告に対し、水力と円舟によるリバーカウンター(飲食店店舗内において客席のカウンターに円状の水槽を設け、水槽内に高低の落差又はノズルからの噴出による水圧により水流を起し、水流に円形の桶を浮べてその移動によつて客席に飲食物を運搬させるシステム)の製造技術(以下「本件ノウハウ」という。)を供与し、その施設(原告代表者田村忠昭和五三年七月一一日実用新案登録出願にかかる実願昭五三―九五二五八号「水力と円舟を利用したカウンター」に基く施設。以下「本件施設」という。)を施工する。
(二) 対価の支払 被告は原告に対し、本件ノウハウ使用の対価として契約成立時に一〇〇万円を支払う。
(三) 本件施設の使用の限定 被告は、原告の文書による事前承認にかかる被告の店舗においてのみ、本件ノウハウに基く本件施設を使用できる。
(四) 施工業者 被告は、本件施設の施工を原告の指定する工事業者又は原告の予め承認した業者を通じ行うこととする。
3 原告は、本件契約締結後間もなく、埼玉県北葛飾郡松伏町大字松伏四二六七番二所在の被告所有の店舗(屋号三味ずし。以下「松伏店」という。)に対し、同契約に基いて本件ノウハウを供与し、右契約締結時になされた原告を工事業者とするとの合意に基いて本件施設を施工した。
4 被告は、昭和五四年七月頃、越谷市に店舗を新設し、同店(屋号三味ずし。以下「越谷店」という。)内に、原告に無断で本件ノウハウを使用し、第三者に本件施設を施工させ、更に、その後、被告経営の三味ずし三郷店、野田店及び武里店にも原告に無断で本件施設を設置した。
5 前項記載の被告の行為は、本件契約の本件施設使用限定及び施行業者限定の各条項に違反するものであるから、被告は原告に対し、これにより生じた損害を賠償する義務がある。
6 原告は、被告の前記行為により、本件施設新設に関する本件ノウハウ使用対価一施設当り一〇〇万円、四施設分計四〇〇万円及び右越谷店における本件施設施工により得べかりし工事代金五七七万円に対する工事利益率23.53%の割合による利益金一三五万七六六一円相当の損害を蒙つた。
7 よつて、原告は被告に対し、前記損害金合計五三五万七六六一円及び内金二三五万七六六一円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月一四日から、内金三〇〇万円に対する訴変更申立書送達の日の翌日である昭和五七年八月二一日から各完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否<省略>
三 被告の主張
1 松伏店のカウンター設備施工契約締結に際し作成された契約書には「乙の保有する本件ノウハウ」とのみ記載があるにすぎず、ノウハウの内容については全く明示されていない。従つて、原告主張のノウハウ上の権利に関して原、被告間に何の合意もなく、同契約はノウハウに関して何の効力も生じない。
2 仮に、原、被告間に本件施設に関する契約が成立するとしても、松伏店におけるカウンター(本件施設)は、水槽の底に一定間隔をおいて吐出口を有する渦流堰を設置する構成であり、吐出口より流出した水が一定速度で流れる効果を奏するのに対し、越谷店のそれは、流水溝の内周壁に流水方向に傾斜片を所定間隔で設け、内周壁部分より傾斜片の内側面部に突出する注水口を設け、注水口より流水溝に注水する構成であり、噴流によつて水を強制循環させる効果を奏するのであつて、両者はその作用効果を異にする。従つて、本件施設に関する契約の効力は、これを異なる越谷店との他の店舗の施設には及ばない。
四 原告の反論
1 本件契約に関し作成された契約書には、同契約の対象である設備について明確に表示されてはいないが、本件契約締結当時の被告代表者松本六郎は、原告代表者田村忠に対し、昭和五三年三月三〇日、三松商事有限会社代表者として同社経営の曲水ずし熊谷店に本件施設と同一の食品搬送設備を発注し、同店における同施設の完成による営業上の好結果に鑑み、原告に対し、同年五月、三味商事有限会社代表者として同社経営の三味ずし二ツ宮店に、同年一〇月、松本個人経営の流水ずし宮前店に、同様の設備をそれぞれ発注し、その後更に、同年一二月に被告代表者として同社経営の三味ずし松伏店について原告との間に本件契約をなしたのであるから、原告及び被告が曲水ずし熊谷店における食品搬送設備すなわち本件施設を契約対象として本件契約を締結したことは明らかである。
2 被告が越谷店ほか三店に赤間正雄出願にかかる食品搬送装置を設置したとしても、同装置は、本件施設の考案の要旨とする技術的思想と差異はなく、本件施設の比較的重要な要素である注水口の位置、形状における差異は、その変更によつても両者の機能及び作用効果に差異はなく、同要素は置換可能であるし、構成の大要は両者同一なのであるから、本件施設の範囲に属するものというべきである。
第三 証拠<省略>
理由
一原告が水力と円舟によるリバーカウンターの製造技術の供与及びその施設の施工を業とする会社であることは当事者間に争いがない。
二次に、本件契約の成否について判断する。
1 <証拠>によれば、昭和五三年一二月一二日、原告と被告との間に「リバーカウンター施設施工契約書」が作成され、同契約書には
(一) 被告と原告とは、原告の考案によるリバーカウンターの製造技術の供与及びその施設の施工に関し契約する。(前文)
(二) 原告は被告に対し、原告の保有する本件ノウハウ及び施設を施工するものとし、被告は原告の文書による事前承認に係る被告の店舗、すなわち、本契約書の店舗においてのみ、本件ノウハウに基く本件施設を使用できるものとする。(第一条)
(三) 被告は、本件施設の工事を原告の指定する工事業者または原告の予め承認した業者を通じ行うものとする。(第二条)
(四) 被告は原告に対し、前条工事費以外に、本施設のノウハウ使用の対価及び工事内金として、この契約成立時に一六〇万円を支払う。(第三条)
(五) この契約の有効期間は、この契約締結の日より満一〇か年とする。(第七条)
(六) 施設所在地 埼玉県北葛飾郡松伏町大字松伏四二六七―二。(末尾)等の記載のあることが認められるが、これのみによつては本件契約の成立を認めることはできない。
2 そこで、前記契約書の作成に至る経緯について検討を加える。
<証拠>を総合すれば次の事実を認めることができ、前掲各供述中右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 原告代表者田村忠は、昭和四八年一月一一日、「水力と円舟を利用したカウンター」の実用新案登録出願(実願昭四八―六六五八)をなし、同四九年九月一二日出願公開(昭四九―一〇七〇八六)、同五二年一〇月七日出願公告(昭五二―四四一六一)を経たが(以下「リバーカウンター一号機」又は単に「一号機」という。)、更に、一号機の改良型につき、昭和五三年七月一一日、「水力と円舟を利用したカウンター」の実用新案登録出願(実願昭五三―九五二五八)をなし、同五五年一月二九日出願公開(昭五五―一三八八八)を経た(以下「リバーカウンター二号機」又は単に「二号機」という。)。
(二) 田村は、松本六郎(被告会社前代表者)から、元禄寿司のベルトコンベヤーによる食品搬送装置に代る水力利用の食品搬送装置の注文を受け、高低の落差による水流を利用した一号機を改良してノズルからの水の噴出の水圧による水流を利用した二号機を考案し、昭和五三年三月、松本が代表者である三松商事有限会社経営の曲水ずし熊谷店に右二号機を総額三〇〇万円(ノウハウ使用対価一〇〇万円を含む)で設置、施工し、次いで、田村を代表とする原告は、同年五月、松本が代表者である三味商事有限会社経営の三味ずし二ツ宮店に、同年一〇月、松本個人経営の流水ずし宮前店にそれぞれ二号機を設置、施工した(右両店についての工費額は明らかではない。)。
(三) 被告代表者中村利治は、埼玉県北葛飾郡吉川町でスーパーマーケットを経営していたが、前記熊谷店等のカウンター施設を見て同郡松伏町に同施設を使用する飲食店の開業を思い立ち、高島義光(松本の義弟)の紹介により松本と会い、三者協議した結果、右飲食店の経営主体とするために昭和五三年一〇月被告会社を設立して右三者がその取締役となり、松伏店の開店予定地の地主との関係から松本を代表者とする一方、従前の田村との関係から松本が主として同施設施工についての原告との交渉に当つた。
前記契約書は、右交渉の末、原告による松伏店に対する施設施工に先立つて作成されたものであり、同契約書の被告代表者の記名押印は中村がなし、その際中村の申出により第三条の「前条工事費以外に、本施設のノウハウ使用の対価」との文言の次に「及び工事内金一六〇万円」との文言が記入された。
3 前記の契約書の記載及び契約書作成に至る経緯を総合すれば、昭和五三年一二月一二日、原告と被告との間に、原告は田村考案にかかるリバーカウンター二号機を被告松伏店に設置すること、被告は右二号機に具現されたリバーカウンターの製造技術をノウハウとして認め、原告に対し、ノウハウ使用の対価(額については後記認定のとおり)を工事費の外に支払い、契約後一〇年間は二号機を松伏店以外で使用しないこと等を骨子とするリバーカウンター二号機の製造技術の供与及びその施設の施工に関する契約が締結されたことが認められる。
続いて、本件契約におけるノウハウ使用対価の支払額について検討するに、本件契約に関する交渉にあたり被告側は主として松本が担当したこと、松本が代表者である三味商事有限会社が熊谷店の本件施設施工に際して田村に対し工事費三〇〇万円のうち一〇〇万円をノウハウ使用対価として支払つたことは前記認定のとおりであり、<証拠>によれば、昭和五四年五月、被告は三味ずし越谷店の増設を企図し、松本を通じて原告に対し、同店のカウンター施設施工の見積を依頼したところ、これに応じて原告が被告に提出した同月一四日付流水カウンター工事の見積書には工事費総額六一五万円(うちノウハウ料一〇〇万円)と計上されていること、松伏店のカウンター施設施工の工事費総額は四〇〇ないし五〇〇万円であり、契約書に記載された一六〇万円の金額は同契約書作成時に被告から原告に支払われた金額を指すものであることが認められ、また、被告が原告に対し、結局越谷店のカウンター施設施工を依頼しなかつたことは弁論の全趣旨により明かであり、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
これらの事実によれば、本件契約に際し、被告が原告に対し支払つたノウハウ使用の対価は五〇万円を下らなかつたことが認められる。
三被告が三味ずし越谷店ほか三店に流水を利用した食品搬送装置を設置したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば右設置について原告の承認がなかつたことが認められるところ、被告は、右装置は赤間正雄の考案、施工にかかるものでリバーカウンター二号機とは作用効果を異にするから、本件契約の効力は右装置の設置には及ばないと主張する。
<証拠>によれば、被告が三味ずし越谷店ほか三店に設置した装置は赤間正雄外一名昭和五四年三月二二日実用新案登録出願にかかる実願昭五四―三八九六二号「流水を利用した食品の搬送装置」に基く施設であることが認められるが、<証拠>によれば、赤間ら出願にかかる「流水を利用した食品の搬送装置」は、本件施設の考案の要旨とする円環型のカウンター内に設置した同型の水槽内に水圧ポンプにより水を循環せしめ流水に浮べた円舟により物品を搬送するとの技術的思想と差異はなく、構成上水槽内への注水口の位置、形状に差異がみられるがその他の大要は同一であり、上記の差異もこれにより両者の機能及び作用効果に差異は生じないことが認められるから、本件施設の範囲内に属するものというべきであり、しかも、前記赤間ら出願にかかる実用新案は、昭和五四年三月二二日出願されたものの同五七年二月一六日までに出願審査の請求のなされていないことが認められるうえ、その後同五八年三月二二日までに同審査請求のなされたことを認めるに足りる証拠もないから、同出願は取下げられたものと推認することができる(実用新案法一〇条の三、特許法四八条の三)。<反証排斥略>。
右事実によれば、被告の前記行為は本件契約の施設の使用限定の条項に違反するといわなければならず、被告はこれによつて蒙つた原告の損害を賠償すべき義務がある。
四そこで、原告の蒙つた損害の額について検討する。
被告が原告に対し、本件契約におけるノウハウ使用対価として五〇万円を下らない額を支払つたことは前記認定のとおりであり、これによれば、原告は被告の越谷店ほか三店におけるカウンター施設設置により、右使用対価一施設当り五〇万円合計二〇〇万円相当の損害を蒙つたことが認められる。
しかし、本件契約において、被告は本件施設の施工を原告の指定業者または原告の予め承認した業者を通じて行うことが約され、原告が松伏店における本件施設の施工を担当したことは前認定のとおりであるが、原、被告間に原告が常に本件施設施工工事を行う旨の合意があつた事実はこれを認めるに足りる証拠がない。従つて、原告の直接工事施工を前提とする逸失利益の主張は、その余の判断をするまでもなく失当である。
五以上によれば、原告の本訴請求は二〇〇万円及び内金五〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月一四日から、内金一五〇万円に対する訴変更申立書送達の日の翌日である昭和五七年八月二一日から各完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 (手代木進)