浦和地方裁判所 昭和54年(行ウ)6号 判決 1981年9月28日
原告 星野長次郎
原告 星野靖子
右訴訟代理人弁護士 谷合光昭
被告 浦和税務署長 傘木実夫
右指定代理人 細井淳久
<ほか五名>
主文
一 被告が原告らに対し、昭和五二年六月九日付をもってなした訴外星野敬亮に対する昭和四五年分申告所得税の滞納国税本税金一一一万三五〇〇円及び加算税金五万六七〇〇円についての第二次納税義務納付告知処分はこれを取消す。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、原告らに対し、昭和五二年六月九日付納付通知書により、訴外星野敬亮には、別紙一の(1)記載のとおり昭和四五年分申告所得税につき、本税金一一一万三五〇〇円、加算税金五万六七〇〇円の滞納があり、原告らには、右各租税債務につき国税徴収法三九条により、それぞれ金三二五万七三四二円の限度で第二次納税義務があるとして納付告知処分(以下「本件納付処分」という。)をなした。
2 そこで、原告らは被告に対し、昭和五二年八月九日右告知処分に対し、異議申立をしたところ、被告は、同年一一月五日をもって右異議申立を棄却したので、原告らは、更に同年一二月七日関東信越国税不服審判所長に審査請求したが、同所長は、昭和五三年一二月二六日付をもってこれを棄却する旨裁決し、その旨原告らに通知し同通知は、昭和五四年一月二五日、原告らに到達した。
3 しかしながら、被告が原告らに対してなした本件納付処分は、いずれも違法であるから原告らはその取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の事実は裁決到達の日を除き、認めるが、同3の主張は争う。
三 抗弁
1(一) 訴外星野敬亮は、昭和四五年一一月一七日訴外カワノ建物株式会社(以下「カワノ建物」という。)に星野敬亮の所有する別紙物件目録一記載の各土地及び建物(以下「本件課税対象不動産」という。)を譲渡したが、右譲渡に係る所得(譲渡所得)税の申告をしなかった。そこで、被告は、昭和四八年八月三日、星野敬亮に対し昭和四五年分所得税について、納付すべき税額として本税金一一三万五〇〇〇円、過少申告加算税金五万六七〇〇円の更正及び賦課決定処分(以下「主たる課税処分」という。)を行なったが、同人は、同処分に対し異議申立をなさないまま、納期限の昭和四八年九月三日までに右税額を納付せず、又その後同月二六日に被告のなした督促状による納付の督促にも応ぜず、これを納付しなかった。従って、右課税処分は適法に確定している。
(二) 仮に、本件課税対象不動産の譲渡につき原告ら主張のとおり買戻の特約が存したとしても、
(1) 譲渡所得の発生時期は、当該資産につき、法律上所有権の移転があった時と解すべきである。けだし、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによって、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する。いわば、潜在的に発生している増加益に対し、資産の譲渡がなされたという事実を契機に課税するものにすぎないからである。本件課税対象不動産は、いずれも昭和四五年一一月一七日に売り渡され、同月一九日に右売買を原因とする所有権移転登記がなされ、買戻の登記もなされていないので、右買戻は第三者に対抗できないのみならず、星野敬亮が右不動産を買戻し得るか否か極めて不確実な状態にあったことからみて、右売渡しの時点をもって、右不動産は、同人の支配を離れたものというべきである。
(2) 仮に、右主張が認められないとしても、星野敬亮に対する主たる課税処分の瑕疵は、同処分が、不存在又は無効でない限り、本件納付処分の効力に影響を及ぼすものではないところ、本件課税対象不動産の譲渡については、右のとおり買戻の登記がないうえに、星野敬亮が買戻権を喪失したという昭和四六年中にも、同人からその旨を記載した所得税の申告書の提出もなされなかったのであるから、右不動産にかかわる譲渡所得の発生時期が昭和四五年中ではないということは主たる課税処分の当初から外形上、客観的に明白であったとは到底いえないし、又右不動産にかかる譲渡所得は、結局、遅くとも昭和四六年中には発生したことになり、これについての不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として星野敬亮に主たる課税処分を甘受させても著しく不当と認められるような事情もないから主たる課税処分が当然無効とはならない。従って、原告らは、本件取消訴訟において、星野敬亮に対する右の確定した納税義務の不存在又は数額、手続上の瑕疵を争うことはできない。
2 星野敬亮は、昭和四五年一一月当時、訴外有限会社星野頑具(以下単に「星野頑具」という。)の代表者として右会社の経営にあたっていたが、右会社が昭和四六年四月ごろ倒産したことから、同人がそのころ、右会社の債権者らに対して負担していた保証債務のため、同人所有の財産は、すべて強制換価されたうえ、同人は、昭和五〇年二月八日、星野頑具の債権者一八名に対する約六〇〇〇万円の残存債務につき支払不能の財産状態であることは明白であるとして、浦和地方裁判所から破産宣告を受けたため、被告は、星野敬亮に対する前記国税につき滞納処分を執行してもこれを徴収することができなかった。
3 星野敬亮は、昭和四六年三月一二日、原告らに対し、別紙物件目録二記載の土地(以下「本件土地」という。)を贈与し(以下この贈与を「本件贈与」という。)、それぞれ持分を二分の一として原告らに対し所有権移転登記手続を了した。そして、国税徴収法三九条にいう譲渡の時期は、不動産については、所有権移転登記のなされた時を基準とすべきである。けだし、不動産に対する滞納処分による差押の関係においても民法一七七条の適用がある(最高裁昭和三一年四月二四日判決民集一〇巻四号四一七頁)から、滞納者がその不動産を譲渡しても、その旨の登記がなされない間は、なお同不動産に対する滞納処分による差押が可能であるが、右譲渡の登記がなされた後にあっては、当該譲受人が右不動産の所有権を確定的に取得することになるので、右譲受人に対して第二次滞納義務を負わせる必要が生ずるからである。
従って、本件土地の譲渡の時期は、右の昭和四六年三月一二日となるから、星野敬亮に対する確定した前記国税の法定納期限の一年前の日以後であって国税徴収法三九条の適用がある。
4 星野敬亮の前記国税の徴収不足は、本件贈与に基因する。
5 本件土地の昭和四六年三月一二日当時の価格は、少なくとも金六七〇万八六八四円を下らず、本件贈与により必要となる贈与税は金九万四〇〇〇円、登録免許税、登記手数料は各金五万円であるから、原告らが本件贈与によって受けた利益は右金六七〇万八六八四円より右金一九万四〇〇〇円を控除した金六五一万四六八四円の二分の一である金三二五万七三四二円を下らない。
6 以上のとおり、星野敬亮の原告らに対する本件土地の贈与は、星野敬亮に対する前記国税の法定納期限である昭和四六年三月一五日より一年前の日以後である昭和四六年三月一二日になされたものであるから、被告は原告らに対し国税徴収法三九条により別紙一の(1)及び(2)のとおり納税告知処分をしたものであり、同処分に違法な点はない(被告が原告らに対してなした別紙一の(1)の納付通知書においては第二次納税義務者が納付すべき税額として「本税一一三万五〇〇〇円」と記載すべきところ、右本税の一部である二万一五〇〇円を脱漏して「本税一一一万三五〇〇円」と記載したため、右納付通知書による告知は、右記載に係る税額の範囲内においてのみ効力を生じ、右脱漏に係る税額については更に被告がこれを記載した納付通知書によって告知しなければ効力を生じないことになるから、被告は、別紙一の(2)の納付通知書において右脱漏に係る税額二万一五〇〇円及びこれに対する延滞税額を記載して告知したのである。)。
四 抗弁に対する認否及び原告らの主張
1 抗弁1の事実のうち、星野敬亮がカワノ建物に対し、被告主張の不動産を譲渡しながら、これに係る所得税の申告をしなかったこと、星野敬亮が被告主張の国税を納期限までに納付せず、その後の被告の督促状による督促に応ぜずこれを納付しなかったことは認めるが、右譲渡の日が昭和四五年一一月一七日であることは否認する。被告が、昭和四八年八月三日、星野敬亮に主たる課税処分を行なったこと、同人が右処分に対し、異議申立をしなかったとの点は知らない。被告の主張は争う。被告が主張するところの星野敬亮に対する昭和四八年八月三日付の更正・決定は、いかなる方法によるも同人に送達もしくは通知されていない。従って、同人に対する昭和四五年分申告所得税の主たる課税処分は、手続上違法であり、かかる違法な課税処分を前提とする原告らに対する本件納付処分もまた手続上違法である。仮に、右通知が適法になされていたとしても、星野敬亮がカワノ建物に本件課税対象不動産を譲渡したのは、昭和四六年八月一六日である。即ち、星野敬亮が代表者として経営にあたっていた星野頑具は、昭和四五年一一月一七日、カワノ建物から金一三〇〇万円の金員の調達を受けるため、星野敬亮がカワノ建物に同人所有の本件課税対象不動産を昭和四六年二月一六日までに(この期限はその後の合意によって同年八月一五日まで猶予された。)右金額で買い戻すことができる旨の約定で売渡し、昭和四五年一一月一九日所有権移転登記手続を了した。しかし、その後星野頑具は、被告主張のとおり昭和四六年四月倒産し、右買戻金の調達も不可能となったため、前記買戻権を行使することができず、結局、右不動産は、同年八月一六日カワノ建物の所有に帰属した。従って、星野敬亮に対する主たる課税処分の法定納期限は、昭和四七年三月一五日となるから、仮に本件贈与のなされた期日が被告主張のとおり昭和四六年三月一二日であったとしても、本件贈与については国税徴収法二九条の適用はない。
2 同2の事実のうち、被告が星野敬亮に対する国税につき滞納処分をしてもこれを徴収することができなかったとの点は知らないが、その余は認める。
3 同3の事実のうち、原告らが本件土地の贈与を受けた期日が昭和四六年三月一二日であるとの点は否認する。その余の事実は認める。被告の主張は争う。原告らが星野敬亮から本件土地の贈与を受けたのは昭和三九年一二月である。即ち、星野敬亮は、昭和一九年六月二日同人の父星野幸長の死亡によって埼玉県北足立郡足立町大字志木字直路一九一八番畑五三八平方メートル(その後所在は志木市大字志木直路と表示が変更された。以下「直路の土地」という。)等右星野幸長の遺産を家督相続したが、星野敬亮は、同人の弟である原告星野長次郎が昭和三九年一二月同靖子と婚姻するに当って、かねてからの約束に基づき同人らに対し右遺産の中から直路の土地を贈与したのである。ところが、直路の土地については、昭和三四年ころから足立町長を施行者とする直路土地区画整理事業の施行が開始されていたところから、星野敬亮及び原告星野長次郎は同町役場より右土地上に建物を建築すること及び右土地についての権利移転を差し控えるように指示されていたため、右贈与に基づく所有権移転登記手続を経由しなかった。しかし、昭和四三年二月ころには、原告星野長次郎は仮換地の予定地が本件土地であることを知っていたので、足立町の了承を得たうえ、昭和四五年九月ごろ本件土地上に居宅の建築を開始し、同建物建築工事が竣工した後の昭和四六年三月一二日同建物の所有権保存登記手続を行なうと同時に本件土地についても贈与による所有権移転登記手続を経由したのである。従って、本件贈与について国税徴収法三九条の適用はない。
4 同4、5の主張は争う。
5 同6のうち、被告が原告らに対し、別紙一の(1)及び(2)のとおりの納税告知処分をなしたとの事実は認めるが、その主張は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1、2の事実は、原告らに対する裁決の送達の日を除き、当事者間に争いがなく、右送達の日は、弁論の全趣旨により、原告ら主張の日になされたものと認める。
二 そこで、まず主たる納税義務者たる星野敬亮に対する前記課税処分につき瑕疵があったか否か、瑕疵があった場合原告らが本件納付処分取消訴訟において主たる課税処分の瑕疵をも争うことができるか否かを検討するに、第二次納税義務の納付告知は、形式的には独立の課税処分ではあるが、実質的には、特別の関係にある第三者を本来の納税義務に準ずるものとみて(補充的に)これに主たる納税義務についての履行責任を負わせるものであり、その意味で第二次納税義務の納付告知は、主たる課税処分等により確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有し、右納付告知を受けた第二次納税義務者は主たる納税義務者について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場に立つに至るものというべきであるから、主たる課税処分等が不存在又は無効でない限り主たる納税義務の課税標準、税額に関してなされる確定手続において確定した納税義務の内容即ち課税標準、税額については、第二次納税義務者は、右納付告知の取消訴訟において争うことはできず、かつ処分が無効であるといえるためには、当該瑕疵が重大かつ明白でなければならないと解すべきところ、《証拠省略》によれば、
1 星野敬亮は、昭和四五年ころ、有限会社星野頑具の代表者として同会社の経営にあたっていたが、同年一一月一七日二幸商会に融資するための金一三〇〇万円を調達すべく本件課税対象不動産を含む同人所有の不動産をカワノ建物に担保に供する趣旨で提供し、本件課税対象不動産については、当初昭和四六年二月一六日までにカワノ建物に売渡代金一三〇〇万円と同額の金員を支払って右不動産を買戻すことができる旨の約定でこれらを売り渡し(本件課税対象不動産以外の物件については抵当権を設定し)たうえ、昭和四五年一一月一九日右売買を原因とする所有権移転登記手続を了したものの、右買戻権の存在については登記手続を行なわなかった(その後、昭和四六年二月一五日、右買戻の期限は、同年八月一五日まで猶予された。)。そして、星野敬亮は、右の期間中、本件課税対象不動産をそのまま使用することの対価としてカワノ建物に一か月当り金四五万五〇〇〇円の「使用損害金」(実質上は、右金一三〇〇万円に対する利息)を支払う旨約した。
2 ところが、星野頑具は、昭和四六年四月ごろ倒産し、星野敬亮は、同人が右会社の債権者らに対し負担していた保証債務もあって、右買戻権を行使できず、結局同年八月一五日の経過により本件課税対象不動産の所有権は、カワノ建物の所有に帰属した。しかし、星野敬亮は、右不動産の譲渡に係る所得については、その後においても一切申告しなかった(この点は当事者間に争いがない。)。
3 そこで、被告は、昭和四八年八月三日、星野敬亮に対し、昭和四五年分申告所得税につき本税額金一一三万五〇〇〇円、過少申告加算税額金五万六七〇〇円、法定納期限昭和四六年三月一五日、指定納期限昭和四八年九月三日とする更正・決定を行ない、これを遅くとも同年八月八日ころまでに星野敬亮に告知したうえ、同年九月二六日付で更に督促状による督促も行なったが、同人は、右税額を納付せず、右処分に対する異議申立もしなかった。
4 その後星野敬亮は、昭和五〇年二月八日、星野頑具の債権者一八名に対する約金六〇〇〇万円の保証債務について支払不能の財産状態にあるとして浦和地方裁判所で破産宣告を受けた(この点は当事者間に争いがない。)。
以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定事実によれば、星野敬亮のカワノ建物に対する本件課税対象不動産の譲渡は、いずれも星野敬亮がカワノ建物より実質上右売渡代金額と同額の金融を受け、これが担保のためになされたものであるところ、星野敬亮は、結局カワノ建物に対する買戻代金一三〇〇万円の調達ができなかったため、昭和四六年八月一五日の経過により、右不動産についての買戻権を行使することが不可能となった(カワノ建物が確定的に右不動産の所有権を取得した。)のであるから、右不動産は、カワノ建物に対し、同月一六日譲渡され、その譲渡にともなう所得は、右同日星野敬亮に帰属したものと解される。右買戻権の登記がなされていなかったとしても、そのために金融と担保の実質を有する本件(買戻権付)売買がなされた当時直ちに課税すべき譲渡所得を生じたとすることは相当ではない。
しかしながら。一般に、課税処分は、一定の期間内に迅速かつ大量に行なわれるところ、右売買においては、星野敬亮の有した本件課税対象不動産についての買戻権が登記されていなかったばかりか、同人は、右不動産に係る所得につき右昭和四六年八月一六日以降も一切申告をしなかったうえに、被告の申告所得税更正処分に対し異議も申し立てなかったのであるから、(主たる課税処分には、星野敬亮の譲渡が昭和四五年分であるとした点で瑕疵があるといわざるを得ないものの)被告が主たる課税処分を登記簿の記載をもとにして行なったとしても、それが重大かつ明白な瑕疵であったとは到底認められない。
そうすると、被告のなした主たる課税処分は当然無効とはいえず、従って、原告らが、本件訴訟において主たる課税処分の瑕疵を理由に同処分の効力を否定し、これによる本件納付処分の違法を主張することはできないものといわなければならない。
三 そこで、次に星野敬亮が原告らに対してなした本件土地の贈与の時期について検討する。
不動産に関する物権の変動に関しては、国税滞納処分による差押の関係においても民法一七七条の適用があるものと解される(最高裁昭和三一年四月二四日判決民集一〇巻四号四一七頁)ので、主たる納税義務者がその所有する不動産を第三者に譲渡したとしても、その所有権移転登記がなされるまでの間は、国は右不動産を差し押えることによって当該租税債権の満足を得ることができるが、その所有権移転登記手続がなされた後にあっては、国税徴収法三九条所定の要件が充足される範囲内において、右不動産の譲受人から当該租税債権を徴収できること及び税の徴収が一定期間内に迅速、かつ大量に行なわれることからみて、右同条にいう「譲渡」の時期は、当該不動産についての所有権移転登記のなされた時期をもってその基準とすべきものと解するのが相当であり、原告主張のような土地区画整理事業との関係から所有権移転登記の時期を遅くらせた事情が仮にあったとしても、これによって直ちに右基準とすべき時期を動かすべきものとは考えられない。
右の点を本件についてみるに、本件土地の贈与を原因とする所有権移転登記手続は、昭和四六年三月一二日になされたことは当事者間に争いがないから、本件土地の譲渡は、右同日になされたものというべきである。そうすると、本件贈与は、外観的には一応星野敬亮に対する主たる課税処分に基づく国税の法定納期限である昭和四六年三月一五日の一年前の日以後になされたことになる。
しかしながら、星野敬亮の本件課税対象不動産の譲渡時期は、実体的には前記認定のとおり、昭和四六年八月一六日であるから、原告らに対する本件納付処分自体の手続上、実体上の違法の有無を判断すべき場合、右星野敬亮の右不動産に係る譲渡所得税の法定納期限は実体的譲渡時期によって定まる法定納期限である昭和四七年三月一五日を基準として判断するのが相当である。
もっとも、第二次納税義務者は、前記のとおり、主たる納税義務の課税標準、税額に関してなされる確定手続において確定した納税義務の内容即ち課税標準、税額については、右納付処分の取消訴訟において争うことはできないというべきであるが、主たる納税義務について法定される納期限については、右主たる納税義務の確定手続(本件の場合国税通則法二四条による課税標準等及び税額等の更正)における直接の対象には含まれないというべきであるから、第二次納税義務者が、その納付処分の違法を主張し右義務自体の課税要件の存否を争う取消手続において、その要件の一部である主たる納付義務の納付期限について、主たる納付義務において法定納期限とされた納期限とは別異に、主たる納税義務者の課税対象行為(本件の場合不動産の譲渡によって所得を生じた行為)の実体的時期によって定まるべき法定納期限を主張することは、右公定力に牴触するとはいえず許されると解するのが相当である。
従って、本件取消訴訟において、前記主たる納税義務に対する更正処分の公定力の及ぶ原告ら第二次納税義務者についても、主たる納税義務者星野敬亮に対する所得税の法定納期限を前記昭和四七年三月一五日とし、これを基準として、原告らの第二次納税義務の存否を判断することは許されるものというべきである。
そうであるならば、本件贈与は、星野敬亮に対する本件課税処分に基づく国税の法定納期限である昭和四七年三月一五日の一年以後になされた場合に当らないといわねばならない。
四 よって、本件納付処分は、その余の点に触れるまでもなく国税徴収法第三九条に違反し、違法であるから、これを取消すべきであり、本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡辺卓哉 裁判官 野田武明 友田和昭)
<以下省略>