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浦和地方裁判所 昭和55年(ワ)1376号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二賃借権の無断譲渡について

被告郁子が被告会社に対し本件建物部分の賃借権を譲渡し、被告会社においてこれを使用収益していることは原告と被告郁子との間において争いがないところ、同被告は右賃借権譲渡につき原告の承諾を得た旨主張するのでこの点について検討するに、<証拠>を総合すると次の事実を認めることができ<る。>

1 被告郁子は、昭和三五年富亥と結婚した後、同人の勤務先である北浦和ベーカリーから商品の供給を受けながら、「アンデス」という屋号でパン販売業を経営するようになつた。その後富亥もアンデスの経営に参加し、昭和四二年七月一一日には代表取締役を富亥、取締役を被告郁子、監査役を長三郎(被告郁子の実父)という役員構成のもとにアンデスの前身である有限会社アンデスが設立された。そして、昭和四八年六月一一日には昇(被告郁子の実弟)が、同月三一日には静子(被告郁子の実母)が、それぞれ有限会社アンデスの取締役に就任し、同年七月及び同年一一月の二回にわたり、長三郎、昇、静子等の出資による増資が行われ、更にその後、有限会社アンデスから株式会社アンデスへの組織変更がなされた。この間、アンデスの店舗は次々と増加し、その経営は順調に伸びて行つた。

2 ところが、昭和五五年ころ富亥のアンデスの従業員との女性関係が発覚し、富亥が、役員である長三郎及び昇や右両名に同調したアンデスの従業員らから糾弾される事態に至つたため、富亥がアンデスの代表取締役としてその経営を継続することが困難となつた。そこで、昭和五五年六月二六日長三郎、富亥、被告郁子、昇の四者がアンデス第二事務所において協議した結果、①富亥及び被告郁子はそれぞれの持株全部を原告に対し譲渡する、②右譲渡の代償として、アンデスが富亥及び被告郁子に対し北浦和所在の三つの店舗の営業を譲渡する、③富亥及び被告郁子は、新しいパン製造工場を完備するまでの間は、アンデスから製品の供給を受ける、④富亥及び被告郁子の新しい事業を法人組織にするか個人経営にするかは情勢をみて行うこととし、当面は個人経営とする等の合意が成立した。

3 かくして富亥と被告郁子は、アンデスを去つて新たに事業を起すこととなり、まず手始めにパン等の製造工場の用地を物色していたところ、昭和五五年六月二八日に静子から被告郁子に対し、本件建物部分を工場として賃借してはどうかとの勧誘がなされた。このため、原告と富亥及び被告郁子との間に賃貸借の交渉がなされた結果、前記のとおり昭和五五年六月三〇日原告、被告郁子間に、本件建物部分をパン等の製造工場及びその販売店舗として使用することを目的とする本件賃貸借契約が成立した(但し、右店舗でアンデスの製品を販売することを条件とする。)。

4 富亥と被告郁子は、アンデスから分離された新しい事業を株式会社組織で営むことを計画し、社名を「ボンドール」と命名しようと考え、気学の素養のある長三郎に右社名の良否について相談したところ、長三郎は昭和五五年八月一〇日付の書面をもつて、「ボンドール」は社名として好ましくない旨回答した。しかし、富亥と被告郁子は、長三郎の右意見を無視して、「ボンドール」の名称を付した被告会社を設立(同年八月一五日登記)した。

5 被告会社の設立時においては、その代表取締役は富亥であつたが、アンデスの役員であつた当時不祥事を起した富亥に対して不信の念を抱いていた長三郎と静子が、被告会社設立の直後被告郁子に対して、「男は間違い易い。郁子なら悪いことはしないから郁子が社長なら良い。」旨強く希望した。このことが機縁となつて、昭和五五年八月二五日富亥が被告会社の代表取締役を辞任し、代わつて被告郁子が就任した。

6 3の協議に基づく、アンデスの製品の供給は、アンデスと被告会社との間の取引として行われた。

以上の事実によれば、富亥及び被告郁子がアンデスから譲り受ける事業を法人組織で経営することがありうることは、本件賃貸借契約締結に先立つ昭和五五年六月二六日の原告代表者を含む関係者間の協議の中でも明示されていること、原告と被告郁子との間に本件賃貸借契約が締結された当時は、被告会社は未だ設立されておらず、従つて被告会社が契約当事者となるべくもなかつたのであるが、右契約締結の一か月半後には被告会社が設立されたこと、原告代表者は、被告会社が設立されることを事前に知つており、設立後にはその役員人事に介入していることが明らかであつて、これらの事実に鑑みれば、原告は、本件賃貸借契約締結当時、被告会社が設立されたときは、右契約に基づく被告郁子の賃借権が被告会社に譲渡されることを承諾していたものと認めるべきである。

(高山晨 小池信行 深見玲子)

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