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浦和地方裁判所 昭和55年(ワ)604号 判決 1983年6月29日

原告

鹿沼建築工業株式会社

右代表者

古沢泰

右訴訟代理人

平川亮一

高橋信

被告

狐塚隆孝

被告

澤口新太郎

右訴訟代理人

宇野聰男

被告

狐塚致植

右被告ら三名訴訟代理人

立崎亮吉

主文

被告狐塚隆孝、同狐塚致植は、各自原告に対し金一億一、七八六万、三〇八円及びこれに対する昭和五二年五月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告澤口新太郎に対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告澤口新太郎との間に生じた部分は原告の負担とし、その余の部分は被告狐塚隆孝及び同狐塚致植の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  原告訴訟代理人は、「被告らは、各自原告に対し金一億一、七八六万〇、三〇八円及びこれに対する昭和五二年五月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二  被告ら訴訟代理人は、「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者双方の主張

一  原告訴訟代理人は、その請求原因として、次のとおり陳述した。

(一)  原告会社は、栃木県木材市場協同組合に加盟する宇都宮木材市場協会並びに小山木材市場協会が各設置する木材市場において、木材の市売り及び木材の卸売りを目的とするものであり、被告らは、いずれも宇都宮市江曽島本町八二八番地八に本店を有し、木材等の市売り及び一般売買を目的とする訴外株式会社丸伸材木店(以下、宇都宮丸伸という。)の取締役であり、かつ、被告隆孝はその代表取締役である。

(二)  被告らは、代金支払いの意思も能力もないのにかかわらず、共謀の上、昭和五一年九月一日から同年一二月二七日までの間原告会社から合計金一億五、二二八万八、三七九円(代金合計一億五、五四一万一、三〇七円からその間の単価訂正分など金二五一万二、一二四円及び減額訂正分(乙第五三号証の四六、五五、五八による。)金六一万〇、八〇四円を控除したもの。)相当の木材を宇都宮丸伸名義で買受けてこれを騙取し、もつて原告に対し同額の損害を与えた。被告らの右行為を詳述すると、次のとおりである。

1 宇都宮丸伸は、東京都足立区保木間町一丁目九番一八号に本店を有し、受託並びに買受けた木材、その他建材の市売りなどを目的とする訴外丸伸木材株式会社(以下、東京丸伸という。)の栃木県における木材小売部門として昭和四一年八月に設立されたものであつて、被告隆孝は、右東京丸伸の代表取締役である。また、被告澤口は、宮城県玉造郡岩出山町に本店を有する訴外株式会社澤口材木店の代表取締役であるが、資金援助を通じて東京丸伸の実質的統率者となり、同四九年八月その取締役に就任し、もつて右澤口材木店などをもつてする、いわゆる「さわぐちグループ」の一員とした。

2 宇都宮丸伸の業務運営の方針は、東京丸伸において被告隆孝及び同澤口の協議によつて決定し、被告隆孝において一か月に一ないし三回宇都宮丸伸に赴いて業務全般の監督をし、従業員の勤務状況、仕入れ、売上げ及び仕入先に対する支払いなどを精査して必要な指示を与えるほか、現地における業務担当者として被告致植を配置し、同被告は宇都宮丸伸の代表者印などを保管して約束手形などを振出していた。

3 宇都宮丸伸は、設立以来欠損を続けていたが、昭和四八年のいわゆるオイルショック後は、売上げも激減して経営状態は更に悪化し、同四九年末ころには金一億円もの欠損を計上するに至つた。

4 そこで、被告致植は、昭和四九年一二月ころ被告隆孝及び同澤口と協議の結果、宇都宮丸伸は市買いをした木材を東京丸伸に対し市売りの販売を委託し、東京丸伸は、これを市売りしてその販売価格から、販売委託の手数料としてその八パーセント、運賃相当額としてその二パーセント代金支払いのため交付を受けた約束手形の割引料としてその三パーセント及びその他の歩合落分など宇都宮丸伸の負担分を控除し、その残額を宇都宮丸伸に送金することとした。

しかしながら、このような取引方法によると、宇都宮丸伸は、仕入値の一三パーセント以上の高値で市売りしない限り利益を生じないことになるが、東京における木材市場の価格が宇都宮のそれより常に一三パーセントも高値であることは考えられないから、利益を挙げることは不可能であつた。

5 宇都宮丸伸は、右協議に基づき昭和五〇年一月から東京丸伸に対し木材の市売りを委託し、東京丸伸は、これを東京第一木材市場などにおいて市売りしその代金から委託手数料などを控除した残金を宇都宮丸伸に送金してきたが、果して宇都宮丸伸は利益を計上するどころか多額の欠損を生ずるに至つたのである。すなわち、宇都宮丸伸の昭和五〇年三月一日から同五一年二月末日までの収支は

売上額 金二七〇、七〇三、六八二円

内訳 市売委託分 金一八七、二九六、八七二円

小売分 金八三、四〇六、八一〇円

仕入額 金二八五、七七七、四八七円

販売委託料 金一二、三四六、二〇六円

仕入利息 金六、四一三、二七八円

欠損 金三三、八三三、二八九円

となるが、これに一般管理費金三、六〇〇万円を加えると、その欠損額の合計は金六、九〇〇万円を越えることとなつた。

6 ところで、その二、三年前から大阪、東京、宇都宮などの木材市場における木材の価格は殆んど値開きがなかつたのであるから、被告らは、宇都宮丸伸の市売りが利益のないものであり、その継続が欠損の増大を来すことを認識していた。それにもかかわらず、被告らは、仕入先に対する手形の決済に追われてこれを継続したため、更に多額の欠損を計上するに至つた。すなわち、昭和五一年三月から同年六月までの宇都宮丸伸における収支は

売上額 金一七一、六〇二、一七七円

内訳

市売委託分 金一四〇、三五六、八三九円

小売分 金三一、二四五、三三八円

仕入額 金一七二、六四九、六七五円

販売委託料 金一〇、三五一、〇一三円

仕入利息 金二、二八九、二六七円

一般管理費 金一七、八五七、二六五円

であつたから、欠損額は、金三、一五四万五、〇四三円となつた。

7 この間被告致植は、宇都宮丸伸の翌月分の手形決済金額、支払期日、その支払先を当月二五日までに被告隆孝に説明してその決済資金の送金を求めるとともに、その資金に充てるため送金を求める額に一三パーセント以上を加算した額に相当する木材を原告会社から市買いして東京丸伸に送付し、被告隆孝は、これを市売りして得た代金のうちから被告致植の要求する金員を宇都宮丸伸に送金していたのである。

8 ところで、東京丸伸も多額の債務を負担し、宇都宮丸伸も支払手形を決済する能力を有しないことを知つていたところから、被告らは、原告会社に対する宇都宮丸伸の代金決済が支払期日を一二〇日先とする約束手形によつていたことを奇貨とし、昭和五一年六月ころ東京丸伸は存続させるが宇都宮丸伸は同年末をもつて倒産させ、それまで可能な限り原告会社から木材を宇都宮丸伸名義で市買いし、もつて原告会社から木材を騙取することを共謀した。かくして被告らは、同年九月一日から同年一二月二七日までの間宇都宮丸伸名義で原告会社から、前記一億五、二二八万八、三七九円に相当する木材を、売買名下に交付を受けてこれを騙取し、原告会社に対し同額の損害を与えるに至つたのである。

9 なお、宇都宮丸伸が原告会社から市買いした木材は、昭和五一年六月ころまでは単価の安い杉などの内法(のり)材を主とし、その割合も取引数量の七〇ないし八〇パーセントであつたが、同年七月から八月にかけてこの割合は逆転して檜の柱など高価なものが七〇ないし八〇パーセントを占め、また取引価格の月平均も、同五一年二月までは金一、三〇〇万円、同年三月から同年六月までは金一、五六〇万円程度であつたが、同年七月から同年一一月までは金三、一四〇万円と倍増し、同年一二月には金五、五〇〇万円にも達したこと、原告会社は、同年七月右の如き仕入材の変化、仕入額の急増に不審を抱き、これを被告致植に質したところ、同被告において「東京丸伸が都内の工務店、大工などの固定客に仕切り販売し、相当の利益を挙げているので支払いは大丈夫である。」と詐言を弄して糊塗したこと及び宇都宮丸伸は、同五二年一月一〇日約束手形を不渡りにし、金二億七、〇〇〇万円もの負債を残して事実上倒産し、同月一四日宇都宮手形交換所から取引停止処分を受けたが、同五一年七月から同五二年一月までの同社の収支は、

売上額 金三六二、五四九、六一七円

仕入額 金三一七、三八八、四八二円

販売委託料 金二四、八八四、四五八円

仕入利息 金四、七八〇、八六六円

一般管理費 金四三、九一八、二八七円

であつたから、その欠損額は金二、八四二万二、四七六円(原告の昭和五六年六月二四日付準備書面に六三、一一二、九一五円とあるのは、計算上の誤記と認められる。)であつたから、宇都宮丸伸の倒産時における欠損金の総額はその負債総額に略々見合うものであつた。以上の事実からしても、被告らの木材騙取の事実は明らかである。

10 従つて、被告らは、各自原告に対し不法行為に基づき金一億五、二二八万八、三七九円の損害賠償義務がある。

(三)  仮に、右主張が理由なしとするも、被告らは、原告に対し商法第二六六条ノ三第一項前段の責を免れることはできない。すなわち、宇都宮丸伸の取締役である被告らは、前記のとおり、宇都宮丸伸が木材代金の支払いができないことを知り、若しくは容易にこのことを予見できたのにかかわらず、原告から木材を買付け、もつて原告会社に対し金一億五、二二八万八、三七九円の損害を与えたのであるから、その職務の執行につき悪意又は重大な過失があつたものというべきであるが、仮に然らずとするも、被告隆孝、同澤口は、宇都宮丸伸の取締役として被告致植の前記業務執行についてこれを監視監督し、違法な行為を是正すべき義務を有するにもかかわらず、故意又は重大な過失によつてこれを怠り、被告致植をして長期間市売りを継続させた結果、宇都宮丸伸を倒産のやむなきに至らしめ、もつて原告会社に対し前記木材代金に相当する損害を与えたからである。

(四)  原告は、昭和五二年一月一〇日ころ宇都宮丸伸から、木材、新建材若干及び中古自動車一台の引渡しを受け、そのうち換価可能な木材、新建材を金一八三万二、八八九円、中古自動車一台を金六四万円で換価処分し、その合計金二四七万二、八八九円を前記損害金の弁済に充当したから、その残額は金一億四、九八一万五、四九〇円となる。

(五)  よつて、原告は、各自被告らに対し損害賠償として金一億四、九八一万五、四九〇円のうち金一億一、七八六万〇、三〇八円及びこれに対する不法行為後の昭和五二年五月一五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため、本訴請求に及んだ。<以下、省略>

理由

一原告会社が栃木県木材市場協同組合に加盟する宇都宮木材市場協会並びに小山木材市場協会が各設置する木材市場において、木材の市売り及びその卸売りを目的とするものであることは、当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると、宇都宮丸伸は昭和五一年九月一日から同年一二月二七日までの間原告会社から合計金一億五、一五五万五、〇一六円(返品、単価訂正等による減額分を控除した。)に相当する木材を市買いした事実を認めることができる。甲第七号証、乙第四五号証の二における同期間中の売買代金額は右と若干異なるが、前顕各証拠と対比して検討すると、計算の誤り、返品、単価訂正分の記載洩れなどによるものと認められるから、これをもつて右認定を左右することはできず、他に右認定を動かすに足りる証拠は存しない。

三原告は、右木材は被告らによつて騙取され、同額の損害を被つたものである旨主張するので、以下この点について判断する。

(一)  宇都宮丸伸の設立とその運営について

宇都宮丸伸が宇都宮市江曽島本町八二八番地八に本店を有し、木材等の市売り及びその一般売買を目的とするものであつて、被告致植が取締役、被告隆孝がその代表取締役であり、被告澤口がその取締役であつたこと及び被告致植が宇都宮丸伸の現地における業務担当者として配置され、その代表者印などを保管して約束手形を振出してきた事実は、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、

1  宇都宮丸伸は、昭和四一年八月三日資本金を金二〇〇万円(発行済株式四、〇〇〇株)とし、被告隆孝、同澤口が発起人となつて設立したものであるが、その際被告隆孝が金五〇万円、被告澤口が金一〇〇万円を各出資し、被告隆孝がその代表取締役に、被告澤口及び同致植が各取締役に就任したものであること。

2  宇都宮丸伸は、被告隆孝がその弟である被告致植の希望により、同被告をして独立して木材の販売会社を経営させるべく宮城県玉造郡岩出山町に本店を有する株式会社澤口材木店の代表取締役である被告澤口(この点は当事者間に争いがない。)に協力を懇請し、被告澤口も儀礼的にこれに応じて設立されたものであるところから、被告致植が従業員七名(当初は四名)を使用してその経営に当り、被告隆孝は三か月に一度位宇都宮丸伸に赴いて経営状況についての報告を受けるほか、必要に応じて被告致植から相談を受ける程度であつたこと。

3  このようなことから、宇都宮丸伸は、設立以来株主総会を開いたこともなければ取締役会を開催したこともなく、また、被告澤口は、同社の設立後間もないころ他に赴く途中一度同社に立寄つたことがある程度であつて、その経営について相談を受けたこともなければ報酬を受けたこともなく、出資金に対する配当を受けたことも存しなかつたこと。

4  ところが、昭和四八年の、いわゆるオイルショック以来宇都宮丸伸の経営が不振に陥つたため、被告隆孝は、その後一か月に一度以上右同社に赴き、かつ上京してきた被告致植から、同社の経営状態や資金関係についての報告を受けるとともに、これに関する詳細な指示を与えていたこと。

以上の事実を認めることができる。原告は、宇都宮丸伸の経営方針は東京丸伸において被告隆孝及び同澤口が協議して決定していた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は存しない。右認定を動すに足りる証拠も存しない。

(二)  東京丸伸について

東京丸伸が東京都足立区保木間町一丁目九番一八号に本店を有し、受託並びに買受けた木材、その他建材の市売りなどを目的とする会社であつて、被告隆孝がその代表取締役であること及び被告澤口が昭和四九年八月その取締役に就任した事実は、<証拠>によると、被告隆孝が同五二年一月二六日東京丸伸の取締役を辞任し、同年二月一〇日再びその取締役に就任したこと、被告澤口が同年一月二〇日その代表取締役に就任したこと及び右同社が訴外東京第一木材市場に加盟している事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠は存しない。

(三)  宇都宮丸伸の経営状態について

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  宇都宮丸伸は、栃木県下における木材の小売りを主としていたが、設立後間もなく不良債権によつて多額の欠損を生じ、以来その経営は低迷していたところ、昭和四七年ころ収益は稍好転する兆しを見せたが、同四八年オイルショックの影響によつて経営不振に陥り、これを挽回すべく、同四九年ころから訴外山形城南木材市場において市売りを始めるとともに、目的外の建築請負業を始めたが、右建築請負業は不慣れのため失敗に帰し、同四九年三月一日から同五〇年二月二八日までの事業年度において金三、九〇九万〇、一八一円の欠損金を計上するに至つたが、これに繰越欠損金を加えると、右事業年度末現在における欠損金の合計は金五、一三五万六、四二九円であつたこと。

2  次いで、宇都宮丸伸は、昭和五〇年一月から東京丸伸に対し、木材の市売りを委託してその苦境を乗り越えようとした(右市売り委託の事実は、当事者間に争いがない。)が、同五〇年三月一日から同五一年二月二九日までの事業年度においては、却つて金五、七一七万九、〇三〇円もの欠損金を出し、これと前示繰越欠損金との合計は金一億〇、八五三万五、四五九円に達したこと。

3  宇都宮丸伸は、その後も市売りを継続して昭和五二年一月一〇日約束手形を不渡りにして事実上倒産した(右倒産の事実は、当事者間に争いがない。)が、その際における負債総額は約金二億七、〇〇〇万円であつたから、同五一年三月一日から同五二年一月一〇日までの欠損金は、少くとも右負債総額から同五一年二月二九日における前示欠損金を控除した金一億四、〇〇〇万円を下らなかつたこと。

以上の事実を認めることができる。もつとも、証人有本友一、被告本人狐塚致植は、右倒産当時宇都宮丸伸は金二、〇〇〇万円位の債権、金二、〇〇〇ないし三、〇〇〇万円相当の土地建物及び金三、〇〇〇万円相当の在庫品を有していた旨各供述するが、右の各供述に弁論の全趣旨を総合すると、右の債権は回収の見込みのない不良債権が殆んどである事実を窺うことができるし、また、右在庫品は屋久杉、杉、檜の角材、垂木、足場材や新建材であつて、その量も四屯積トラック八台分程であつたが、そのうち原告会社が四屯積トラック五台分、その余を訴外東京相互木材市場、同栄資材株式会社が、いずれも被告致植の承諾を得て搬出したこと及び原告会社は搬出した右木材などのうち換価可能なものを換価して宇都宮丸伸に対する債権の弁済に充当したが、その価格は金一八三万二、八八九円に過ぎなかつた事実は、<証拠>を総合して認めることができるから、その所有に属するという土地、建物及び右在庫品をもつてしては前示認定を覆えすことはできず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(四)  原告会社と宇都宮丸伸との取引について

<証拠>を総合すると

1  宇都宮丸伸は、東京第一木材市場、宇都宮相互木材市場及び原告会社から木材を購入していたが、昭和四九年ころからその主たる購入先を原告会社とし、同五一年五月ころからその代金支払いのために振出す約束手形の支払期日を五〇日先から一二〇日先に変更し、延長された七〇日分について1.5パーセント程度の利息を負担していたこと。

2  宇都宮丸伸が原告会社から市買いした木材は、昭和五一年三月当時杉の造作材が七〇ないし八〇パーセントを占め檜材が二〇ないし三〇パーセントであつたが、同年六月ころからその比率は逆転し、檜材が七〇ないし八〇パーセント、杉材が二〇ないし三〇パーセントとなり、同年一二月には高価な内法(のり)材である檜が約九〇パーセントを占めるに至り、これに伴いその代金も増加し、同五一年三月金一、五〇〇万円程度であつたものが、同年六月から同年一一月までは一か月金三、〇〇〇万円位、同年一二月には金五、五〇〇万円にもなり、同年九月一日から同年一二月二七日までの代金が合計金一億五、一五五万五、〇一六円に達したことは前説示のとおりであること。

以上の事実を認めることができ、これを動すに足りる証拠は存しない。

(五)  宇都宮丸伸が原告会社との取引を拡大するに至つた経緯について

前示認定事実に、<証拠>を総合すると

1  宇都宮丸伸は、設立以来欠損金を計上し、経営も低迷していたが、昭和四八年のオイルショック後営業不振となり、その挽回策として始めた建築請負業も失敗に帰し、支払手形の決済に追われる結果となつたため、被告致植が同五〇年暮ころ被告隆孝に手形決済資金の融通を求めたが、同被告の経営する東京丸伸にもこれに応ずる資金は存しなかつたので、被告隆孝は、被告致植に対し「材料を買つて現金化し、景気が回復するまで頑張つたらいいだろう。」と申し向け、もつて苦境を打開するため木材の市売りを勧めた結果、宇都宮丸伸が木材市場において仕入れた木材を東京丸伸に送り、東京丸伸においてこれを市売りしその代金から委託手数料八パーセントを控除した残額を宇都宮丸伸に送金することによつて苦境を切抜けることとし、これを同五一年一月から実施したこと。

2  宇都宮丸伸は、主として原告会社から木材を購入していたが、その代金決済のために振出す約束手形には1.5パーセント程度の利息金が含まれており、また、木材を東京丸伸に送付するためには売上価格の二パーセント相当の運送費を要し(この点は、当事者間に争いがない。)、更に販売委託手数料として前示売上額の八パーセントを要するから、一般管理費を除いて少くとも仕入価格に一二パーセントを上乗せした価格で市売りしなければ採算に合わない理であるが、当時木材業界が不振であつたため、東京、関西、その他地方の木材市場における木材の値段については殆んど格差が存しなかつたので、市売りによつて利益を挙げることは困難であつたこと。

3  宇都宮丸伸は、原告会社に対し右の如き窮状を秘して取引していたが、昭和五一年三月から同年六月までの間においても多額の欠損(被告らの主張によつても、建築関係を除いて金一、二〇〇万円余)。を生じ支払手形の決済資金に窮したため、被告致植は、被告隆孝と相談のうえそのころから建築請負業を止めて市売りを増やしてきたが、同年一一月ころ事の重大さを悟つて被告隆孝に相談したところ、同被告から「来年一月の支払手形の決済については東京丸伸が援助しなければならないが、東京丸伸にもその資金がないので、一二月にはできるだけ木材を買い込んで送り、東京丸伸からの前渡金を整理するように。」との指示を受け、同五一年一二月には原告会社から金五、五〇〇万円という大量の木材を買い受け、これに在庫品を合わせ金八、〇〇〇万円以上の金額に相当する木材を東京丸伸に送付したが、同社が資金難のため同五二年一月には倒産状態に陥り前渡金の交付ができなかつたため、宇都宮丸伸も同月一〇日事実上倒産したこと。

以上の事実を認めることができる。被告本人狐塚致植は、宇都宮丸伸は単なる市売りではなく、九割程度は加工(購入した木材のすり判を消し、その木材の中からより上の等級に属するものを選別し、これに新たな等級を付する。)して市売りしたので一パーセント程度の利益があつた旨供述するが、もしそのとおりであつたとするなら、宇都宮丸伸が金二億七、〇〇〇万円もの負債を残して倒産することはなかつたものといわなければならないばかりでなく、原告会社代表者尋問の結果によると、一定の基準によつて選別された等級の付された木材の中から更に上の等級に属する木材を選別し得たとしても、その数は少なく、従つて当時においては利益を見込める程ではなかつた事実を認めることができるから、右供述によつては前叙認定を左右することはできない。<反証排斥略>

(六)  以上に認定した事実によれば、宇都宮丸伸は、資本金二〇〇万円という小規模な会社であつて、設立以来欠損を続け、その欠損額は昭和五〇年二月二八日現在において金五、一三五万円余、同五一年二月二九日には金一億円余という多額に達したのであるが、支払手形の決済資金に窮して同年一月から始めた市売りも到底採算に合わないものであつたから、これを継続したならば購入する木材代金額が漸次増大し、遂いにはその支払不能の状態に陥ることは明らかであり、このことは代表取締役である被告隆孝及び取締役である被告致植も当然知悉していたものといわなければならない。ところが、右被告らは、不健全な右市売りを中止するどころか、支払手形の決済資金に窮して同五一年六月ころ敢えて市売りを増やすことを企図し、右の如き窮状を秘して原告会社から金額の嵩む檜材を主とした木材を大量に市買いし、同五一年九月一日から同年一二月二七日までの間合計金一億五、一五五万五、〇一六円に相当する木材を買い入れ、その代金も支払わずに同五二年一月一〇日金二億七、〇〇〇万円もの負債を残して事実上倒産したというのであつて、しかも、同五一年三月一日から右倒産時までの欠損金約一億四、〇〇〇万円は原告会社から買い受けた右木材代金と略々匹適することを考慮すると、被告隆孝、同致植は、共謀のうえ、代金を確実に支払いを受け得るものと信じていた原告会社から宇都宮丸伸名義で金一億五、一五五万五、〇一六円に相当の木材を売買名下に騙取し、もつて原告会社に同額の損害を与えたものといわなければならない。

原告は、被告澤口も右被告らと共謀して原告会社から木材を騙取した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は存しないし、もとより被告澤口が宇都宮丸伸及びこれと密接な関係にあつた東京丸伸の取締役であつたことや同被告が昭和五一年八月三一日東京丸伸の取締役を退任し同五二年一月二六日その代表取締役に就任した事実(前示甲第一号証によつて認められる。)から、原告の右主張事実を推認することもできないから、被告澤口に対し不法行為を理由とする原告の損害賠償の請求は失当である。

四進んで、被告澤口の商法第二六六条ノ三第一項前段の責任の点について判断する。

(一)  被告澤口が昭和四一年八月三日宇都宮丸伸の設立と同時にその取締役に就任した事実は、既に説示したとおりであつて、同被告が同四九年九月二〇日同社の取締役に再任された旨の登記手続のなされている事実は、当事者間に争いがない。

(二)  被告澤口は、昭和四七年ころ宇都宮丸伸の代表取締役である被告隆孝に対し取締役を辞任する旨の意思表示をし、もつて同社の取締役を辞任した旨主張し、被告本人狐塚隆孝、同澤口新太郎(第一、二回)は、いずれもこれに符合する供述をしているが、右各供述及び乙第一ないし第一一号証の各一、二をもつてしては、いまだ右主張事実を肯認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠は存しないから、右主張は失当である。

そして、被告澤口は、昭和四九年九月二〇日における宇都宮丸伸の取締役の選任につき株主総会の決議のなされていないことは前示のとおりであるが、以上の事実によれば、右取締役の就任とその登記を承諾しているものというべきであるから、商法第一四条の規定が類推適用され、その取締役でないことを善意の第三者である原告に対抗できないものといわなければならない。

(三)  既に認定した事実によれば、被告澤口は宇都宮丸伸名義をもつてした原告会社との取引に関与していなかつたというのであるから、これに関与したことを前提とする原告の主張は失当である。

(四) しかしながら、株式会社の取締役は、代表取締役及び取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対して取締役会の招集を求め、又はこれを自ら招集し、取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにする職責を有するものであつて、このことは名目的に就任した取締役についても異なるところはないものというべきである。そこで、本件についてこれをみるに、前に認定したところによれば、宇都宮丸伸の規模は小さく、その経営はあげて被告隆孝及び同致植においてとりしきり、嘗つて株主総会も取締役会も開催したことはないというのであるから、その実態は右被告両名の共同事業というべきものであり、しかも宮城県玉造郡岩出山町に本店を有する株式会社澤口材木店の代表取締役である被告澤口は、宇都宮丸伸の設立に際し発起人となつて出資及び取締役に就任したけれども、これはいずれも儀礼的なものであつて、同被告は取締役としての報酬も受けず、宇都宮丸伸の経営に全くかかり合つていなかつたこと、特に同被告がその取締役に就任してから被告隆孝らの前示不法行為に至るまで一〇年間も経過しているというのであつて、この間金一〇〇万円という多額な出資金に対する配当金も支払われていないことなどを併せ考えると、被告澤口は宇都宮丸伸の代表取締役である被告隆孝に対し事実上影響力を有しなかつたものと認めるを相当とするから、被告澤口に対し宇都宮丸伸の取締役としての職責を尽すことを求めることは難きを強いるものというべきである。そうすると、被告澤口には、被告隆孝、同致植に対する監視義務違反につき故意又は重大な過失があつたものということはできないから、原告の被告澤口に対する商法二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償の請求も理由がない。

五原告が昭和五二年一月一〇日ころ宇都宮丸伸から木材、新建材及び中古自動車一台の引渡しを受け、その換価可能のものを合計金二四七万二、八八九円で換価し、これを損害額に充当した事実は、原告の自陳するところであるから、右換価金を前示損害額金一億五、一五五万五、〇一六円から控除すると、その残額は金一億四、九〇八万二、一二七円となる。

六以上の次第であるから、被告隆孝、同致植に対し各自損害賠償として金一億四、九〇八万二、一二七円のうち金一億一、七八六万〇、三〇八円及びこれに対する不法行為後の昭和五二年五月一五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、正当として全部認容すべきものであるが、被告澤口に対する請求は、失当として棄却すべきものである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(長久保武 榎本克巳 坂野征四郎)

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