浦和地方裁判所 昭和55年(行ウ)11号 判決
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【判旨】
三ところで、被告秦の本件公金支出が完了したのは前示のとおり最終的には昭和五〇年度であつたにもかかわらず、原告らが右事実に関して被告市の監査委員に対し、監査請求をしたのは昭和五五年五月二一日であることは当事者間に争いがない(もつとも、原告らの監査請求の理由が被告秦の違法な公金の支出についてであつたか、同人に対する損害賠償請求権の不行使すなわち怠る事実であつたかについては争いがあるが、地自法二四二条一項の「怠る事実」とは例えば地方公共団体が税等の賦課徴収を怠つている場合や職員の違法な行為によつて地方公共団体が第三者に対し損害賠償義務を履行するに至つた場合の如く公金の支出自体は違法ではないが、当該職員に対し、その求償を怠つている場合のように法令上一定の作為義務があるのにこれを怠つていることをいい、当該公金の支出自体が違法である場合にはその支出を行つた職員に対し損害賠償等の請求をしないとしても、これは「怠る事実」としてではなく端的に「違法な公金の支出」として同法二四二条第一項四号所定の請求権を行使すべきものと解するのが相当である。もし、仮に職員の公金支出自体が違法である場合についても地方公共団体が職員に損害賠償等を請求しないことが同法二四二条一項にいう「怠る事実」に該当するものとすると同条二項但書所定の監査請求期間が無意味となり、同条一項所定の事実につき早期安定を図るという地自法の趣旨が没却されてしまうからである。原告らの本件監査請求も<証拠>によれば、被告秦の違法な公金支出についてなされたものと解される。)。そこで、次に原告らの本件監査請求が本件公金支出後一年を経過してなされたことに正当な理由があるか否かについて検討する。
<証拠>によれば次の事実が認められる。
1 本件事業の施行については、既に昭和四四年ころから計画が立てられていたが、それが具体化するようになつたのは、本件事業計画書が昭和四六年三月七日から二週間公衆に縦覧されてからであつた。本件事業計画によると、本件事業施行のための費用は、当初の計画で合計八億五四〇〇万円であつたが、その資金は市費から二〇〇〇万円(2.3パーセント)、保留地処分金から七億一四〇〇万円(83.6パーセント)、公共施設(県道東大通り線)管理者負担金が一億二〇〇〇万円(14.05パーセント)の計画であり、財源の大部分は地権者負担であつて県や国からの補助金がほとんどないということで、本件事業計画書が公衆の縦覧に供され、本件事業計画の決定がなされると間もなく原告らを含む地権者の中に減歩率を低くして地権者の負担を軽減するようにとの要望が強くなり、施行者である被告市ないし市長宛の請願もなされていた。
2 本件事業の施行区域内には被告市の設置する本件小学校が一校存在するが、その児童数が昭和四四年ころから毎年増加して既存の施設では狭隘となつてきたため、被告市では校舎、校庭の拡張に迫まられていた。そこで被告市は、本件小学校の敷地獲得の方法として本件事業の施行によつて将来定められる保留地の一部を本件小学校の付近に集め、これを右拡張敷地に充てる計画を立て、本件土地につき専門家による地価の鑑定を行つたうえ、これを一平方メートル当たり二万五〇〇〇円(ただし、本件土地のうち借地の部分については一平方メートル当たり金一万二五〇〇円)で買い取ることとして、昭和四八年四月一九日付をもつて本件仮契約を行い(本件仮契約を行つたことは当事者間に争いがない。)、被告市の長であつた被告秦は、昭和四八年度に六〇〇〇万円を、昭和四九年度に七〇〇〇万円を、昭和五〇年度に金九一一三万七五〇〇円をそれぞれ被告市の一般会計から支出する旨の予算及びこれを本件事業の施行費用として本件事業特別会計に右各会計年度毎に繰り入れる旨の予算(歳入)を作成し、市議会の議決を得た。
3 本件事業については、未だ仮換地も行われていないため本件事業の施行によつて定められる保留地予定地の具体的位置もすべて明確になつているわけではないが、本件土地については、被告市はこれを保留地とする予定で昭和四八年度ころから工事を行い、遅くとも、昭和五七年三月ごろには計画した拡張敷地9656.38平方メートルのうち256.55平方メートル(本件小学校校庭南側の一部)を除き本件小学校の敷地として使用している。なお、被告市は既に本件小学校の敷地として使用している保留地予定地の一部につき、当該土地の所有者に対し、本件事業の特別会計の中から補償金を支払つている。
4 一方、本件事業計画書には、本件小学校の従前の敷地8838.14平方メートルを一万八五〇〇平方メートルに拡張する旨の計画が数字及び地図をもつて表示され、昭和四八年五月九日開催の土区法五六条に基づき設置された深作西部土地区画整理審議会(以下本件事業の審議会という。)において、被告市の区画整理課長瀬田吟治が、被告市は将来保留地とする予定の本件土地を買い取るが、その代金の一部である六〇〇〇万円を本件事業の昭和四八年度割分として財産収入に計上する旨説明し、その後昭和五〇年四月六日に行われた本件事業の説明会においては、やはり瀬田が原告野村の質問に答えて本件小学校の敷地の拡張分については、散在する保留地を集める形でこれを充て、被告市がこれを買う旨の説明を行い、続いて同年五月一七日に行われた深作東西審議会委員協議会において被告市の市議会議員が原告森本庄八の質問に答えて本件土地は保留地をもつてこれに充て、その代金相当額が本件事業の昭和四九、昭和五〇年度予算に計上されている旨説明しているほか、昭和五一年一〇月二〇日開催の本件事業の審議会において、瀬田は、本件事業の昭和五〇年度決算についての説明を行う中で財産収入とは、保留予定地である本件小学校の敷地拡張部分は被告市がこれを購入する予定であるので、その代金額二億二一一三万七五〇〇円のうち、昭和四八、四九年度分として一億三〇〇〇万円、昭和五〇年度分として九一一三万七五〇〇円をそれぞれ収入としたものである旨説明している。
5 ところで、原告小島は昭和四六年三月一三日に、同森本庄八は同月二〇日に、同野村の妻いよ子は同月八日にそれぞれ本件事業計画書を閲覧しているほか、原告森本庄八は昭和四六年から昭和五一年まで及び昭和五六年以降、同原告の妻である原告森本和枝は昭和五一年から昭和五六年まで、同野村は昭和五一年当時それぞれ本件事業の審議会の委員に、また同小島は昭和四六年から昭和五一年まで第一期深作東部土地区画整理審議会の委員及び会長にそれぞれ就任しているうえに、原告らは、いずれも本件小学校の近くに居住し、日ごろから本件事業の施行に関する情報を相互に交換し合いながら、本件事業の進行に強い関心を持つていた。そして、前示昭和四八年五月九日の本件事業の審議会には、原告森本庄八が、昭和五〇年四月六日の説明会には原告野村のほか、同小島、同森本庄八が、同年五月一七日の協議会には同森本庄八のほか同小島が、昭和五一年一〇月二〇日の審議会には同野村、同森本和枝がそれぞれ出席していた。
以上の事実が認められ<る。>
右認定事実を総合すると、原告らは遅くとも昭和五一年一〇月二〇日ころには、本件公金支出を知つていたか、少なくとも客観的には容易に知りうる状況にあつたものと認めることができる。そして、地自法二四二条二項ただし書の「正当な理由」とは当該行為が秘密裡に行われたために住民がこれを察知できなかつた場合や交通杜絶、天災地変等で期間を従過した場合等を指し、住民がそれを客観的には容易に知りうるのにかかわらず、たまたま知らず当該行為の終つた日から一年を経過してしまつたような場合には正当な理由はないものというべきである。そうすると、本件の場合原告らにおいて一年の期間を徒過したことに正当な理由があつたものとはいえないというべきである。
もつとも、<証拠>によれば、被告市は、本件仮契約が締結されたことについては、昭和五五年二月二五日ごろまで一切これを公けにせず、原告らも本件土地の売買代金の額については勿論のこと、本件仮契約の存在すること自体知らなかつたことが窺えるが、土区法三条、同条の二ないし四、一〇四条九項等の規定の趣旨からすると、土地区画整理事業の施行者が市であるときは、地方公共団体たる市が当該土地区画整理事業の施行に当たるというだけであつて、地方公共団体たる市のほかに土地区画整理事業の施行者たる市が別個の人格として存在するものと解することはできない(地方公共団体施行の土地区画整理事業について、土区法、地自法により施行規程及び事業計画を定めること、右規程は条例で定め、その規程の中には、当該事業の名称や事務所の所在地等を記載すること、土地区画整理審議会を設置すること、保留地を処分するにも地方公共団体の財産の処分に関する法令の適用はなく、また特別会計をもつて経理すること等が定められているが、右は地方公共団体が右事業を実施する場合に必要と考えられる手続や特則を定めたにすぎず、かかる規定の存在によつて施行者と地方公共団体とが別個の団体であるとは到底解することはできないし、他に土区法、地自法上これを窺わせる規定はない。従つて、土区法一〇四条九項も保留地の取得につき市が施行者の場合は換地処分の公告によつて施行者が当然これを取得するが、市長が施行者の場合には市がこれを取得するものと定めている。)から、被告市と本件事業の施行者との間に形式上売買仮契約書(甲第三〇号証)が作成され、それに基づき被告市の一般会計につき歳出予算が、本件事業の特別会計につき歳入予算がそれぞれ作成され、議会の議決がなされたとしても右契約は法律上の契約ではなく、本件公金支出についての予算の執行を明確化するために便宜上契約という法形式を用いた会計事務処理上のひとつの技法にすぎないものと解さざるを得ない。そして、地方公共団体がかかる処理を行うこと自体が違法であるという理由もない。そうすると、原告らが本件仮契約の存在自体を知らないからといつてそのことに特段重要な意味があるものとは解することはできず、右各証拠の存在によつて前記認定を左右することはできない。
四以上のとおりであるから、原告らの本件監査請求は本件公金支出後一年以上経過した後になされたものであり、かつそのことに正当な理由があるものとは認められないから、原告らの被告秦に対する請求は訴えの要件を欠き不適法であるといわなければならない。
そうすると、原告らの被告市に対する請求も地自法二四二条の二第七項所定の要件を欠き理由がない。
(高山晨 野田武明 友田和昭)