大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和59年(タ)13号 判決 1985年9月10日

原告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

中島通子

中下裕子

被告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

林浩盛

主文

一、原告と被告を離婚する。

二、原被告間の長男一郎(昭和五三年一二月二日生) 及び二男二郎(昭和五六年一月二七日生)の親権者をいずれも原告と定める。

三、被告から原告に対し金一〇〇〇万円を財産分与する。

四、被告は原告に対し金一五〇〇万円及びこれに対する本判決確定の日からその支払ずみまでの年五分の割合による金員を支払え。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  主文一、二項同旨

2  被告は原告に対し金一九〇五万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日からその支払ずみまでの年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2につき仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因(原告)

1  原被告は昭和五二年三月二日婚姻した夫婦であり、その間に主文掲記の未成年の二子がある。

2  離婚原因

(1) 原被告は昭和五四年七月頃浦和市○○○に中古住宅を買い求め、それまで居住していた被告の勤務先である○○ディーゼル株式会社の社宅(蕨市所在)を出てこゝに移り住んだ。

(2) 被告はその頃からいわゆるビニ本(ポルノ雑誌)に異常な関心を示し始め、ビニ本を買いあさつては一人で部屋に閉じこもり、ビニ本を見ながら自慰行為に耽り、原告との性交渉を拒否するようになつた。このため長男出生後は夫婦間の性交渉は殆ど行われていない。

(3) そこで原告は被告に対しビニ本をやめて正常な性生活をするよう何度も哀願したが、被告はこれを改めず、遂には原告と同室で寝ることすら拒否するようになつた。

(4) また被告は性生活以外の面でも異常な性癖があり、いわゆるキセル乗車をしたり、ごみ箱をあさつて物を拾つてきたり、他人の物を盗んだり、落ちているガムを拾つて子供に与えたりしたため、原告は子供への影響を配慮して被告に何度もやめるよう言つたが、被告は改めようとしなかつた。

(5) このような生活に耐えられなくなつた原告は被告との離婚をも決意し昭和五七年六月ころ被告と話合つたところ、被告は原告に対しこれまでの生活を改めることを約束した。

(6) ところが被告の異常な性癖はその後も遂に改まることがなかつたため原告は昭和五八年三月七日子供二人を連れて家を出、それ以来原被告は別居している。

(7) 原被告の婚姻は以上のとおり被告の異常な性癖によつてもはや完全に破綻しており、その責任が一方的に被告の側に存することは明らかであるから、原告には被告との「婚姻を継続しがたい重大な事由」がある。

3  離婚給付

(一) 財産分与

(1) 原告らは婚姻当初は社宅住いであつたが、僅か二年後の昭和五四年七月には浦和市○○○に中古住宅を一四五〇万円で購入した。登記簿上は被告の単独所有としたが、原告も結婚に際し持参した九一万円を拠出した。

(2) 更にその僅か三年後の昭和五七年七月には、右○○○の住宅を売却して浦和市○○に左記イの土地を購入し、翌五八年三月には右地上に左記ロの家屋を新築した。

イ 浦和市○○六丁目二六四番九

宅地 一〇〇・二四平方メートル

ロ 同所所在

家屋番号 二六四番九

木造瓦葺二階建 居宅

床面積

一階 四五・一六平方メートル

二階 三七・一八平方メートル

(3) 右の土地建物の代金は合計で四三〇〇万円であつたが、これには被担保債権額を一四九〇万円とする抵当権が設定されている。従つて右土地家屋の評価額は少くとも右取得価額から右の被担保債権額を控除した二八一〇万円を下ることはない。

(4) このように短期間でこれほどの財産を取得することができたのは、原告の協力があつたからに他ならない。原告は前記持参金の拠出のほか、日常の生活においても切り詰められるところはぎりぎりまで切り詰めて貯蓄に励み、また原告の実家等から生活費の援助をあおぐこともしばしばあつた。

(5) 従つて原告は財産分与として少くとも右土地家屋の評価額である二八一〇万円の二分の一である金一四〇五万円を請求する権利がある。

(二) 慰謝料

前記のとおり被告の異常な行為によつて原被告らの婚姻は破綻したものであり、これによつて原告が被つた精神的苦痛は到底筆舌に尽し難いものであるが、敢えて金銭に換算するならば少くとも五〇〇万円を下らない。

4  親権者の指定

二人の子供は現在原告のもとで平穏で安定した生活を営み、心身共に健康に成長しているから原告が親権者として適当である。

5  よつて原告は被告に対し離婚並びに財産分与及び慰謝料として合計金一九〇五万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日からその支払ずみまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、前記二子について親権者の指定を求める。

二  請求原因に対する認否(被告)

1及び2の(1)の事実は認める。2の(2)ないし(5)の事実は否認する。2の(6)の事実中原告がその主張のころ家を出、それ以来原被告が別居していることは認めるが、家出、別居の理由は否認する。2の(7)の主張は争う。3の(一)の(1)の事実中原告が拠出した金額を否認するが、その余は認める。原告が拠出した金額は七〇万円である。同(一)の(2)の事実は認める。同(一)の(3)の事実は否認する。同(一)の(4)の事実は否認する。かりにそうだとしても原告は結婚後同世代の同程度のサラリーマン家庭がそうであるのとは違つて共働きをしたことがなく、そのため容易に家事に専念できたのである。同(一)の(5)の主張は争う。3の(二)及び4の主張はいずれも争う。

第三  証拠<省略>

理由

一、離婚請求について

<証拠>によれば、請求原因1の事実が認められる。

<証拠>によれば、請求原因2の(1)ないし(6)の事実のほか、次男妊娠のときは原告においてどうしてももう一人子供が欲しかつたため原告から受胎可能時に被告に頼んで性交渉に応じてもらつたことが認められ<る。>

右事実によれば、原告には被告との婚姻を継続し難い重大な事由があるものというべきであるから、原告の離婚請求は正当というべきである。

二、財産分与請求について

<証拠>によれば、請求原因3の(一)の(1)、(2)、(4)の事実のほか、右○○の土地家屋の取得価額は四四五〇万円であり、またこれには被告がその購入資金を借入れた金融機関のため抵当権が設定されておりその被担保債務の合計は一四九〇万円であることが認められ、また<証拠>によれば被告は右土地家屋購入に当たり勤め先から右の被担保債務とは別口で会社から約六〇〇万円、厚生年金の方から三二〇万円、兄から約一〇〇万円を借受け、現在返済中であることが認められる。

そうすると財産分与の対象となる財産の価額は、右取得価額四四五〇万円から先ず原告の持参金からの拠出分一〇〇万円(昭和五四年に○○○の中古住宅を買うときに原告は九一万円を拠出したものであるが、その後これが売却代金の一部に変わり、○○の土地家屋取得の際にはその後の土地家屋の価額水準の値上りを考慮し一〇〇万円を拠出したものとして扱うこととする。)を先ず控除し、更に現に被告が右土地家屋の取得に関して負つている債務の合計金二五一〇万円を控除すれば、結局一八四〇万円であり、原告のこれが取得にあたつての寄与分をそのほゞ二分の一に相当する九〇〇万円とみると、結局原告に分与されるべき金額は右九〇〇万円に持参金からの拠出分一〇〇万円を加えた金一〇〇〇万円となる。それ故被告から原告に対し離婚にあたり金一〇〇〇万円の財産分与がなされるべきである。

三、慰謝料請求について

原被告間の婚姻が専ら被告の責めに帰すべき事由によつて破綻したものであることは前記のとおりであるから被告は原告に対し相当の慰謝料を支払うべき義務があるものというべきところ、諸般の事情を考慮すればその額は請求どおり五〇〇万円が相当というべきである。

四、親権者の指定について

<証拠>によれば、原告は現に生活保護法による扶助を受けている位であるから経済的には決して楽ではないと思われるが、二人の子は現在母である原告の庇護の下に平穏に生活していることが認められるから二人の子の親権者は原告と定めることとする。

五、結論

原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、財産分与の申立については前記のとおり決定し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

なお主文四項は、原告が被告に対し金一〇〇〇万円の財産分与請求権と金五〇〇万円の慰謝料請求権を有することを認めたうえで、被告に対しその義務の履行を命じたものであるが、原告がこのように確定金額による具体的な財産分与請求権を取得するのは本判決の確定のときであるからこれについて仮執行の宣言を付すことはできないし、また慰謝料請求についても、原告はもともと本判決確定前にこれが弁済されることは期待せず、本判決確定の日の翌日から遅延損害金を請求しているのであるからこれについて仮執行宣言の申立をすることは矛盾であり、仮執行宣言の申立は失当というべきである。

(裁判官松井賢徳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例