浦和地方裁判所 昭和59年(行ウ)8号 判決 1987年2月23日
埼玉県川口市栄町一丁目二番二五号
原告
株式会社栄興社
右代表者代表取締役
納口利男
右訴訟代理人弁護士
小川栄吉
右輔佐人税理士
坂井宏
埼玉県川口市青木二丁目二番一七号
被告
川口税務署長
臼井嘉信
右指定代理人
野崎守
同
代島友一郎
同
鷲見守夫
同
御間弘司
同
萩原武
同
川副康孝
同
牧村達雄
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が原告に対し、昭和五六年四月二八日付でした昭和五四年一一月一日から昭和五五年一〇月三一日までの事業年度(以下「本件係争年度」という。)分についての法人税更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件加算税処分」といい、本件更正処分と併せて称するときは「本件課税処分」という。ここでは、いずれも国税不服審判所長の昭和五九年四月一七日付裁決(以下「本件裁決」という。)により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二当事者の主張
一 原告
1 原告は、ダイカスト鋳物製造等を業とする株式会社である。
2 原告は、被告に対し、本件係争年度分の法人税につき、別表一の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした。
3 被告は原告に対し、昭和五六年四月二八日付で別表一の「更正・賦課決定」欄記載のとおり、本件課税処分をした。
被告の本件課税処分の理由は、<1>売上金額の計上もれ認定、<2>修繕費、福利厚生費、事務消耗費、交際費及び債権償却特別勘定繰入(以下「本件繰入」という。)の各否認である。
4 原告は、国税不服審判所長に対し、昭和五六年六月二六日、本件課税処分に関し、<1>の売上金額の計上もれ認定及び<2>のうち本件繰入の否認を不服として、審査請求をした。
5 国税不服審判所長は、昭和五九年四月一七日付で、<1>の売上金額の計上もれ認定については原告の主張を認めたものの、本件繰入の否認については、本件課税処分を相当とし、別表一「裁決」欄記載のとおり、本件課税処分の一部を取り消す旨の本件裁決をし、原告に対し、同年五月四日通知した。
6 しかしながら、原告は昭和五一年一月九日から昭和五二年四月八日までの間沼田欣一(以下「沼田」という。)に対し、別表二記載のとおり同人が同人所有の建物の敷地(原告所有。当時の更地時価一一五〇万円)の購入資金を得るために商品取引を行う目的で、その資金として、同表5及び7については現金を、その余については小切手を同人に交付して貸し付けたが、本件確定申告当時残高二億〇四八四万九二一〇円は、回収の見込みがなかったのであるから、本件繰入は認められるべきであり、右繰入を認めない本件課税処分は違法である。
よって、原告は、本件課税処分の取消を求める。
二 被告・認否
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5の事実中、原告が別表二記載の日に同記載の金額を支出した(以下「本件支出」という。)ことは認め、その余は否認する。右各金員は、原告代表者納口利男(以下「納口」という。)に対して貸付けられたものである。
三 被告・主張
1 本件係争年度における原告の所得金額は左記のとおり八七六一万〇一三六円である。
<省略>
2 本件加算税処分における加算税一六六万七六〇〇円は、本件裁決により一部取り消された後の納付すべき法人税額三三三五万三四〇〇円に一〇〇分の五を乗じて算出した額と同額であるから、本件加算税処分は適法である(国税通則法六五条一項、一一八条三項、一一九条四項)
四 原告・認否
1 被告主張1の事実のうち、順号Ⅱ1の債権償却特別勘定繰入否認欄を除いて、その余は認める。
2 被告主張2の主張は争う。
第三証拠
本件の証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因1ないし4については、当事者間に争いがない。
二 本件支出がなされたことは当事者間に争いがないところ、原告は、本件支出は沼田に対する貸付であると主張するので、この点について検討する。
1 まず、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第四号証、第七号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし五及び証人沼田欣一の証言、原告代表者尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、本件支出は、マルホ宝商品株式会社(以下「マルホ宝」という。)及び山文産業株式会社(以下「山文産業」という。)に対し、昭和五〇年一二月から昭和五二年四月までの間に、沼田欣一、沼田一郎、沼田二郎、小田敬三、小田啓三の各名義で委託された大豆・砂糖などの商品先物取引(以下「本件取引」という。)のための委託証拠金及び損失填補の資金とするために支出されたものであることが明らかである。
2 そこで、本件支出が沼田に対する貸付としてなされたものか否かの判定上、本件支出の使途である本件取引が沼田の計算において行われたか否かが極めて重要であるところ、右1に認定した事実及び前掲乙第四号証、証人沼田欣一、同秋山素男、同小田啓三の各証言及び原告代表者尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、本件取引の一部は、沼田欣一の名義でなされたものであり、沼田は、本件取引に関しマルホ宝及び山文産業の各取引担当者との交渉にあたり、取引継続の是非などの判断に関与していたこと、昭和五一年八月一〇日以降の本件取引の委託証拠金の支払いは、東京相互銀行西川口支店の沼田欣一名義の当座預金を通じてなされたものであることが認められ、これらの事実は一応本件取引が沼田の計算において行なわれたのではないかとうかがわせる事実であるといえる。
しかし、前掲乙第四号証、第七号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし五、成立に争いのない甲第三号証の一、第二八号証、乙第三号証及び第五号証、証人小田啓三の証言により成立の認められる乙第一四号証の一、二及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一九号証並びに証人沼田欣一、同小田啓三の各証言、原告代表者尋問の結果(一部)と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これらの事情に照らすと、前記事実をもって本件取引が沼田の計算において行われたと認めることはできない。
(一) 本件取引がなされた当時、納口は、多くの個人資産を有し、従業員約一三〇名の同族会社である原告会社の代表取締役で、その運営については強い発言力があったのに対して、沼田は、原告会社の工場長で、有能な従業員であるとの評価を得ていた者ではあるが、主な個人資産としては、原告からの借入金により新築した建物を所有する程度にすぎなかったものであること
(二) 本件取引における委託証拠金の支払及び損失填補のために、沼田自身は全く自己資金を拠出していないのに対して、納口は、昭和五一年一月七日から同年五月一二日までの間に、委託証拠金として同人所有の株券の他、少なくとも五二〇〇万円を拠出提供していることを、納口自身が原告代表者尋問において認めていること(以下「納口の自認する拠出金」という。)(なお、原告代表者はその尋問の際これについても本件取引を目的とする沼田に対する納口の貸付であると供述しているが、その裏付となるべき書類は作成された形跡が全くなく、措信し難い。)
(三) 昭和五一年三月一日山文産業に対し、本件取引のために委託証拠金六〇〇万円が沼田欣一名義で支払われており、その資金源は本件支出、本件取引の清算金及び右二の納口の自認する拠出金以外のものと認められるが、これが沼田個人の資金源から支出されたと認むべき証拠はないこと
(四) 前記東京相互銀行西川口支店の沼田欣一名義の当座預金口座には、昭和五十一年一〇月一三日、三七四六万円の入金がなされているところ、これは本件支出及び右二の納口の自認する拠出金以外から入金されていると認められるが、沼田個人の資金源から入金されたと認むべき証拠はないこと
(五) 納口が本件取引当時、これと並行して、個人的にカネツ商事株式会社(以下「カネツ商事」という。)と商品先物取引を行っていたことを原告代表者がその尋問において自認しているところ、四の入金当日右当座預金口座から本件取引の委託証拠金として九一〇万円が支払われるとともに、カネツ商事に対しても納口個人の取引の委託証拠金として三三六万円が支払われていること
(六) 右当座預金口座は、本件取引当時、原告会社経理部長小田啓三(以下「小田」という。)が納口の依頼を受けて開設したもので、同人が同口座を利用する小切手帳を管理し、これにより小切手を作成し、同口座の解約手続を行なったのも小田であって、同口座に沼田個人の資金が預け入れられたり、沼田が同口座の預金を本件取引以外に個人的に利用したことはうかがわれないこと
(七) 沼田は、本件取引における清算金は納口または小田に渡し、あるいは平和相互銀行浦和支店の沼田欣一名義の普通預金口座に入金した後、これをカネツ商事へ損失填補のために九一九万七〇〇〇円入金しており、これらの他に自己の個人的用途には全く使用していないこと(なお、原告代表者は、右九一九万七〇〇〇円の入金は、沼田が納口個人に対して返済したものである旨供述しているが、他方納口の自認する拠出金五二〇〇万円のうち、二〇〇〇万円のみについて返済を受けたとも述べて一貫せず、また、証人沼田欣一の証言により成立の真正を認め得る乙第一五号証及び同証人の証言によれば右の二〇〇〇万円は、昭和五一年五月三一日マルホ宝振出の小切手で受け取ったものと認められることに照らして措信し難い。)
(八) 沼田は、原告会社に勤務する以前に証券会社に勤務していた経験があったため、納口が本件取引以前に株式の取り引きをした際その相談にのっており、また、納口は本件取引以前にもマルホ宝と商品先物取引の委託契約を締結していたこと
(九) 納口は、カネツ商事との商品先物取引委託契約に関し、自己の住所として沼田の住所を示し、沼田を自己の先物取引の連絡係として利用していること
(一〇) 沼田は本件取引を行うについて随時個々に納口と相談しており、前記七の九一九万七〇〇〇円の入金は、沼田が前記カネツ商事との納口の個人的取引を終了させるために行っており、沼田の取引の扱い方、資金の動かし方等その行動において、右カネツ商事との取引の場合と本件取引の場合との間に差異がないこと
右のような事実が認められ(証人千田貞子及び同沼田欣一の各証言並びに原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難い。)、これらの事実に照らすと、東京相互銀行西川口支店の沼田欣一名義の当座預金口座は、沼田のためではなく、納口のために設定されていたものであり、本件取引の経済的利益及び損失はすべて納口に帰属していたもので、沼田はむしろ単に納口のためにその交渉などを担当していたにすぎなかったものと解するのが相当であって、2冒頭に認定した事実をもって本件取引が沼田の計算において行なわれたものと認めることはできないのである。
3 その他原告の主張に副うかにみえる各証拠について以下順次検討するに、証人沼田欣一の証言により成立の認められる甲第七号証ないし第一〇号証の各一、第一一号証、第一二号証の一、第一三号証、第一四号証ないし第二三号証の各一の、原告主張に副う本件支出時の日付が記載された沼田名義の領収書と題する書面、証人千田貞子の証言により成立の認められる甲第七号証の二、三、第八号証の二、第九号証の二、三、第一〇号証の二、第一二号証の二、第一四号証の二ないし四、第一五号証の二、第一六号証の二ないし三、第一七号証ないし第二三号証の各二の、本件支出にあたり振出された各小切手が沼田に対し交付された旨記載された小切手の控えがある。
しかし、前記2で述べた通り、沼田は本件取引をなすための交渉などを担当していた者であるから、仮に沼田が右各小切手を受け取り、本件支出にかかる金員を受領していたとしても、これによって直ちに本件支出にかかる金員が沼田に対して貸し付けられたものと認めることはできないのであって、右掲記の各書証をもって本件支出が沼田に対する貸付としてなされたことの証拠とすることはできない。
4 次に、証人沼田欣一及び同千田貞子は、沼田が本件支出の一部を返済している旨証言し、これを裏付けるかにみえる書証として甲第二四、第二五号証がある。
(一) 甲第二四号証は、沼田から原告に対し、昭和五一年七月一三日に二一〇〇万円、同月二三日に三五〇〇万円、同年一〇月一三日に八〇〇万円、昭和五二年一〇月二五日に五〇〇万円と四〇〇万円の計九〇〇万円、同月二六日に三〇〇万円、同月以降昭和五五年五月まで、毎月一〇万円(賞与月三〇万円)、昭和五五年五月以降昭和五七年一月まで毎月一四万円返済された旨の記載のある帳簿であり、甲第二五号証は、沼田からの返済の内訳及び利息の計算について記載された書面である。
しかし、前掲乙第七号証、第一〇号証の一ないし三、成立に争いのない乙第八、第一六号証、証人小田啓三の証言により成立の認められる乙第一七、第一八号証、証人小田啓三の証言によれば、昭和五一年七月一三日の二一〇〇万円及び同月二三日の三五〇〇万円は、本件取引の清算金を入金したものであり、昭和五二年一〇月二五日の四〇〇万円と同月二六日の三〇〇万円は、沼田が野沢直哉から四〇〇万円、小川武良から三〇〇万円借りて返済したことを装うために、小田が振込依頼書を作成し、同月二五日に太陽神戸銀行銀座支店及び東京相互銀行銀座支店、前記東京相互銀行西川口支店の沼田欣一名義の口座に振り込んだものであることがうかがわれ(右野沢及び小川から借入して返済した旨の証人沼田欣一の証言は、右乙第一七、一八号証及び証人小田啓三の証言に照らして、措信できない。)、また、昭和五一年一〇月一三日の八〇〇万円、昭和五二年一〇月二五日の五〇〇万円については、これを沼田が返済する資金を有していたとか、沼田がこれをどのように調達したかについてうかがわせる証拠は全くない。
しかも、証人沼田欣一、同小田啓三の各証言、原告代表者尋問の結果(一部)によれば、沼田は原告会社を退職した後の現在も、原告会社所有の土地上に建物を所有し、これに居住しているが、原告は沼田からその地代の支払を受けておらず、原告は沼田の右退職後にもその主張にかかる貸付について右建物に抵当権の設定を受けてはいないこと、原告は沼田に対し本件支出の返済を請求しておらず、沼田にはこれを返済する意思のあることがうかがわれず、かえって納口は自ら本件支出の一部を返済していることが認められる(原告代表者尋問の結果中、右の認定に反する部分は措信し難い。)。
以上の事実に照らすと、甲第二四、第二五号証は、いまだこれをもって沼田が本件支出の返済をしたものと認むべき証拠とすることはできない。
(二) 証人沼田欣一は、昭和五二年一〇月以降の返済について毎月給与から天引されていた旨証言するが、その証言自体曖昧であり、また、証人千田貞子は、右返済について、沼田が本件支出の分割返済として毎月現金を持参し、小田に手渡していた旨証言するが、右分割返済を否定する証人小田啓三の証言とはもちろん、証人沼田欣一の右証言とさえも符号しないこと、及び前記一で説示した事情に照らして、いずれも信用できない。
そのほか沼田が本件支出の返済をしたと認むべき証拠はない。
5 また、甲第二六号証は、昭和五一年から昭和五四年までの原告会社の事業年度末である一〇月三一日において、原告が沼田に対する貸付金にかかる未収利息を雑収入とした旨の記載のある振替伝票であるが、同号証の成立及び作成時期を明らかにする証拠はなく、同号証をもって原告主張の事実を裏付けるべき証拠とすることはできない。
6 乙第二一号証ないし第二四号証は、原告の主張に副う金銭消費貸借に関する契約書ではあるが、証人千田貞子の証言の一部及び原告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、右各書証は、昭和五五年一〇月七日の川口税務署による調査に対処するため、小田が会計課長の千田貞子に作成させたものであることがうかがわれる(証人千田貞子の証言中、右書証の作成時に関する部分は措信できない。)ので、これをもって沼田に対し原告主張の貸付がなされたと認むべき証拠とすることはできない。
7 証人沼田欣一の証言により成立の認められる甲第六号証は、昭和五二年一〇月二六日付で沼田が原告主張の貸付を承認し、分割返済の約束をした旨の記載のある書面である。
しかし、次のような事情に照らすと、右甲第六号証も税務対策上作成されたものではないかとの疑いを払拭し得ないのであり、結局同号証によっても本件支出が沼田に対する貸付としてなされたと認めることはできないのである。
(一) 証人小田啓三の証言により成立の認められる乙第一号証、証人沼田欣一、同小田啓三の各証言、原告代表者尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、本件支出に際し、契約書、領収書などの書類は一切作成されておらず、本件支出の時点では単に現金が支出され、あるいは小切手が振り出されたのみで、原告がその従業員に貸付を行う場合の手続きが一切なされておらず、また、沼田には本件支出の返済能力があったとは考えられないにもかかわらず、原告はその主張する貸付に関し人的及び物的担保の設定を全く受けていないことが認められること
(二) 前記2で述べた通り、本件取引の一部が本件支出、その清算金及び納口の自認する拠出金以外の資金によりなされたと認められ、本件支出の使途である本件取引が沼田の計算によってなされたということができず、沼田は納口のために交渉などを行っていたにすぎないものとうかがわれること
(三) 前記6で説示したとおり、本件取引終了後に税務対策上沼田により原告主張の貸付を認める書面が作成されていること
(四) 証人小田啓三の証言により成立の認められる甲第三一号証の取締役会議事録には翌二七日付で甲第六号証の内容に副う記載がなされているが、同証人の証言によれば、同日取締役会は開かれておらず右議事録は税務対策上作成されたものであることがうかがわれること
(五) 前記4(一)に説示したとおり、同月二五日に前記小川武良及び野沢直哉からの借入による返済の偽装がなされていること
8 証人小田啓三の証言により成立の認められる甲第三二号証は、同人が国税不服審判所において述べた内容として原告会社に報告するため同人が作成したメモであるところ、そこには原告の主張に副う趣旨の記載部分もあるが、同証人の右証言に照らして、採用することができない。
9 そのほか、証人沼田欣一及び千田貞子の各証言及び原告代表者尋問の結果中には、それぞれ沼田に対して原告主張の貸付がなされた旨の供述部分がある。しかし、前記4で説示したとおり、原告は、沼田に対し本件支出の返済を請求しておらず、沼田には返済の意思がうかがわれないこと、証人千田貞子の証言は、曖昧で変遷しているうえ、証人小田啓三の証言及び前掲乙第一号証の昭和五九年一二月三日における関東信越国税局直税部の大蔵事務官に対する同人の供述記載はいずれも一貫して本件貸付は沼田に対するものではない旨述べていることに照らして措信し難いこと、及び前記7に説示した事情に照らして、右各供述はいずれも信用することができない。
10 右に検討したとおり、以上掲記の各証拠によっては、本件支出が沼田に対する貸付としてなされたものである旨の原告の主張はこれを認めることができず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件支出が沼田に対する貸付としてなされたものであることを前提として、その債権償却特別勘定の繰入(本件繰入)を認めるべきである旨の原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
三 被告主張1の事実は、順号Ⅱ1欄の債権償却特別勘定繰入否認欄を除いて、当事者間に争いがない。
そうすると、原告の所得金額は被告主張1のとおりであって本件更正処分(本件裁決により一部取り消された後のもの)における原告の所得金額のとおり八七六一万〇一三六円であるということができ、これに基づく本件更正処分は適法である。
また、本件加算税処分(本件裁決により一部取り消された後のもの)における加算税は、本件係争年度における原告の所得金額をもとに計算した原告の納付すべき法人税額である三三三五万三四〇〇円の一〇〇分の五に相当する金額であるから、本件加算税処分も適法である。
四 以上のとおりであって、右各処分を違法として本件課税処分の取消を求める原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 松井賢徳 裁判官 原道子)
別表二
<省略>
別表一
<省略>