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浦和地方裁判所 昭和61年(レ)47号 判決 1988年9月09日

控訴人(第一審原告)

有限会社武田商店

右代表者代表取締役

武田高士

控訴人(第一審原告)

岡野晃

右訴訟代理人弁護士

松尾一郎

被控訴人(第一審被告)

岩井修

右訴訟代理人弁護士

馬橋隆紀

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人らの当審における予備的請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

「1原判決を取り消す。2控訴人有限会社武田商店が、別紙第一物件目録記載の土地について、別紙第二物件目標(一)記載の土地を要役地とする通行地役権を有することを確認する。3控訴人岡野晃が、別紙第一物件目録記載の土地について、別紙第二物件目録(二)ないし(四)記載の土地を要役地とする通行地役権を有することを確認する。4被控訴人は、控訴人らが、別紙第一物件目録記載の土地を通路として通行使用するのを妨害してはならない。5訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(主位的―通行地役権確認請求及び通行地役権に基づく妨害予防請求)

1(一)  控訴人有限会社武田商店(以下、「控訴人会社」という。)は、別紙第二物件目録(以下、「第二目録」という。)(一)記載の土地を所有し、右土地及び控訴人岡野晃(以下、「控訴人岡野」という。)の所有にかかる第二目録(二)、(三)記載の土地上に別紙参考物件目録(以下、「参考目録」という。)(一)記載の建物(店舗兼居宅)と倉庫とを所有して、同所で酒類等の販売業を営んでいる。

(二)  控訴人岡野は、第二目録(二)ないし(四)記載の各土地を所有し、同目録(四)記載の土地上に参考目録(二)記載の建物を所有して、同所に居住している。

(三)  被控訴人は、第二目録(一)ないし(四)記載の各土地の南側に隣接する参考目録(三)、(四)記載の各土地を所有している。

(四)  別紙第一物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)は、参考目録(三)記載の土地の一部である。

2(一)  控訴人岡野の父岡野竹夫(以下、「竹夫」という。)は、戦前から第二目録(一)ないし(四)の各土地を訴外吉田裕彦(以下、「吉田」という。)から賃借して、同目録(四)の土地上に居宅を所有し同所に居住してきた。

(二)  竹夫は、昭和二〇年一〇月ころ、その妹の夫である武田高士(現在、控訴人会社の代表取締役、以下、「武田」という。)と共同で、同目録(一)ないし(三)の各土地において、薪、炭、煉炭等燃料の販売業を始めた。

そのころ、竹夫は被控訴人の父岩井勇蔵(以下、「勇蔵」という。)から第二目録(一)ないし(四)の各土地の東奥に位置する参考目録(五)の土地を商品である燃料の置き場として賃借し、使用し始めたが、このころから、この土地への燃料の搬入・搬出のため勇蔵所有の本件土地(正確には、北側約1.2メートルの幅の部分)を通路として使用してきた。

(三)  また、当時、勇蔵はその所有する参考目録(三)、(四)の各土地を賃貸し、その借地人は本件土地の南側に建物を所有し、西側公道に出るための通路として本件土地と第二目録(一)ないし(三)の各土地の南端部(当時は、約1.2メートルの幅の部分)とを事実上通路として使用していた。

3  竹夫は吉田から、昭和二一年一二月、第二目録(三)、(四)の各土地を、昭和二七年六月、同目録(一)、(二)の各土地をいずれも買い受けた。

4(一)  竹夫は、昭和二九年六月初めころ、勇蔵の承諾を得て、通路となっている部分を含む第二目録(三)の土地の南側端部分にプロパンガス用の倉庫を設置し、その結果、竹夫は右土地上にある倉庫への商品の搬入・搬出とその奥の同目録(四)の土地上にある居宅への出入のための通路として本件土地が必要不可欠となったが、本件土地の通行につき勇蔵は竹夫に対し明確に承諾した。

(二)  そして、竹夫は勇蔵に対し、右承諾の見返りに、第二目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.2メートルの部分を勇蔵からの借地人らが通路として使用することを承諾した。

(三)  右(一)、(二)の結果、竹夫と勇蔵との間で昭和二九年六月初めころ、本件土地につき第二目録(一)ないし(四)の各土地のために通行地役権を、また、同目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.2メートル部分(別紙図面青色斜線部分の一部)につき参考目録(三)、(四)の各土地のために通行地役権をそれぞれ設定する旨合意し、以来幅3.4メートルの私道として使用されてきた。

5(一)  控訴人会社は、昭和四二年一〇月一六日ころ、竹夫から第二目録(一)の土地を買い受けて、右土地の所有権を取得し、もって本件土地につき通行地役権を承継取得して、昭和四三年四月、同目録(一)ないし(三)の各土地上に参考目録(一)の建物(店舗兼居宅)と倉庫とを新築し、この際第二目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.7メートル部分(別紙図面青色斜線部分)にまで通路が広がり、以来、控訴人会社、武田およびその家族が本件土地を道路として使用してきた。

(二)  控訴人岡野は、昭和五四年五月一二日相続により第二目録(二)ないし(四)の各土地と同目録(四)の土地上に存する参考目録(二)の建物の所有権を取得し、もつて本件土地につき通行地役権を承継取得した。

6  被控訴人は、昭和五七年七月六日相続により本件土地の所有権を取得し、同年八月ころ、参考目録(三)の土地の借地人から土地の明渡しを受ける目処がたったので、この土地を駐車場にすることを企図し、一〇月一〇日ころ、控訴人らに無断で測量をして境界を定め、控訴人らに対し、本件土地は被控訴人所有にかかる土地に属するから等と称して、本件土地と第二目録(一)ないし(三)の各土地との境界上にブロック塀を設置する旨言ってきた。

これに対し、控訴人らが、本件土地は、今まで長年にわたり互いに半分ずつの土地を出し合いこれを私道の一部として使用してきたものであるから、ブロック塀を設置されると道路としての効用がなくなり、営業上も生活上も支障をきたすので止めてほしい旨再三にわたり懇請したが、被控訴人はこれに耳を傾けようとせず、同年一一月五日、控訴人らに対し、一一月七日からブロック塀設置工事を始めると通告し、同日夕方には資材を運び込み工事を強行しようとした。

7(一)  かりに通行地役権設定契約の成立が認められないとしても、

(1) 竹夫は、自己に通行地役権がないことを知らず、且つ知らないことにつき過失なく、昭和二九年六月一〇日ころから、第二目録(三)の土地上にある倉庫への商品の搬入・搬出と同目録(四)の土地上にある居宅への出入のための通路として、本件土地を同目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.7メートル部分(別紙図面青色斜線部分)とともに幅3.4メートルの私道として設置し、一〇年後の昭和三九年六月一〇日ころまで平穏且つ公然に通行し、維持管理を続けてきた。

(2) 控訴人会社は、昭和四二年一〇月一六日ころ、竹夫から第二目録(一)の土地を買い受けて、右土地の所有権を取得した。

控訴人岡野は、昭和五四年五月一二日相続により第二目録(二)ないし(四)の各土地と同目録(四)の土地上に存する参考目録(二)の建物の所有権を取得した。

(3) 控訴人両名は、いずれも本件土地の通行地役権につき、その取得時効を援用する。

(二)(1)  竹夫は、昭和二九年六月一〇日ころから、第二目録(三)の土地上にある倉庫への商品の搬入・搬出と同目録(四)の土地上にある居宅への出入のための通路として、本件土地を同目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.7メートル部分(別紙図面青色斜線部分)とともに幅3.4メートルの私道として設置し、二〇年後の昭和四九年六月一〇日ころまで平穏且つ公然に通行し、維持管理を続けてきた。

控訴人会社は、昭和四二年一〇月一六日ころ、竹夫から第二目録(一)の土地を買い受けて、右土地の所有権を取得し、以後本件土地を商品の搬入・搬出のための通路として、本件土地を同目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.7メートル部分(別紙図面青色斜線部分)とともに幅3.4メートルの私道として、昭和四九年六月一〇日ころまで平穏且つ公然に通行し、維持管理を続けてきた。

(2) 控訴人岡野は、昭和五四年五月一二日相続により第二目録(二)ないし(四)の各土地と同目録(四)の土地上に存する参考目録(二)の建物の所有権を取得した。

(3) 控訴人らは、いずれも本件土地の通行地役権につき、その取得時効を援用する。

よって、控訴人らは、被控訴人に対し、控訴人らの求める裁判欄記載の通行地役権の確認と通行地役権の行使を妨害しないことを求める。

(予備的―通行の自由権に基づく妨害予防請求)

8(一)  本件土地は、第二目録(一)ないし(三)の各土地のうち南側の幅1.7メートル部分(別紙図面青色斜線部分)とともに幅3.4メートルの私道(以下、「本件私道」という。)を四〇年にわたり構成してきた。

(二)  本件私道は、その西側公道に出るための唯一の私道として、長年にわたり、控訴人らとその家族だけでなく被控訴人の祖父の代からの借地人らとその家族が通行してきたのであり、現在も右の借地人のうち川掘、星野、丸山は本件私道を通行する必要があり、現に通行している。

(三)  したがって、本件私道は控訴人らにとっては営業上・生活上必須のものであるばかりでなく、被控訴人からの借地人にとっても、必須の生活道路であったし、現在もそうである。

(四)  さらに、本件私道は住宅密集地に所在し、建築基準法第三章の規定が適用されるに至った際も、建築物が立ち並んでいたものであって、本件私道の幅員は3.40メートルであるから、当時から現在に至るまで通行ばかりでなく防災上も必要不可欠な道路であって、実体上も建築基準法四二条二項の「みなし道路」と同一視される道路である(申請すればいつでも特定行政庁の指定はうけられる。)。

(五)  ところで、被控訴人の控訴人らに対する通行妨害の危険性は以下のとおり明白且つ現実的である。

(1) 被控訴人は、昭和五七年七月六日相続により本件土地の所有権を取得し、昭和五八年八月ころ、参考目録(三)の土地の借地人から土地明け渡しを受ける目処がたったため、右土地を駐車場にすることを企図し、同年一〇月一〇日ころ、突然控訴人らに無断で測量を行って境界を定め、さらに控訴人らに対し「本件土地は自己の所有土地に属すから」などと主張して、本件土地と第二目録(一)ないし(三)の各土地との境界上にブロック塀を設置すると言ってきた。

これに対し、控訴人らが「本件土地は今まで長年にわたり互いに半分ずつの土地を出し合って私道の一部として使用してきたもので、ブロック塀を設置されると道路としての効用がなくなり、営業上も生活上も支障をきたすから止めてほしい」旨再三にわたり懇請したが、被控訴人はこれに耳を傾けようとせず、同年一一月五日、控訴人らに対し「一一月七日からブロック塀設置工事を始めるから」と通告し、同日夕方には資材を運び込み、工事を強行しようとした。

そこで、控訴人らは、被控訴人の本件私道への妨害行為に対し、①控訴人会社は酒類販売業を営んでおり、その所有ないし使用する土地の西側が公道に接するといっても、東側奥には居宅と倉庫があり、右倉庫への商品の搬入・搬出等のためには商品運搬車両が出入りできるだけの幅員の道路があることが営業上必要不可欠であること、また、②控訴人岡野所有の土地は完全に袋地となって建築基準法四二条の接道義務に違反することとなり、生活上はもちろん、防災上も重大な危険を生ずることなどを理由に、昭和五八年一一月八日、被控訴人を債務者として大宮簡易裁判所に通行妨害禁止の仮処分申請を行い、同月九日、右申請につきこれを認容する旨の仮処分決定を得たが(大宮簡易裁判所(ト)第九六号)、被控訴人は右仮処分裁判所に対し本案の起訴命令を申請したため控訴人らが訴を提起して本件訴訟に至ったものである。

(2) その後、前記仮処分決定発令直後の昭和五八年一一月一一日、本件私道上でたまたま漏水事故が発生したが、控訴人らの通報を受けた埼玉県南水道企業団が修繕工事を即日終了した。

右漏水事故の原因は不明であったが、控訴人会社の代表者武田は、商品の搬出・搬入車両の出入りに本件私道を最も多く使用していたためそのことも右漏水事故の一因であると考え、被控訴人から本件私道を借地している者らに対して、将来本件私道内の上下水道の設備が破損した場合は全部武田の責任において補修することを約す旨の誓約書を携えて謝罪に出向いたところ、右借地人らは右誓約書の受領を拒否したばかりか、本件私道の西側公道の出入口に「大型車の進入禁止」と大書した木組を設置した。

(3) さらに、昭和五九年三月二九日町内の北区民館の掲示板やその他他人の目に付きやすい場所に「非常識、富町四丁目自治会長武田高士、他人の土地無断で三〇年余り不正占有中、目下裁判中」と赤と黒とで大書した貼り紙を貼られたことがあった。

また、昭和六〇年一二月四日、被控訴人からの借地人である星野精一、川掘一郎、丸山栄四郎(以下、「借地人ら」という。)は突然本件私道の中央部付近(倉庫の出入口の前)に鉄杭二本を立て、その上に木と鉄棒を接着した工作物を設置した。

(4) 借地人らは、昭和六一年二月二四日早朝、突然本件私道の西側公道付近に大きな鉄杭三本とその上部に木を接着させた工作物を設置して控訴人らの本件私道内への車両の通行を完全に妨害した。

そのため、控訴人らは同年三月四日、右借地人らを債務者として浦和地方裁判所に対し、通行妨害禁止、妨害物撤去の仮処分申請をしたところ、右借地人らが右妨害物を撤去するとともに同年九月一六日、控訴人らと右借地人らとの間でそれぞれが本件私道について通行する権利を確認し(右借地人らも本件私道のうち、控訴人ら所有の別紙図面青色斜線部分の土地について通行権があることを確認)、互いに通行の妨害になる行為をしないことを相互に確認することを内容とする裁判上の和解が成立した。

(5) 以上のとおり、被控訴人の本件土地についての通行妨害の具体的・現実的危険が存在し、また控訴人らの本訴請求が認容されなかった場合、前記借地人らの所為、言動からして同人らは通行妨害の挙に出てくることは明らかである。

(六)  以上(一)ないし(四)に述べたとおりであるから、控訴人らの本件私道を通行する利益は、日常生活上必須の通行権益であって、民法上保護に値する自由権(人格権)に属するのであり、(五)のようにこの自由権が侵害されたとき、その妨害が重大且つ継続のものであるときは右権利に基づいて妨害を排除ないし予防できる。

(予備的―権利濫用に基づく妨害予防請求)

9(一)  前記8(一)ないし(四)のとおり本件私道の形成経緯とその後の使用状況、付近の状況、本件私道の控訴人らの営業上・生活上の必要性、借地人らにとっての生活上の必要性、防災上の必要性等から、たとえ本件土地が被控訴人の所有であるとしても信義則から本件私道を従来からの通行者である控訴人らや借地人らに開放しておくことが要請される。

したがって、本件土地の境界にブロック塀を設置するなどして本件私道を閉鎖して、その効用をなくし、控訴人らの本件私道の通行を妨害することは、私権の社会性を無視するものであり、私権行使の限界を逸脱する権利濫用行為となる。

被控訴人はもともと本件土地については、借地人らに法律上通行権を認めなければならず、現に通行権を認めてきたものであるから、控訴人らに対してのみ通行を拒否しても控訴人らにとって利益となるものは何もなく、逆に不利益は大なるものがある。

(二)  そして、私道所有者である被控訴人の行為が権利濫用となれば、その反射的効果として控訴人らの通行が認められ、これに基づいて妨害排除ないし予防を請求できる。

(三)  被控訴人、借地人らの控訴人らに対する本件私道についての通行妨害の態様と具体的危険性は前記8(五)のとおりである。

(まとめ)

10  よって、控訴人らはそれぞれ、被控訴人に対し、主位的に通行地役権設定契約に基づき、仮にこれが認められなければ取得時効に基づき、本件土地につき通行地役権を有することの確認を求めるとともに通行地役権の行使を妨げないことを求め、さらに予備的に通行の自由権ないし被控訴人の権利濫用に基づき通行を妨害しないように求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1はすべて認める。

2(一)  請求の原因2(一)は不知。

(二)  同(二)の前段は否認する。

当時、第二目録(一)ないし(三)の各土地は更地で、その一部はコスモス畑となっており、その後、これらの土地の中央付近に間口九尺奥行二間の平屋建の建物が建築され、そこで武田により縫製の仕事が営まれていた。

(三)  同(二)の後段は否認する。

参考目録(五)の土地は、訴外岩井正光の所有する土地であって、被控訴人の父勇蔵が竹夫に賃貸することはできない。

(四)  同(三)のうち、被控訴人からの借地人が第二目録(一)ないし(三)の各土地の南端部まで通路として使用していたことは否認し、その余の事実は認める。

3  請求の原因3は不知。

4(一)  請求の原因4(一)のうち、竹夫がプロパンガス用の倉庫を設置したことは認めるが、勇蔵がその建築を承諾したことは否認する。

倉庫は第二目録(三)の土地上だけではなく、本件土地上にもはみ出して建築されており、その後、昭和五八年になって、被控訴人の請求によってはみ出していた部分は撤去された。

勇蔵が竹夫に対し、本件土地の通行を承諾したことは否認する。

(二)  同(二)、(三)はいずれも否認する。

5  請求の原因5のうち、控訴人らの土地所有権の取得の経緯については、いずれも不知。

控訴人らが本件土地の通行地役権を承継したことは否認する。

6  請求の原因6は認める。

7(一)  請求の原因7(一)(1)のうち、竹夫が自己に通行地役権がないことを知らなかったこと、知らないことにつき過失がなかったこと、本件土地を私道として設置し、一〇年にわたり平穏且つ公然に通行し、維持管理していたことは否認する。

(二)  同(一)(2)は不知。

(三)  同(二)(1)前段につき、竹夫が本件土地を継続的に通行していたことは否認する。

(四)  同(二)(1)後段につき、控訴人会社の第二目録(一)の土地の所有権の取得の経緯は不知、控訴人会社が本件土地を維持管理して通行していたことは否認する。

(五)  同(二)(2)は不知。

8(一)  請求の原因8(一)のうち、幅3.4メートルの私道が構成されたことは否認する。

(二)  同(二)のうち、被控訴人の借地人らが本件土地を通行していたことは認めるが、本件私道中控訴人らの所有部分まで通行し、現在も通行していることは否認する。

(三)  同(三)のうち、控訴人らの事情については不知、被控訴人からの借地人らの通路としては被控訴人の所有する土地のみで十分である。

(四)  同(四)のうち、建築基準法第三章の規定が適用されるに至った際、本件私道の幅員が3.4メートルあったこと、「みなし道路」と同一視される道路であることは否認し、その余は不知。

(五)(1)  同(五)(1)のうち、被控訴人が無断で測量を行い境界を定めたこと、控訴人らがブロック塀の設置をやめるように懇請したことは否認し、その余は認める。

(2) 同(五)(2)は認める。

(3) 同(五)(3)は認める。

貼り紙は被控訴人が貼ったり、指示したものではない。

(4) 同(五)(4)のうち、控訴人らが仮処分を行ったことは認めるが、その和解内容は不知。

被控訴人は右和解の成立に関与していない。

(5) 同(五)(5)のうち、本訴請求が認められなければ、控訴人らに本件土地を通行させる意思のないことは認める。

(六)  同(六)は争う。

控訴人会社にとって、その南側通路が狭いのは、自らが車両の出入りを考慮することなく間口を広げて新築工事をしたことによるのであり、また、控訴人岡野にとって、公道に至る道が狭いのもその被相続人である竹夫が公道に接している第二目録(一)の土地を売却し、右土地上に参考目録(一)の建物を新築することを是認したことによるものである。

右のような事情において、控訴人らが通行の自由権を主張することは信義則上許されない。

9(一)  請求の原因9(一)のうち、被控訴人が借地人らに本件土地の通行を許していたことは認めるが、その余の主張は争う。

(二)  同(二)は争う。

控訴人会社にとって、その南側通路が狭いのは、自らが車両の出入りを考慮することなく間口を広げて新築工事をしたことによるのであり、また、控訴人岡野にとって、公道に至る道が狭いのもその被相続人である竹夫が公道に接している第二目録(一)の土地を売却し、右土地上に参考目録(一)の建物を新築することを是認したことによるものである。

右のような事情において、控訴人らが権利の濫用を主張することは信義則上許されない。

(三)  同(三)の認否は、請求の原因8(五)に対するのと同じ。

第三  証拠<省略>

理由

一通行地役権確認請求及び通行地役権に基づく妨害予防請求について

A  地役権設定契約の成否

1  請求の原因1はすべて当事者間に争いがない。

2(一)  <証拠>によれば、昭和二〇年八月ころ、第二目録(一)ないし(三)の各土地は更地であり、同目録(四)の土地には竹夫が居宅を有して住んでおり、このころ既に、同人は西側公道に出るため本件土地と第二目録(一)ないし(四)の各土地の南端部分(以下、両者をあわせたものを「本件通路」という。)を通行していたが、その後間もなく、竹夫は武田とともに第二目録(一)の土地上にバラック造りの店舗を設け、同目録(二)の土地上に燃料置場として、やはりバラック造りの倉庫を建てて、薪等の燃料販売を始め、このころから、西側公道に出るためリヤカーで本件通路を通行しており、他方、勇蔵所有の参考目録(三)の土地上には、関根、田口ら三軒の借地人がいて、右借地人らが本件土地を通路として使用していたことが認められる。

(二)  <証拠>によれば、竹夫は、吉田裕彦から、昭和二一年一二月に第二目録(三)、(四)の各土地を、同二七年六月に現在の同目録(一)、(二)の各土地(当時は、大宮市宮町四丁目四五番として一筆の土地であった。)を買い受けたことが認められる。

(三)  <証拠>によれば以下の事実が認められる。

(1) 昭和二八年六月、竹夫と武田とは、第二目録(一)の土地上の店舗を二階建にし、参考目録(四)の土地の一部と同目録(五)の土地を燃料置場にして薪を野積みするなどして使用しており、野積みされた燃料を運ぶのにリヤカーで本件通路を通行していたが、他方、既に認定したとおり、そのころ、勇蔵所有の参考目録(三)の土地上には借地人がおり、また、同じく勇蔵所有の同目録(四)の土地上にも、丸山と星野とが家を建てて住んでおり、本件通路を通行していた。

(2) 昭和二九年六月一日、武田は、竹夫とともに控訴人会社を設立し、そのころから、プロパンガスを取り扱うようになり、そのボンベを収納するために第二目録(三)の土地上に倉庫を建てたが(当事者間に争いがない。)、右倉庫は本件土地にはみ出ていたので、竹夫は本件土地を通行しなければ、公道にでることができなくなった。その後、控訴人会社は、同年の秋から、酒類の販売も始めるようになったが、このころには、控訴人会社はプロパンガスのボンベを運ぶために自動車で本件通路を通行しており、また、前記田口も自動車で本件通路を通行していた。

(四)  しかしながら、本件全証拠をもってしても、控訴人ら主張の通行地役権設定契約が成立したとまでは認めるに足りない。なるほど、既に認定したとおり、当時、勇蔵所有の土地についての借地人らが竹夫所有の土地を含む本件通路を通行してはいたが、右借地人らは、借地利用上の自己の便益のために本件通路を通行していたのであるから、これをもって、勇蔵に本件通路を通行する意思があったと認めることはできず、そうである以上、借地人らの本件通路通行の一事をもって、直ちに勇蔵が、本件土地につき通行地役権の設定をしたと認めることはできない。

3  以上のとおりであるから、本件土地につき通行地役権設定契約が締結されたとは認めがたい。

B  取得時効の成否

1  地役権を時効により取得するにあたっては、当該地役権が「継続且表現」のものであることを要する(民法二八三条)ところ、通行地役権については、承役地所有者に時効中断の機会を与える必要があり、また、近隣の情誼により通行を黙認している場合にはこれを法律関係にまで高めるべきでないのであるから、「継続」というためには、承役地上に要役地所有者が通路を開設することが必要である。

2  これを本件について見ると、既に認定したとおり、昭和二〇年八月ころから、本件土地を含む参考目録(三)の土地の借地人らは、本件土地を通路として通行してきたのであって、この時点において既に、本件土地につき通路は開設されていたものである。

したがって、控訴人ら主張の昭和二九年六月一〇日ころより前に、本件土地につき通路が開設されている以上、当時、要役地所有者であった竹夫が、承役地たる本件土地に通路を開設したということはできないのであるから、右竹夫には通行地役権の時効による取得について必要である「継続」の要件が欠けているというほかない。

3  以上のとおりであるから、本件土地につき通行地役権を時効取得したとはいえない。

C  結局、控訴人らの通行地役権確認及び通行地役権に基づく妨害予防請求は理由がないことになる。

二予備的請求―通行の自由権に基づく妨害予防請求について

1 建築基準法の適用を受ける私道―すなわち、法律により定められたもの(同法四二条一項三号、同法附則五項)、特定行政庁が一方的に指定するもの(同法四二条一項四号、同条二項)、利害関係人の申請に基づいて特定行政庁が指定するもの(同法四二条一項五号)―については、公法上の規制により道路の状態を維持することが要求されているが(同法四五条)、その反面、当該道路を通行することができることになるのであって、この公法的規制による反射的利益は私法上の権利ではないが、これを「通行の自由権」と呼称されることがある。

2 ところで、本件通路は、公道(国、地方公共団体、公法人等法律に基づき設立された公的組織が、道路の設置または管理・監督をする公共的道路で、一般公衆の用に供されている道路をいう。)ではなく、私道であるところ、<証拠>によれば、その幅員が四メートルに満たないことが認められるので、建築基準法四二条二項に基づく特定行政庁による指定(以下、「指定」という。)を受けた道路(いわゆる「みなし道路」)でなければ、そもそも通行の自由権を認める前提を欠くものである。この点、控訴人らは指定を受けていなくとも、実体上「みなし道路」と同一視できれば通行の自由権を認めうる旨主張するが、公法的規制による反射的利益である以上、公法的規制すなわち指定なくしては反射的利益たる通行の自由権は認められない。

そこで、本件通路について検討するに、本件通路について指定を受けたとの事実については証拠が全くないのであるから、結局、本件通路について通行の自由権は認められない。

3  以上のとおりであるから、通行の自由権に基づく妨害予防請求は理由がない。

三予備的請求―権利濫用に基づく妨害予防請求について

1  既に認定したとおり、竹夫は吉田裕彦から、昭和二一年一二月に第二目録(三)、(四)の各土地を買い受け、昭和二七年六月には、大宮市宮町四丁目四五番の土地(現在の同目録(一)、(二)の各土地を合わせたもの)を買い受けたが、右の各土地(以下、「第二目録土地」という。)は東西に連続して位置していたのであるから、昭和二七年以来、第二目録土地から西側公道へは本件土地を通行することなく、第二目録土地のみを通行することによって出入りすることができたのである。

file_3.jpgsis fake RUD = co Ltt me Ae) (rere) —<証拠>によれば、その後、昭和四二年一〇月一六日ころ、竹夫は、控訴人会社に、大宮市宮町四丁目四五番の土地を第二目録(一)、(二)の各土地に分筆して同目録(一)の土地を売り渡したことが認められるが、右売買により第二目録(一)の土地のみ控訴人会社所有になったとしても、民法二一三条二項の趣旨よりすれば、やはり第二目録土地の中で西側公道への通路については解決すべきものである。

そして、前記検証の結果によれば、現在、第二目録(一)ないし(四)の各土地からは、本件土地を通行することなく、別紙検証図面第二図file_4.jpgfile_5.jpgfile_6.jpgfile_7.jpgの各点で囲まれた部分を通行して、西側公道への出入りをすることができることが認められる。

したがって、本件全証拠をもってしても、被控訴人が控訴人らに対し、害意をもって、本件土地と第二目録土地との間にブロック塀を設置するとの事実を認めるに足りない以上、被控訴人の行為が本件土地所有権行使の濫用であるとはいえない。

また、自動車による本件土地の通行はできなくなるが、既に判断したとおり、控訴人らは本件土地につき通行地役権も通行自由権も有しているとは認められないのであるから、たとえ、控訴人会社が本件土地を含む本件通路を自動車により通行して西側公道へ出入りしてきたとしても、それは、単に本件土地の所有者が、その通行を黙認していたからに過ぎず、自動車による西側公道への出入りができなくなることが、直ちに被控訴人の権利濫用に結びつくこともない。

2  そうすると、そもそも被控訴人の権利行使が権利濫用になるとして控訴人らが妨害予防請求をしうるかどうかという理論上の問題はしばらくおき、本件の場合、権利濫用とは認められないのであるから、権利濫用に基づく妨害予防請求を求めるとの請求も理由がない。

四以上のとおり、控訴人らの通行地役権確認請求及び通行地役権に基づく妨害予防請求を棄却した判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、当審における予備的請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小笠原昭夫 裁判官平林慶一 裁判官永井裕之)

別紙第一物件目録

大宮市宮町四丁目四四番地

一 宅地 628.09平方メートル

右土地のうち別紙図面file_8.jpgfile_9.jpgfile_10.jpgfile_11.jpgfile_12.jpg点を直線で順次結んだ部分(赤色斜線部分)60.63平方メートル

別紙第二物件目録

(一) 大宮市宮町四丁目四五番二

宅地 93.80平方メートル

(二) 同所四五番一

宅地 107.81平方メートル

(三) 同所四六番

宅地 115.73平方メートル

(四) 同所四七番

宅地 79.33平方メートル

別紙参考物件目録

(一) 大宮市宮町四丁目四五番地二所在

家屋番号 四五番一

木造鉄骨亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗兼居宅

床面積

一階 132.22平方メートル

二階 145.21平方メートル

(二) 同所四七番地、四六番地所在

家屋番号 四七番

木造鉄骨亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅

床面積

一階 55.84平方メートル

二階 45.67平方メートル

(三) 同所四四番

宅地 628.09平方メートル

(四) 同所四三番

宅地 766.28平方メートル

(五) 同所四八番

宅地 333.88平方メートル

別紙図面<省略>

別紙検証図面第一図<省略>

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