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浦和地方裁判所川越支部 平成10年(モ)773号 決定 1999年1月19日

原告

右訴訟代理人弁護士

杉村茂

中野麻美

黒岩容子

被告

株式会社高砂建設

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

梶山敏雄

主文

一  被告は、被告の全従業員について作成された賃金台帳のうち、昭和六二年一月から平成八年三月末日までの間の各年度における四月分の賃金を示す部分及び右期間に採用された従業員各人の初任給を示す部分を当裁判所に提出せよ。

二  原告のその余の申立てを却下する。

理由

一  本件申立ての趣旨及び理由は、別紙(一)文書提出命令申立書<略>及び同(二)意見書<略>に各記載のとおりであり、これに対する被告の意見は、別紙(三)意見書<略>に記載のとおりである。

二  そこで検討するに、本件の基本事件は、被告会社の従業員として営業職に従事していた原告が、原告と同程度の経験又はそれ以下の経験を有する男性営業員と原告との給料額を比較して認められる賃金格差は、原告が女子であることを理由とする差別的取扱いであり、憲法及び労働基準法に違反するとして、原告と同程度又はそれ以下の営業経験を有する男性営業員の平均賃金と原告に現実に支給された賃金との差額相当の損害金等の支払を請求する事案であり、本件は、原告が被告に対し、民事訴訟法二二〇条四号を根拠に申立てにかかる文書の提出を求めているものである。

そして、右申立てにかかる賃金台帳は、各従業員の労働の実績である賃金を記録した帳簿であって、労働基準法一〇八条により使用者にその作成を義務づけられているものであるところ、被告は、原告以外の他の従業員の賃金台帳は、当該従業員のプライバシーに関わるものであるから公表できない旨主張する。

確かに、原告以外の他の従業員の賃金台帳は、各人の具体的給与額が記載されている点で、第三者のプライバシーに関する事実が記載されているといえるが、民事訴訟法二二〇条は、同条四号イロハに各記載の例外事由にあたらない限り、一般的に当該文書の所持者に提出義務を課したものであって、これは第三者のプライバシーに関する事実が記載されている文書であっても例外ではない。しかるに、被告は同号の例外事由について何ら主張しておらず、本件記録を精査しても、これに該当するような事由は認められないから、被告は申立てにかかる各文書を提出する義務があるというべきである。

次に、被告は、原告が本件基本事件で問題としている争点は、原告と同程度又はそれ以下の経験を有する営業職の男性社員として原告が列挙している者との給料格差であるから、その余の従業員の賃金台帳については提出の必要性がないと主張するが、右は、本件基本事件において、原告がこれまで被った損害の具体的金額を示すため、これまでに判明した男性営業員の氏名等を例示的に列挙したにすぎず、原告の請求を基礎づける被告会社における男女間の賃金格差の内容や具体的程度についての実態は、原告の賃金台帳と被告会社の他の従業員の賃金台帳とを広く比較対照することによって明らかになるものであるから、右のような基本事件の争点に鑑みると、本件賃金台帳を証拠として取り調べる必要性は認められ、被告の主張するようにこれを一部の男性営業員のものに限定しなければならない理由はない。

ただし、本件基本事件で原告が請求しているのは、懲戒解雇される前の平成八年三月末日までの賃金等であるから、被告の提出すべき文書の範囲も右の限度に限るのが相当である。

三  よって、本件申立てのうち、昭和六二年一月から平成八年三月末日までの賃金台帳の提出を求める部分は理由があるから認容し、その余の文書については理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 前島勝三 裁判官 朝日貴浩 裁判官 中久保朱美)

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