浦和地方裁判所川越支部 昭和51年(ワ)141号 判決 1980年11月12日
原告
田村道子
被告
入間市
ほか一名
主文
一 被告両名は、各自原告に対し金六、九〇三、五〇七円とこれに対する昭和五一年八月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告両名の負担とする。
四 この判決の一項は金四〇〇万円の限度で仮に執行することができる。
事実
(申立)
原告は「被告両名は各自原告に対し金一七、七七五、九七一円とこれに対する昭和五一年八月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告両名の負担とする。」との判決と仮執行宣言を求めた。
被告両名はいずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
(主張)
一 交通事故の発生
(1) 原告
昭和四七年五月一八日午後五時一〇分ごろ、埼玉県入間市下藤沢四〇七番地の三先道路において、昭和四一年八月二六日生れで、当時五歳八月余の原告が、訴外新井享(以下、単に新井という)の運転する自動車(バキユームカー、以下本件事故車両という)と接触する交通事故が発生した(以下、本件交通事故という)。
(2) 被告山口商会
認める。但し、事故発生時間は午後四時一〇分ごろである。
(3) 被告入間市
大体認める。
二 事故の態様と当事者の過失
(1) 原告
原告は他の児童三人(当時五歳から六歳)と本件交通事故現場の幅員約五・二メートルの道路を、本件事故車両の進行方向の右から左へ向かつて横断しようとしたところ、右道路左方に貨物自動車が一台後むき(後部をこちらに向けて)に停車しており、それより先、原告のいた位置から約八〇メートル左方の道路上に本件事故車両が停車しているのが見えたので、安全とみて連れの二人の児童が道路を横断し、横断しおわつてからあとを追つて原告が横断を開始し、半分以上横断したところではいていた靴がぬげ、その場ではきなおそうとしているところへ本件事故車両が進行してきて原告に衝突し、原告が転倒したのである。
その際、新井は前方を注視せず、原告の横断の様子の確認を怠つたまま本件事故車両を運転し、徐行もせずにそのまま進行したため、原告がぬげた靴をはきなおすため止つているのをその直前にせまるまで発見することができず、発見してこれを避けようと急ブレーキをかけ、右へハンドルを切つたが及ばず衝突したのであつて、本件交通事故は新井の一方的不注意によつて発生したもので、原告に過失はない。
(2) 被告山口商会
本件交通事故現場は幅員六メートルと同三メートルの道路が交差する地点で、新井運転の本件事故車両が時速約四〇キロメートルで幅員六メートルの道路を進行中、前方対向車線に白いマイクロバスが見えたので、その一〇ないし二〇メートル手前から徐々に減速して進行したところ、バスの後尾から子供達が顔をのぞかせたのが見えたので、これを先に横断させるため、本件事故車両の前部がバスの後尾と並ぶ状態でいつたん停止した。ところが子供達がひつこんだので再び発進し、徐行で進行したところ、(他の)子供達が本件事故車両の後方、バス後尾との間を通りぬけたあと、突然原告が右側からとび出して道路を横断してきて、本件事故車両の右後輪付近に接触したものである。
従つて、新井は運転者としての注意義務を完全に果していて無過失である。一方、原告の方は、横断歩道でない場所を、見通しの悪い停車中のバスの後方より、道路左右の交通状況に全く注意を払わず、道路右方から徐行中の本件事故車両の右後輪付近にとびこむ格好で、いわば自殺行為に匹敵する無謀な横断をしたもので、本件交通事故の原因は全面的に右原告の過失にある。仮に、新井になんらかの過失があつたとしてもそれは軽微なものにすぎず、反面原告の過失は重大で、事故の原因はほとんど原告の過失に基づくものであり、被告山口商会は過失相殺を主張する。
(3) 被告入間市
本件交通事故が、道路の横断を開始して前進した原告が、進路左方から進行してきた本件事故車両と接触したものであることは認めるが、新井の過失を含むその余の原告主張事実は不知。なお、本件交通事故の発生について、原告に重大な過失がある点については被告山口商会の主張するとおり。従つて仮に被告入間市に損害賠償責任がある場合でも、同被告は過失相殺を主張する。
三 生じた結果
(1) 原告
本件交通事故により、原告は深さ一・五センチメートルの右頭頂部陥没骨折、長さ一〇センチメートルの右前頭側頭部線状骨折、右足挫傷、右臀部挫傷の傷害を負い、その治療のため、昭和四七年五月一八日から同年六月一七日までの三一日間と昭和四九年五月二〇日から同年同月二七日までの八日間の合計三九日間入院し、昭和四七年六月一八日から昭和四八年一月二五日までの間に実日数一〇日、昭和四九年四月一九日から昭和五〇年一二月一六日までの間に実日数一六日通院し、なお(昭和五五年七月九日の時点まで)治療継続中である。
右致傷により、原告は昭和四八年六月ごろから悪心、嘔吐、頭痛が発作的に発現、昭和四九年二月ごろから嘔吐が強度のときは意識障害や尿失禁があり、性格変化も加わり、激しい頭痛時には顔面がそう白になつた。昭和四九年六月ごろには症状がほぼ固定したが、脳波検査でてんかんと認められる棘波と除波を認め、性格検査で情緒不安定、非活動、内向性、社会的不適合と判定され、後遺障害の程度は自賠責後遺障害等級九級に当り、労働能力喪失率は三五パーセントである。
(2) 被告山口商会
不知。
(3) 被告入間市
不知。なお、前進しつつある原告が、その左方から進行してきた本件事故車両と接触したならば、通常は原告の身体の正面か左側面に傷害が生ずるはずであるのに、原告がその主張するように身体の右側に傷害をうけたことが真実とすれば、その傷害は本件交通事故による直接ないし通常の損害とはいえない。
四 原告の損害
(1) 原告
右傷害により、原告は左の<1>ないし<3>のとおり、合計金一九、五八五、九七一円の損害を蒙つた。
<1> 逸失利益 金一一、四〇四、一二六円
但し、昭和五五年度の女子労働者平均賃金年額金一、七九三、四四〇円(昭和五三年度の同金一、六三〇、四〇〇円を基準に一年度賃金上昇率〇・〇五パーセントを考慮)に、自賠責後遺障害等級九級該当による労働能力喪失率三五パーセント、労働能力喪失期間年数四九としてライプニツツ式(係数一八・一六八)で計算した額。
<2> 慰謝料 金六、九四五、〇〇〇円
但し、入院期間分金二二五、〇〇〇円、通院期間分金一五〇万円、後遺症分金二二万円の合計額。
<3> 治療費等 金一、二三六、八四五円
但し、昭和五一年七月一四日の本訴提起までが治療費金七八六、四一五円、入院中雑費一日金三〇〇円三九日分金一一、七〇〇円、付添費一日金二、〇〇〇円三九日分金七八、〇〇〇円、交通費金二七、〇六〇円の合計金九〇三、一七五円。本訴提起後が、昭和五一年治療費金三〇、〇八〇円と通院費等金三、五〇〇円の計金三三、五八〇円(以下同様)、昭和五二年金八一、九六〇円と金一七、〇一〇円の計金九八、九七〇円、昭和五三年金一四、七〇〇円と金一、四四〇円の計金一六、一四〇円、昭和五四年金五七、四八〇円と金一三、〇〇〇円の計金七〇、四八〇円、昭和五五年金一〇三、〇二〇円と金一一、四八〇円の計金一一四、五〇〇円の合計金三三三、六七〇円。以上本訴提起の前後を通じての合計額。
(2)(3) 被告両名
不知。
五 損害の填補
(1) 原告
原告は、自賠責保険より、治療費等分として金五〇万円、後遺障害分として金一三一万円、合計金一八一万円の支払をうけた。従つて差引の損害額は金一七、七七五、九七一円となる。
(2)(3) 被告両名
不知。
六 弁護士費用
(1) 原告
原告は本件訴訟を本件原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用として認容額の一〇パーセントを支払うことを約した。
(2)(3) 被告両名
不知。
七 被告山口商会の責任
(1) 原告
被告山口商会は本件事故車両を所有し、これを自己の営む清掃業の用途のため、運行の用に供していたもので、本件交通事故は右同被告の業務の執行にあたつて発生した。
従つて同被告は自賠法三条により、本件交通事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。
(2) 被告山口商会
前段は認め、後段は争う。
八 被告入間市の責任
(1) 原告
被告入間市は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によつて、ふん尿を含む一般廃棄物の収集、運搬、処分を一定の計画のもとに管理する責任があり、同被告は、右法律の規定に従い、これを専門の業者である被告山口商会に委託し、自己の管理のもとにこれを同被告に執行させることにより、本件事故車両を保有し、自己のため運行の用に供していたもので、本件交通事故は右被告入間市の業務の執行にあたつて発生した。
従つて被告入間市は自賠法三条により、本件交通事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。
(3) 被告入間市
被告入間市は、昭和四七年四月一日ごろ、当時有限会社であつた被告山口商会に入間市藤沢地区におけるふん尿の収集および運搬業務の処理を委託したが、その趣旨は、業者間における汲取料金の不均衡を是正して市民の負担の軽減をはかることにあつたから、汲取料金の徴収、交付に関する業務のみを被告入間市が担当し、その余の業務の処理は実質上被告山口商会の自主的運営に委ねていた(同じ立場の他の業者についても同様)。
そこで被告入間市は、被告山口商会に対しては委託業務の実施に供せられる車両の型および装置について特段の指示をせず、一年毎の契約更新の際に同被告から作業時間、配車、汲取先、汲取回数等の業務実施要領につき同被告の都合に基づいて作られた一片の計画書を受領するに止まり、同被告との間には作業内容の点検ないし業務処理報告の受理もせず、あらかじめ市民に対して汲取の完了を証する確認伝票を配布し、市民は汲取終了の都度同被告に対してこれを交付し、同被告が被告入間市に対し右伝票を一か月ごとに集計提出して委託料名下に均一の汲取料金の支払をうけていたのが実態である。
右の次第で、被告山口商会は私企業として、自己の計算と危険において、右ふん尿の収集および運搬の業務に、浄化槽の清掃等他の業務のかたわら従事していたものであるから、被告入間市は本件事故車両を保有し、自己の運行の用に供していたものとはいえない。
九 時効
(2)(3) 被告両名
仮に被告両名に損害賠償責任があるとしても、原告の本件交通事故に基づく損害賠償請求権は、原告またはその法定代理人が損害の発生および加害者を知つたことの明らかな昭和四七年五月一八日から三年後の昭和五〇年五月一八日の経過をもつて消滅時効期間が満了しているので、被告両名は本訴において右時効を援用する。
(1) 原告
前記三において述べたとおり、原告には後遺症が発現しており、症状が固定したのは昭和四九年六月ごろであるから、その時点まで時効は進行していない。
また、被告山口商会は原告の治療費等支払の請求に対して、昭和五〇年一一月一九日ごろ、治療費の一部として金五、〇〇〇円を支払い、残金は同年一二月末までに支払うことを約束して、この債務を承認した。
(証拠)〔略〕
理由
一 本件交通事故が発生した事実は、時間の点でくいちがいのある点を除き、当事者間に争いがない。
二 当事者間で成立に争いのない甲二号証ないし六号証、一〇号証の一ないし二二、一一号証、一三号証の一ないし二六、および原告法定代理人田村京子の尋問の結果と文書の体裁その他弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲七号証の一ないし一五と一二号証の一、二に、証人新井享の証言と原告法定代理人田村京子の尋問の結果を綜合すると、(被告入間市は事故と傷害の因果関係をも否定するけれども)原告は、本件交通事故のために前記の主張三の(1)前段において原告が主張したとおりの右頭頂部陥没骨折等の傷害を負つたことが認められるし、そのために、原告が事故当日の昭和四七年五月一八日から同年六月一七日までの三一日間入間市の原田病院に入院して治療をうけ、ほぼ絶対安静で付添看護を要する状態で、その間五月二二日に頭部陥没骨折形成術を行い、退院後も昭和四八年一月二五日まで実日数一〇日ほど同病院に通院して治療をつづけたが、その後吐き気や頭痛がひどくなる等具合が悪くなつたので、昭和四八年六月二六日から昭和四九年三月二〇日まで荻野病院において、その間昭和四八年六月二七日から同年七月二日まで六日間入院し、あとは通院して投薬をうけるなどして治療し、またその間に昭和四八年一二月二八日から昭和四九年三月二六日まで実日数八日ほど松風荘病院へ通院して脳波の検査をうけるなどし、なお症状がおさまらないので同年四月一七日からは、同病院からの紹介で東京都文京区の日本医科大学附属病院にかかり、同年五月二〇日から同月二七日までの八日間検査のため入院し、その後も投薬等の治療をつづけた結果、同年六月ごろには症状がほぼ固定したが、その時点で前記の主張三の(1)後段において原告が主張したような後遺障害が残つたことが認められ、そして原告はその後も月に一回か二回程度同病院に通院をつづけ(昭和五五年五月一二日まで)、投薬など治療をうけているがほとんど症状の変化はみられていないことが認められる。右の症状のほぼ固定した状態で残つた原告の後遺障害の程度は自賠責の後遺障害でいうと九級に該当するものと判断される。
なお、本件全証拠をもつてしても本件交通事故については、本件事故車両の運転者である新井に過失がなかつたこと、その他自賠法三条但書該当の事実を認めることはできない。
三 右の傷害を負つたことによつて原告の蒙つた財産的損害は前記甲五号証、六号証、七号証の一ないし一五、一〇号証の一ないし二二、一二号証の一、二、一三号証の一ないし二七および原告法定代理人田村京子尋問の結果を綜合すれば、次の<1>ないし<3>のとおり、合計金一一、五五一、三〇九円となることが認められる。
<1> 逸失利益
原告は事故当時五歳、現在も一四歳の児童であるから、昭和五五年度の全女子労働者の平均賃金年額金一、七九七、五一六円(「賃金センサス」昭和五三年第一巻第一表による金一、六三〇、四〇〇円に、一年ごとに五パーセントの値上り分を加えた額)に、自賠責後遺障害等級九級該当の労働能力喪失率三五パーセントを乗じ、これに就労可能年数を一八歳から六七歳までの四九年とし、ライプニツツ式により係数九・一七六四(但し、一九・〇七五〇マイナス九・八九八六)として計算した額金五、七七三、一五四円が本件原告の逸失利益の額として相当である。
<2> 慰謝料
入院(合計四五日)および通院の慰謝料として計金一五〇万円、後遺障害の慰謝料として金三〇〇万円、の合計金四五〇万円が相当である。
<3> 治療費等
本件訴訟提起の前後を通じ、本件傷害の治療のために原告が医療機関に支払つた入院費、検査料、薬代等の治療費は、原田病院分が金三七五、五二〇円、荻野病院分が金一五、〇三五円、松風荘病院分が金二〇、三二〇円、日本医科大学附属病院分が金五三〇、二八〇円の合計金九四一、一五五円となる。
そして、原告は入院時には四歳から七歳の幼児であつて付添を要し、現に主として母親である原告法定代理人田村京子が付添つたものであるから、付添料を一日金三、〇〇〇円として合計入院日数四五日分の合計金一三五、〇〇〇円が付添料相当の損害金の額となる。
次に、入通院のための原告および付添人の交通費および雑費は、少くとも原田病院分が金四万円、荻野病院分が金一万円、松風荘病院分が金二、〇〇〇円、日本医科大学附属病院分が金一五万円になるものとして、合計金二〇二、〇〇〇円とみるのが相当である。
以上で、治療費、付添料(相当損害金)、交通費雑費の合計は金一、二七八、一五五円となる。
四 ここで被告両名の責任についてみるに、まず被告山口商会が本件事故車両の所有者であつて自己のためにこれを運行の用に供する者であること、また本件交通事故が同被告の事業の執行にあたつて発生したものであることは同被告の認めるところであるから、同被告は自賠法三条により、本件交通事故によつて生じた前記原告の損害を賠償する責任がある。(なお、同条但書の場合に当らぬことは前記二の末尾において述べたとおり)
次に被告入間市についてみるに、成立に争いのない乙一号証に証人新井享と同山口一三の各証言を綜合すれば、本件交通事故が、被告山口商会の保有する本件事故車両が、被告入間市の委託により入間市内のふん尿の汲取、搬出作業の業務執行中におこしたものであることが認められるし、右各証拠によれば右事業委託の実態がほぼ前記の主張八の(3)の中段「そこで被告入間市は」以下において被告入間市が主張するところに近いことは認められ、たしかに被告山口商会が私企業として自己の計算と危険において右事業を執行していることはいえるのではあるが、しかしながら、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によりふん尿の汲取、搬出の事業は市町村即ち本件においては被告入間市の責任においてなすことが義務づけられているのであつて、実際、被告入間市が被告山口商会にこの業務を委託するに当つても、右法律の趣旨に従い、期間を一年と区切つて、そのつど委託を継続するか否かを決する機会をもち、またその折に委託業務計画書を提出させる等して業務の執行を把握していることは間違いないのであるから、やはり本件においては被告入間市においても本件事故車両の運行によつて利益をあげ、また運行を支配していたものとみるのが相当で、被告入間市には自賠法三条により、本件交通事故によつて生じた前記原告の損害を賠償する責任がある。(なお、同条但書の場合に当らぬことは前記二の末尾において述べたとおり)
五 以上のとおり、被告両名には原告に対し本件交通事故によつて生じた損害を賠償する責任があるとしても、成立に争いのない甲九号証の一ないし一二に証人新井享の証言と原告法定代理人田村京子尋問の結果を綜合すれば、本件においては原告が左右や前方の安全をたしかめず、突然本件事故車両の進行しているところにとび出したことにも原因があり、これについては原告自身とその監督義務者である原告法定代理人両名の双方、すなわち原告側に過失があることが認められるから、損害額の算定について考慮されるべきである。そしてその過失相殺される割合は三〇パーセントとみるのが相当である。
六 以上により、過失相殺した後の損害額は金八、〇八五、九一六円となるが、原告は自賠責保険より治療費分として金五〇万円、後遺障害分として金一三一万円、合計金一八一万円の支払をうけ、その分の損害が填補されているというのであるから、未填補分は差引金六、二七五、九一六円となる。
七 ところで、原告法定代理人田村京子尋問の結果によれば、原告は右認容損害賠償額の一〇パーセントの金額を弁護士費用として支払うことを本件原告訴訟代理人と合意していることが認められ、右は支払うこと自体、また金額も相当といえるので、右六の金六、二七五、九一六円にその一〇パーセントを加算した金六、九〇三、五〇七円が結局被告両名が各自原告に支払うべき金額となる。
八 最後に、被告両名の時効の主張について判断する。本件交通事故が昭和四七年五月一八日に発生したこと、原告の受傷を含むその事実および加害者が被告両名であることはすぐ原告側(原告法定代理人)の知るところとなつたことは原告の争わぬところであり、また本件訴訟提起が昭和五一年七月一五日であることは当裁判所に顕著な事実である。しかしながら、成立に争いのない甲二号証ないし六号証、一〇号証の一ないし二二、一一号証、一三号証の一ないし二六に、二において前述したとおり真正に成立したものと認められる甲七号証の一ないし一五と一二号証の一、二および原告法定代理人田村京子尋問の結果を綜合すれば、原告は受傷後、治療を継続したが経過が思わしくなく、めまいや嘔吐感、不快感などの症状がなくならないので、昭和四九年四月一七日になつて日本医科大学附属病院で診察をうけ、同年五月には八日間入院して検査をうけ、その後も治療を継続して今日に至つており、症状が一応固定したのが昭和四九年六月ごろと認められるもので、右のような症状の経過にもかかわらず受傷時から直ちに消滅時効の期間が進行するとみるのは相当ではなく、本件交通事故と因果関係のある傷害による損害すべてについて、少くとも症状固定時の昭和四九年六月までは消滅時効の進行がないものというべきである。よつて被告両名の右主張は理由がない。
九 以上により、原告の本訴請求は主文一項の限度で理由があるのでその分について認容し、その余については理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 安倍晴彦)