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浦和地方裁判所熊谷支部 事件番号不詳 決定

被告人 少年 A(昭一八・三・五生)

主文

本件を浦和家庭裁判所熊谷支部に移送する。

理由

(犯罪事実)

被告人は少年であり日中家業の雑貨商を手伝う傍ら、夜間○○市大字○○××××番地所在の埼玉県立○○高等学校定時制二年に通学していたものであるが、

第一、法定の除外事由がないのに昭和三十四年八月十五日頃から同年九月十二日に至る間同市大字○○×××番地の自宅において刃渡二十四センチ六ミリメートルの短刀一振(証第一号)を所持し、

第二、同年九月十日午後八時三十分頃同市所在の○○○○高等学校裏附近道路において友人のKが上級生の○○高等学校定時制四年生のNと喧嘩をした際Kに加勢して下駄でNの顔面を殴打して暴行し、

第三、同年同月十二日午後六時頃前記○○高等学校本館二階の定時制二年二組の教室において折から第一校時の休憩時間中自己の座席に坐つて黒板の記載を筆記していた際、前記Nの友人である同校定時制四年生○○清○ことB(当十八年)が被告人に近づき因縁をつけて矢庭に着席したままの被告人の顔面等を激しく殴打したり足蹴にしたりし、被告人の着衣を掴んで机諸共被告人を横倒しにして同様の暴行を続け、辛うじてその場を脱した被告人を同教室南側窓際の机に押し付け更に被告人を目がけて椅子を投げつける等して執拗に暴行を続けたため痛くこれに憤慨し、傍らにいた前記Kに言いつけて自己の鞄の中から前掲短刀を取り出させ、これを右手に携えて同教室西側の教壇中央部附近において椅子を振り上げる等して応戦していたBに立ち向い、同人を或は殺害するに至るかも知れない虞れがあることを知りながら敢て右短刀をもつて同人の左腹部を一回突き刺し腹腔内深部に達する刺創を負わせて同人をして同日午後七時三十分頃同市大字○○××番地所在の○○外科病院において腹部大動脈損傷による出血のため死亡せしめて殺害し

たものである。

右事実は当裁判所において取調べた各証拠によりいずれもこれを認めることができ、内第一の事実は、銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項第三十一条第一号に、第二の事実は刑法第二百八条に、第三の事実は刑法第百九十九条に各該当する。

(保護処分を相当とする理由)

第一、被告人の生立ちと平素の行状

被告人は酒類雑貨商を営み中流の生活をしていた円満な家庭の末子(長男)として生れ、中学校卒業後家業の手伝をしながら前記高等学校定時制夜間部に通学し本件犯行時同校二年生に在学中であつたものであるが、同校での被告人の生活状況は一、二年生を通じて成績は下位で、時折り通学を怠り或は授業の途中で早退したりして屡々担任教師から注意を受け、また校内の兎角素行の優れない生徒と交友を結び生徒間では腕力的には一目おかれている存在であつたが、平生は無口で黙つて良く授業を受けており、他方家庭での被告人の生活態度は短気で家人から小言をいわれると立腹して口をきかないこともありまた時には夜遊びもし犯罪歴のある友人と交際をしていたこともあるが平素は家業の手伝を良くやり概して真面目な生活をし、本件犯行の以前には犯罪により取調べを受けた経験がない。

なお被告人の家庭環境には格別の問題はない。

以上の事実は家庭裁判所調査官作成の各調査報告によつて明らかである。

従つて被告人は本件犯行の以前には漸く不良化のきざしを顕わしていたことを窺うことができるが犯罪的傾向を顕著に身につけていたものとまで認めることはできない。

第二、本件犯罪の情状

本件被告人の殺人の所為についてみると、被害者が勉強中の被告人に対して理由も告げずに前述のような激しい暴行を一方的に且つ執拗に加え続けたがその暴行の激しさは周囲に居合せた多数の生徒でさえも恐怖感を抱いて仲裁することも制止することもできず遠ざかつて避難する生徒さえいたほどであり、これに対して被告人は前述の短刀をもつて被害者に立ち向うまでは全く被害者に抵抗することなく専ら被害者の暴行を避けることに腐心していたことは本件記録上明らかであるから、被告人を前述のように憤激させ、ひいては被害者を殺害せしめるに至つた原因の多くは被害者の仮借なき暴行に負うものと認められるのに加え、殺害の犯意も前述のように積極的に被害者の殺害を意図したものではなく未必的な意思に止まつたこと、更に犯罪後の被告人及びその家族の態度をみると、被告人は被害者が負傷して倒れた後直ちに被害者の介護に奔走しその後の改悛の情が特に顕著であることまた被告人の父母は被害者の遺族に対し鋭意被害の弁償に努力しすでに示談も成立していること等いずれも記録上明らかであるからこれ等の事情を綜合すると被告人の殺人の所為はその結果の重大性にも拘らず、被告人の保護処分の限界を超えた犯罪的性格を表徴するものとはたやすく認め難く、これに前示銃砲刀剣類等所持取締法違反及び暴行の各所為を併せても被告人の保護処分の可能性を失う根拠とすることはできない。

第三、被告人の人格上の欠点

浦和少年鑑別所の鑑別結果通知書によれば、少年は知能上の欠陥は認められないが、性格上の障害として情意未成熟傾向があり、興奮性をもち、感情抑制力に欠け衝動性が強い面があることが指摘されているが、右性格上の障害が本件殺人行為に幾何かの原因を設定しているものとみることも強ち無理ではなくまた学校及び家庭における被告人の兎角短気な生活態度にみられるように右性格上の障害が意思の疎通を欠き対人関係の円満な接触を阻害する虞れがあることも容易に推測されるところである。

第四、むすび

これを要するに以上掲記の被告人の平素の行状、本件犯罪の情状及び被告人の性格上の障害の各事情並びに被告人の年令、改悛の情等諸般の事情を綜合するときは被告人が、少年法所定の保護処分の限界を超えているものとは認められず却つて前述のような漸く顕在化していたと認められる被告人の不良性と性格上の障害とは被告人の健全な発育のためこれを除去することが必要であり、そのためには、個別的専門的な保護を主眼とした保護処分に付することを要するものと認められる。

尤も本件犯罪の主たるものは高等学校の教室内において而も生徒間の喧嘩に基因して行われたものであり、生徒、父兄及び一般社会の人心に与える影響が大きいが保護処分においても社会的な影響をその処遇に多分に考慮し得るところであるから被告人に対してはこの際刑事責任を負わしめるよりも保護処分に付してその更生を図ることが適切であると思料されるので少年法第五十五条に則り被告人を浦和家庭裁判所熊谷支部に移送することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 伊沢庚子郎 裁判官 荒井徳次郎 裁判官 伊藤豊治)

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