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浦和地方裁判所熊谷支部 平成3年(ヨ)89号 決定 1992年3月09日

債権者

眞喜志晃

右訴訟代理人弁護士

佐々木新一

難波幸一

鈴木幸子

福地輝久

堀哲郎

深田正人

高木太郎

神山祐輔

債務者

沖電気工業株式会社

右代表者代表取締役

小杉信光

債務者

高橋務

右両名訴訟代理人弁護士

内藤貞夫

主文

一  債権者が、本決定送達の日から一〇日以内に金五〇万円の担保を提供することを条件として

債務者沖電気工業株式会社は、債権者に対して、社内QCサークルからの排除、納涼祭、運動会、忘年会、新年会、親睦会からの排除等、一切の差別的取扱いをしてはならない。

債務者沖電気工業株式会社は、債権者を、隔離され他の従業員との交流を絶たれた上、基盤図面に記載された電子部品の色塗りによる単純識別作業を主とする現在の作業内容及び定位置に座り続けたままの作業形態から、債権者の職歴、能力、適性、希望を勘案して、他の従業員との交流も存し、かつ歩行などによる移動も伴う作業形態を持つ職種に変更せよ。

二  債権者の債務者高橋務に対する申立を却下する。

三  申立費用は、債権者と債務者沖電気工業株式会社との間に生じた費用は債務者沖電気工業株式会社の負担とし、債権者と債務者高橋務との間に生じた費用は債権者の負担とする。

理由の要旨

第一申立の趣旨

主文一項同旨

債務者高橋務は、債権者に対して、「ぐず」「のろま」その他一切の債権者の人格、名誉を侵害する侮辱的言動をしてはならない。

第二債務者沖電気工業株式会社に対する申立について

一 債権者は、昭和四六年四月に債務者会社に入社して品川工場部品検査課受入検査係に配属され、昭和五三年一一月二〇日付で解雇され、債務者会社を被告として東京地方裁判所に地位確認等請求訴訟を提起し、昭和六二年三月一三日に和解が成立して同年六月二〇日に債務者会社に復帰し、同月三〇日電子通信事業部本庄工場に配属されたところ、右和解の内容(証拠略)、特に第二項の2、4、6ないし9、第七項を読むと、債務者会社が、債権者に対し、復帰時の処遇について、解雇の対象にならなかった他の従業員と平等にすることが労働契約の内容になったと考えられる。これを具体的に述べると、特段の事情のない限り、他の従業員と同じ処遇をするべきものであり、異なった処遇がされたときは、同じ処遇を求める具体的請求権が生じると解される。

二 配属について

解雇の対象にならなかった他の従業員は、債務者会社の業務に照らして意義のある業務に配属され、それに適した職場環境が与えられていると考えられるので、復帰時に債権者が同等の配属を受けたことの疎明があるかを検討する。

債権者は、本庄工場配属以来部品製造部基盤組立第三課推進第一係(現在の名称は、生産管理部推進課基盤管理係)に所属し、一貫してパッケージ図面の部品配置図の色塗り分けを業務としており、右業務と債務者会社の業務との関係につき、債務者会社は、色塗りされた図面は部品の挿入作業及び点検作業に使用されるものであり、同係係長が一か月後に製造する工注を把握し、二週間ごとに図面の複写を受け、毎週月曜日に、二週間後に組立工程に入る基盤に関わる図面につき、一週間分の作業を指示し、毎週末に完了した図面を回収し、組立作業開始一週間前までに担当係長に引き渡す旨説明している(債務者ら平成三年一二月五日付準備書面五ないし七頁、一二、一三頁、同平成四年二月三日付準備書面三ないし五頁)が、(証拠略)によれば、平成三年一〇月・一一月に債権者が作業した図面に限っても、作業指示から図面回収までに三週間を切るものは一つもなく、一か月を越えるものの方が多く、二か月近いものもあり、少なくとも期間の点で債権者の業務の現状と債務者会社の右説明とがかなり食い違っており、債権者の業務と債務者会社の業務との関係についての債務者会社の右説明をそのまま措信することは困難である。

債務者会社は、基盤組立作業の工数計画を立案する生産管理部推進課基盤管理係長が図面色塗りを管理するのが効率的であり、外注会社に引き渡される一か月平均約七〇〇図番のうち、製造ロットサイズが概ね二〇枚以上五〇枚以下の図番約一〇〇図番が図面色塗り作業を必要とし、同係長が、この約一〇〇図番のなかから約三〇図番について債権者に色塗り作業を指示していると説明しており(債務者ら平成三年一二月五日付準備書面三ないし七頁、同平成四年二月三日付準備書面二、三頁)、そうとすれば、債権者と同じ係の者が、図面色塗り作業が必要な約一〇〇図番のうち、債権者が指示を受けなかった残りの図番について色塗り作業に従事しているのが自然と考えられるが、債権者が部品製造部基盤組立第三課推進第一係に配属されて以来、同じ係内で図面色塗り作業に従事しているのは債権者一人だけである。加えて、右配属以来、同じ係の他の者と担当する業務が異なるという理由で、債権者は、同じ係の他の者とは一人離れた場所に机を与えられて作業に従事している。

右によると、復帰後の配属について、債権者が、解雇の対象にならなかった他の従業員と同等に扱われたことの疎明があったというに至らない。

三 QCサークルについて

(証拠略)によれば、昭和五五年以来、債務者会社は、従業員をQCサークルに編成し、サークル活動により会社の収益力の向上を図っていること、平成二年からサークル活動を行う範囲に変更があったが、本庄工場では設計部門を除いた従業員がQCサークルに編成されていること、QCサークルの編成は本庄地区においては本庄工場長が行うものであることが疎明される(特に、QCサークルの編成について<証拠略>の七、八頁、現在債務者会社で推進している「チャレンジ91」におけるサークル活動の位置付けについて<証拠略>ところ、債務者会社は、サークルの編成はサークルのメンバーが決定しており、サークルのメンバーは債権者が参加するのを望んでいないと説明し、債権者は復帰以来いずれのサークルにも参加できないでいる。いずれのサークルにも参加できないため、債権者は、サークル単位で運営される運動会・納涼祭では競技等に参加できず、サークルが実施する忘年会・新年会・親睦会には参加できない。そうすると、この点についても、同等取扱いの疎明がないことに帰する。

四 以上によれば、債務者会社に対する申立のうち、社内QCサークルからの排除という差別的取扱いの禁止を求める部分及び「隔離され他の労働者との交流を絶たれた上、基盤図面に記載された電子部品の色塗りによる単純識別作業を主とする現在の作業内容」から「債権者の職歴、能力、適性、希望を勘案して(前記和解の第二項の4)」他の職種に変更することを求める部分は被保全権利の疎明が充分あるというべきであるし、その余の部分についても、疎明があったと言ってよいと考える。

五 債権者の復帰以降四年以上が経過しているが、債務者会社は一貫して債権者の主張を争っていること、債権者は復帰後平成元年三月ごろから身体に変調を来たし、(証拠略)によれば、職場内の対人関係上のストレスが症状を悪化させる可能性があることから、保全の必要性は肯定できる。

第三債務者高橋務に対する申立について

申立を認容すべき事実の疎明があったとは言えない。

(審理終結日 平成四年二月二六日)

(裁判官 山口信恭)

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