浦和地方裁判所越谷支部 平成8年(ワ)516号 判決 1999年2月22日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、次のとおりの自動車(以下「本件自動車」という。)を引き渡し、平成八年七月二四日から右引渡し済みまで年一〇〇万円の割合による金員を支払え。
自動車登録番号 春日部三三た五八〇九
車名・型式 メルセデスベンツ 五〇〇SL
車台番号 WDB一二九〇六六―一F―〇二一二六九
二 被告は、原告に対し、本件自動車につき所有権移転登録手続をせよ。
三 もし、本件自動車の引渡しの執行が不能となったときは、被告は、原告に対し、右引渡しに代えて金八〇〇万円を支払え。
四 訴訟費用は、被告の負担とする。
第二 事案の概要
原告はドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という。)に本店を有する保険会社であり、被告は本件自動車を中古で買い、使用している者である。本件は、本件自動車がイタリア共和国で盗まれ、本件自動車が原告との保険契約の対象となっていたことから、原告が被害者に保険金を支払い、本件自動車に対する所有権を取得しているところ、本件自動車は被告が占有し使用しているとして、原告が被告に対し、本件自動車の引渡等を請求した事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、肩書住所地に本店を有する保険会社である(弁論の全趣旨)。
2 被告は、本件自動車を占有し、自動車登録原簿に所有者として登録されているものである。
3 本件自動車の移転状況は以下のとおりである。
(一) 平成三年五月ころ長崎県諫早市貝津町一一二六番地一所在の株式会社インターオートが輸入
株式会社大森廻漕店が同年七月二三日神戸税関六甲アイランド出張所に輸入申告、同月二五日自動車通関証明書を取得
(二) 平成三年九月二六日広島県呉市所在の有限会社仁方モータースが売買により取得して予備検査(予備検査証番号・広島D一五五〇)をする。
(三) 同月二七日ころ東京都荒川区西尾久所在の株式会社興成自動車工業所が取得する。
(四) 同年一〇月一五日 新規登録
受理番号 〇一一六一
登録番号 足立三三ひ八一一七
所有者氏名 太田茂
所有者住所 東京都荒川区西尾久七丁目二四―七
(五) 株式会社ヤナセ東京中古車センター
(六) 平成五年一〇月一三日 移転登録
受理番号 〇〇五七四
登録番号 春日部三三た五八〇九
所有者氏名 オートピアナカジマ株式会社
所有者住所 埼玉県与野市本町西五丁目五―八
(七) 平成五年一〇月二七日 移転登録
受理番号 〇〇四七八
所有者氏名 被告
4 原告は、被告に対し、本件自動車の引渡し等を求めて、平成八年六月一四日越谷簡易裁判所に民事調停の申立をし、同年七月二四日第一回の調停期日が開かれた。
二 主たる争点
1 国際的訴訟管轄
(被告の主張)
本件訴訟については、日本の裁判所に国際的訴訟管轄がない。
2 原告の日本国内における権利能力、訴訟能力
(被告の主張)
民法三六条一項によれば、原告が日本において法人として活動するためには認許が必要であるところ、原告は日本において認許されていないから、日本においては本件自動車の帰属主体とはなり得ない。
3 原告が原告との保険契約の対象となっていた自動車(被告が自動車の同一性を争っているので、以下これを「本件保険車両」という。)に対する所有権取得の有無
(原告の主張)
(一) 原告は、本件保険車両につき、次のとおりの自動車保険契約を締結していた。
(1) 付保車両
登録番号 HU―WE 六六六
車名、型式 ダイムラーベンツ 五〇〇SL
車台番号 WDB一二九〇六六―一F―〇〇二三九三
(2) 免責金額 三〇〇ドイツマルク
(3) 保険会社の事故番号 六二七八六四〇―一―四一
(二) シュミットは、平成三年三月二九日イタリア共和国で本件保険車両を盗まれた。
(三) 原告は、同年八月一三日シュミットに対し、右保険契約にしたがって一二万八二九六・四九マルクを支払い、右契約の保険約款一三条七項によって本件保険車両の所有権を代位取得した。
(四) 原告の本件保険車両に対する所有権の取得についてはドイツ法が準拠法となる。また、原告の被告に対する返還請求については、ドイツ法によれば、物が複数の国を移動したときは、現在の占有者の所在地法によっに準拠するとされており、被告が本件保険車両を占有しているから、日本法が準拠法となるし、日本法においても、法例一〇条によれば、物権的請求権は目的物の所在地法によるとされているから、日本法が準拠法となる。
(被告の主張)
ドイツ法では、物権の変動につき形式主義を採用し、当事者間において自動車の所有権を移転する旨の合意をし、かつ、有効な自動車登録を具備しないかぎり、自動車の所有権は移転しないものとされているところ、原告は有効な自動車登録を具備していないから、原告に本件保険車両の所有権は移転していない。
4 本件自動車と本件保険車両は同一か。
5 日本において道路運送車両法に基づき登録された自動車につき、善意取得が成立するか。
(被告の主張)
仮にオートピアナカジマ株式会社に所有権がなかったとしても、前主ら及び被告は本件自動車を善意取得した。自動車について輸出国の登録と日本国の登録とが併存する場合、日本の購入者が輸出国名及び輸出国の登録状況をも調査することは不可能であり、また、これを調査すべき義務があるとはいえないから、この場合は通常の動産として扱い、自動車の占有に公示力と公信力を付与し、善意取得の適用を肯定すべきである。
6 日本において道路運送車両法に基づき登録されていない自動車につき、善意取得が成立するか。
(原告の主張)
未登録自動車の善意取得を全般的に肯定することは、自動車登録制度に所有権の公示機能を果たさせようとする道路運送車両法の趣旨に反するものであって許されない。
未登録自動車の善意取得を肯定できるのは、自動車が滅失、解体などの理由によって運行の用に供しなくなったような例外的場合に肯定されるべきである。これに対して、外国から輸入される中古自動車の場合は、ドイツのように自動車登録制度が整備され、車両証書が発行されており、輸入者がこれを調査することが容易である場合は、ドイツ国の自動車登録制度が日本の自動車登録制度と同様の公示機能を果たすのであるから、もはやその自動車について善意取得する余地はないものというべきである。
(被告の主張)
本件自動車は道路運送車両法に基づいて自動車登録原簿に登録される前に前主らによって、善意取得され、被告がこれを承継取得した。
なお、株式会社インターオートは、平成三年五月ころ、アラブ首長国連邦国ドバイ市所在のアイデアル会社から約八〇〇ドルで購入し、船便で日本に輸送したものである。
7 未登録自動車についての善意取得の要件たる過失の有無
(原告の主張)
自動車については、どこの国においても登録制度が存在し、輸入自動車については輸出国側での登録番号、車種、所有権者などが記載された譲渡証明書が存在する。そして、外国から自動車を輸入するときは、右譲渡証明書を調査すべきである。被告の前主らは、輸出国側での譲渡証明書を調査しないで本件自動車を輸入し、売買をしたものであって、いずれも過失がある。なお、輸入業者が作成した譲渡証明書は、所有権の存在を何ら担保しない。通関関係書類を調査したとしても、通関実務上は、通関に当たり輸出国側での譲渡証明書の提出は要求されていないから、譲渡証明書のない自動車は容易に通関可能である。また、予備検査証の取得にも、自動車の性能等に関する予備検査に合格したという意味があるに過ぎない。したがって、輸入業者が作成した譲渡証明書、通関関係書類及び予備検査証を調査しただけでは、過失がないとはいえない。
(被告の主張)
太田茂は、道路運送車両法七条、三三条に基づき、日本の輸入業者が作成した譲渡証明書(乙一三)の交付を受け、自動車通関証明書(乙六)、自動車予備検査証(乙一四)等の書類を入手し、前主の所有権についての調査義務を尽くしており、過失があるとはいえない。
8 本件自動車の価格は、八〇〇万円を下らないといえるか。また、引渡し義務遅滞による損害金を年一〇〇万円とするのが相当といえるか。
(原告の主張)
平成七年下半期の自動車保険車両標準価格表によると、メルセデスベンツ五〇〇SLの価格は、平成二年度登録のもので五六五万円から七三〇万円である。同表には、昭和六三年度、平成元年度の価格は表示されていない。
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
日本の裁判権は、その主権の一作用としてされるものであるから、裁判権の及ぶ範囲は、主権の及ぶ範囲と同一であるとするのが原則である。しかし、本件は、外国法人である原告が日本国内に居住する者を被告として、日本の裁判所に訴訟を提起し、進んで日本の裁判権に服しようとしている場合に当たるから、本件事件については、原告を日本の裁判権に服させることとするのが相当である。
被告は、本件において敗訴した場合、上訴の手続等が困難となると主張するが、民事訴訟法等の規定に照らすと、右の場合に上訴の手続等が全くできなくなるものとは考えられず、また、右の場合であっても日本の裁判所で訴訟を続行しなければならない原告に比べると、被告の方が有利であることはいうまでもないことを考慮すると、当事者の公平、裁判の適正、迅速を図るという理念からみても被告の右主張は採用できないものであるというべきである。
二 争点2について
1 まず、原告が法人として認められるかについて検討する。
法例等の諸規定に照らすと、日本の裁判所が本件のような渉外的私法関係の規整をする場合には、日本法と外国法に抵触がある限り、法例等の諸規定により、いずれの法律を準拠法として適用すべきかを定め、当該法律を適用すべきものとされていることは明らかである。したがって、事案によっては、外国法を適用すべき場合があることは明らかであるから、外国法の適用を一切排除すべきであるというような被告の主張は採用できない。
そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、ドイツ法に準拠して設立され、ドイツにその本店を置いている外国法人であることが認められる。ところで、国際私法上、法人の従属法(法人の一般的権利能力の準拠法)は、設立準拠法又は本店の住所地法を適用するものとされていることからすると、原告の属人法がドイツ法であるということになる。これによれば、原告はドイツ法によって法人格が認められ、一般的な権利能力を有する法人であることは明らかである。
2 次に、外国法人である原告に日本における訴訟能力があるかについて検討する。
民法三六条は、外国法人の認許について規定しているが、その趣旨は、外国法人が日本において法人として活動するためには法人格を承認されることが必要であるものと解することができる。
しかし、たとえ、日本で認許されていない外国法人でも、日本において活動することができないものの、外国で活動することまでは否定されないことは明らかであり、外国で活動した結果取得した権利である限り、それに基づいて権利行使をし、日本の裁判所に原告として訴訟を提起し、その代表者が出頭することは当然に許されるものといわなければならない。
すなわち、外国法人原告の日本における訴訟能力は右の限度でこれを認めることとするのが相当である。
しかも、証拠(甲二七)によれば、日本とドイツは、昭和三年四月一四日に通商航海条約を締結しており、同一三条には、相手国の会社の法人格を相互に内国において承認し、その訴訟能力を認める旨の規定が設けられているところ、右条約には最恵国条項も設けられていることが認められる。そして、右条約の後に日本とアメリカ合衆国との間で締結された通商航海条約においては、単に、相手国の会社の法人格を相互に内国において承認し、その訴訟能力を認めるにとどまらず、広範な事業活動を認めるに至っており、これによれば、アメリカ合衆国の法人は右条約により認許されているものということができる。その結果、日本とドイツとの間では右のとおり通商航海条約において最恵国条項が設けられているのであるから、ドイツの法人も右条約によって認許されているものと解することができるのである。
これによれば、ドイツ法人である原告は右条約によって認許されているから、日本においても権利能力、訴訟能力を有するものといえる。したがって、これに反する被告の主張は採用できない。
三 争点3について
1 証拠(甲二、三の各1、2、九の1、2の各1、2、一〇の1ないし4の各1、2、二〇、二一の各1、2)によれば、以下の各事実が認められる。
(一) 原告は、ドイツにおいて本件保険車両につき保険契約を締結した。
(二) シュミットは、平成三年三月二九日本件保険車両をリース会社からリースし、イタリア共和国のカルダ湖畔に本件保険車両を駐車し、休憩したが、車を離れている間に車がなくなってしまったとして、そのころイタリア共和国で被害届をし、同年五月二八日ドイツのバード・オルプ警察署で被害届を提出した。
(三) 原告は、シュミットの申立によって、本件保険車両が盗まれたものと認め、平成三年八月ころ保険金を支払い、保険証書約款に基づき本件保険車両に対する所有権を代位取得した。
(四) ドイツのフライブルグ州警察本部第二局刑事警察職員は、日本の国際刑事警察機構を通じて捜査し、本件保険車両が日本に密売され、平成五年一〇月二七日以降車台番号がWDB一二九〇六六一F―〇二一二六九と変造されたうえで日本で登録されている等と原告に報告したが、被疑者が特定されないことなどから、それ以上の捜査をしなかった。
以上の各事実が認められる。
2 右認定事実によれば、本件保険車両に関する保険契約はドイツで行われたのであるから、右契約の成立については法例七条によってドイツ法を適用すべきところ、右保険契約はドイツ法により成立したものということができる。そして、右認定事実によれば、原告は、その後、保険事故が発生したと認めて保険金を支払い、本件保険車両に対する所有権を代位取得したということができる。
この点につき、被告は、ドイツ法では物権の移転には占有移転、自動車の場合は自動車登録が要件とされるところ、本件保険車両につき原告に対し占有が移転していないし、自動車登録がされていないから、原告は本件保険車両に対する所有権がないと主張するが、原告は本件保険車両を右保険契約に基づいて前主の所有権を代位取得したものであるから、前主の所有権を援用することができることが明らかであり、甲一一によれば、前主が本件車両保険につき自動車登録をしていたことが認められる。これによれば、被告の右主張は採用できない。
なお、原告は、本件保険車両はシュミットが誰かに盗取されたものであると主張するが、証拠によって認定できる事実関係は右1のとおりであるほか、後記のとおり本件保険車両が本件自動車と同一であり、これが転転と譲渡されて被告が占有している事実に限られるのであり、それ以上に本件保険車両が盗取されたものと認めるには、シュミットがイタリア共和国のカルダ湖畔のどの位置に本件保険車両を駐車し、どこで休憩したのか、被害を受けたのは日中であるのに目撃者はいないのか、本件保険車両はその後、どのようにしてイタリア共和国から輸送されたのか、本件保険車両の所有者の被害状況等についてさらに立証すべきところ、原告はさらに立証しようとせず、全証拠に照らしても未だ右窃取事実を認めるに足りる十分な証拠はないといわなければならない。
四 争点4について
証拠(甲一〇の3の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、本件保険車両と本件自動車は、その車台番号は異なり、それが変造されたものか否かは不明であるものの、車種はメルセデスベンツであり、スポーツカーである等の点において同一であり、エンジン(モーター)番号も一一九九六〇―一二―〇〇一七一一であることも同一であること、車台番号はしばしば変造され易いものであることが認められる。
これによれば、本件保険車両と本件自動車は、他に反証がない本件では、同一のものであると認めるのが相当である。
五 争点5について
1 物権の権利変動については、法例一〇条によりその目的物の所在地により準拠法を定めるべきところ、前記のとおり本件自動車は日本に所在するのであるから、日本法を適用することとするのが相当である。
2 これによれば、道路運送車両法に基づいて自動車登録原簿に登録された自動車については、善意取得は成立しない。同法の趣旨は、自動車が登録されることによって登録原簿を自動車に対する権利の公示方法として機能させるに足りるものであるからである。
したがって、前記のとおり太田茂が本件自動車につき日本において同法に基づく登録をした後の取引関係、すなわち太田茂から株式会社ヤナセ東京中古車センター、同社からオートピアナカジマ株式会社、同社から被告への本件自動車の占有移転については、善意取得が成立する余地はない。
この点につき、被告は、自動車について輸出国の登録と日本国の登録とが併存する場合は、自動車の占有に公示力と公信力を付与すべきであると主張するのであるが、日本で登録された自動車について、それが外国においても登録されているというだけで、善意取得の適用を肯定すべきであるとすることはできない。
六 争点6について
1 証拠(甲一九の1、2、二二)によれば、本件自動車は、株式会社インターオートが平成三年五月ころ、アラブ首長国連邦国ドバイ市所在のアイデアル会社から約八〇〇ドルで購入し、船便で日本に輸送したことが認められるが、イタリア共和国からアラブ首長国連邦まで、誰が、いかなる権限で、どのような経路で輸送したのかについては証拠上明らかではない。
2 ところで、日本において未登録の自動車については、民法一九二条に基きその善意取得を認めることとするのが相当であり、その適用を排除すべき理由はない。
これに対し、原告は、ドイツのように自動車登録制度が整備され、車両証書が発行されており、輸入者がこれを調査することが容易である場合は、ドイツ国の自動車登録制度が日本の自動車登録制度と同様の公示機能を果たすのであるから、もはやその自動車について善意取得する余地はないと主張するが、諸外国の自動車登録をもって日本の自動車登録と同視することは困難であるというほかはない。しかも、前記のとおり、本件自動車は、株式会社インターオートが平成三年五月ころ、アラブ首長国連邦国ドバイ市所在のアイデアル会社から約八〇〇ドルで購入し、船便で日本に輸送したものであるが、イタリア共和国からアラブ首長国連邦まで、誰が、いかなる権限で、どのような経路で輸送したのかについては証拠上明らかではないのであるから、本件自動車が日本に到着されるまでに、自動車登録制度が整備され、車両証書が発行されており、輸入者がこれを調査することが容易であったような国を経由したものとは到底認め難い。
このように輸入自動車については、日本において登録されないものであっても、その善意取得の余地がないとする原告の主張は採用できない。
3 本件自動車が日本において登録されない状態で、アイデアル会社から株式会社インターオート、同社から有限会社仁方モータース、同社から株式会社興成自動車工業所、同社から太田茂にそれぞれ順次占有移転したことは前記のとおりであるところ、これによれば、右いずれの占有移転においても、善意取得の要件たる平穏、公然、善意、無過失が推定されるものといわなければならない。
七 争点7について
そこで、アイデアル会社から株式会社インターオート、同社から有限会社仁方モータース、同社から株式会社興成自動車工業所、同社から太田茂に本件自動車が占有移転する際に、いずれにも過失があったかにつき、検討する。
この点につき、原告は、自動車については、どこの国においても登録制度が存在し、輸入自動車については輸出国側での登録番号、車種、所有権者などが記載された譲渡証明書が存在するから、外国から自動車を輸入するときは、右譲渡証明書を調査すべきであると主張し、証拠(甲一七、一八、一九の1、2、二二)によっても右占有移転の際、株式会社インターオート、有限会社仁方モータース、株式会社興成自動車工業所及び太田茂が輸出国の譲渡証明書を調査しなかったことが認められる。
しかしながら、前記のとおり、本件自動車がイタリア共和国からアラブ首長国連邦まで、誰が、いかなる権限で、どのような経路で輸送したのかについては証拠上明らかではない。しかも、中古自動車について、どこの国においても登録制度が存在し、輸入自動車については輸出国側での登録番号、車種、所有権者などが記載された譲渡証明書が存在すると認めるに足りる証拠はない。
他方、株式会社インターオートは、平成三年五月ころ、アラブ首長国連邦国ドバイ市所在のアイデアル会社から約八〇〇ドルで購入し、船便で日本に輸送したことは前記のとおりであり、証拠(甲一七、一八、一九の1、2、二二)によれば、その後、通関手続を経由し、有限会社仁方モータースが予備検査を経由するなどし、株式会社興成自動車工業所が輸入業者が作成した譲渡証明書等を信じてこれを取得したものであることが認められる。
そして、中古の輸入自動車が外国において盗取され、その後、日本に輸入されたのかどうか、あるいは、輸出国の最終譲渡人が誰であって、その国に自動車の登録制度があり、譲渡証明書が発行されているかについて、日本の購入者がその都度、逐一調査すべきであるとするのは困難を強いるものと言わざるを得ず、相当ではないというべきである(なお、マネーロンダリングの問題は、通貨の浄化の問題であり、本件とは直接は関係ない。)。
これによれば、少なくとも太田茂が本件自動車につき輸出国の最終譲渡人の譲渡証明書を調査しなかったことに過失があると認めることはできない。
以上によれば、本件自動車は、少なくとも太田茂が善意取得し、その後被告に至るまで被告に承継取得されたものであるということができる。したがって、原告は、右のとおり善意取得が成立した時点で本件自動車に対する所有権を喪失したことになる。
八 結論
以上によれば、原告の請求はその余について判断するまでもなく理由がない。