浦和家庭裁判所 昭和56年(家)1860号 審判 1981年9月16日
申立人 小田一廣
相手方 小林文子
未成年者 小林加奈子 外一名
主文
本件申立をいずれも却下する。
理由
(申立の趣旨)
相手方は申立人に対し、昭和四九年四月九日申立人との間で東京家庭裁判所において、同裁判所昭和四八年(家イ)第七〇〇九号夫婦関係調整事件につき成立した調停に基づき、未成年者両名と申立人とを面接させよ。
(申立の実情)
一 申立人と相手方とは昭和四四年三月一日婚姻し、当事者間に未成年者両名が出生した。
二 ところで、昭和四九年四月九日東京家庭裁判所において申立人と相手方とは調停離婚し、未成年者両名の親権者をいずれも相手方と定め、同人において監護養育する旨の調停が成立した。
三 その際、相手方は申立人に対し、未成年者両名を年二回(八月と一月)浦和市○○××××番地大山和男方において面接させること、面接の具体的日時、方法については上記大山和男を通じ、当事者双方が事前に連絡して定めるものとすること、申立人は未成年者両名に面接する際には飲酒したり、暴力行為等を一切しないこと、もし、違背した時は申立人は相手方より爾後の面接を拒否されても異議がないことになる旨の調停が成立した。
四 しかるに、相手方は前記調停成立後ただ一回未成年者両名を申立人に面接させたのみで、現在に至るまで面接をさせない。
よつて、申立趣旨の審判を求める。
(当裁判所の判断)
関係戸籍、上記調停事件の調停調書謄本、当庁家庭裁判所調査官○○○○の調査報告書、参考人大山和男、申立人、相手方及び未成年者両名に対する各審問の結果を総合すれば、前記申立の実情掲記一ないし三の各事実及び昭和四九年四月九日東京家庭裁判所において申立人主張の調停が成立した後、申立人から相手方に対し同年八月頃未成年者両名に面接させるよう申立があつたこと、しかし、当時未成年者太一は重い風疹に罹患していたため、相手方から申立人に対してその旨を伝えて面接の延期を申し出たところ、申立人は右申出を了解したこと、次いで翌昭和五〇年一月頃申立人から相手方に対し同様面接の申出があつたが、この時も未成年者太一が病気で通院していたため面接が実現せず、同年四月頃漸く大山和男宅において相手方同席のもとで、未成年者両名が相手方と面接したこと、しかし、未成年者両名は申立人のこれまでの言動から申立人に親近感を抱いておらず、そのため面接が親子の愛情を醸成するという方向には進展せず、かえつて、未成年者両名は面接中、終始おどおどして落着かず、面接についての強い嫌悪感をもつに至つたこと、その後、申立人から相手方及び大山和男に対し執拗に未成年者両名との面接を求める申出が繰り返されたが、右折衝中の申立人の言動が常軌を逸していたので、相手方は、申立人を未成年者両名に面接させうる状態にはないものと判断し、これに応じなかつたこと、その後、申立人と相手方との話合いにより、昭和五三年五月頃大山宅において再度の面接が実現したこと、その際申立人は未成年者両名と穏やかに面接しようとし、小遣いとして一、〇〇〇円宛を渡そうとするなどして申立人に対する親近感を取り戻さんと努めたが、未成年者両名との意思が疎通せず、右面接後、未成年者加奈子は一週間程情緒が安定せず、学習意欲も減退し、爾後における申立人との面接に対する拒否反応を強く示したこと、未成年者太一も面接についての不安感ないし恐怖感を強くもつに至つたこと、このような事情が生じたため、相手方は爾後申立人と未成年者との面接をさせていないこと、他方、申立人も本件申立をしたものの未成年者両名が本心から会いたくないというのであれば、面接について固執する積りはないとの意向を前記○○調査官に洩らしていることが、それぞれ認められる。
上記認定の事実によれば、相手方は申立人との間で、前記調停の際、未成年者両名と面接をさせる旨合意しているのであるから、相手方は申立人と未成年者両名との面接をできるだけ円満に実現できるよう努めなければならないことはいうまでもない。しかしながら、協議、調停あるいは審判で非親権者のために形成される面接交渉権なるものは、その権利の内容をどのようにして根拠づけるかは暫らく措き、面接交渉をうける未成年者の健全な育成をはかり、その情操を高めるという目的が達成されるように行使されなければならないのであるから、親権者及び非親権者はともにそのような情況を作るように努力しなければならない。しかし、そのような努力をしても、なお、非親権者との面接が未成年者の情操を害ねると認められる事情が生じたときは、親権者はその事情が継続する間、その面接を延期し、あるいは停止することが未成年者の福祉に合致するものというべく、したがつて、かような事情が存続する間非親権者は親権者に対し未成年者の面接を求めることはできないものと解するのが相当である(もつとも、右のような事情が生じた原因が主として専ら親権者の責に帰すべき事由によつて生じた場合においては、非親権者は家庭裁判所に対し、未成年者の監護処分として適切な是正措置を求めることができる。なお、面接拒否が親権の濫用にわたり、あるいは未成年者の利益を害する場合には、親権喪失あるいは親権者変更の事由となりうることがある。)
そこで、本件についてこれをみるに、前記認定の事実と前掲証拠ならびに本件審理の経過に徴すると、相手方が未成年者と申立人の面接を二回実現させただけで、その後の面接に応じていないのは、相手方の親権行使の濫用によるものではなく、申立人との面接によつて未成年者両名の福祉が害われるおそれが多大であると判断したことによるものであり(相手方の右判断は相当と認められる。)、しかも、かような事情は現在もなお存続していると認められる(ちなみに、申立人は審問において、「東京家庭裁判所の調停の際、相手方が同裁判所の誰かに賄賂を送つた疑いがあるとか、また当裁判所についても同様の疑いがある。」と述べているのであつて、このようなことを軽々に口走る申立人が未成年者の福祉を害わずに面接できるとは到底認め難い。)。
よつて、現段階においては、申立人と未成年者両名を面接させることは相当でないと認められるので、本件申立はいずれも却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 糟谷忠男)