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浦和家庭裁判所川越支部 平成11年(少)1137号 決定 1999年10月18日

少年 M・O(昭和59.11.25生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(ぐ犯事実及びぐ犯性)

少年は、平成11年4月27日浦和家庭裁判所川越支部において保護観察の決定を受け、同年5月11日犯罪者予防更生法34条2項所定の一般遵守事項及び家出、無断外泊をしないことなど同法38条1項に基づく特別遵守事項を遵守することを誓約し、浦和保護観察所の保護観察下にあった者であるが、平成11年8月中旬ころから保護観察官の指示に従って更生保護施設に戻らず青森の不良仲間の家や野宿をして無断外泊を続け金銭に困ると万引きする生活を送っていたところ、8月末に保護され一旦連れ戻されたものの、同年9月初めに住み込み就労先を無断で抜け出し再度青森へ行き、再び8月の無断外泊時と同様の生活を送っていたものであり、もって、保護者の正当な監護に服さない性癖があり、正当な理由が無く家庭に寄りつかず、その性格及び環境に照らして、将来窃盗等の罪を犯すおそれがある。

(適用法令)

少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ

(処遇の理由)

1  本件の経緯は、以下の通りである。

少年は、小学校6年生の頃から、父親への不満を強め、平成9年4月に青森市内の中学校に入学した後は、喫煙を始め、また万引きを繰り返すようになり、夜遊び、喫煙、交遊関係などについて、規律正しく厳格な父への不満は強まっていき、平成10年の7月には父子の対立も表面化し、翌8月には、青森中央児童相談所に父から相談を持ち掛け、これに対し少年も自ら児童自立支援施設に入園することを求めるなど、父子関係を回復することが困難な状況が生じていた。

その後、少年と父は児童相談所の指導を受けていたが、少年はますます不良交友に傾倒してその刹那的な逸脱行動はエスカレートし、同年9月初めには父親が自宅に保管していた120万円を持ち出して友人と東京へ家出し、青森の児童相談所に一時保護されることになった。一時保護中の状態も良いとはいえず、無断外泊したり所内で他の児童と争いを起こすなどしている。帰宅後父は、少年との約束に従って少年を厳格に管理しようとしたが、少年はそのような規制に耐えられず、次第に無断外泊が多くなって父との軋轢を深め、平成11年3月頃に父の転勤が明らかになると、地元での交遊関係を生活の中心としていた少年は自棄になってほとんど帰宅しない状況になっていき、そのような生活の中で、万引きをして補導され、ぐ犯保護事件として家庭裁判所に送致された。しかし、父が転勤で少年の肩書住居地に転居したため、前記ぐ犯保護事件等が当庁に係属し、ここで少年は保護観察処分に付されたものである。

少年は、同年4月末に帰宅した後父と同居し、埼玉県所沢市の中学校に転校してしばらくは抑制した生活を送っていたものの、しばらくするとピアスを付けて学校に行くなどしたため自習室学習になって登校意欲を失い、また、家では喫煙や帰宅時間が遅いことで父親と衝突して家を出され、結局新しい土地になじめずもともと青森への思慕が強いことから、同年6月中旬に青森へ家出した。このため、保護観察所は、少年の父子関係が悪く所沢では登校意欲もないことから、中学3年卒業時まで協力企業(○○)への住み込み就労ができるよう準備し、少年もこれに応じ、しばらくまじめに働いていたのであるが、8月にねぶた祭り時期の外出が許されると青森へ行ったまま戻らず、ぐ犯事実及びぐ犯性で示した状況となり、本件について犯罪者予防更生法42条に基づく通告となった。

2  平成11年8月の無断外泊は、先輩の知人を頼って青森に遊びに行き、ねぶた祭りを楽しんだことから青森で暮らしたいという思いを我慢できなくなり、住み込み就労先で働く意欲を失ったことが直接の原因であるが、そのような短絡的な判断に至る背景としては、少年が小学校2年生のときに父母が離婚し母親というよりどころを失っていたが、父は仕事中心で少年とふれあう機会が余りなく、しかも目が届かない代わりに細かな決まりを作って守らせようとしたため、少年は父と十分な信頼関係を築けないまま成長したことがあると考えられる。そして、少年は、相互の規制が緩やかな不良仲間との交遊関係によりどころを求めるようになり、そのような中で、自分の問題からは逃避的で刹那的な楽しみを求め、自己中心的で規範的枠組みを軽視する性格を身につけて本件当時の状況へ発展していったものと考えられる。

以上のような少年の逸脱行動の家族的な背景については、青森の児童相談所での相談を通じてある程度少年や父にも明らかにされ、自分たちでできるだけ解決するような方向で指導されていたが、父と少年双方のかたくなな態度のため一旦衝突が起こると修復できないで児童相談所に持ち込むということを何度か繰り返すような状況でいたところ、父はその後転勤し、少年の事件もそれに伴って当庁に移送され、環境の変化と事件の処分が重なり、前件による保護観察処分もあまり効果を上げられていない。

また、審判時の少年は、将来の青森での生活に目が向いており、万引きに対する罪障感の希薄さは相変わらずで、本件の問題について内省を深め中学3年生を終えるまで所沢の父親のもとで抑制的な生活を続けられる状況にあるとは考えにくい。さらに、父の状況は、少年と正面から話し合い信頼関係を築くことが出きる状態ではなく、これまでどおり罰を科して細かく管理しようとするか、全く監護意欲を喪失し放任してしまうのではないかと心配されるものである。

このような状況及び本件の経緯に鑑みれば少年の要保護性は高く施設への収容は避けられないと考える。

もっとも、少年自身は、能力的に問題はなく、性格的な片寄も極端ではないし、非行の内容も、不良交友範囲の限定性のためか喫煙、飲酒、万引き程に止まっており、その意味で大きな逸脱はなく、前記○○での稼働実績もあることから、今後自立する訓練を積んだ上で父親のもとを離れ青森で生活することはあながち不適当な選択とはいえない。しかし、少年は規制された環境にはなじめない面が見られ、青森への思慕も強固であるから、埼玉県内あるいはその周辺地域の比較的開放的な処遇環境は適切と思われない。

3  以上を総合すると、少年については、少年院に収容し、一度十分にこれまでの生活や父との関係を振り返らせ、自分の問題点に目を向けることが出きるようにするとともに、近い将来独立できるように基礎的な生活力と規範意識を身につけさせ、基礎学力を高めるよう教育する必要がある。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 池田聡介)

〔参考1〕環境調整命令書

平成11年10月18日

浦和保護観察所長殿

浦和家庭裁判所川越支部

裁判官 池田聡介

少年の環境調整に関する措置について

少年 M・O

昭和59年11月25日生

本籍 熊本県人吉市○○町××××番地

住居 埼玉県所沢市○□×丁目×××番地×号

上記少年については、別添決定書謄本のとおり、平成11年10月18日当裁判所において初等少年院送致と決定しましたが、家庭その他の環境調整の必要がありますので、適切な措置が行われますよう、少年法24条2項及び少年審判規則39条に基づき、要請致します。

なお、少年の家庭その他の環境調査結果及び環境調整に関する当裁判所の指示事項は下記のとおりです。

第1少年の家庭その他の環境と問題点

少年は、父を立派だと思う一方で、父が生活全般を監視する事や、その規制的で寛容でない面に対し不満を持っており、これに対し父も、少年を受け容れつつ正面から意思の疎通を図ろうというより、自己の価値基準によって少年を規則で束縛する事に傾倒しがちで、当人らのみで相互の信頼関係を築くことは容易でない状態にあり、また、少年は本年3月まで青森市で生活し、父との対立を避けるようにして特定の友人と密接な関係を築いてきていたため、審判時においても中学校卒業後の生活について青森市以外は念頭にない状況にあります。

このような状況を見ると、仮退院後、父親がこれまで同様の態度で少年に接し少年との対立が深まり、仮退院後短期間のうちに少年が家出し、本件時と同様の家出生活に戻ってしまう可能性が考えられます。

その他詳細は、本件及び前件についての、別添鑑別結果通知書、当庁調査官作成の調査票の各写しを参照して下さい。

第2指示事項

父親との関係を調整すること。

少年は、仮退院後の帰住先について青森県内を強く希望すると予測されますが、少年が適切な保護環境にあるならばそのような生活も父子関係にとって有益と思われますので、可能な範囲で青森での更生保護施設や協力事業主の活用を含め帰住先を調整すること。

〔参考2〕通告書

通告書

平成11年9月22日

浦和家庭裁判所殿

浦和保護観察所長 ○○

次の者は、少年法第24条第1項第1号の保護処分により、当保護観察所において保護観察中のところ、新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので、犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。

1 氏名等

氏名・年齢 M・O(昭和59年11月25日)

本籍    熊本県人吉市○○町××××番地

住居    不定

職業    無職(中学生)

2 保護者

氏名・年齢 M・N(昭和28年9月15日)

住居    埼玉県所沢市○□×丁目×××番地×号

職業    国家公務員

3 本件保護処分

決定裁判所 浦和家庭裁判所川越支部

決定の日  平成11年4月27日

4 保護観察の経過及び成績の推移

別紙1のとおり

5 通告の理由

別紙2のとおり

6 必要とする保護処分及びその期間

少年院送致処分

7 参考事項

添付書類

(1) 質問調書(甲)写し

(2) 質問調書(乙)写し

(3) 誓約書(乙)写し

別紙1

1 本人は、平成11年4月27日、ぐ犯及び窃盗により浦和家庭裁判所川越支部において保護観察の決定を受け、同年5月11日、当庁に父親とともに出頭して所定の手続きを行い当庁の保護観察下に入った。

2 本人に対しては、一般遵守事項のほか特別遵守事項として、

(1) 規則正しい生活をしてまじめに学校に通うこと。

(2) 家出、無断外泊をしないこと。

(3) 毎月すすんで保護司を訪ね、何事も相談し指導を受けること。

を定め、その遵守について誓約させた。また同日、本人の住居地の近隣に在住の保護司を担当者として指名した。

3 5月19日、本人は、父親に伴われて、担当者を初めて訪問した。

4 同月27日、本人担当者宅を訪問。本人は、同月25日頃から中学校に登校していないこと、登校した際も、身に付けたピアスを外さないため自習室で学習していること、家庭で決めた門限を守らなかったため3日間入浴していないこと等話す。さらに、中学卒業後は青森に帰りたいこと、青森の友だちに忘れられないように夏休みには青森に旅行したいこと等、青森への思慕の気持ちを打ち明ける。

5 同月31日、父親から主任官あて、本人の生活状況(4月27日から5月31日まで)についての詳細な記録(夜間外出、喫煙、不登校、遅刻、生活態度のだらしなさ等)とともに、家庭内の指導に限界を感じており施設収容を希望する私信が届く。

6 6月11日、本人は父親と口論の末、家出。青森市内の友人宅のもとに止宿する。

7 同月16日、主任官が父親に、本人に係る捜索願いを出すこと、捜索願いを受けて○○警察署が本人を保護した時点で、父親が青森まで引き取りに行くことを説得した。

8 同月17日、父親が本人を○○警察署に出迎えに行き、当庁に出頭。父親が家庭での指導の限界を訴えたため、当面の措置として、同日、本人を更生保護施設「○○寮」に保護する。

「○○寮」での本人は、寮の規則に特に違反することなく落ち着いた様子であった。

9 一方、当庁は、家庭に落ち着かず、中学校にも適応できない本人の生活の場として、住込就労(体験学習)の可能性も含めて検討。

10 同月21日、住込就労先として調整を行った「○○(株)」のAが○○寮に本人を訪問。同会社への住込就労(体験学習)について本人の意向を聴取したところ、本人は所沢での父親との生活と学校生活に未練は無い、就労して自立のためのお金を得、中卒後は青森に行きたいと住込就労に意欲を見せる。

11 同月23日、本人は担当者に伴われ、「○○(株)」(大里郡○○町○○××所在)と同社寮の見学に行く。

12 同月25日、主任官、所沢での定期駐在で、中学校の校長及び学年主任ならびに父親と面接。これまでの経過について確認の上今後の処遇方針について協議。また、中学校に対して、住込就労中の本人との継続的な繋がりと卒業の認定について協力依頼を行った。

13 同月28日、本人は「○○(株)」寮に入寮、同日から就労開始。

14 7月27日、主任官は「○○(株)」に本人を訪問し、本人と面接。「真面目に生活している、仕事は一日も休んでいない」との本人の言葉がある。Aも、本人の同社での生活ぶりについて評価。

主任官は、本人の希望を受けて、8月4日から8日までの日程で青森に旅行することを承認する。

15 8月8日、本人は寮に帰らず、連絡を断ち、青森の友人宅に止宿、野宿を繰り返す。

16 同月29日、止宿先の友人の母親から通報を受け、○○警察署が本人を家出人として保護。

17 同月30日、当庁職員が本人を迎えに行き、更生保護施設「○○寮」に保護する。

18 9月4日、本人は再度「○○(株)」で就労することを希望し、同社寮に帰寮。同月6日工場で一日就労する。

19 同月6日夜、本人は会社の塀を乗り越え出奔。

20 同月9日青森の友人の母親から、本人が同人が不在中に同家に出入りしている旨電話連絡を受ける。

21 同日浦和家庭裁判所あて引致状請求。同日引致状発付。

22 同月10日○○警察署に引致嘱託。

23 同月22日午前1時41分○○警察署員が青森市内で本人の引致に着手し、同日午後3時35分本人を当庁に引致。

別紙2

本人は、平成11年4月27日浦和家庭裁判所川越支部において保護観察の決定を受け、同年5月11日犯罪者予防更生法第34条第2項所定の一般遵守事項及び同法第38条第1項に基づく特別遵守事項を遵守することを誓約し、浦和保護観察所の保護観下にあるが、平成11年8月初旬頃から家出を繰り返し、保護者の再三の注意をも無視して、犯罪性の強い不良仲間と交際し、自宅に寄りつかず野宿をしたり友人宅を泊まり歩いている。

もって、保護者の正当な監護に服さず、正当な理由もなく家庭に寄りつかず、犯罪性のある者と交際し、このまま放置すればその性格、行状等に照らして近い将来、生活費及び遊興費等に充てるため、窃盗等の犯罪を犯すおそれがある。

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