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浦和家庭裁判所川越支部 昭和54年(少)799号 決定 1979年7月16日

少年 N・T(昭三九・七・一九生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

昭和五四年六月八日付司法警察員作成の少年事件送致書に記載のとおりであるからここに引用する。

(法令の適用)

いずれも刑法二四九条一項、二五〇条

(処遇意見)

一、本件犯行の特異性

本件犯行は、家庭の経済事情から小遣銭に窮した少年が、テレビドラマにヒントを得て新聞等の活字印刷文字を使用して脅迫文を作成し、これを金持ちと思われる家の郵便受に投函し金員を喝取しようとし、前後六回、三軒の家にこれを実行したが、いずれも未遂に終つたというもので、その犯行態様は極めて計画的、かつ大胆、執拗で悪質なものということができる。

二、少年の家庭環境・性格等

少年は都内の小学校に通学していたが、五年のころから長欠が多くなり六年になつてもその状態が続き日増しに素直さを失い、日中家の中にとじこもり兄と二人で過すという有様で、学校側の数十回に及ぶ登校説得にも応じなかつた。

昭和五二年二月から数ヶ月間父が刑事事件を起こし留置されるに及んで父に対する不信感を強め、一方そのころ川越市に転居し進学先の中学が予期に反したところに入学させられたと理解し、友達もおらないため爾来中学3年の今日に至るまで家にとじこもつたままモデルガン等の本を読みふけり、学校側の説得に対して両親共々これに協力することなく一日も登校していない。

父は大工で東京都新島に季節労働に出かけ、母は高血圧がもとで現在半身不随という誠に気の毒な家庭であるが、少年の教育については学校側に対し全く非協力的な態度を示している。

このような家庭環境のもとで少年は長期間にわたつて閉鎖的な生活を送つてきたため精神的に不健康な状態に陥入り、非社交性な生活に起因して弱小感・抑圧感が醸成されたことは見易い道理であり、これを発散させるべく本件犯行に自然、必然的に移行したものと考えられる。

三、今後の問題点

少年にとつて何よりも必要なことは、非社交的な生活環境から解放し社会からの逃避傾向を抑えることと、初等教育が欠落しているのでこれを至急補完することであると考える。

しかし乍ら現在の生活環境ではいずれもとうてい困難であると思料され、他に適切な社会資源もない。

従つてこの際初等少年院に収容し強力な指導・教育を施すると同時に、退院の際に備えて充分な家庭環境の調整を施す必要があると考える。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 今井俊介)

別紙(犯罪事実)

被疑少年N・Tは、小遣銭欲しさに金員の喝取を企て、昭和五四年四月二五日午後五年ごろから同年六月六日午前四時一三分ごろまでの間、前後六回にわたり、別紙恐喝未遂犯罪一覧表のとおり川越市○○××番地○○○病院副院長A(四二歳)方玄関先郵便受け外二ヶ所において、同人外二名に対し、

「だんなさんの命は殺しやにねらわれている、死にたくなかつたら明日の二時までに一〇〇万円を踏切のところに置いておけ・・・・・・云々」等

との脅迫文を投かんして脅迫し、同人等を畏怖させたが、同人等が警察に届出たためにその目的を遂げなかつたものである。

恐喝未遂犯罪一覧表

番号

犯罪日時

犯罪場所

被害者

手段・方法(内容)等

昭和五四年

四月二六日

午前七時

三〇分頃

川越市○○××番地×○○○病院副院長

A(四二歳)方玄関先郵便受

同月二五日午後五時頃、上記郵便受に「だんなさんが殺し屋にねらわれている、死にたくなかつたら明日の二時までに一〇〇万円を跳切のところに置いとけ……云云」との脅迫文を投函して同人を畏怖させ、現金を喝取せんとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかった。

昭和五四年

五月一日

午後六時頃

右同

右同

四月三〇日午後五時頃、上記郵便受に「だんなの命はあと一日しかない、死にたくなかつたら明日の二時までに一〇〇万円を踏切のところに置いとけ……云云」との脅迫文を投函して同人を畏怖させ現金を喝取せんとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかつた。

昭和五四年

五月一〇日

午後五時

五五分頃

川越市○○×番地×会社員

B(三八歳)方玄関先郵便受

同月一〇日午後零時頃、上記郵便受に「あなたの家の子供を殺す、殺されたくなかつたら明日の三時までに一五〇万円を東上線の踏切のところに置いとけ……云云」との脅迫文を投函して同人を畏怖させ、現金を喝取せんとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかつた。

昭和五四年

五月一三日

午後三時頃

右同

右同

同月一三日午後二時頃、上記郵便受に「なんで金を置いとかなかつたこのことをいたずらだと思つていると子供が死ぬ。これが最後だ明日の三時まで一五〇万円を東上線の踏切まで……云云」との脅迫文を投函して同人を畏怖させ、現金を喝取せんとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかつた。

昭和五四年

六月二日

午後七時

三〇分

川越市○○町××番地×

酒造業

C(五〇歳)方玄関ブロック塀郵便受

同月二日午前四時三〇分頃、上記郵便受に「だんなさんが殺しやにねらわれているだんなの命はこのおれがにぎつている、明日の三時までに一七〇万円を道の前へ……云云」との脅迫文を投函して同人を畏怖させ、現金を喝取せんとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかつた。

昭和五四年

六月六日

前前四時

一五分頃

右同

右同

同月六日午前四時一四分頃、上記郵便受に「なんで金を置いとかなかつた、いたずらと思うな、今度金が置いてなかつたら殺す、明日の三時一七〇万円を○○会館のところへ置いとけ……云云」との脅迫文を投函して同人を畏怖させ、現金を喝取せんとしたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかつた。

少年の家庭環境の調整に関する件

浦和保護観察所長 殿

昭和五四年七月一六日

浦和家庭裁判所川越支部

裁判官 今井俊介

本籍 福島県会津若松市○町×××番地

住所 埼玉県川越市○○町××-××

少年 N・T

昭和三九年七月一九日生

上記少年は別添決定騰本のとおり、昭和五四年七月一六日当庁において初等少年院送致決定を受けた者であるが、少年の更生にとつて少年院における矯正教育に引き続くべき在宅処遇段階が重要な意味を持つことになると思料されますので、この在宅処遇が成功裡になされることを保障する条件を早期に準備すべく少年の家庭環境の調整に関し下記のとおりの措置を行なわれるよう、少年法第二四条第二項、少年審判規則第三九条に則り要請致します。

(1) 本件少年の場合、家庭内に閉じ込められるような形で身体障害のある母の代り、あるいは手足として家事に従事していたが、母の病弱が大きな負担となつていた。少年が仮退院して帰宅した場合、同じ状態に陥らないよう保護者の意識(あるいは依存心)を変えておく必要があり且つ、少年らを必要としないような生活状態を確立する必要がある。幸い、父も親と子が話し合える雰囲気づくりをする意向を示しているので、母への援助の道をさぐりながら、気持ちを和らげ安定した家庭生活状態にされたい。

(2) 本件は新聞に報道されたうえ近隣に知れており、少年の現住所地への帰住には強い抵抗があるかと思われる。父も同所に長く居るつもりはないとの意向をもらしており、転居など環境を変えることにも大きな意味があろう。今までの経過では保護者の公的機関との係わりにおいて意欲を失うことがあつたので、今後じつくり保護者の意向を聴き、その手続など良き相談相手となつていただきたい。

尚、本職宛の調査官からの調査報告書を十分参照して下さい。

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