浦和家庭裁判所熊谷支部 昭和54年(少)1864号 決定 1979年12月16日
少年 M・D(昭和三七・五・五生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
第一 自動二輪車(○○ま××××号)を所有し、反覆継続してこれを運転していたものであるが、昭和五四年六月八日午後三時四五分ころ、時速約二〇キロメートルで同車を運転し、○○町方面から児玉郡○×町大字○○××番地の×付近道路(トンネルの出口)にさしかかつたところ、前方約三〇メートルの道路中央付近に自己の車両を停止させようとして、赤旗を振つている制服を着た○○○○巡査(二一歳)を認めたのであるから、自車を同巡査と接触させることのないようハンドル・ブレーキを的確に操作すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、無免許運転等の法令違反の発覚をおそれる余り、逃走をくわだて、同巡査に約九メートルに接近した地点で急に加速した過失により、ハンドル操作の自由を失つて、同巡査をよけきれず、自車を同巡査に衝突させて路上に転倒させ、よつて同巡査に対し、全治一四六日を要する右膝蓋骨骨折等の傷害を負わせた
第二、前記日時場所において、
(一) 公安委員会の運転免許を受けないで、
(二) 運輸大臣の委任を受けた埼玉県知事の行う検査を受けない
(三) 自動車損害賠償責任保険契約が締結されていない
(四) 消音器の装置が道路運送車両法及びこれに基づく命令の規定に定めるところに適合しないため他人に迷惑を及ぼすおそれがある
前記車両を運転し、又は運行の用に供した
第三 昭和五四年一二月九日午前三時二分から四分ころまでの間、普通乗用自動車を運転して、いずれも道路標識により一時停止すべきことが指定されている
一 本庄市○○×丁目×番××号先の
二 同市○○×丁目×番××号先の
三 同市○○×丁目×番×号先の
各交差点に進入するに際し、各停止位置で一時停止しなかつた
第四 前記車両を運転し、
一 前同日午前三時六分ころ本庄市○○×丁目×番××号先道路
二 同三時一〇分ころ同市大字○○××番地先道路
を同所にそれぞれ設置された信号機の表示する赤色灯火信号に従わないで通行した
第五 前同日午前三時一五分ころ、同市大字○○××番地×先路上において、
(一) 公安委員会の運転免許を受けないで、かつ
(二) 酒に酔いその影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、前記車両を運転したものである。
(法令の適用)
第一 刑法二一一条前段
第二の(一)、第五の(一)、各道路交通法六四条、一一八条一項一号
第二の(二) 道路運送車両法五八条一項、一〇八条一号
第二の(三) 自動車損害賠償保障法五条、八七条一号
第二の(四) 道路交通法六二条、一一九条一項五号
第三 各同法四条一項、四三条、一一九条一項二号
第四 各同法七条、一一九条一項一号の二
第五の(二) 同法六五条一項、一一七条の二第一号
(要保護性について)
少年は、四歳ころ母と父が相次いで家出してしまつたため、親族に預けられたが、間もなく養護施設○×学園に入園させられ、昭和五三年三月中学卒業まで同園で成育した。小学時代はスポーツをよくし、明るい子供であつたが、中学二年頃喫煙や飲酒で注意を受け、中学三年になると無断外泊をしたり、大人の言うことを聴かなくなり、目立つた髪形や服装をするようになつた。
中学卒業後昭和五三年一一月ころから一時(三か月間位)東京でホステスをしている母方に引きとられて、そこから勤めに出たこともあつたが、母との関係もうまくゆかず、仕事にも身が入らない状態で、間もなく同所を飛び出し、友達のいる○×町又は本庄市に戻つてきて、友達の家を泊り歩くようになつた。(この間働いていたこともあるが永続きしなかつた。)その間、友達と飲酒してささいなことからけんかして受傷したり(入院一か月)友達から車検切れ、無保険のオートバイを買つて無免許で乗りまわし、別の友達に運転させて同乗中に事故で自分も受傷したり(右違反で家裁に送致され審判不開始となる。)するうち本件第二の違反をし、警察官に停止を命ぜられて、逃げようとして第一の事故を起し、自らも受傷している。
このように、無軌道な生活の中で何回もけがをし苦痛を味わいながら、一向に行動が改まらないところに、少年の特徴があり、心情の不安定さがうかがわれるように思われる。
本件第三ないし第五の違反は、友達と飲酒し、酩酊したあげく自動車を運転し、警察官に見つかり逃げ回つたものである。
少年の母は、第一の事故の弁償のために極めて多額の負担をしていることもあり、少年を引き取る自信も、又意欲もないようで、外に頼りになる親族も見当らない。
少年の気の毒な境遇とその心情を考える時、少年の更生にとつては母親あるいは他の信頼できる人との温かいきずなが不可欠と思われるが、さしあたつては有効な方法もないので、当面短期の施設収容による教育によつて深い反省をする機会を持たせ、安定した再出発をすべく指導する必要がある。(また、出院後の環境の調整には特別な配慮を要する。)
よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項に則り、中等少年院(一般短期課程)に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 虎井寧夫)
少年の環境調整に関する件
少年 M・D 昭和三七年五月五日生
本籍 埼玉県浦和市○○×丁目××番地
住居 不定(実母M・Y子の住居 東京都江東区○○×丁目××番××号○○レヂデンス××号)
右少年は、昭和五四年一二月二六日、当裁判所において業務上過失傷害等保護事件(昭和五四年少第一八六四号、第一二四七三号)につき中等少年院(一般短期課程)に送致したものであるが、同少年は、幼少の頃から県立養護施設○×学園で成育してきたため、現在実母M・Y子との接触はあるものの通常の母と子の心の通い合いはなく、他に頼れる親族もないため、心の寄り所を中学時代の友達との交友に求め、オートバイ等を用いた無軌道な遊びにせめてもの慰めを感じている状態である。
そこで、少年の更生の為には、実母との心の通い合いを少しでも回復させること、又適切な雇主を見つけて温かい人間関係を伴つた雇用関係を作り出すことが最少限必要と考えられる。
従つて、少年法二四条二項に則り、右趣旨に添つた環境調整に関する措置を取られることを要請します。
東京保護観察所長殿
昭和五五年一月一二日
浦和家庭裁判所熊谷支部
裁判官 虎井寧夫