熊本地方裁判所 平成10年(ワ)209号 判決 1999年8月30日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金二二二七万四四二〇円及びこれに対する平成九年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が債権額二五八〇万円の抵当権設定登記の申請手続をしたところ、登記官の過誤により、債権額を「二五八〇円」とする抵当権設定登記が経由されてしまったことについて、原告が被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき損害賠償を求めた事実である。
一 争いのない事実等
1 原告は、平成七年四月二日、訴外A(以下「訴外A」という。)及び同B(以下「訴外B」という。)に対し、両名を連帯債務者として、次の約定で住宅建築資金二五八〇万円を貸し付けた(以下「本件貸金」という。)。
返済期限 平成三二年四月一日
返済方法 元利均等割賦償還により毎月一日限り、平成七年五月から平成一二年四月まで金九万七二七一円、同年五月から平成三二年四月まで金一五万九五七六円(計三〇〇回)を支払う。
利息 年四・三五パーセント
遅延損害金 年一四・五パーセント
特約 六か月以上毎回の元利金の返済を怠り、原告から返済請求を受けたときは期限の利益を喪失する。
(甲一)
2 右同日、右貸金債権を担保するため、訴外Bはその所有する別紙物件目録<略>一の土地(以下「本件土地」という。)について、訴外Aはその所有する同目録<略>二の建物(以下「本件建物」という。なお、本件土地及び本件建物を併せて、以下「本件土地建物」という。)について、それぞれ原告との間で抵当権設定契約を締結した(以下、この契約により原告が取得した抵当権を「本件抵当権」という。)。
(甲一から三まで)
3 平成七年四月三日、原告は、右抵当権設定契約に基づき、宮崎地方法務局延岡支局登記官に対し、債権額を金二五八〇万円とした抵当権設定登記申請手続をした。
ところが、右登記官は、債権額以外の記載事項については右申請どおりの登記をしたものの、債権額については、誤って金二五八〇円とした抵当権設定登記(以下「本件過誤登記」という。)を本件土地建物について経由した。
4 訴外A及び訴外Bは、平成八年九月分以降六か月分の割賦返済金の支払を怠ったため、原告は、右両名に対し、平成九年五月二四日到達の書面で同年六月一三日までに本件貸金の残金等を支払うよう催告し、もって期限の利益を失った。
(甲五から八まで)
5 平成一一年六月二日時点での本件貸金の残額は、合計金三四〇六万一五二七円(残元本二五七三万八三九七円、利息九六万九一〇九円、損害金七三五万四〇二一円)である。
また、平成一〇年一二月ころの本件土地建物の時価は、約二〇〇〇万円である。
(甲一二、一五)
二 争点
本件過誤登記が経由されたことによる原告の損害の有無及び損害額
1 原告の主張
(一) 本件土地建物については、本件過誤登記後、訴外C(以下「訴外C」という。)に対する所有権移転登記が経由されるなど既に登記上利害関係を有する第三者が現れていることから、本件過誤登記によっては、原告は、本件抵当権について二五八〇円分の優先権しか主張することができない。
(二) 訴外A及び訴外Bに対する返済猶予期限である平成九年六月一三日経過時点における本件土地建物の価格は、合計で金二〇二七万七〇〇〇円(本件土地について八二五万八〇〇〇円、本件建物について一二〇一万九〇〇〇円)を下回ることはなく、かつ、右時点において、原告は、本件貸金について右価格を上回る残債権を有していた。
したがって、右価格から金二五八〇円を控除した額及び本訴弁護士費用として相当と認められるべき金二〇〇万円の合計金二二二七万四四二〇円が、本件過誤登記により原告が被った損害ということになる。
(三) なお、被告の主張のうち、更正登記が可能であるから原告主張の損害はないとする主張については、本件抵当権については、登記された債権額二五八〇円の範囲でしか第三者対抗力が認められないから、更正登記が可能であるとする前提を欠くというべきである。
また、訴外Cに対する詐害行為取消訴訟や債権者代位訴訟の提起等によって本件貸金についていくらかの回収が可能であるとする被告の主張については、非現実的であり、仮に実現可能性があるとしても、本件過誤登記について何ら責任のない原告にそのような負担を強いるのは、信義則違反というべきである。
さらに、過失相殺の主張についても、そもそも本件過誤登記が登記官の重大な落ち度によって生じた信じ難いものであることを考えれば、失当であることは明らかである。
2 被告の主張
(一) 本件過誤登記を真実の登記に更正するについて登記上利害関係を有する第三者(訴外Cら)は、いずれも、本件抵当権の真実の債権額が金二五八〇万円であることを知っており、右更正登記によって不測の損害を被ることはない。そうすると、最高裁昭和三六年六月一六日第二小法廷判決・民集一五巻六号一五九二頁(以下「昭和三六年最判」という。)の趣旨に照らし、右第三者らは右更正登記について承諾する義務があるというべきであるから、本件過誤登記によって原告主張の損害が生じたということにはならない。
(二) 仮に、原告主張の損害が生じたといえるとしても、次の事情を考慮し、相当額を原告主張の損害額から控除すべきである。
(1) 本件土地建物については、本件過誤登記後、訴外Cに対して所有権移転登記が経由されているが、右登記の原因となった売買は、原告等訴外A及び訴外Bの一般債権者に対する詐害行為であるということができる。したがって、原告は、右移転登記について詐害行為取消権を行使し、本件土地建物の所有名義を訴外A及び訴外Bに戻した上、抵当権による競売又は一般債権による強制競売をすることにより、本件貸金について相当額を回収することができる。
(2) 本件土地建物についての訴外Cへの右所有権移転登記については、仮登記担保契約に関する法律が適用されると解すべきである。そうすると、同法二条の通知がなければ、なお所有権は訴外A及び訴外Bにあるということができるから、右(1)と同様の方法により、原告は相当額を回収することができる。
また、仮に同条の通知がされ、その後二か月が経過していたとしても、訴外Cは、同法三条一項に基づき精算金支払義務を負うことになるから、原告は、訴外A及び訴外Bに代位して、右清算金支払請求権を行使することによって、やはり相当額を回収することができる。
(3) 原告は、訴外Aに対する弁済請求によって、本件貸金を回収する可能性もある。
(4) さらに、原告は、住宅金融を主たる業務とする金融機関であり、抵当権の取得に極めて通暁しているにもかかわらず、本件抵当権設定契約に基づく登記申請をした後一年以上の間、何ら登記簿謄本を確認せず、本件過誤登記を職権により更正する可能性を失わせたものである。しかも、原告は公的金融機関であるから、右確認義務は一般の者に比して高いというべきである。
したがって、このような事情を過失相殺事由としてしんしゃくし、原告の損害額を算定すべきである。
第三 当裁判所の判断
一 <証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、前記第二、一認定の事実に加え、次の事実を認めることができる。
1 原告は、「国民大衆が健康で文化的な生活を営むに足る住宅の建設及び購入(住宅の用に供する土地又は借地権の取得及び土地の造成を含む。)に必要な資金で、銀行その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通すること」等を目的として設立された公法上の法人であり(住宅金融公庫法一条、三条)、政府がその全額を出資するものとされている(同法五条一項)。
2 訴外Aは、平成七年三月一〇日、本件土地上に本件建物を新築し、同月二二日、本件建物について所有権保存登記を経由した。本件貸金は、右本件建物新築資金として貸し付けられたものである。
3 本件貸金に係る業務(本件抵当権設定契約に係る業務を含む。)については、原告は、延岡信用金庫に委託しており、本件抵当権の登記申請手続も、同信用金庫が行った。すなわち、原告は、同信用金庫が委任した司法書士を代理人として、平成七年四月三日、宮崎地方法務局延岡支局登記官に対し、本件抵当権について抵当権設定登記を申請し、同支局同日第四三〇四号受付の本件過誤登記が経由された。この登記の「権利者その他の事項」欄には、次のような記載がある。
債権額 金二五八〇円
利息 年四・三五パーセント(ただし、月割計算。月末満の期間は、年三六五日の日割計算)
損害金 年一四・五パーセント(年三六五日の日割計算)
連帯債務者 A B
抵当権者 住宅金融公庫(取扱店 延岡信用金庫)
4 本件過誤登記経由時点で、本件土地については、延岡信用金庫を権利者とし、訴外Aを債務者とする極度額金五〇〇万円の根抵当権設定登記が経由されていた。しかし、右根抵当権設定登記については、平成七年四月三日合意を原因とし、同日第四三〇五号受付の順位変更登記によって、本件過誤登記との間で順位が変更された。その結果、本件過誤登記が順位一番、右根抵当権設定登記が順位二番ということになった。
5 平成七年六月一五日、延岡信用金庫は、本件建物について、訴外Aを債務者とし、極度額を金五〇〇万円とする順位二番の根抵当権設定登記を経由した。
6 平成八年七月五日、本件建物について、訴外Cが、自己を権利者とし、訴外Aを債務者、極度額を金六〇〇万円とする根抵当権設定登記を経由した。右極度額については、同年一〇月二九日に金一一〇〇万円に変更する旨の登記が経由された。
7 さらに、平成八年一〇月三一日、訴外Cは、本件土地建物について、同年七月三日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由し、平成九年一月二八日、同月二〇日売買を原因として右仮登記に基づく本登記を経由した。
8 なお、本件建物については、平成八年五月一六日、訴外株式会社ジャックス申立てに係る強制競売開始決定に基づく差押登記がされたが、この登記は、同年一〇月二五日、右申立ての取下げを原因として抹消された。また、同年八月一二日には、宮崎県を債権者とする滞納処分による差押登記も経由されたが、この登記は、平成九年四月二四日、同日差押解除を原因として抹消された。
9 平成九年六月ころに訴外Bが、同年八月ころに訴外Aが、それぞれ支払不能を理由として弁護士に破産申立て手続を委任した。このため、右委任を受けた弁護士は、右両名の債権者に対し、破産申立て準備中である旨などを記載した受任通知書を送付した。この受任通知書には、訴外Aについて、債権者一六名、債務総額約三三〇〇万円、毎月の返済額合計が約五九万円であること、訴外Bについて、債権者一七件、債務総額約四七六万円、毎月の返済額合計が約三一万円であることが、それぞれ記載されている。
その後、訴外Bについては、平成一〇年八月二四日午前一〇時に破産宣告(同時廃止)がされ、平成一一年二月一五日、免責決定が出されたが、訴外Aについては、右弁護士との連絡が付かなくなったことから、平成一〇年九月、右弁護士が辞任し、結局、訴外Aについて破産申立てはされていない。
10 平成一〇年六月二日、被告指定代理人三名が訴外Aと面談した。その際、訴外Aは、訴外Cとは一五年くらいの付き合いであること、平成八年七月五日に極度額金六〇〇万円の根抵当権設定登記をした時点では、同人から新たに二〇〇万を借り入れ、借入総額が合計四〇〇万円になっていたこと、その後三〇〇万円を借り増ししたため、右極度額を一一〇〇万円に変更したこと、これらの債務を返済することができなくなったため、本件土地建物を訴外Cに譲渡し、代わりに同人から「今後一切請求しない」旨の文書を受け取ったことなどを供述した。
11 なお、原告は、訴外Cに対し、本件過誤登記を更正することについての承諾を求める訴えを当審口頭弁論終結時点で提起していない。
二 本件過誤登記を更正し得る可能性について
1 以上認定の事実によれば、本件過誤登記の債権額を金二五八〇万円に更正するためには、登記官の職権によることはできず、登記上利害関係を有する第三者である延岡信用金庫及び訴外C両名の承諾が必要となると解される。
2 ところで、いったん有効にされた登記が不法に抹消された場合については、対抗力が消滅していないことを理由として、登記上利害関係を有する第三者が抹消回復登記手続に必要な承諾を拒むことはできないとするのが大審院以来の確定した判例である(大審院大正一二年七月七日連合部判決・民集二巻四四八頁(以下「大正一二年大判」という。)、昭和三六年最判等)。さらに、本来対抗力がない仮登記が不法に抹消された場合の回復登記手続についても、本登記の場合に準じて、第三者に承諾義務があるものとされている(最高裁昭和四三年一二月四日大法廷判決・民集二二巻一三号二八五五頁。以下「昭和四三年最判」という。)。そして、この昭和四三年最判は、「第三者の善意悪意、回復登記により受ける損害の有無、程度」は承諾義務の存否の判断を左右しないとも判示している。
他方、大審院大正一四年一二月二一日判決・民集四巻七二三頁(以下「大正一四年大判」という。)は、債権額が金二万八四〇七円の抵当権設定契約を締結し、そのとおりの抵当権設定登記申請手続をしたにもかかわらず、登記官の過誤により、債権額が「八四〇七円」と登記された場合について、その登記中に利息に関する事項として、元金二万円に対しては年九分、元金八四〇七円に対しては年六分との記載がされていたことを根拠に、右債権額の登記は「二万八四〇七円」の誤記であることが明らかであるとして、同額について抵当権を第三者に対抗することができる旨判示しつつ、それと同時に、後順位抵当権者が債権額を更正されても不測の損害を被ることはないことも指摘した上で、本来の債権額に登記を更正することについて登記上利害関係を有する第三者の承諾義務を認めている。
3 原告は、大正一四年大判は債権額が金二万八四〇七円であるとの記載があるとみられる事案について、右同額についての対抗力があるという前提での判断であり、本来の債権額である金二五八〇万円の記載があるとはいえない本件とは事案を異にする旨主張する。たしかに、大正一四年大判はそのように理解される余地がないではないが、仮に対抗力があることを前提としたものとすれば、第三者の善意悪意等は問題となることはなく、不測の損害の有無について言及する必要性はなかったものということができる。このことは、大正一四年大判以前に出された大正一二年大判において既に明らかにされているところであり、その後、昭和三六年最判、昭和四三年最判等でも改めて確認されていることでもある。
そうすると、大正一四年大判があえて第三者の不測の損害の有無に言及したことについては、単なる補足理由として判示したというのではなく、結論を導く上でそれを重要な実質的根拠としたものと解する余地があるといえる。そして、このことは、昭和三六年最判や昭和四三年最判によって大正一四年大判が変更ないし修正されたとは理解されていないことによっても、根拠付けることが可能であるといえる。
4 これを実質論で見ても、有効な登記が不法に抹消されたという場合、抹消登記自体は一般に行われているところであるから、第三者がその抹消が不法にされたものと気付くことは容易でないことが多いといえる。したがって、第三者をより保護すべきであるという見解も十分あり得るところであるにもかかわらず、第三者の善意悪意、損害の有無、程度にかかわらず、回復登記手続について第三者の承諾義務が認められているのである。他方、更正登記の場合においては、登記簿上過誤であることが明白である場合であっても、第三者の善意悪意等を一切問わず(もっとも、背信的悪意者と評価される場合は除かれ得るであろう。)、第三者が保護されるとするのは、権衡を失する面があるというべきである。
5 そうすると、更正登記をするについて登記上利害関係を有する第三者が存在する場合において、登記簿上の記載から誤記であることが明らかであり、第三者が更正登記によって不測の損害を被ることがないときは、右第三者に更正登記手続について承諾する義務があると解する余地が少なからず存在するといえる。少なくとも、この考え方を否定するような最高裁判所又は大審院や髙等裁判所の判例、裁判例はない。
なお、原告が引用する前橋地方裁判所桐生支部昭和四一年一月三一日判決・判例時報四四三号五一頁については、そもそも地方裁判所の判決であり、法律上特段の意味を持たないものである(上告受理申立て理由について定めた民事訴訟法三一八条一項、許可抗告理由について定めた同法三三七条二項参照)上、事案としても、昭和三八年八月に締結された設定契約に基づく信用金庫を権利者とする根抵当権設定登記の極度額が金六〇万円とされているのを、金六〇〇万円に更正することについての承諾請求訴訟であり、登記簿上の記載から誤記であることが必ずしも明確ではないものであって、右の見解と抵触するものではない。また、福岡高裁昭和三七年一〇月一三日判決・訟務月報九巻一号七頁については、およそ何らの登記も行われなかったという事案であり、更正登記の余地はなく、また、登記簿からそのような過誤があることを認識することも不可能なものであって、本件と事案を異にすることが明らかである。
6 以上説示したところを前提として、本件過誤登記を更正し得る可能性について検討する。
前記認定のとおり、本件過誤登記の抵当権者は、主として住宅建築資金等を融資するために政府が出資して設立された公法上の法人である原告であり、原告の右目的については、公知の事実であるといえるところ、本件過誤登記の債権額である金二五八〇円は、右のような原告の債権額としてはおよそあり得ないものというべきであり、登記簿上、抵当権者として「住宅金融公庫」と記載されていることなども併せ考慮すれば、右債権額の記載は、金二五八〇万円の誤記であることが明白であると評価することが十分可能である。
そして、延岡信用金庫については、本件貸金に係る業務について原告から業務委託を受けていたことなどの原告との関係や、本件土地について順位一番の根抵当権設定登記を有していたのに、本件過誤登記と同時に順位変更に合意し、原告の本件抵当権の登記を順位一番のものとしていることなど前記認定の事実に照らせば、本件過誤登記を更正するについては任意に承諾することが十分考えられる上、仮に任意に承諾しなかったとしても、前記認定の事実によれば、同信用金庫が本件過誤登記の債権額を更正することにより不測の損害を被ることはないと認めることができる。
また、訴外Cについては、前記認定の登記の経緯、訴外Aの供述内容等に照らせば、右不測の損害を被ることはないと認められる可能性が高いといえる。
7 以上によれば、原告が、本件過誤登記を更正するため、登記上利害関係を有する第三者に承諾請求をすれば、任意に又は裁判によって、その承諾を得ることのできる見込み、すなわち、本件過誤登記の債権額を金二五八〇万円と更正し得る見込みが、少なからず存在するということができる。
三 原告主張の損害の有無について
1 そこで、原告に、本件過誤登記により本件抵当権が侵害され、本件土地建物の時価から金二五八〇円を控除した額についての損害が生じたと認められるかについて検討する。
2 前述のとおり、本件過誤登記の債権額を更正し得る見込みが少なからず存在するところ、原告がそのような手続を採らないことの合理的な理由又は採ることのできない事情については、何ら主張立証がされていない。
もとより、本件過誤登記の責任は登記官すなわち国にあり、原告がその責任を負担しなければならないものではないのが原則ではある。しかし、延岡信用金庫から更正登記手続の承諾を得ることが困難であるような事情はうかがえず、また、訴外Cについては、右承諾を得るためには訴訟の提起が必要になると予想されるものの、原告の能力や規模等に照らし、訴外Cに対する更正登記承諾請求訴訟の提起が不可能ないし著しく困難であるとは認められない上、仮にいったん訴えを提起すれば、国が原告に補助参加してその後の訴訟追行を実質的に行うことも可能であり、また、右提訴に伴う費用は別途本件過誤登記による損害として賠償されるべきものと考えられる。一方、原告が右訴訟を提起しなければ、被告としては、本件過誤登記を更正する道が事実上閉ざされることとなり、ひいて、訴外Cが本件土地建物について不当に利得する結果となりかねない。
こうした事情を総合すれば、原告に右訴訟を提起させることが原告に不当な負担を課するものとまでいうことはできない。
3 以上説示した事情を総合考慮すれば、結局、本件過誤登記を更正し得る見込みが少なからず存在する現段階においては、本件過誤登記により本件抵当権が侵害され原告が主張する前記第二、二1摘示の損害が生じたとする点について必要な立証があったということはできず、また、原告は、右以外に本件過誤登記による損害の主張をしていない。
四 よって、原告の請求は理由がない。
(裁判官 伊藤正晴)
(別紙)物件目録<略>