熊本地方裁判所 平成14年(行ウ)4号 判決 2003年11月28日
原告
A株式会社
同代表者代表取締役
甲
同訴訟代理人弁護士
内田光也
被告
熊本西税務署長 小堤大輔
同指定代理人
井上昭宏
上野英二
下池明
福永一郎
豊田勝巳
栁田敏之
栗原正明
山内悟司
中野和徳
山口智幸
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が、原告に対し、いずれも平成11年7月2日付けでした次の各処分を取り消す。
ア 原告の平成8年6月1日から平成9年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)以降の法人税の青色申告の承認の取消処分
イ 原告の平成8年6月1日から平成9年5月31日までの課税期間(以下「9年5月期」のようにいう。)に係る消費税の更正処分のうち納付すべき税額147万3600円を超える部分及び地方消費税の更正処分並びにこれらに対応する過少申告加算税の賦課決定
ウ 原告の平成9年6月1日から平成10年5月31日までの課税期間(10年5月期)に係る消費税の更正処分のうち納付すべき税額346万4000円を超える部分及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき税額73万3100円を超える部分並びにこれらに対応する過少申告加算税の賦課決定
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2当事者の主張
1 請求原因(訴状2頁)
(1) 原告は、建築・土木工事の設計・監理・施工等を業とする株式会社であり、青色申告者であった。
(2) 確定申告書の提出
ア 原告は、本件事業年度の法人税について青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
イ また、原告は、別紙1「確定申告」欄記載のとおり、9年5月期の消費税について、課税標準額を8億6817万円、控除税額を2490万9667円、納付すべき税額を147万3600円と、また同課税期間の地方消費税について課税標準となる額をマイナス215万6063円、納付すべき税額をマイナス53万9015円と、各々記載した確定申告書を法定申告期限までに提出し、この申告に係る消費税等を法定の納期までに納付した。
ウ また、原告は、別紙1「確定申告」欄記載のとおり、10年5月期の消費税について、課税標準額を7億1744万2000円、控除税額を2502万3770円、納付すべき税額を346万4000円と、また同課税期間の地方消費税について課税標準となる額を293万2500円、納付すべき税額を73万3100円と、各々記載した確定申告書を法定申告期限までに提出し、この申告に係る消費税等を法定の納期までに納付した(なお、以下、9年5月期及び10年5月期を併せて「本件各年度」といい、消費税及び地方消費税を「消費税等」ともいう。)。
(3) 原処分
ア 被告は、原告に対し、平成11年7月2日付けをもって、本件事業年度以降の法人税の青色申告承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をなした。
イ また、被告は、原告に対し平成11年7月2日付けをもって、別紙1「更正処分等」欄記載のとおり、9年5月期に係る消費税について、課税標準額を8億6817万円、納付すべき税額を2638万3200円とし、同課税期間に係る地方消費税について課税標準となる額を135万2600円、納付すべき税額を33万8150円とする、それぞれの更正処分をなし、更に加算税額を382万円とする過少申告加算税の賦課決定をした。
ウ また、被告は、原告に対し、平成11年7月2日付けをもって、別紙1「更正処分等」欄記載のとおり、10年5月期に係る消費税について課税標準額を7億1744万2000円、納付すべき税額を2848万7800円とし、同課税期間に係る地方消費税について課税標準となる額を2785万8100円、納付すべき税額を696万4500円とする、それぞれの更正処分をなし、更に加算税額を447万7500円とする過少申告加算税の賦課決定をした(なお、以下、本件各年度についての消費税等の更正処分を「本件各更正処分」といい、本件各年度の過少申告加算税の賦課決定を「本件各賦課決定」という。また、本件各更正処分及び本件各賦課決定を併せて「本件各課税処分」といい、本件青色取消処分と本件各課税処分を併せて「本件各処分」という。)。
(4) 原告は、被告に対し平成11年8月30日、本件青色取消処分及び本件各更正処分について異議申立てをしたところ、被告は、同年11月24日付けで上記異議申立てを棄却した。
そこで、原告は、同年12月22日、国税不服審判所長に対し、異議決定を経た本件青色取消処分及び本件各更正処分並びに異議決定を経ていない本件各賦課決定について審査請求をした。これに対し、国税不服審判所長は、平成13年12月17日付けで上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行い(以下「本件裁決」という。)、本件裁決書謄本は同月26日に原告に送達された。
(5) 本件各処分に至る税務調査(以下「本件調査」という。)の経緯における被告の一連の行為は、違法又は不当なものであり、本件各処分については、被告から本件調査の事前通知はなく調査理由の開示もなかったこと、被告側の種々の国家公務員法等違反の行為、被告から本件各年度に係る帳簿及び請求書等の適法な提示の要請はなかったこと、原告は帳簿及び請求書等の提示を拒否したものではなく、提示に応じられなかったのには正当の理由又はやむを得ない事情があったこと、被告は原告の帳簿及び請求書等を確認していること、原告は帳簿等を保存していたこと等から、違法又は不当なものである。(訴状11頁、準備書面(1)1頁)
更に、本件各処分は、いずれも権利濫用または信義則違反として許されない違法なものであるから取消しを免れない。(最終準備書面19頁)
(6) よって、原告は、前記第1の1のとおり、本件各処分の取消しを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は認める。
ただし、原告は、9年5月期以降は、本件青色取消処分により白色申告者である(甲1)。(答弁書2頁)
(2) 請求原因(2)、(3)はいずれも認める。
(3) 請求原因(4)は認める。
ただし、異議申立てが行われたのは、「平成11年8月30日」ではなく、「平成11年8月31日」が正しい。また、本件裁決謄本が原告に送達されたのは、「平成13年12月26日」ではなく、「平成13年12月27日」が正しい。(答弁書2頁)
(4) 請求原因(5)は否認ないし争う。
3 被告の主張
(1) 本件調査の経緯(答弁書3頁)
調査着手から本件更正処分等に至るまでの熊本西税務署の職員による本件調査の経緯は、以下のとおりである。
ア 平成10年2月3日の状況
熊本西税務署の職員であった乙上席調査官(以下「乙」という。)、丙上席調査官、丁上席調査官及び戊調査官(以下「戊」という。)の4名(以下「乙ら」という。また、本件調査に従事した熊本西税務署の職員を「調査担当者」という。)は、熊本市城山下代町に本店を有する原告に対して法人税及び消費税等に係る税務調査を行うため、事前に通知することなく原告の宇土支店事務所(以下「原告事務所」という。)に臨場した。
臨場した際、原告の代表取締役であるB(以下「B」という。)が不在であったため、乙らは、応対した従業員に対して原告の税務調査のために臨場した旨を伝えた。その際、Bがすぐに帰ってくるとのことであったので、乙らは同従業員の了解を得て、入口横の応接テーブルで待っていたところ、従業員の一人が1階の有限会社C(以下「C」という。)の事務所へ下りて行ったため、戊がこれに追随した。
Cの事務所では、原告の代表取締役であるD(以下「D」という。)が原告の関与税理士であるE(以下「E税理士」という。)と電話しているところであったので、戊は、電話が一段落したところでDと電話を代わり、同税理士に対して、「Aの調査で伺っており、突然で申し訳ないがよろしくお願いしたい。」と伝えた。これに対して、同税理士は、「今日は都合が悪いので調査は後日にしてほしい。」と申し立てた。戊は、「先生の事情は分かりますが、社長(B)の了解が得られれば調査をやらせてもらいたい。」旨の要請を行ったが、同税理士からは、「社長には私から今日は調査できないよう言っておくから、調査は後日にしてくれ。」という趣旨の返答であった。そこで、戊は、「社長とはまだ接触できていない状態ですから、社長とお会いしたら再度電話したい。」と伝えて電話をおき、2階の原告事務所に上がった。
間もなく、2階の原告事務所に上がってきたBに、乙らが原告の税務調査のために臨場した旨を告げ、身分証明書を提示するとともに調査協力を要請した。これに対して、Bは「そうですか。」と言いながら、乙らを奥の応接台に案内し、しばらくの間、雑談等を交えながら会社の概況等についての会話を行った。
その後、乙は、Bに対して「先程連絡した際にE税理士は今日は来れない、というお話でしたので、先生に電話してもらえますか。」と、E税理士に電話してもらうよう依頼した。これを受けて、Bは、同税理士に電話をし、しばらくの間、同税理士と会話をした後、「E先生が来れないので、調査は後日にしてください。」旨を述べて調査延期の申入れをした。これに対し、乙は、「社長さんはどうなんですか。調査に協力してもらえるのでしょう。」と、Bに当日の調査協力を要請した。しかし、Bは「うちは先生にすべてをお願いしていますので、先生が調査をだめと言われればだめだということです。」と申し立てた。
そこで、乙は、Bと電話を代わり、E税理士に対して「先生の御都合は分かりますが、社長の了解を得て調査は進めさせてほしい。」と伝えた。これに対して、同税理士から「私の立会いがない限り、調査はやめてもらいます。社長も調査を拒否しているでしょう。」との申立てがあったので、乙は、「先生がそうおっしゃるなら、現状確認だけはさせていただいて、帳簿調査は、後日に改めて伺うということではいかがですか。」との申入れをした。
しかし、E税理士は、「現状確認でも私の立会いがなければだめである。」と申し立て、その後も両者間で同様の趣旨のやりとりが繰り返されたが、同税理士が乙の要請に応じなかったので、乙は「社長ともう一度話をしてから連絡します。」と発言して、Bと電話を代わった。
BとE税理士との電話が終わった後、乙は、Bに対して「税理士が立会いできなくても、今日は現状確認だけさせていただいて、帳簿調査は後日に税理士立会いのもとで調査させてもらうということでいかがですか。」と、当日の現状確認だけでも了解してもらうべくBを説得した。しかし、同人は、「先程から言っているとおり、我々は先生の指示で動いており、今日は先生が来られないのでいかなる調査にも応じるわけにはいかない。調査は後日にしてほしい。」旨発言し、乙の説得には応じなかった。
その後、Dが原告事務所にやって来て同席し、しばらく同様のやり取りがあったが、Bの調査を拒否する姿勢及びDのE税理士の言われるとおりに動くという態度が変わらなかったため、乙らは、当日の調査を断念し、「後日、税理士と日程を調整の上で改めて調査に伺いたい。」旨を告げ、原告事務所を辞去した。
以上のとおり、同日はE税理士、B及びDの意向に沿って何らの調査ができないままに終わったのである。
その後、同年4月8日にE税理士から熊本西税務署のF統括調査官(以下「F」という。)に電話があり、次回臨場日を4月22日とする日程調整が行われた。
イ 同年4月22日の状況
同月8日の日程調整の結果に基づき、同月22日、乙らは、原告事務所に臨場した。乙らは、同事務所に隣接する建物の2階の会議室に案内されたが、同会議室は相当広く、折たたみの机、イス、三脚付きのビデオカメラ、テープレコーダは置かれていたが、帳簿書類については調査担当者らは現認していないし、E税理士、Dら誰からも帳簿書類の提示及び提示の申出はなかった。
乙らは、E税理士に身分証明書を呈示し、同税理士の事務員と思われる者が同証明書の記載事項を書き写した。当該調査場所には、D、B、同税理士及び同税理士の事務員と思われる者が立ち会った。
調査を開始するに当たり、E税理士は、あらかじめ設置していたビデオカメラが撮影開始されたのを確認してから、「課税の公平の目的から、税務調査の必要性は認識しているが、先日、熊本西署及び宇土署の職員6人が無予告で一斉に踏み込んだ調査の理由を説明してほしい。」旨を申し入れてきた。これに対して、乙は、「所得金額の確認のためである。」と説明した。同税理士は、「今回のような異常な調査の理由として、それだけでは納得がいかない。」と申し立てた。乙は「所得金額の確認以外に調査理由はない。」と答えたが、同税理士は、「静岡地裁判例でも、それだけでは調査理由にならない。」と申し立てた。
更に、Dからも、上記説明に対し、「それはあなた方の詭弁だ。本当は投書があって来られたのではないですか。はっきり言ってください。」との申立てがあった。これに対して、乙は、「我々としては、調査理由として、所得金額の確認のためであるとしか回答のしようがないし、我々が知る範囲では会長(D)がおっしゃるような投書等は受けていない。」と説明した後、引き続き「とにかくビデオカメラの撮影はやめてほしい。守秘義務の問題もあり、また、我々の肖像権を侵害しています。このような異常な状況ではフェアーとは言いがたい。」と述べた。しかし、E税理士は、「あんなに大勢で会社に踏み込んで、ちゃんとした調査理由の開示もない。このような異常な調査に対しては、我々としても異常な態勢で対処する。また、先日は、何の連絡もなしに会社に来て、私に電話で、社長の了解を得れば私の立会いがなくとも調査を始めると言ったが、あれは代理権の侵害に当たる。」などと申し立て、ビデオカメラの撮影をやめようとはしなかった。
そのため、乙は「会長、社長、先生がそのような態度でおられるのであれば、我々は調査拒否と解せざるをえない。」と告げたが、Dは「拒否ではなく、調査理由に納得がいかないといっているのです。納得のいく回答であれば調査に応じます。」と述べて、以後、同様のやりとりが繰り返された。その間、原告がビデオカメラの撮影の停止要求を受け入れないことから、戊が立ち上がり、「ビデオはやめてください。」と言って、両手を広げビデオカメラの前に立ちふさがったことがあった。
そこで、乙は、「先程から再三言っている調査理由で、あなた方が調査に応じられないということは、調査拒否と判断するしかない。これ以上議論しても平行線のままであるので、今日は失礼する。」と発言し、乙らは原告事務所を辞去した。
ウ 同年4月23日の状況
E税理士及びDが熊本西税務署に来署し、苦情を申し入れるとともに、その回答を求めた。
上記苦情の内容は、事前通知なしの税務調査、調査理由の開示なしの税務調査、税理士に対する代理権侵害及び調査担当者の態度について、翌日の午前中までに回答してほしいとするものであった。
なお、その際、E税理士らからは、回答がないときには調査拒否をすること、場合によっては損害賠償請求の訴訟を起こすつもりである旨の申立てがあった。
エ 同年4月24日の状況
Fは、E税理士に電話連絡をして、「昨日要求があった件については、次の調査の時に回答したい。」旨を伝えた。これに対して、同税理士は、「次の機会ということは、また来られるということですか。4月22日に調査理由の開示がなかったため、もう調査を受けるつもりは全くありません。調査拒否ということで対応されるのであれば構いません。」と述べた。
Fは、「調査理由の開示につきましては、所得金額の確認である旨担当者から説明しているはずですから、それで調査に応じていただきたい。」と説明して調査協力の要請を行った。しかし、E税理士は、「調査に応じる気持ちは全くないし、今度の件については、国会でも問題にしたいと考えています。また、旅費・宿泊費もだいぶかかっているのに調査されなかったということについても、国に損害賠償を求めたいと考えています。」と申し立てて、調査協力の要請に応じようとはしなかった。
更に、Fは、「調査理由について、もう少し詳しくお話ししたいと思っていますが、それでも調査には応じていただけませんか。」と説得を続けたが、E税理士は、「とにかく今回は特別な調査であり、調査には応じられません。」ということであった。Fの「それでは調査を受ける気持ちは全くないわけですね。」との確認に対しても、「そうである。」との回答であった。Fは、やむを得ず、「それでは当署としても考えさせていただく。」と伝えて、電話を切った。
オ 同年6月3日の状況
Fは、E税理士に対して調査協力の要請のため電話した。これに対して、同税理士は、「先日は4日もつぶして行ったのに調査がなかったので、調査に応じる気は全くありません。はっきり、調査を拒否すると言ったはずです。」と申し立てた。Fが「社長も同様の見解であるのか。」と確認したところ、同税理士から「私は会社から委任を受けているため、私がだめといったらだめです。」との返答及び「ところで、先日『税理士は関係ない。』と言ったことについてはどう考えているのですか。」との質問があった。上記質問に対して、Fは、「そのような言い方はしていないはずである。」と回答したが、更に、同税理士は、「4月23日に熊本西税務署に行った際の申入れ事項についても、署長の見解を回答してもらっていない。」と申し立てた。Fの「何度お話ししても、調査に応じる気持ちはないということですか。」との質問に対しても、同税理士からは「はい。どのような処置をされても対抗していきます。」との返答がなされた。
カ 同年6月22日の状況
Fは、Dに対し、上記オのE税理士との電話の内容を伝えるとともに、調査協力を要請する電話をした。これに対して、Dは、「先生は、調査の際の調査理由の開示や3項目について回答を要求されていますが、それについて回答が得られないから、拒否すると言われているのではないですか。回答があれば、先生も納得されるのではないでしょうか。」との申立てをした。そこで、Fが「会長としては先生が納得しなければ調査を拒否されるということでしょうか。」と質問したところ、Dからは、「先生とは委任契約をしていますので、私が出過ぎたまねをすれば契約違反になりますし、申告についても厳しく指導してもらっていますので、先生の指導にはついて行きます。」との回答があった。そして、Fの再度の調査協力要請に対しても、Dからは「調査の入口の時点で、先生が納得されていませんので、先生にもう一度電話してください。」との回答しか得られなかった。
そこで、Fは、引き続きE税理士に電話をした。Fが上記Dとの電話の結果を伝えた上で、「会長と話し合って調査の日程を決めてもらいたい。」旨を告げると、同税理士は、「会長と話す前に、あなたたちは私の要求に対して回答していないじゃないですか。」と抗議の意思を表明した。Fが、「ビデオ撮影等がされると調査は進展しない。」旨を伝えると、同税理士は、「私達は、第三者にも見てもらうため、ビデオは撮らせていただきます。とにかく、回答がない限り調査を受けるつもりはありません。」と申し立てた。そして、Fの「調査拒否との考え方に変わりはないわけですか。」との質問に対し、同税理士は、「あなたたちが調査拒否というやり方でこられればそれでも構わない。ただ、私は調査を受けるために4日間費やして行ったのに調査をされなかった。そして、調査理由の開示もなかった。だから、私の要求に対し回答がなければ調査に応じるわけにはいかないと言っている。」と回答した。
Fは、電話を切るに当たり、再度、「調査理由については、『所得金額の確認である』と申し上げており、それ以上、文書による回答はできません。とにかく、このように何回お話ししても、調査を受ける意思はないということですか。」と確認したところ、E税理士は「はい。」と回答した。
キ 同年7月31日の状況
同月の人事異動によりFの後任となった熊本西税務署のG統括調査官(以下「G」という。)は、Dに電話して、「人事異動で担当者が代わったのでそのあいさつのため臨場したい。」と伝えた。Dからは「先生に電話して対応等を聞いてから連絡します。」との返答があったが、その後、Dからは何らの連絡もなかった。
ク 同年8月3日の状況
Gは、Dからの連絡がなかったことから、同人に再度電話をして「貴社に臨場したい。」旨を伝えた。しかし、同人からは「先生にも税務署から連絡があったことは伝えたが、『担当者が替わったからといって、わざわざあいさつに来るのは税理士をやっていて初めてのことだ。前任者の調査の際の私に対する侮辱について回答を求めているが、その回答もせずに来たいというのはおかしいので、断りなさい。』と先生にいわれている。私も先生の指示どおりに動いており、私の方ではどうにもならないので、先生に電話してほしい。」との返答であった。
ケ 同年8月5日の状況
前記のとおり、GによるDへの電話によっても、同人からは「とにかく、先生に連絡をとってほしい。」旨の回答しか得られなかったので、Gは、E税理士に電話連絡をした。Gは、人事異動で担当者が替わったことを伝えた上で、「原告の調査の件で会長へ連絡を取ったが、同会長は『先生の承諾があれば調査に応じる。』とのことであったので、先生の御協力をお願いしたい。」と伝えて、調査への協力方を要請した。しかしながら、同税理士は「前任者から調査の経緯についてどのように聞いているか知らないが、私の方は代理権の侵害や冒涜を受けている。質問書を出しているが、これに対する回答をもらっていない。また、税務署に出向いて署長に会いたいと言っても会わせてもらえない。4月22日の調査の際も、調査立会いのため、4日間を見込んで出張してきたのに1時間くらいで帰ってしまった。その翌日から2日間会社にいたが、税務署から何の連絡もなかった。会社に報酬等の請求もできないので、私は、国家賠償請求も考えている。」と申し立てた。
これに対して、Gは、「私も前任者から調査の内容について聞いているが、先生を中傷するようなことを言ったとは聞いていないし、調査も先生の了解が得られていないので行っていないと聞いている。また、4月22日の調査の件も、文書でではないが口頭で回答する準備をしていたが、ビデオ撮影があり、これをやめるようお願いしたがやめてもらえなかったため、調査ができず、帰署したと聞いている。したがって、代理権の侵害等は行っていないと聞いている。」と説明した。しかしながら、同税理士は、「私は、調査の初日に、『先生は関係ないので、社長さんさえよければ調査をします。』と納税者の前で言われたのは事実だし、調査をするからと言ったが、調査を行っていないのも事実である。また、ビデオを回したのも熊本が初めてである。」と申し立てた。
そして、Gの「とにかく、一度会ってもらえませんか。」との要請に対し、E税理士は、「私の考えは以前から変わってはいない。文書による回答を出してもらえば調査に応じるつもりはある。」との回答であった。そこで、Gは、「先生の質問に対する回答として、文書ではできませんし、また、100パーセントではないかもしれませんが、私の方で回答できる部分は回答したいと思っている。」と説明した上で、「先生が10月に来られると聞いていますので、その時でも結構ですので、会ってもらえませんか。」と要請した。しかしながら、同税理士は、これに納得せず、「あなたが10月に会社へ来るなら、私は会社へは行かない。」と申し立てた。
コ 同年8月18日の状況
熊本西税務署のG、H上席調査官及びI調査官の3名(以下「Gら」という。)は、調査担当者の交替に伴うあいさつと調査協力要請のため、原告事務所に臨場して、Dと初めて会うことができた。
その際、同人から以下の申入れ又は意向の表明がなされた。
(ア) 調査の入口で両者にボタンのかけ違いがあり、大変残念であること
(イ) 今まで宇土税務署に協力してきたが、2月に無予告で5名も調査に来たこと
(ウ) E税理士は立腹しており、国家賠償の訴えを起こす意向であるとのこと
(エ) E税理士の質問に対する回答がないこと
(オ) 2月の調査臨場時の担当者の対応及び税理士に対する電話対応に不満があること
(カ) E税理士と一緒に宇土及び熊本西税務署へ行った際の税務署の対応に不満があること
(キ) 税務大学校での教育に対する批判
(ク) 税理士関与のいきさつ
(ケ) 会長の税に対する考え方
(コ) 調査の事前通知に関する大蔵委員会での答弁内容
(サ) 調査日のビデオ撮影は、当初2名で来所するとの約束であったにもかかわらず3名で来所したため、税理士がビデオ撮影をするように指示したものであること
これに対して、GがこれまでのE税理士との電話の内容を伝えたところ、Dは、「私は調査を受けても一向に構わない。ただ、税理士が税務署に対して税理士生命をかけても争うと考えている以上、私はついていこうと考えている。しかし、訴訟をして事を荒立てるより穏便に済むのであれば、早期に解決したいとも考えている。」と申し立てた。
そこで、Gは、「会長が話されたとおり、調査の入口でボタンのかけ違いがあったかもしれないが、会長さんのお考えどおり、調査を早期に進めて行きたいので、税理士先生の協力が得られるよう会長さんからもお願いできないでしょうか。」と述べて、再度の協力要請をした。これに対して、Dから「分かりました。私の方から統括官の意向は伝えてみます。」との回答があった。
サ 同年9月2日の状況
Gは、上記コの臨場の際にDがGの意向をE税理士に伝えるとのことであったので、その結果を確認するためDに電話した。しかし、同人からは「先生には署の意向は伝えましたが、先生の考えは分かりません。」との返答であった。
シ 同年9月3日付けE税理士からの内容証明郵便について
E税理士の同年9月3日付け書留内容証明郵便による被告あて「抗議及び質問書」が、同月7日、熊本西税務署に到達した。その内容は、「同年2月3日の調査の際に、乙が『先生は関係がないので社長さんさえよければ調査をします。』との重大発言をし、また、同年4月22日の調査においては、事前に税理士の代理権侵害等や調査理由の開示について明らかにするように求めていたにもかかわらず、乙らは何ら返答できず、かつ、謝罪もないまま、調査が進展しないとして約1時間で調査を切り上げてしまい、更には、その後においても、Gが重ねて会社の方へ調査の申し出をして、税理士の代理権侵害を重ねているとして、これらのことに重大な決意をもって厳重な抗議をするとともに、税理士法2条1項1号の代理権についてどのように理解しているのか等5項目の質問に対して、2週間以内に文書により回答されたい。」というものであった。
ス 同年9月9日の状況
Gらは、調査協力要請のために原告事務所に臨場した。そして、Dに前記抗議文のことを伝えたところ、同人から「先生の質問には回答されたのか。」との質問があり、Gが回答していない旨を伝えたところ、「税務署がこれまでに回答されないために、そのような文書を送付されたのではないでしょうか。私も、先生の真意や、お考えは分かりません。」との趣旨の発言があった。
Gは、「先生には以前から文書による回答はできない旨を連絡しております。先生の抗議の内容をみますと、先日、会長さんにお会いしたことも、税理士の代理権侵害であるように書いてありました。私どもは、先生の委任業務を侵害するものではなく、担当者の交替によるごあいさつと調査協力をお願いに伺っただけです。」との説明をした。これに対し、Dから「先生も一本気なところがありますからね。私も、調査の入口でボタンのかけ違いがあったものの、調査が早く終了すればよいと考えています。」との回答があった。しかし、その一方で「私は、先生を信頼し、先生と委任契約を結んでいる以上、先生の了解が得られないまま勝手に調査を受けることはできない。」旨の発言もあった。
そこで、Gは、「私どもは先生に何度か調査について協力を求めたのですが、先生の協力はいただけないようです。そこで、会長さんにお願いするしかないと考えています。今一度、会長さんの方から先生に協力してもらうようお願いできませんでしょうか。」との要請をした。しかしながら、Dからは、「私から先生に協力を求めるより統括官から先生に連絡をとられるか、できるなら、大阪に出向かれて、先生に直接お願いされてはどうでしょうか。」との回答しか得られなかった。これに対して、Gは、「今のお話は少し筋違いではないでしょうか。本来、法人の調査に対する了解は、法人の代表者である会長や社長から得るべきものであって、先生に直接お願いすべきものではないと考えます。逆に申し上げると、調査について税理士の了解を得ても、会長や社長の了解がないとできません。先生への委任は、調査を受ける、受けないという調査の承諾というよりは、調査を受けた時に、会社に代わって答弁をすることだと思います。」と述べて、Dの理解を求めた。これに対し、同人からは「税務署からそのように言われても、私は調査を受けることはできない。税務署がどのような調査を行おうとも、当社はそれに対応する覚悟はできている。」との申立てがあった。
Gは、やむを得ず、「会長や先生の協力が得られず、元帳等を見せていただけないと、反面調査や銀行調査等をさせていただいて所得を確認することになります。」との発言をした。これに対して、Dから「それは署でされることである。当社も硬には硬、軟には軟の対応をしなければならないと考えている。」との申立てがあったので、Gは、「個人的には、私も調査担当者も、反面調査や銀行調査をせずに帳簿等の調査によって早期に調査を終えたいと思っている。」と伝えた。これを受けて、Dからは、「私も税務署が誠心誠意対応していることは理解しており、調査が早期に終了すればよいと考えている。特に我が社が悪いことをしていることもないし、隠し立てすることは何一つないと考えている。10月に先生が来熊された折には、税務署の方と話合いがもてるよう先生に取り計らってみる。その結果については、後日連絡する。」旨の発言があった。そこで、Gらは、「よろしくお願いしたい。」旨を伝え、原告事務所を辞去した。
セ 同年10月5日の状況
DからGに電話があり、「先生がお見えになっているので電話を代わります。」として、E税理士が電話に出た。同税理士は、「私は税理士の代理権侵害と調査理由が明らかでないので調査を断っている。質問書に対して、文書による回答もない。」と申し立てた。Gが「先生が文書で回答を求められているのは承知しておりますが、文書では回答できませんので、私が説明できるところは説明させていただき、先生や会長の了解のもとで調査を進めさせてほしい。」との説明をした。これに対して、同税理士から、ビデオを回したのは、今回が初めてである等の話があり、その後、「前回来られた上席はいないのか。転勤になったのか。」との質問があったので、Gは、前任者は全員転勤で替わったことを伝えた上で、「私と新しい担当者2名の3名で伺いたい。」と申し入れた。しかしながら、同税理士は、「3名も来なくてもよい、統括官1人でよいではないか。」と申し立て、更に、同税理士は、「税理士の代理権及び調査理由の開示について十分な説明ができるのか。できなければ、調査を了解できないので同じではないか。」と申し立てた。
そこで、Gは、「先生が期待されている回答はできないかもしれないが、私が説明できる範囲は説明したいと考えています。また、3名が多いということであれば2名で翌日にお伺いしたい。」と伝えたところ、E税理士は、翌日の臨場を了解した。
ソ 同年10月6日の状況
G及びH上席調査官は、原告事務所に臨場し、そこでD同席の上で、E税理士と直接話をする機会を持つことができた。Gは、改めて調査協力の要請を行った。これに対して、E税理士は、「私の方は税理士の代理権侵害と調査理由の開示がないので調査をお断りしている。」と申し立て、調査初日からこれまでの経緯を繰り返した。
Gは、「何とか調査に御協力いただけないでしょうか。」と調査の協力を要請したが、E税理士は、「先日出した抗議文について回答してもらい、納得できるようであれば協力する。」と回答した。これに対して、Gは、「文書による回答はできないことを了解していただきたい。また、税理士の代理権侵害の有無と調査の受任義務とは別の問題であるから、調査に対しては協力をお願いしたい。調査に協力していただかないと、本意ではないが、反面調査や銀行調査を行わざるを得ないことになる。」と説明し、調査の協力を要請した。しかし、同税理士は、「今回の調査は異常な調査であり、それに基づく反面調査や銀行調査も違法なものである。」などと申し立てた。
また、Dからは、「企業防衛の立場から、取引先や取引銀行あてに、当社の委任状がない限りは調査に応じないよう要請する文書を用意しているし、反面調査等を強行されれば損害賠償を要求していくつもりである。」との申立てがあった。Gは、「調査に協力してもらえれば、直ちに銀行調査や反面調査を行うとは考えていませんし、仮に銀行調査等を行うことになれば会社の信用問題にもなりますので、よく考えていただきたい。」と説得したが、Dは、「仮に信用問題になり、会社の存続ができないような事態になれば、会社を解散してでも徹底的に争っていく。」と申し立てた。Gは、更に「会社の従業員やその家族のことも十分に考えて、調査に協力してほしい。」と説得を続けたが、Dは、「私としても、穏便に調査を進めていただいて、早期にこの問題を解決したいと考えていますが、税務に関しては先生に全面的に委任していますので、先生の了解を得てほしい。」と申し立てた。
タ 同年10月29日の状況
Gは、E税理士に対して、「先日お伺いした際に、『ほとんど可能性はないと思うが、検討して連絡する。』ということでしたが、いかがなものでしょうか。」と電話した。これに対して、同税理士からは「電話しなければいけないと思っていたが、私なりに考えても良い案がなくて電話しなかった。私としては、やはり、税務代理権等について説明がないと調査には応じられない。」との回答があった。
Gは、「会長も先生の了解があれば調査に応じると言っておられますので、一つの案として、先日もお話ししましたが、先生が訴訟をされるということと調査とは切り離して考えられないでしょうか。現在のところ、先生と税務署との問題ですが、調査に応じていただけないと反面調査や銀行調査等をすることになりますので、そうすると会社にまで迷惑をかけることになります。私達としては、できれば会社に迷惑をかけたくないのですが。」と、更に説得ないし調査協力の要請を行った。しかし、E税理士からは、「統括官の立場も分かるが、私も訴訟関係の役員をやっている立場から、問題を別々に考えることはできません。会長も私と一緒に戦っていくと言っています。」との回答しか得られなかった。
チ 同年12月4日の状況
Gらは、原告事務所に臨場し、Dと面談した。その際、Dからは、「先日、先生が熊本から大阪へ帰られるとき、先生は、熊本西税務署の方が税務調査に対する協力等について紳士的な対応をされたので、当方としても誠実に受け止めて、紳士的に対処せねばならないと話しておられましたから、私は、12月には税務調査に来られることになるだろうと考えていた次第です。私も、この問題をいつまでもこのままでよいとは考えておりませんし、早く解決できればと考えているのですが、先日、先生と税務署の方と話し合いがもたれたことで、早ければ年内にも解決できるのではないかと考えておりました。」との発言があった。
Gが「私達も同様に、早期に調査を実施し、この問題を早く解決したいと考えている。」旨を伝えたところ、Dは、「分かりました。私も先生の指導のもとに適正に記帳を行っているわけですから、調査を受けることには何の問題もないと考えております。税務調査を受けることについて、私から今日にでも先生に連絡し、その結果を先生から署へ連絡するよう伝えます。」との回答が得られた。そこで、Gらは、「よろしくお願いしたい。」旨を伝えて帰署した。
ツ 同年12月18日の状況
Gは、Dに「先日、会長から先生に連絡してもらうということでしたが、連絡がつきましたでしょうか。」との電話をした。これに対して、Dからは、「ええ、皆さんが帰られてからすぐに先生に電話しました。だいぶ長く話をしましたが、やはり調査理由の開示と代理権侵害について回答がないと了解できないと言っておられました。また、先日、皆さんが会社に来られた件も代理権侵害になると言っておられました。私も西脇市まで行って先生ともう一度話をしたいと考えていたのですが、時間がとれずまだ行っておりません。先生も振り上げた手の下ろし場所がないのじゃないでしょうか。」との趣旨の返答があった。更に、Dから「何か、両方とも丸くおさまる方法はないのでしょうか。」との趣旨の発言があった。これに対して、Gは、「署の方でももう一度検討してみます。」旨伝えて、電話を切った。
テ 平成11年1月13日の状況
Gらが原告事務所に臨場した。その際、Dから「私としてもできる限り努力をしてみますので、署としても、当初から先生がお話ししておられるように、文書による回答について検討していただけないでしょうか。私の考えですが、正式な回答ということではなくても、玉虫色の回答でもいいですから、どのような形でもいいと思っていますので、文書による回答について考えていただけないでしょうか。」との趣旨の申入れがあった。
これに対して、Gは、「当初からお話ししているように、文書による回答はできないと思います。」と返答した。更に、Dから「署としての回答でなくても統括官からの回答もできないのでしょうか。」との申入れがあった。Gは、「それもできないと思う。」との回答をした上、「会長からE税理士に対して再度の調査協力をお願いしてほしい。」旨要請した。
その後、Gは、「このまま調査について協力いただけないのであれば、本意ではないが、反面調査や銀行調査を進めざるを得ないし、そうなれば、御社だけでなく、取引先にまで迷惑をかけることになってしまいます。また、帳簿等を見せていただけないのであれば、青色申告承認の取消しや、消費税については課税仕入れが認められないという処理も行わなければならないことになります。そこで、会長から先生に対し、調査協力してもらえるよう取り計らっていただきたい。」との説明ないし協力要請を行った。これに対して、Dから「私としても、解決に向けて努力したいと考えているが、署としても、先生に協力していただけるよう何か良い方法を検討してもらえないか。3月末には先生に会ってお願いしようと思っているのでよろしくお願いします。」との返答があった。
ト 同年3月12日の状況
Gらは、原告事務所に臨場して調査協力の要請を行った。そこで対応したDから「4月3日と4日に西脇市に行く予定があり、先生と会って話をしようと思っている。」との発言があったので、Gは、「会長さんにも何回もお話ししているように、このまま調査ができないような状態が続くのであれば、本意ではないが、反面調査や銀行調査を行わなければならなくなるし、青色申告の問題や消費税の課税仕入れが認められないなどの問題もでてきます。また、文書による回答もできないことは承知していただき、会長から先生に対して、調査の協力についてお願いしていただきたい。」と説明ないし要請をした。これに対して、Dからは「4月に西脇市に行ってきっと土産を持って帰りたいと思っている。」との返答があった。
ナ 同年4月12日の状況
Gらが原告事務所に臨場した。その際Dから「今月の3日と4日でE先生のところへ行ってきました。いろいろと話をしましたが、先生は税務署からの回答がまだ出ていないと言っておられました。先生は、やはり文書による回答を求めておられるようです。統括官の方で何か良い知恵を出して、玉虫色で良いから、穏便に決着する方法はないでしょうか。例えば、統括官に文書で回答していただくとか、文書という形でなくとも署長さんから簡単で良いから謝罪という形がとれたならば、先生も納得されると思うのですが。」との申入れがあった。
これに対して、Gは、「以前から申しているとおり、文書による回答はできません。会長さんには西脇市まで足を運んでいただき感謝しております。しかし、先生の心が開かれなかったのは残念です。署としてもこれまで努力してきましたが残念に思ってます。私達も、本意ではないのですが、調査に協力していただけないのであれば、取引先の反面調査や銀行調査を実施した上で、申告書の内容が適正かどうかの判断を行うことになると思います。また、青色申告の取消しや、消費税の課税仕入れの取扱いを否認することになります。」との説明をした。
上記説明に対し、Dから「7月の上旬、先生が決算のため来熊されます。その時にでも、先生の滞在日数を延ばしてもらい、先生と署の方とで話合いがなされ、今回の問題が解決できるのではないかと思います。」との返答があった。また、「私の方が先生に出向いて顧問をお願いした経緯があるので、先生をむげに無視することはできません。何か良い解決策はないものでしょうか。」との発言もあった。
これに対して、Gは、「7月には税務署の人事異動があり、担当者が替わるかもしれません。先生の心が開かれなかったことは大変残念なことですが、私達も調査を終了しなければなりません。先ほどから申し上げているとおり、会社の方で元帳等の提示がされず、調査に協力していただけない場合には、取引先や銀行への反面調査の実施や、青色申告承認の取消し、消費税の課税仕入れを否認する等の処理を進めていくことになると思います。」との説明を行った。その上で、Gは、「署に帰って上司に報告し、今後の方針につき、今週末か来週早々には会長さんあてに連絡いたします。」との意向を伝えて、原告事務所を辞去した。
ニ 同年4月27日の状況
Gが、Dに電話をして、「調査に協力いただけない以上は、従来より申し上げてきましたように、調査をしないまま終了することはできませんので、反面調査及び銀行調査を実施することになりました。また、青色申告の取消し、消費税の仕入税額控除の否認の更正もあわせて行うことになります。」と署としての今後の方針内容を伝えた。これに対して、Dからは「そうですか。E先生に伝えます。」との返答があった。
ヌ 同年4月28日付けの内容証明郵便について
D及びB名の、平成11年4月28日付け内容証明郵便による被告あて文書が、同月30日に熊本西税務署に到達した。その内容は、「同月12日及び同月27日にGがDに伝えた内容のうち、反面調査や消費税の更正処分及び青色申告承認の取消処命を行うことになる旨の発言は脅迫であること、及び今後は熊本市内のR弁護士に法的対応を依頼したので、今後は同弁護士に連絡されたい。」などとする趣旨のものであった。また、E税理士からも、同署長あてに同日付けの内容証明郵便により、上記Dらからの文書とほぼ同内容の文書が到達した。
ネ 同年7月2日の状況
被告は、これまでの調査の経緯及び平成11年6月から実施した反面調査の結果に基づき、原告に対して、本件各課税処分を行った。
(2) 本件調査の適法性(第4準備書面13頁)
本件調査の経緯については、前記(1)で主張したとおりであるが、調査担当者らは、調査に応じようとしない原告らに対して、約1年3か月の長期間にわたって、繰り返し説得ないし調査協力の要請をしたものであって、かつ、その手続や内容等には、以下のとおり、何ら違法な点は存在しない。
ア 税務職員の質問検査権の根拠(第4準備書面4頁)
法人税法は、すべての納税義務者をして税法所定の申告義務を履行せしめ、租税の公平を担保するため、税務職員には法人税の調査のために法人に質問し、帳簿書類その他の物件を検査する権限が与えられており(法人税法153条ないし156条)、消費税法においても同様の規定がおかれている(消費税法62条)。
また、質問検査を受ける側については、質問に対する不答弁及び検査の拒否、妨害に対しては刑罰が科されることになっており(法人税法162条2号、消費税法68条)、直接の強制力はないものの、質問・検査の相手方には、それが適法な質問・検査である限り、質問に答え検査を受忍する義務がある。したがって、質問検査権の行使は、常に相手方納税者の任意の承諾に依存するものでもなければ、質問検査に応じるかどうかが相手方の選択に委ねられているわけでもなく、正当な理由のない限り、税務職員による質問検査に応ずべき受忍義務があり、質問検査に応じることが社会通念上無理とされるような特別の事情がない限り、積極的に質問に応答し検査に協力する義務があると解すべきである。
イ 調査の必要性(第4準備書面5頁)
「調査について必要があるとき」の意義については、「法人税法153条の『調査について必要があるとき』とは、確定申告後に行われる法人税に関する調査については、過少申告等の疑いがある場合のみならず、当初からそのような疑いが明らかではないが、申告の真実性、正確性を確認する必要がある場合も含まれると解すべきである。」と解されているところ(東京高裁平成12年4月26日判決・乙3)、本件調査の場合、権限ある税務職員が、原告に対する調査は前回調査(昭和63年4月)から約10年を経過しており、申告された所得金額等が正しいかどうかを確認する必要があることから調査を行ったものであり(乙14の5頁、証人乙66、127)、調査の必要性の判断には何ら違法性はない。
ウ 調査の事前通知(第4準備書面5頁)
事前通知は、税務調査をするに当たっての法律上の要件でなく、調査担当者が税務調査に当たって、納税者及び関与税理士に事前通知をしなかったとしても、そのことによって税務調査が違法となるものではない。事前通知は法令上要請されるものではなく、事案によっては事前通知をしていては調査の目的を達し得ない場合があり、また、事前通知を励行しないことによる納税者側の損失は事前通知がなされないことによって事前準備ができないことに尽き、その他質問検査の対象、内容については事前通知を励行した場合と異なるところはないから、事前通知がないとの一事をもって社会通念上相当性を逸脱したものと評価することはできない(京都地裁平成7年3月27日判決・判例時報1554号117頁、大阪高裁平成10年3月19日判決・判例タイムズ1014号183頁)。
また、事前通知に関して、税理士法34条は、「税務官公署の当該職員は、租税の課税標準等を記載した申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第30条の規定による書面を提出している税理士があるときは、あわせて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。」と規定しており、納税者及びその税理士に事前通知を行わない場合があることを前提としているものである。なお、同規定は、訓示規定と解されており(津地裁平成10年9月10日判決・訟務月報46巻2号825頁)、調査の効力に影響を及ぼさないものである。
昭和49年6月3日の第72国会で採択された「中小業者に対する税制改正等に関する請願(第1403号)」は、税務の執行に当たって法的な拘束力を有するものではないし、税務運営方針は、税務調査に当たって一律に事前通知を行うべきことを定めたものではない上、納税者の自主的な理解、協力を得て、円滑な税務行政を遂行しようとする観点から、担当者の心構えを説いたものにすぎないので、これに反する税務調査が直ちに違法となるわけではない(名古屋地裁昭和63年1月27日判決・税務訴訟資料163号66頁)から、本件調査における事前通知のないことをもって、違法があるとはいえない。
エ 調査理由の開示(第4準備書面7頁)
調査理由の開示は税務調査をするに当たっての法律上の要件ではなく、調査担当者が具体的な調査理由を被調査者に開示しなかったとしても、そのことによって税務調査が違法となるものではない。
本件調査において、調査担当者は、本件調査の理由を「所得金額の確認である。」旨原告に告げているものであるが、それ以上に具体的に理由を開示しなかったとしても何ら違法となるものではない。
オ 「抗議及び質問書」に対する文書回答(第4準備書面8頁)
原告らの抗議文や質問状等(乙4ないし6)に対して、税務署長が文書により回答すべき法律上の義務はないので、原告らの抗議や質問に対して文書による回答をしなかったことが、違法となるものではない。
カ 税理士の代理権侵害の事実がないこと(第4準備書面8頁)
平成10年2月3日の本件調査において、調査担当者が、「税理士は関係ない。」旨の発言をした事実はなく、調査担当者の上記発言内容の趣旨は、「E税理士の都合が悪く同税理士の立会いがなくとも、被調査会社の会長ないし社長の了解が得られれば、調査をさせてもらいたい。」旨の協力要請にすぎないところ、そのような要請は適正・公平な課税の実現を目的として行う税務調査担当者として、正当な言動で同税理士に対して要請したものであって、本件調査の初日である同日は、調査担当者は、原告及びE税理士の申入れを受け入れて、何らの調査を行うことなく、原告事務所を辞去しているものである(証人乙48、49)。
また、当日の調査の状況は、前記(1)アで述べたとおりであり、かつ、B自身、E税理士と電話で調査を受け入れるか否かの話をした旨供述していること(甲19の9頁)を考慮すれば、調査担当者らが、BからE税理士への間の電話を妨害した事実はまったく認められないものである。
キ ビデオカメラ撮影が原因で税務調査が続行不能となったこと(第4準備書面10頁)
本件調査の際、原告らは、調査担当者の承諾がないにもかかわらず、調査現場のビデオ撮影を行い、守秘義務等を理由とする調査担当者の再三の停止要求にもかかわらず、これに応じなかったことから、調査担当者は、調査続行不可能と判断して原告事務所を辞去した。
そもそもビデオカメラによる撮影は、撮影対象者の承諾を得ていないものであり、税務調査の現場での被調査者によるビデオ撮影は、その会話内容や撮影対象として、当事者(被調査者)に関することのみでなく、国家公務員である税務職員が負っている守秘義務の対象となる第三者(被調査者の取引先等)に関係する事項や、税務調査の方法に関することなどが複合的に撮影されることとなるもので、当該ビデオが課税当局の所有、管理するものでないことから、守秘義務のない被調査者等によってその内容の全部又は一部が第三者に明らかにされるおそれもあり、撮影することを調査担当者が承諾した場合、承諾した調査担当者は守秘義務違反に問われる可能性があるものである。
したがって、調査担当者が税務調査の現場でのビデオ撮影を承諾せず、その中止を要求することは当然の正当な行為であり、また、調査担当者の再三の停止要求が受け入れられず、調査担当者がそれ以上調査を続行できないと判断して調査を打ち切ったことに、何ら違法はない。
ク 反面調査の事前説明に違法性はないこと(第4準備書面12頁)
法人税法154条は、税務職員が取引先等に対する調査(いわゆる反面調査)ができる旨規定しており、更に、取引先等に対する反面調査は、納税者本人に対する調査と同様に、適正な租税負担を実現するために必要な資料を的確に収集することを目的に行われるもので、これを行うかどうかは、納税者の事業内容、申告内容、調査に対する協力度等その納税者の個別事情からみて、調査権限を有する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解される。
また、平成10年9月9日のGの発言の趣旨は、これまで再三にわたり調査協力の要請をしてきたにもかかわらず、帳簿書類の提示が得られない以上、調査の拒否であるとして、やむを得ず反面調査を行うことになる旨を告げたものであり、適正・公平な課税の実現を目的とした税務調査の実現を図るための必要性から法によって付与されている権限の執行を教示したものにすぎないのであるから、違法となることはない。
(3) 本件各更正処分の適法性
ア 本件各更正処分の課税の経緯は、別紙2「消費税及び地方消費税の課税の経緯表」のとおりであり、本件各更正処分における消費税額及び地方消費税額の計算根拠は以下のとおりである。(答弁書29頁、第1準備書面18頁、第4準備書面13頁)
(ア) 9年5月期
a 課税標準額 8億6817万円
課税標準額は、9年5月期における課税資産の譲渡等の対価の額であり、
<1> 平成6年法律第109号附則7条による改正前の消費税法29条適用分の課税標準額8億3435万3000円(ただし、国税通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数は切り捨て)と
<2> 平成6年法律第109号附則7条による改正後の消費税法29条適用分の課税標準額3381万7000円(ただし、国税通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数は切り捨て)
を合計した金額であり、原告の申告額である(乙1)。
b 課税標準額に対する消費税額 2638万3270円
課税標準額に対する消費税額は、
<1> 上記aの<1>の8億3435万3000円に消費税率100分の3(平成6年法律第109号附則7条による改正前の消費税法29条)を乗じて算出した2503万0590円と、
<2> 上記aの<2>の3381万7000円に消費税率100分の4(平成6年法律第109号附則7条による改正後の消費税法29条)を乗じて算出した135万2680円
を合計した金額である。
c 仕入れ等に係る消費税額の控除額 0円
仕入れ等に係る消費税額の控除の可否については、dで述べるとおり、原告は、本件調査の際に調査担当者に対して帳簿等を一切提示しなかったことから、帳簿等を保存しない場合に該当するので、消費税法30条7項の規定により課税標準額に対する消費税額から控除すべき課税仕入れ等に係る消費税額は0円となる。
d 納付すべき消費税額 2638万3200円
納付すべき消費税額は、上記cの仕入れ等に係る消費税額の控除額が0円のため、上記bの課税標準額に対する消費税額2638万3270円と同額(ただし、国税通則法119条1項の規定により、100円未満の端数は切り捨て)である。
e 納付すべき地方消費税額 33万8150円
納付すべき地方消費税額は、上記dの納付すべき消費税額のうち平成6年法律第109号附則7条による改正後の消費税法29条適用分の納付すべき消費税額135万2600円(上記bの<2>の金額。地方税法72条の82。ただし、国税通則法119条1項の規定により、100円未満の端数は切り捨て)に100分の25を乗じた金額(地方税法72条の83)である。
f 消費税及び地方消費税の合計額 2672万1350円
消費税及び地方消費税の合計額は、上記dの納付すべき消費税額2638万3200円と、上記eの納付すべき地方消費税額33万8150円を合計した金額である。
(イ) 10年5月期
a 課税標準額 7億1744万2000円
課税標準額は、10年5月期における課税資産の譲渡等の対価の額であり、
<1> 平成6年法律第109号附則7条による改正前の消費税法29条適用分の課税標準額2098万8000円(ただし、国税通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数は切り捨て)と
<2> 平成6年法律第109号附則7条による改正後の消費税法29条適用分の課税標準額6億9645万4000円(ただし、国税通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数は切り捨て)を合計した金額であり、原告の申告額である(乙2)。
b 課税標準額に対する消費税額 2848万7800円
課税標準額に対する消費税額は、
<1> 上記aの<1>の2098万8000円に消費税率100分の3(平成6年法律第109号附則7条による改正前の消費税法29条)を乗じて算出した62万9640円と、
<2> 上記aの<2>の6億9645万4000円に消費税率100分の4(平成6年法律第109号附則7条による改正後の消費税法29条)を乗じて算出した2785万8160円
を合計した金額である。
c 仕入れ等に係る消費税額の控除額 0円
理由は、上記(ア)cに記載のとおりである。
d 納付すべき消費税額 2848万7800円
納付すべき消費税額は、上記cの仕入れ等に係る消費税額の控除額が0円のため、上記bの課税標準額に対する消費税額2848万7800円と同額である。
e 納付すべき地方消費税額 696万4500円
納付すべき地方消費税額は、上記dの納付すべき消費税額のうち平成6年法律第109号附則7条による改正後の消費税法29条適用分の納付すべき消費税額2785万8100円(上記bの<2>の金額。地方税法72条の82。ただし、国税通則法119条1項の規定により、100円未満の端数は切り捨て)に100分の25を乗じた金額(地方税法72条の83)である。
f 消費税及び地方消費税の合計額 3545万2300円
消費税及び地方消費税の合計額は、上記dの納付すべき消費税額2848万7800円と、上記eの納付すべき地方消費税額696万4500円を合計した金額である。
イ 仕入税額控除にかかる帳簿及び請求書等の保存の意義(第4準備書面14頁)
消費税法30条7項が、仕入税額控除の適用を受けるための要件として帳簿等の保存を要求しているのは、税務職員が税務調査において納税者が保存している帳簿等を検査し、申告の正確性を確認することができるようにするためであると解されるところ、税務職員が消費税の調査に当たって質問検査権を行使し帳簿書類の提示を要請しても、何ら提示することなく、単に帳簿等を物理的に保存していることをもって、仕入税額控除が認められるというわけではないのであって、税務職員が消費税法に規定するところに従って保存されている帳簿等を調査し、その結果と申告書類及び計算明細書の記載内容とが一致していることを確認することができてこそ、仕入税額控除が認められるものと解するのが合理的である。したがって、消費税法30条7項にいう「帳簿等の保存」とは、単なる物理的な帳簿等の保存にとどまるものではなく、税務職員による適法な帳簿等の提示要求に対し、当該事業者がその保存の有無及びその記載内容を確認し得る状態に置くことをも意味する趣旨であると解するのが相当である(東京高裁平成13年1月30日判決・乙8、東京地裁平成9年8月28日判決・行裁例集48巻7・8号600頁、名古屋高裁平成12年3月24日判決・訟務月報47巻7号2016頁、津地裁平成10年9月10日判決・訟務月報46巻2号825頁、東京地裁平成11年3月30日判決・訟務月報46巻2号899頁)。
そうすると、仕入税額控除を適用するためには、納税者が、税務調査に際し、税務職員に対して帳簿等を提示することが必要であり、納税者等が帳簿等の提示を拒否し、提示しなかった場合には、消費税法30条7項にいう「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当し、仕入税額控除の適用要件を欠くものである。
ウ 消費税法30条7項の「保存」を客観的・物理的な意味の保存と解することの不合理性(第4準備書面23頁)
同法30条7項所定の「保存」とは、被告の適法な帳簿書類等の提示要求に対し、提示拒否してもこれらの所持・保管を継続していることをもって足りる旨の見解は、以下のとおり失当である。
(ア) 同法30条7項の「保存」を客観的・物理的な意味の保存であるとする論理は、課税庁に初めから取り消される蓋然性が高い更正処分を行うことを強いることに等しいものである。
課税庁は、申告納税制度を採用する同法42条、45条等の下において、納税義務者の申告内容を確認し、当該申告内容が調査したところと異なる場合には、課税処分を行うことにより適正な税収を確保すべき職責を負っているところ、その内容の正確性を確認するために同法62条は、税務職員に質問検査権を認め、その適切な行使により課税要件事実の存否に関する判断資料の入手を制度上当然に予定している。
これを消費税の仕入税額控除についてみると、同法30条は、消費税の仕入税額控除の要件として、<1>事業者が国内において当該課税期間内に真に課税仕入れを行ったこと、<2>当該課税仕入れの税額の控除に係る法定帳簿及び法定請求書等の「保存」を要求しているところ、法定帳簿及び法定請求書等は、納税義務者たる事業者側の支配下にある資料であるから、課税庁は、適切な質問検査権の行使により法定帳簿及び法定請求書等の任意提示を受け、これらにより課税仕入れの事実の存否に関する調査、確認の責任を果たすこととなる。
これに対し、事業者が、課税庁の適切な質問検査権の行使による提示要求を正当な理由もなく拒否した場合、課税庁において客観的・物理的な意味の保存の事実がないことを立証しなければ、「消費税の仕入税額控除はできない」とする更正処分を行えないこととなり、課税庁は申告納税制度の下で適切な質問検査権の行使により申告内容の正確性を確認すべき職責を果たすことができなくなる。
(イ) 消費税法30条7項の「保存」を客観的・物理的な意味の保存であるとすると、事業者は、不服申立てや訴訟手続に至ってから法定帳簿及び法定請求書等を提出し、その所持・保管を証明することにより、消費税の仕入税額控除を認められるという、いわゆる帳簿等の後出しが正当化されることとなるが、不服申立てや訴訟手続の時点においては、税務調査時とは異なり、月日の経過による資料の散逸、滅失、廃棄等のため、納税者たる事業者の帳簿及び請求書等の正確性を確認することが著しく困難又は不可能になり、かつ一つ一つの帳簿等が実際に作成されていたのかを確認することも困難又は不可能となる。
また、事業者は、法定帳簿等を消費税法施行令50条1項を満たす形で保存しているのであれば、税務調査の段階において、極めて容易に税務職員に提示できるはずで、その機会も充分与えられており、事業者に特別な負担を強いるものではないところ、税務調査の段階における法定帳簿等の提示拒否、更には前述の後出しを認めることは、通常、税務職員の質問検査権行使に対する妨害及び国税の更正、決定等の期間制限(原則として、法定申告期限から3年を経過した日以後においては、更正することができない。国税通則法70条1項1号)の経過による不合理な結果を招くこととなる。
エ 本件へのあてはめ(第4準備書面25頁)
本件調査着手から本件各課税処分に至るまでの経緯は、前記(1)のとおりであり、本件調査には何ら違法又は不当な事実はなく、また、原告が、本件調査において帳簿等を調査担当者に提示していない事実は明らかである。
したがって、平成10年2月3日から平成11年4月27日までの約1年3か月の長期間にわたって、調査担当者が原告に対し、調査に協力し、帳簿等を提示するよう求めたにもかかわらず、原告が帳簿等を提示しなかったことは、消費税法30条7項にいう「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当し、仕入税額控除の適用ができないこととなるから、原告の帳簿等の不提示による仕入税額控除の否認を理由とした本件各更正処分は、適法なものである。
(4) 本件各賦課決定処分の適法性(第4準備書面26頁)
以上のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法65条4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、本件各賦課決定はいずれも適法である。
(5) 本件青色取消処分の適法性(第4準備書面26頁)
ア 税務調査における帳簿書類の不提示と青色申告承認の取消し
青色申告制度は、青色申告書により申告することにつき税務署長の承認を受け、その承認を受けた年分以後青色申告書を提出する者に対しては、推計課税を認めないなどの課税手続上の特典及び事業専従者給与や各種引当金・準備金の必要経費算入、純損失の繰越控除など所得ないし税額計算上の種々の特典を与えるものである。そこで、この青色申告の承認は、課税手続上及び実体上種々の租税優遇措置を伴う特別の青色申告書により申告することのできる法的地位ないし資格を納税者に付与する設権的処分の性質を有するものである(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・判例時報1262号91頁)。また、同制度は、誠実かつ信頼性のある記帳を約束した納税者が、これに基づき所得額を正しく算出して申告納税することを期待し、かかる納税者に特典を付与するものであり、青色申告承認の取消しは、この期待を裏切った納税者に対しては、いったん与えた特典を剥奪すべきものとすることによって青色申告制度の適正な運用を図ろうとすることにあるものである(東京地裁昭和38年10月30日判決・行裁例集14巻10号1766頁・税務訴訟資料37号983頁)。
ところで、法人税法127条1項は、「青色申告の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる事業年度までさかのぼって、その承認を取り消すことができる。」と規定し、同項1号では取消しを行うことができる事実として、「その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこと。」という要件を定めている。
このように、同項1号は、法人について帳簿書類の備付け、記録又は保存が財務省令の定めるところに従って行われていない事実があることを青色申告の承認の取消事由と定めているが、この規定の趣旨は、法人の帳簿書類について税務当局が税務調査を行うことができることを前提として、その調査により帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われていることが確認できた場合にのみ青色申告の承認による特典を与えるというものと考えられる。そうすると、たとえ帳簿書類の備付け、記録及び保存自体が行われていても、青色申告者が税務職員からの調査に正当な理由なく応じようとせず、帳簿の提示を拒否したため、税務当局においてその備付け、記録又は保存が正しく行われているか否かを確認することができないときも、上記の規定にいう青色申告の承認の取消事由に該当する事実があるものと解するのが相当である(東京地裁平成3年1月31日判決・判例時報1376号58頁、東京高裁平成5年2月9日判決・訟務月報39巻10号2070頁、東京地裁平成4年9月30日判決・税務訴訟資料192号737頁)。
なお、帳簿書類の不提示を青色申告の承認の取消事由と解するのは、調査拒否自体を備付け、記録又は保存の違反と並ぶ別個独立の取消事由とするものではなく、調査拒否の結果として帳簿書類の備付け等が正しく行われていることを処分の時において確認し得ないこととなるので、これをもって備付け等を欠くと評価するものである(東京地裁昭和55年3月13日判決・行裁例集31巻3号401頁、東京高裁昭和56年10月21日判決・行裁例集32巻10号1848頁)。また、青色申告制度は、前記のとおり、所定の帳簿書類等の備付け状況が質問検査権に基づく調査により確認できる状態にあることを不可欠・当然の前提としているものであり、青色申告者が帳簿書類等に対する調査を拒否することにより、その備付け等が正しく行われているか否かを確認し得ない場合に、その者に青色申告承認による特典を享受させることは青色申告制度の本旨に反し極めて不合理であることから、同法127条1項に規定する青色申告承認取消処分については、原処分調査で調査を拒否していた納税者が異議手続で帳簿書類を提出し、調査に応じたとしても、調査拒否を理由としてなした青色申告承認取消処分の効力に影響を及ぼさないものである(東京高裁昭和59年11月20日判決・行裁例集35巻11号1821頁。なお、この裁判例は所得税法に関するものではあるが、青色申告制度の趣旨は法人税法におけると同様である。)。
イ 本件へのあてはめ
調査着手から本件青色取消処分に至るまでの経緯は、前記(1)のとおりであり、本件調査には何ら違法又は不当な事実はなく、また、原告が、本件調査において帳簿書類を調査担当者に提示していない事実は明らかである。
したがって、平成10年2月3日から平成11年4月27日までの約1年3か月の長期間にわたって、調査担当者が原告に対し、調査に協力し、帳簿書類を提示するよう求めたにもかかわらず、原告が帳簿書類を提示しなかったことは、青色申告に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法126条に定めるところに従って行われていないことになり、同法127条1項1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当することは明らかであって、被告が帳簿書類の不提示を理由にした本件青色取消処分は、適法なものである。また、不服申立ての段階において原告が帳簿書類を提示し、被告又は国税不服審判所がそれを確認したとしても、本件青色取消処分が取り消されるわけではなく、本件青色取消処分は適法である。
(6) 権利濫用ないし信義則違反について(第4準備書面29頁)
本件調査手続、本件各処分に権利濫用ないし信義則違反とされる事由は存在しない。
E税理士に税務代理ないし代行を委任したのは原告自身であり、前記のとおり調査担当者は原告代表者らに対して、約1年3か月の長期間にわたって、再三、調査協力の要請を行うともに、帳簿書類の提示要求を行い、平成11年1月13日以降は、原告代表者らに対して本件各処分の実行に関する警告も再三行っており、原告代表者らは本件各処分について事前に十分熟知しながら、あえて法令に違反し、正当な理由なく帳簿等の提示を拒否し続けてきたものであるから、そのことに伴う本件各処分は、原告自身が全面的に甘受すべきものであって、法令の趣旨に真っ向から対立する税理士の指導があるをもって、本件調査において原告が帳簿等の提示を拒否する正当事由があったとすることや、法の規定に従った課税処分をした被告に権利濫用があるとすることはできない。(第4準備書面29頁)
また、納付税額が6533万9400円になること及び原告が消費税を二重に支払うことになるという点についても、原告が負担する消費税の納税義務は原告の行った課税取引により生じるものであって、仕入先の行った課税取引に係る消費税とはその原因を異にするもので、仕入税額を控除しなかったとしても、同一の課税原因が重複するわけではないし、ましてや、消費税法30条7項が帳簿等を保存しない場合には仕入税額控除をしないと定めているのであるから、仕入税額控除が認められない場合に生じる税の累積は、そもそも法の予定するところである(名古屋高裁平成12年3月24日判決・訟務月報47巻7号2016頁、津地裁平成10年9月10日判決・訟務月報46巻2号825頁)。(第4準備書面26頁)
(7) 以上のとおり、本件各処分はいずれも適法である。(第4準備書面30頁)
4 被告の主張に対する認否及び原告の反論
(認否)
(1) 被告の主張(1)について、本件調査の経緯は、後記原告の反論(1)のとおりであり、これに反する部分は否認ないし争う。
(2) 被告の主張(2)はいずれも否認ないしは争う。
(3) 被告の主張(3)イないしエは否認ないし争う。
(4) 被告の主張(4)ないし(7)は否認ないし争う。
(原告の反論)
(1) 本件調査の経緯(最終準備書面4頁)
ア E税理士との委任契約
原告は、J税理士会所属のE税理士を、本件事業年度の法人税及び本件各年度の消費税等について税理士法に規定する行為を行う代理人と定め、委任状をそれぞれの確定申告書に添付して提出している。
イ 突然の調査開始
(ア) 平成10年2月3日午前9時に乙ら4名が原告事務所に予告なしに突然来訪した。原告はBが不在だったため、まず、従業員で総務・経理の責任者であるK(以下「K」という。)が対応した。そのときの状況は次のとおりである。
午前9時、被告署員の1人が、「税務署から来ました。社長さんは居られますか。」と言って4名とも事務所内の受付カウンターの前に並んだ。Kは突然の来訪に驚き「社長は現場に出かけていて居ません。少し待って下さい。」と言って、階下(1階)のDのところへ行って指示を仰ごうとした。そのとき丁度、階下のCの事務所にも宇土税務署の職員が来訪しておりDが対応していた。Kは、Dに「Aにも税務署の方が見えられました。」と伝えたところ、Bにすぐ連絡するよう指示を受けた。
Kは、2階の原告事務所に戻りBに連絡したところ、Bは10分位で帰社できるとのことだったので、その旨被告署員らに伝えた。
その際、受付カウンターに並んでいた責任者のような税務職員が、Kに対し質問を始めた。その会話の主な内容は次のとおりである。
乙署員;「台帳は付けておられるのですか」 K;「はい」
同署員;「一人で付けているのですか」 K;「はい」
同署員;「記帳者はあなたですか」 K;「はい、Kと申します」
そのとき、奥行45cmの受付カウンターに接している事務机の上には原告の工事台帳、仕入伝票、請求書、元帳等の書類が広げてあり、それらの書類は被告署員らのすぐ目の前にあり、当然同署員らに現認されており、同署員からみれば、明らかに原告会社が帳簿書類関係の記入、整理、消費税に関する整理を行っていることが判り、同署員らはそれらの書類を確認したのである。更に、同署員はKに対し、机の上に広げられた書類のうち工事台帳を指して、「工事台帳を記入しているのですか。」と問いかけ、Kは「経営審査を受けるので、工事台帳はつけています。」と答えた。
以上の事実から、同署員らは、帳簿書類等を現認し、Kに対する作業手順、工事台帳、納品書、請求書、元帳等に関する質問をして、原告が帳簿書類等の備付、記録、保存をしていることを確認しているのである。
(イ) 前記職員らは、「待たせていただきます。」と言って、入口左側にある打ち合わせテーブルの方に移動し社長を待った。
Bが、午前9時25分ころに帰社したところ、同署員4名は、当初から威圧的で何が何でも税務署の言うことを聞けという態度で、Bに「現場の調査をする。」と告げた。これに対し、Bは、初めてのことでE税理士に確認と了解をとりたいので電話したいとお願いしたが、同署員らは「税理士は関係ない。」と言って電話をするのを認めなかった。それでも、Bが、無理矢理E税理士に電話をかけるために事務所中央の電話機のある所まで移動したところ、同署員4名は承諾を求めようとすらしないで許可なく我が物顔で事務所中央の電話機の所まで侵入し、Bを取り囲み、同人が何か言おうとすると声荒く遮り同人に意見を言わせず、「税理士は関係ない。社長さえよければ調査する。」と声荒く威圧的に言いE税理士へ電話をさせないという暴挙に出た。Bは、同署員らのこれらの言動により著しい恐怖感を覚えた。
そこに、原告のもう一人の代表取締役であるDが、次のウで述べる宇土税務署とのやりとりを終えて、階下から原告事務所に上がってきた。Dは、Bが同署員らに取り囲まれた異様な事態を目の当たりにし驚いて、Bにどうしたんだと大きな声で聞いたところ、Bが同署員らから「税理士は関係ない。社長が了解すれば調査する。」と言われ取り囲まれている状況を説明した。Dは、同署員らに対し、捜査令状を持参しているかと尋ねると共に、Cに来た宇土税務署の署員は捜査令状を持参していなかったので日を改めて調査してもらうようにしたことを告げた。
そうすると、被告の同署員らは、途端に態度が豹変し、原告に対し、「自分らが勘違いしていた。原告は宇土と熊本の二カ所に事務所があるのでダラダラと時間を要しては迷惑をかけるので早く調査を終えるため4名で来た。事務所は宇土だけで良いことが分かったので次回は2名で来る。」等と言って引き上げた。
(ウ) 以上の経緯の中で、被告署員らが、原告に対し帳簿書類の提示の要請をしたことなどないし、帳簿書類の提示の要請をしたなどと言えないことは明らかである。
また、以上のこの日の被告署員の言動により、原告及びE税理士は、被告に対し著しい不信感を抱くようになった。
ウ 宇土税務署員の言動
同日午前9時に、原告の関連会社であるCの事務所に対しても宇土税務署員2名が突然来訪し、その際、同社代表者Lは税務署の突然の来訪に驚きその調査官らに対し玄関で待つように言ったが、M上席調査官(以下「M」という。)は、原告の静止を全く無視し「机の上はそのまま」と言いながら勝手に事務所奥まで上がり込み応接テーブルの上をしきりにのぞき込んでいた。そのときのMは目が充血し口臭が強烈で明らかに2日酔いの状態であった。同社代表者及び原告代表取締役でCの取締役であるDがMに対し、E税理士へ連絡と立会を求めたが、Mは大声で「税理士は関係ない。社長さえ良ければ調査する。」等横暴な態度であった。押し問答が続いた後、Dは、E税理士と電話連絡をとったところ、すぐには行けないので日を改めて調査を行うよう伝えてくれとのことだったので同税理士のその意向をMに伝えると、同人は「税理士は関係ない。」と繰り返すばかりだった。Mに電話を代わりE税理士と話してもらってから再度日程の変更をお願いしたが、Mの態度が変わらなかったため、E税理士に言われ令状はあるか聞いたところ、Mは、今日のところは同社が帳簿を正確に記帳していることが説明の中で分かったので上司と相談すると言って引き上げた。これらの調査官の言動は、住居侵入、国家公務員法99条等違反に該当する。
その後も、同社は、調査を受けるため関係書類をダンボールに入れて準備していたが、同社に対する調査は、税理士の代理権侵害、調査理由の開示、ビデオ撮影の問題等があり、調査の入口の段階で進展しなかった。
なお、そういう中の同年6月10日、Mがひとりで来訪し、同人はDに対し「今日は個人的な話で来た。」、「私は勝手に上がっていない。」、「税理士は関係ないなどとは言っていない。」と言った。これは明らかに前記の違法調査に関し関係者の口止めをしに来たものであり、このMの言動は、今回の一連の奇異な税務調査に対するC及び原告の不信感を増幅させた。
エ E税理士の対応
同年4月2日、被告署員の乙から電話にてFに電話が欲しいと伝えられたため、原告の依頼を受けたE税理士は、同月8日、Fに架電し、調査日を同月22日から24日までの3日間と合意したが、その際、突然の調査や調査日には宇土税務署も同行するということ等から今回の調査は異常と考えた同税理士は、Fに対し、調査日には調査理由の開示、調査の必要性、税理士の代理権侵害への対応及び宇土税務署の同行の関係で行政組織法上の根拠等について調査日に質問するので、時間の無駄にならないようそれらに対する回答の準備を求めた。
オ 原告及びE税理士の対応、熊本西税務署員の言動
原告は、同月20日、調査に応じるため、帳簿書類等をダンボールに入れていつでも提示できる状態で準備し、E税理士も平成10年4月22日の調査に応じようとして立ち会うこととなった。
被告署員4名が、同年4月22日に原告事務所を訪問したのであるが、この際、前記のとおり、原告は、調査を応じようと帳簿書類等を被告の職員に閲覧検査しうる状態に置いて待っていたところ、被告署員は、前記のとおりE税理士から事前に回答の要望があっていた調査理由の開示、調査の必要性、税理士の代理権侵害への対応及び宇土税務署との共同調査に関する行政組織法上の根拠等につき全く回答しなかった。被告署員は回答の準備すらしていなかった。
このように被告署員からの回答が全くなく、また被告署員は前回は2名で来ると言いながら大勢で来たこと等から、原告は、この調査に不審を抱き調査が極めて異常であると思い、調査自体を拒否しているわけではなくあまりにも調査が違法・不当であるという事実を記録するために、被告署員に断ったうえで防衛手段としてビデオ撮影を開始した。ところが、この際、立ち会ったE税理士に対し、戊が「主はなんか・・」等と罵声を浴びせながら、走りかかって同税理士に飛びかかろうとした。同税理士は驚愕と恐怖の余りその場で震え込んだ。この事実だけ取り上げても、税理士の代理権に対する侵害や国家公務員法に違反する違法な調査であることは明らかである。
被告署員は、上記の行為に出たばかりでなく、原告が調査を受ける準備をして被告職員が閲覧検査しうる状態に置いていたにも拘わらず、事前に求めていた事項に何ら説明・回答の努力をすることなく、調査の入口で自ら調査を放棄して引き上げたものである。
カ その後の熊本西税務署の対応
同年8月5日、被告のGがE税理士に架電し、同税理士との面談と同税理士から原告の社長を説得してくれるよう申し入れたのに対し、同税理士は、税理士の代理権侵害と業務妨害の問題について文書による回答を求め、それがなされなければ社長の説得など筋違いであると答えた。
同月18日、G外2名が原告の事務所に来て「今日は赴任の挨拶に伺った。税理士に会う機会を是非作って欲しい、税理士の質問には口頭で答えたい。」との発言があったのに対し、原告は、E税理士から税理士の前記問題の解決が先決であると指導を受けていたため、税理士の問題解決が先決であると回答した。
その間、E税理士は、被告に対し税理士の代理権侵害や業務妨害に対する抗議の内容証明郵便を送付し、原告は同税理士からその報告を受けた。
同年9月9日、G外2名が原告事務所に来社し、「税理士と話をする機会を作って欲しい。お会いできなければ反面調査をする。」という半ば脅迫的発言があった。これに対し、原告は「税理士に対する回答もしないで反面調査をするなら営業妨害として対処する。」と答えた。
しかし、原告は、このGが税理士との面談を希望していることから、税務署が税理士の代理権侵害や業務妨害の問題を重要視しその是正が先決問題であるという税理士の主張を認めているものと解釈し、事態を収拾するために、GらとE税理士を面談させる機会を設けることとした。
そして、同年10月6日、E税理士が原告事務所に来社し、G外1名が来社し面談した際、GはE税理士に対し「私達の対応が十分でなくE先生には大変不愉快な思いをさせてしまい大変ご迷惑をお掛けしました。今後は十分対応していきますので宜しくお願いします。税務署員の暴言は悪いと思うが謝罪文書は出せない。」という内容の発言があった。これに対し、E税理士は「行政が過ちを侵して謝罪できない(謝罪文が出せない)のは何故なのか、税理士は代理権が生命であり、税務署も代理権で仕事をしているのではないか。」という趣旨の応対をした。その際、E税理士はGに対し「代理権の侵害と調査理由の開示について文書で回答して下さい。」と再度求めたところ、Gは「先生の意向に添った方向で文書で回答できるように上司と相談してお返事します。」と答えて別れた。
ただし、この時点で、E税理士は、税務署の誠意を多少感じたので、平成11年1月に来熊し帳簿類の調査を受けてもいいという考えになっていた。
キ 西脇税務署員の言動
ところが、平成11年1月8日午後4時から、兵庫県西脇市内のNにおいて開催されたJ税理士会西脇支部の新年会において、被告税務署の研修時代の同級生から依頼を受けたとする西脇税務署O法人税統括官がE税理士に対し「おい、Aの件を解決してやれよ。」と言いながら同税理士の頭を3回も叩きながら本件に介入してきた。そのため同税理士は激昂し、同署員の頬を叩き返し、「そのような話があるのなら普段に話をすべきであって、このような酒席でもって話をし、それも年長者に対して頭を叩くなど失礼極まりない。税務署が何様だと思っているのだ。」等と怒鳴りつけた。これは被告から西脇税務署へ非公式にE税理士の説得依頼があったものであろうが、E税理士は、折角調査を受けてもよいと考えていたのに、西脇税務署員のこの行為に激昂し非常に不愉快な思いをしたため、再び代理権侵害等の問題解決が先決であるという考えに戻ったのである。つまり、その西脇税務署員のあまりにも非常識な言動が逆効果となったのである。
ク 税務署の問題解決意欲の欠如
Gは、その後、原告に対し「調査は簡単に済ませたい。税理士に調査に入るようにお願いして欲しい。」等と申し向けた。
これに対し、平成11年4月2日、原告は、兵庫県西脇市のE税理士事務所まで出向きE税理士を説得した。その結果、原告とE税理士は、7月上旬のE税理士の来熊時にこれまでの問題を解決する方向で進めることを確認した。
しかし、Gは「7月には転勤があるので待てない。」と言った。原告としては、税理士とは契約を締結しており同税理士の指示に従わざるを得ないため、同税理士を説得し、解決に向けて最大限の努力をしてきたにもかかわらず、継続性のある行政組織である税務署が転勤等個人的な都合で待てないというのは誠に奇怪であり、この被告の対応は、行政機関として問題を解決する意思・意欲が欠如しているものである。
ケ 調査の事前通知と調査理由開示の必要性
国会の附帯決議として、1974年6月3日の72国会で満場一致で採択された「中小業者に対する税制改正等に関する請願(第1403号)」の第2項に「税務行政の改善については税務調査に当たり、事前に納税者に通知するとともに、調査の理由を開示すること」とある。そして、1977年11月17日衆議院決算委員会におけるP国税庁長官は「第一線の税務職員が税務運営方針にこだわらないとか、あるいは国会で採択された請願に全然拘束されないという表現は、ちょっとあり得ないことだと思って、常識では考えられないけれども、徹底していないむきがあるとすれば、それは重大なことでありますから、至急改めてこの趣旨(税務運営方針)はもちろん国会で採択された請願内容、それに対して十分徹底されるよう取り計らいます。」と答弁している。
上記一連の調査過程の中で、E税理士及び原告は、被告署員に対し、事前の通知が必要なことと調査理由を明らかにするように求めてきたのであり、上記の国会の附帯決議がなされた請願内容と国税庁長官の国会での答弁内容も申し伝えたのであるが、同署員らは「それらは我々には関係ない。」と言いながら、同税務署からは、事前の通知はもちろんなく、調査理由も全く述べられなかった。これらは、正に上記の採択された請願内容及び国税庁長官の答弁に反するものであり、本件の調査は適法なものとは言えない。
コ 以上のとおり被告の一連の行為は違法又は不当なものである。
(2) 帳簿書類等の提示に関して
ア 上記(1)の経緯の中で、被告の原告に対する適法な税務調査はなく、また、被告から原告に対する帳簿書類等の適法な提示の要請はなかったものである。
特に、消費税については本件各年度の帳簿及び請求書等の提示の要請は全くなかった。
従って、原処分の処分理由の前提となっている被告が適法に帳簿等の提示を求めたという事実はないものであるから、原処分は、いずれも、その前提事実を欠くものであって違法である。
イ そもそも、被告から原告に対する帳簿書類等の適法な提示の要請はなかったものであるが、原告は、終始調査自体を拒否してはいないのである。
原告は、求めていた事項について被告が社会通念上要求される説明回答をしさえすればいつでも調査に応じることは終始被告に伝えてきたものであり、現に当初からその準備をしていたのである。これに対し、被告は、これらの説明回答が課税庁として極めて容易なことであるにも拘わらず、社会通念上要求される説明回答の努力を何ら行ってきていないのである。これは正に、原告が被告の調査を拒否したものではなく、帳簿書類等の提示を拒否したと評価されるべきではなく、帳簿書類等の提示を拒否したとしてなされた原処分はいずれも違法である。
ウ 仮に、被告から原告に対する帳簿書類等の適法な提示の要請があったとしても、原告は、本件調査の経緯から本件調査に不審を抱き、以下に述べるとおり、E税理士の説明や指示に合理性があると考え、同税理士の指導に従ったものであるから、提示に応じられなかったのには正当な理由又はやむを得ない事情があったものであって、原処分はいずれも違法である。
(ア) もとより、原告は、法定記載事項を充たした帳簿・請求書等の備付、記録及び保存は忠実に行ってきており、書類上の問題としては、帳簿等を提示することに何ら支障はなく提示は可能だった。
原告は、本件調査に際しては、次の(ウ)において述べる経緯により、E税理士から、委任契約があるので税理士の代理権を無視した調査には応じないようにと指示されていた。そのため、原告は、同税理士との委任契約に違反して独自に提示に応じることができないものと思い込み、同税理士の了解を得ない限り応じられないとして、帳簿等の提示に応じなかったものである。
(イ) 原告は、税務に関してはあくまで素人であるところ、同税理士から次のとおり説明・指示を受けていた。即ち、同税理士は、原告から税務を委任され、その委任状も被告に提出し受理されており、本件調査に関しては、税理士に対する代理権侵害や業務妨害という重大な問題があるので、その問題と調査理由の開示を含めて、被告に対し文書をもって対応の是正を求めているところであって、未だ正式な税務調査には進展していないのであるから、被告署員の青色申告承認取消しや消費税の更正決定に関する予告は単なる嫌がらせ以外の何ものでもなく、それらの処分はなされないと説明・指示を受けていた。そして、原告も被告に対し文書をもってこの事情を通知していた。
このように、原告は、委任している税理士の指導であり、かつ前記(1)の経緯を見てきた原告には上記のような税理士の説明も充分合理性があると考えられたため、同税理士の指示どおりにしなければならないものと思い、かつ同税理士に全てを任せておけば税法上も何ら問題ないものと思い、帳簿等の提示には応じられなかったものである。
(ウ) 税務調査の経緯、被告署員の言動、原告及びE税理士の対応
被告の調査と称する一連の行為が違法又は不当なものであることは前記(1)のとおりであり、これらの調査には、以下のとおり重大な問題があり、原告がE税理士の指導に従ったことには合理性がある。
a 被告が問題としている今回の調査は、平成10年2月3日同職員の乙外3名が、事前の通知なしに原告事務所を訪れたことから始まり、当日は同署職員4名が原告代表者を取り囲み意見を言わせないという事実があり、同年4月22日乙職員外3名、8月18日G外2名、9月9日G外2名、10月6日G外1名、12月4日G外2名、平成11年1月13日G外2名、3月12日G外2名、4月12日G外2名が原告を訪れ、その間、電話でも幾度も交渉があっている。
b これらの中で、被告署員による調査理由を明かさず単に調査するとの申出に対し、原告は、E税理士の立会いや了解がなければ応じられないと答え、同税理士に問い合わせたところ、同税理士の指示は、調査理由の開示、調査の必要性の開示及び税理士の立会いが必要であるから同署員には引き取ってもらうようとのことであったのでその旨伝えた。これに対し、同署員は、税理士は関係ないと言って調査を進めようとした。平成10年4月20日、原告は、調査に応じるため、帳簿書類等をダンボールに入れていつでも提示できる状態で準備し、同税理士も同月22日の調査に応じようとして立ち会ったが、同税理士が事前に被告に要望していた事項についての回答を被告署員が何ら準備をしていなかったため、当日の調査は進展しないまま同署員は引き上げた。
その後、同税理士は、被告に対し、代理権の侵害、調査理由の開示の問題等について「抗議及び質問書」という文書をもって文書による回答を催促した。しかし、これに対する被告の回答はないまま、その後も、被告は税理士は関係ないとして前記と同じ態様で調査の申出が繰り返され、原告としては、調査を拒否するつもりはなく、帳簿及び請求書等を被告がいつでも閲覧検査しうる状態に置いていたのであるが、同税理士の質問への回答や同税理士の問題の解決が先決問題とする同税理士の指示で被告の善処を求めてきた。
c 以上の経緯の中で、終始、被告は、税理士の質問には回答しないまま、税理士は関係ない、調査に従わなければ重い処分を受ける旨の発言を繰り返し、何ら説明回答の努力をしてきていないのに対し、原告は、E税理士の説明・指示により、税理士の代理権侵害の問題、税理士業務妨害の問題、税理士の抗議・質問に対する回答の問題が先決であると主張してきたのである。この点について、原告も被告に対し書面をもってその事情と善処を申し伝えてある。
原告としては、被告の調査自体を拒否する必要性も利益も全くなかったのであるが、委任契約している税理士に関する前記の問題が生じたために、かつその税理士からの説明・指示があったために、被告署員との面会や電話での交渉の中で誠実に被告の善処を求めてきたものである。
この点に関する被告の善処策としては、税理士の前記質問への被告の見解や方針の書面による回答で足り得たのであるから、これは容易に可能なことであって、原告は何ら困難を伴うことを被告に要望してきたものではない。
(エ) よって、原告が結果的に帳簿・請求書等の提示に応じることができなかったことには正に合理性があり、応じられなかったのには正当な理由又はやむを得ない事情があったといえる。
(3) 原告が、法定記載事項を充たした帳簿書類等の備付、記録及び保存を忠実に行っていたことは紛れもない事実であり、かつ、被告は、原告が法定記載事項を充たした帳簿書類等の備付、記録及び保存をしていた事実を確認していたのであるから、帳簿書類等の備付、記録及び保存がないとしてなされた本件各処分はいずれも違法である。(最終準備書面14頁)
(4) 帳簿及び請求書の「保存」について(最終準備書面15頁)
ア 原告は、本件各年度において実際に課税仕入れがあったのであり、かつ消費税法30条8項及び9項所定の記載事項の要件を充たした本件各年度の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を法定の保存期間の始期から現在まで所持・保管を継続しており、勿論本件各更正処分時においても上記帳簿及び請求書等を所持・保管していた。
従って、原告は、同法30条7項でいう帳簿及び請求書等を「保存しない場合」には該当せず、同項に規定する帳簿書類の保存があったとは認められないとしてなされた本件各課税処分は、いずれも違法である。
イ 消費税法の解釈について
消費税法30条7項は、同条1項の規定を適用しない場合の要件を定めたものであるが、帳簿及び請求書等の保存は専ら事業者側の事情であるから、その反対解釈として、租税実体法上の仕入税額控除のための要件を定めたものと解すべきであり、本件のような更正処分取消訴訟においては、事業者が、課税期間内に具体的に課税仕入れがあった事実に加えて、同条8項、9項所定の記載事項の要件を充たした帳簿及び請求書等を、消費税法施行令50条等の法令により定めされた保存期間の始期から訴訟における違法判断の基準時である更正処分時まで継続して保存していた事実(整理し所持・保管していた事実)を主張・立証したときは、仕入税額控除をすべきことになると解すべきである。
被告の主張は、事業者が税務調査の際に帳簿及び請求書等の提示を拒否した事実がある以上、租税実体法上、仕入税額控除はいかなる場合も認められないというものである。
しかし、消費税法30条7項は「第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。・・・」と定めているのであって、税務調査において帳簿等を提示しなかった場合は仕入税額控除を適用しないとも、税務調査において帳簿等を提示しなかった場合には帳簿等を保存をしないものとみなし仕入額控除の適用を受けないとも規定されていないのである。
租税法律主義のもと実体法上の課税要件は明確でなければならないところ、上記のとおり、同法30条7項は「保存しない場合」と規定しているのみであり、その他の法条や施行令においても通常の保存の文言の意味を超えて課税庁側への提示の有無が租税実体法上の効果に結びつくことを窺わせるような規定は一切存在しないのである。
また、消費税が、課税期間における事業者の売上高から仕入れ高を控除した付加価値に対して課税されるいわゆる付加価値税であって、前段階での取引で課税された税額相当分を次の段階の取引の課税に当たって控除する制度であることに照らしても、事業者が帳簿等を保存しない場合には仕入税額を控除しないと規定している同法30条7項の解釈、適用においては、限定的に解釈されるべきである。すなわち、「帳簿の保存」が仕入税額控除の要件であるとしても、同項が適用されるのは、所定の帳簿等が保存されず、他に課税仕入額を合理的に推認する手段がない場合に限られると解すべきである。このことは、同法が「保存」と「提示」(62条4項、68条2号)を明確に区別して使用しており、「保存」がない場合に仕入税額の控除を否定するという立場をとっていることからも明らかである。
被告の前記主張は、税務調査の際に事業者が帳簿及び請求書等の提示を拒否したことを、同法30条7項の保存がない場合に該当する、あるいはそれと同視した結果に結び付けるものであり、保存という文言の通常の意味からしても、また、法全体の解釈からしても、法解釈の域を超えるものである。
同法30条7項、10項、同法施行令50条が帳簿及び請求書等の保存を事業者に要求したのは、課税仕入れに係る消費税額の確認を行うためであろうが、その確認主体は、法定されていない以上、課税庁だけに限られると解すべき根拠はなく、裁決庁もあり得るし、取消訴訟等が係属する裁判所も当然に予定されているのである。仮に被告の主張のように解すると、税務調査の際に帳簿及び請求書等の提示を事業者が拒否した事実が主張・立証されると、その一事で、課税仕入れの事実の有無やそれに係る帳簿及び請求書等の所持・保管の事実について裁判所の司法判断を経ないまま、仕入税額控除が認められないことになるが、同法30条1項、同条7項及びその他の規定からもこのような法的効果を導く解釈をとることは、絶対無理である。
また、税務調査の際に提示を拒否したといっても、その態様及び評価は様々で明確性を欠くものであるから、被告の主張のように、このような提示の拒否を実体法上の消極的課税要件とすることは許されない。
(5) 青色申告承認取消事由の解釈及びに本件青色取消処分について(最終準備書面18頁)
いうまでもなく、青色申告承認の取消しは、事業者の税法上の種々の特典を剥奪し納税額の増加をもたらす重大な不利益処分であるからその取消事由は厳格に解釈されなければならず、納税者の不利益に働く方向への拡張解釈は許されないといわなければならない。法人税法127条1項1号は、青色申告承認の取消事由として、帳簿書類の備付け、記録又は保存が法令に従って行われていないことという要件を定めているが、前記の趣旨からすると、法令に従った帳簿書類の備付け、記録又は保存がなされていないという客観的事実の存在が必要であり、取消事由の認定に当たってはその判断は慎重になされなければならず、課税庁の判断のみを優先させることはできないというべきである。従って、その取消処分の取消訴訟において、法令に従った帳簿書類の備付け、記録又は保存がなされていたという事実を主張・立証した場合には青色申告承認取消処分は取り消されるべきである。
よって、本件においては、前記(4)アで述べたとおり、本訴において、法令に従った帳簿書類の備付け、記録又は保存がなされていたという事実を主張・立証しているのであるから、本件青色取消処分も取り消されるべきである。
(6) 権利濫用又は信義則違反の主張(最終準備書面19頁)
本件各処分は、いずれも以下の理由により権利濫用又は信義則違反として許されない違法なものであるから取消しを免れない。
ア 原告にはそれまで何も問題がなく、事前の連絡なしに調査をされる部類に属するという何ら明確な根拠もないにもかかわらず(証人乙)、原告に対し事前通知・予告なしに突然調査が開始された。しかもCに対する宇土税務署の調査と同時に調査が開始されたが、これは原告とCの各事務所が同じ建物の中にあるというだけの理由で熊本西税務署と宇土税務署が連絡を取り合って連携して行ったものである(証人乙)。これら事前連絡なしの調査や宇土税務署と連携した調査に対しE税理士や原告代表者らは被告に対する大きな不信感を抱いた。それまで税務署には協力的であり約10年前から毎年年末に約20~30の取引業者を集めて納税協力説明会を開催するなどして税務申告を適正に行うよう指導してきた原告にとって、本件調査に不信と異常性を感じたのはなおさらだった(甲14)。
イ 原告は、調査の当初から、法定の帳簿、請求書等を所持保管しており、いつでも提示できるように調査の当初から準備していた(原告代表者)。
ウ 本件調査の過程では、原告が種々の違法行為と主張している事実があった。
エ 平成10年4月22日の調査のとき、E税理士がビデオ撮影や録音の準備をしており撮影や録音を止めるように言ったが止めなかったので調査を続けることができなかったという被告の主張には全く根拠がない。被告は、ビデオ撮影や録音により第三者に関する事項が流布される可能性があり守秘義務に反することを理由として撮影や録音を拒否したと主張するようであるが、E税理士が撮影等の準備をしたのは、前記のとおり本件調査に不審を抱いていたため、調査において異常な言動等がないかを監視するために調査の状況を撮影等しようと考えたものと思われるところ、その種の撮影等により、原告の取引先等の情報(取引先名や金額等)が撮影されたり録音されたりすることは現実問題として全く考えられないものであり、仮に多少の情報が撮影等されたとしても原告は元々取引先の情報は有しているわけであって、税務調査時の録画や録音を利用することによって原告が自己の取引先等の情報を流布することなどあり得ないことである。従って、被告主張の第三者情報の流布の可能性というのは全く理由にならない。そうすると、被告が撮影等を拒否した真の理由は調査に当たる税務職員の言動が撮影等されることを拒否したことになるが、この撮影等は調査の対象者であって一方当事者である原告側が行うものであるから、撮影等行う自由があり被告職員はこれを拒否することはできないのである。被告の内部規程等にもこれを拒否したり排除するという規程はない(証人乙)。
オ 原告は、被告の調査への対応について、原告は税務には素人であったため、委任契約を締結している税理士の指導に従ってきたのであり、本件については同税理士の主導で対応がなされてきた。
カ 同税理士は、被告に対し、調査理由の開示、調査の必要性、税理士の代理権侵害への対応、宇土税務署の同行の関係行政組織法上の根拠等について回答を求めてきたが、被告からは何ら回答がなかった。
キ 原告は、同税理士と契約があり、同税理士からの前記税理士問題の解決が先決と指導を受けていたため、税理士の問題への対処が先決と回答してきた。
ク 原告は、被告に対し、調査自体を拒否していたものではなく、被告と同税理士の問題が解決すればいつでも調査に応じられる旨回答してきた。
ケ 同税理士の要望は主に調査理由について書面で回答を要望したものであり、同税理士は、被告あるいは被告職員の何らかの文書による回答があれば調査に応じる意向であったのに、被告は、書面による回答をしてはいけないという規程上の明確な根拠もなく、最後までこれを拒否し続けた(証人G)。Gは慣行とか経験とかを書面で回答できない理由としてあげているが、意思や情報の伝達方法として書面によることが原則とされている現代社会においては、それを否定する慣行や経験というものは全く理由とならないものである。ましてや正確性や厳格性を要求される税務行政においてはなおさらである。そして、本件においては調査が始まりかなりの期間が経過していたので調査理由を書面により開示しても税務調査上は何ら問題がなかったはずであり、かつ書面による回答という税理士の要望に対する被告の対応と考えられるのは、単に口頭で述べるところを書面にすればよいだけのことであり極めて容易であったにも拘わらずそれがなされなかったのである。また、本件の仕入税額控除の否認額が莫大なものであることを考えると、なおさら更正処分という重大な不利益処分を行う前にこのような容易な対応がなされてしかるべきであった。
コ 同税理士は平成10年10月6日の時点で平成11年1月に来熊したとき調査を受けてもよいという考えになっていたが、西脇税務署員の一件でそれが実現しなかった。原告はそれまでも同税理士を説得していたのであるが、被告から同税理士を説得するよう依頼を受け、平成11年4月2日には、兵庫県西脇市まで出向いて調査を受ける方向で同税理士を説得し、その結果同年7月上旬の同税理士の来熊時に解決することで話をつけたが、被告は7月には統括官の転勤があるのでそれまでは待てないという理由でこれを拒否した。このように、原告は、委任契約を締結している同税理士の指導に従わざるを得ないため、終始、同税理士を説得し、解決に向けて最大限の努力を重ねてきたのである。
サ 被告が前記7月までは待てないとして拒否したため、原告は、被告と同税理士の問題で板挟みになり身動きできない状態となったため、やむを得ず、平成11年4月28日付け内容証明郵便にて、同税理士に対する誠意ある対処が先決であること並びに弁護士を窓口とするので同弁護士に連絡されたい旨通知した。ところが、その後、被告からは何ら連絡もなく、突如として同年7月2日付けで本件各処分がなされたのである。
以上の経緯からすれば、本件各処分は、あまりに不条理であり酷であるといわなければならない。
しかも、本件各課税処分により納付すべきとされた税額は、合計6533万9400円の膨大な額に上り、一方、原告は、実際には本件各年度中における課税仕入れにかかる消費税額は支払ってきているものであり(帳簿類等の客観的な保存がなされていることも明らかである)、これに加えて、本件各課税処分のとおりの膨大な税額を納付せざるを得ないことになれば、原告にとってあまりにも不条理かつ酷な結果となり、被告は結果的に消費税を二重に取得していることになる。
第3当裁判所の判断
1 請求原因(1)ないし(4)は、当事者間に争いがない(ただし、原告が本件青色取消処分及び本件各更正処分について異議申立てをしたのは平成11年8月30日又は31日であり、原告に対し、本件裁決書謄本が送達されたのは平成13年12月26日又は27日である。)。
2 被告の主張(1)(本件調査の経緯)について
上記争いのない事実並びに証拠(甲4、5、7ないし14、16ないし25、乙4ないし6、14ないし16《枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。》、証人乙、同G、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、同認定に反する甲12、16ないし19、原告代表者の供述は同認定に供した前掲各証拠に照らし採用することができず、他に同認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告は、B及びDを代表取締役とする株式会社であり、9社からなるQグループの内の1社である。DはQグループのトップであるとともに、同グループ内の企業であるCの取締役でもある(甲4の3頁、19の2・18頁)。
原告は、設立時から、Dの知人であったE税理士に税務申告等を依頼しており、本件各年度についても法人税及び消費税等につき税理士法に規定する行為を行う代理人と定め、委任状を確定申告書に添付して提出していた。
(2) 平成10年2月3日午前9時ころ、乙らは、原告の税務調査のため、事前に通知することなく原告事務所に臨場した(以下「第1回臨場調査」という。なお、原告事務所《2階》と同じ建物の1階に、Cの事務所があり、同時刻ころ、宇土税務署の調査官らが、税務調査のため同事務所に臨場していた。)。Bはそのころ不在であったが、午前9時30分ころ、同人が帰社したため、乙らは、Bに対し、原告の税務調査のために臨場した旨を告げ、身分証明書を提示するとともに調査協力を要請したところ、Bは、当初は調査の立会いの時間が何とかとれる旨述べていたが、E税理士に確認と了解を得るために電話をした後、乙に対し、E税理士が来ることができないため、調査を延期して欲しいと申し入れた。これに対し、乙が、B自身の意向を確認するとともに当日の調査協力を要請したところ、Bは「うちは先生にすべてをお願いしていますので、先生が調査をだめと言われればだめだということです。」と述べた。そこで、乙は、Bと電話を代わり、E税理士に対し、Bの了解を得て調査を進めさせてほしいと述べたが、同税理士は応じず、乙が、同日現状確認だけを行い、帳簿調査は後日に改めて行うことを提案しても、同税理士は「現状確認でも私の立会いがなければだめである。」と述べ、その後も両者間で同様のやりとりが繰り返されたが、乙の要請に応じなかった。
上記電話の後、乙は、Bに対しても、当日現状確認だけ行い、帳簿調査は後日に税理士立会いのもとで調査させてもらいたいと述べ、当日の現状確認だけでも了解してもらうべくBを説得したが、Bは、「我々は先生(E税理士)の指示で動いており、今日は先生が来られないのでいかなる調査にも応じるわけにはいかない。」旨述べ、乙の説得には応じなかった。その後、Dが原告事務所に来て同席し、しばらく同様のやり取りがあったが、B、Dの態度が変わらなかったため、乙らは、当日の調査を断念し、午前10時ころ、原告事務所を辞去した(乙らが特段威圧的であったとは認められず、BがE税理士への電話を妨害した事実も認められない。)。
(3) 同年4月8日、E税理士とFが電話で日程調整をし、次回臨場日を同月22日から24日の3日間とする合意がなされた。その際、Fは、E税理士に対し、次回には4人の調査官が臨場する予定であり、宇土税務署のCに対する税務調査と同時に行われる予定であると告げたところ、E税理士は、次回臨場日に、本件調査の調査理由の開示、調査の必要性、税理士の代理権侵害への対応、宇土税務署の同行の関係で行政組織法上の根拠等について説明を求める予定であると告げ、回答の準備を求めた。ただし、Cに対する臨場調査は、後に日程が変更された(甲8、12、16)。
(4) 乙らは、同月22日午前9時30分ころ、上記(3)の日程調整の結果に基づき原告事務所に臨場した(以後「第2回臨場調査」という。)。乙らは、同事務所に隣接する建物の2階の会議室に案内された。その室内には、D、B、E税理士、同税理士の事務員が立ち会っており、室内には、机、椅子の他に三脚付きのビデオカメラ、テープレコーダーが準備されており、帳簿書類等は、机上には出されておらず、同会議室の壁から出ている柱の下に段ボールに入れて積み重ねてあったものの、乙らは現認しておらず、帳簿書類等の提示ないし提示の申し出もなかった(乙14、証人乙57、69、原告代表者52ないし54、)。
調査を開始するに当たり、E税理士は、あらかじめ設置していたビデオカメラが撮影開始されたのを確認してから、第1回臨場調査の際、事前連絡なしに、6人の税務職員が一斉に踏み込んだ理由を説明して欲しいと述べた。これに対し、乙は、所得金額の確認のためであると説明したが、E税理士は納得せず、Dも「それはあなた方の詭弁だ。」などと述べた。
また、乙は、ビデオカメラの撮影をやめるように申し入れたが、E税理士は、「あんなに大勢で会社に踏み込んで、ちゃんとした調査理由の開示もない。このような異常な調査に対しては、我々としても異常な態勢で対処する。また、先日は、何の連絡もなしに会社に来て、私に電話で社長の了解を得れば私の立会いがなくとも調査を始めると言ったが、あれは代理権の侵害に当たる」などと述べ、ビデオカメラの撮影を続けた。
乙は、「会長(D)、社長(B)、先生(E税理士)がそのような態度でおられるのであれば、我々は調査拒否と解せざるをえない。」と告げたところ、Dは「拒否ではなく、調査理由に納得がいかないといっているのです。納得のいく回答であれば調査に応じます。」と述べて、以後、同様のやりとりが繰り返された。
その間、同行していた戊が立ち上がり、「ビデオはやめてください。」と言って、両手を広げビデオカメラの前に立ちふさがったことがあった(戊が、E税理士に飛びかかろうとしたとは認められない)。
結局、E税理士らは、ビデオカメラの撮影の停止要求を受け入れなかったため、乙らは調査拒否であると判断し、午前9時50分ころ、原告事務所を辞去した。
(5) 同月23日、E税理士及びDが熊本西税務署に来署し、事前通知や調査理由の開示なく税務調査が行われたことを不服とし、また、第1回臨場調査の際、乙らが「税理士は関係ない。」と述べて同税理士の代理権を侵害した等と主張し、更に、第2回臨場調査の際、準備を依頼していた質問事項の回答もせずに引き上げるのは失礼であるなどとも主張して調査担当者らの態度について苦情を述べるとともに、翌日の午前中までに回答するよう求めた。その際、E税理士は、回答がないときには調査を拒否し、場合によっては損害賠償請求訴訟を起こすつもりであると述べた。
(6) そこで、同月24日、Fは、E税理士に電話連絡をし、前日の回答要求について次回調査日のときに回答したい旨伝え、調査協力を要請したところ、同税理士は、「調査を受けるつもりは全くない。調査拒否ということで対応されるのであれば構わない。旅費宿泊費を要して熊本まで行ったにもかかわらず調査をしなかったことについては、国に対して損害賠償を求めたいと考えている。」旨述べた。
(7) Fは、同年6月3日、再度調査協力の要請を行うため、E税理士と電話で話したが、同税理士は、「先日は4日もつぶして行ったのに調査がなかったので、調査に応じる気は全くありません。はっきり、調査を拒否すると言ったはずです。」と述べ、Fが「社長も同様の見解であるのか。」と確認したところ、同税理士は「私は会社から委任を受けているため、私がだめといったらだめです。」と返答した上、「ところで、先日『税理士は関係ない。』と言ったことについてはどう考えているのですか。」と質問し、Fは、「そのような言い方はしていないはずである。」と回答した。更に、同税理士は、「4月23日に熊本西税務署に行った際の申入れ事項についても、署長の見解を回答してもらっていない。」と申し立て、Fの「何度お話ししても、調査に応じる気持ちはないということですか。」との質問に対しても、「はい。どのような処置をされても対抗していきます。」と返答した。
(8) Fは、同年6月22日、Dに電話をし、E税理士との電話の内容を伝えるとともに、調査協力を要請した。これに対し、Dは、E税理士が求めている回答をするようにと述べた。そして、Fが、Dとしては、E税理士が納得しなければ調査を拒否するのかと質問したところ、Dは、「先生とは委任契約をしていますので、私が出過ぎたまねをすれば契約違反になりますし、申告についても厳しく指導してもらっていますので、先生の指導にはついて行きます。」と返答し、Fに対し、E税理士が調査の入り口の時点で納得していないため、同税理士にもう一度電話をして欲しいと述べた。
そこで、Fは、引き続きE税理士に電話をし、上記Dとの電話の結果を伝えた上で、調査協力を求めたが、同税理士は、同人の質問に対する回答が先であり、回答が得られない限り調査を拒否する旨の主張を繰り返した。
(9) Fの後任となったGは、同年7月31日、Dに電話をし、「人事異動で担当者が変わったのでそのあいさつのため臨場したい。」と述べたところ、DはE税理士に対応等を聞いてから連絡する旨返答したが、その後連絡はなかった。そこで、同年8月3日、GがDに再度電話をし、再び原告に臨場したい旨伝えたところ、Dは、E税理士から断るように指示されたと述べ、Gに対し、E税理士に電話するよう求めた。
(10) そこで、同月5日、Gは、E税理士に電話連絡をし、人事異動で担当者が替わったことを伝えた上で、DはE税理士の承諾があれば調査に応じる意向であるから、調査に協力して欲しいと述べた。しかし、同税理士は、「私の方は代理権の侵害や冒涜を受けている。質問書を出しているが、これに対する回答をもらっていない。また、税務署に出向いて署長に会いたいと言っても会わせてもらえない。4月22日の調査の際も、調査立会いのため、4日間を見込んで出張してきたのに1時間くらいで帰ってしまった。その翌日から2日間会社にいたが、税務署から何の連絡もなかった。会社に報酬等の請求もできないので、私は、国家賠償請求も考えている。」と従前の主張を繰り返し、文書による回答を出してもらえれば調査に応じるつもりはある旨述べた。Gは、E税理士の質問に対し、Gが回答できることは回答したい旨述べ、E税理士が来熊予定である10月に会ってくれるよう要請したが、同税理士はこれにも応じようとせず、「あなたが10月に会社へ来るなら、私は会社へは行かない。」と述べた。
(11) Gらは、同年8月18日、調査担当者の交替に伴うあいさつと調査協力要請のため、原告事務所に臨場して、Dと会った。同人は、従前の経緯等についての不満等を申し立てたほか、「私は調査を受けても一向に構わない。ただ、税理士が税務署に対して税理士生命をかけても争うと考えている以上、私はついて行こうと考えている。しかし、訴訟をして事を荒立てるより穏便に済むのであれば、早期に解決したいとも考えている。」と述べた。
そこで、Gは、Dの考えどおり、調査を早期に進めていきたいので、E税理士の協力が得られるよう、Dからも話をするよう要請し、同人もこれを了承した。
(12) Gは、同年9月2日、Dに電話をして確認したところ、同人は、E税理士に熊本西税務署の意向は伝えたが、同税理士の考えは分からないと述べた。
(13) 同月7日、E税理士から被告に対し、「抗議及び質問書」と題する書面(以下「抗議文」という。)が、書留内容証明郵便で送付された。上記書面の内容は、第1回臨場調査について異常な同時不意打ち調査であり、その際、乙が「先生は関係がないので社長さんさえよければ調査をします。」との重大発言をした、第2回臨場調査において、事前に回答を求めていた事項について全く説明ないし謝罪がなされず、調査が進展しないとして約1時間で帰ってしまった、翌23日に署長面会を求めるなどして抗議したが、その後も誠意ある回答は得ていない、その後、Gが重ねて原告へ調査の申し出をして、税理士の代理権侵害を重ねている等として、「重大な決意をもって厳重な抗議をする」とともに、以下の点について2週間以内に文書で回答するよう記載されていた(乙4の1、2)。
「ア 税理士法第2条1項1号の代理権についてどのように理解し、担当者の発言をどう思考するのか。
イ 税理士法30条の委任状についてどのように理解しているのか。
ウ 民法の委任契約についての解釈。
エ 1974年6月3日衆議院本会議で満場一致で採択された請願(第1403号)の「税務調査に当たり、事前に納税者に通知するとともに、調査の理由を開示すること」をどのように理解しているのか。
オ 1977年11月17日の衆議院決算委員会で「【税務運営方針】はもちろん国会で採択された請願内容、それに対して十分に徹底されるよう取り計らいます。」とのP国税庁長官の発言についての見解。」
(14) Gらは、同年9月9日、調査協力要請のため原告事務所に臨場し、Dに上記(13)の抗議文のことを伝え、調査に協力するよう求めた。Dは、「調査の入口でボタンのかけ違いがあったものの、調査が早く終了すればよいと考えています。」と述べる反面、「私は、先生を信頼し、先生と委任契約を結んでいる以上、先生の了解が得られないまま勝手に調査を受けることはできない。」とも述べた。
Gは、「本来、法人の調査に対する了解は、法人の代表者である会長や社長から得るべきものであって、先生に直接お願いすべきものではないと考えます。逆に申し上げると、調査について税理士の了解を得ても、会長や社長の了解がないとできません。先生への委任は、調査を受ける、受けないという調査の承諾というよりは、調査を受けたときに、会社に代わって答弁をすることだと思います。」と説明し、Dの理解を求めた上、「会長や先生の協力が得られず、元帳等を見せていただけないと、反面調査や銀行調査等をさせていただいて所得を確認することになります。」と伝えた。これに対し、Dは、「当社も硬には硬、軟には軟の対応をしなければならないと考えている。」とも述べたが、Gが個人的には反面調査や銀行調査をせずに帳簿等の調査によって早期に調査を終えたいと思っていると述べたところ、結局、Dが、同年10月にE税理士が来熊した際、税務署員と話合いがもてるよう取り計らってみることになった。
(15) 同年10月5日、DからGに電話があり、電話を代わったE税理士はGに対し、「私は税理士の代理権侵害と調査理由が明らかでないので調査を断っている。質問書に対して、文書による回答もない。」と述べ、従前の主張を繰り返したため、Gが、文書では回答できないが、自分が説明できるところは説明する旨述べ、調査官の人数も3名から2名に減らして臨場する旨述べたところ、同税理士は、翌日の臨場を了解した。
(16) 同月6日、G他1名の調査官は、原告事務所に臨場し、D同席の上、E税理士と直接話をし、改めて調査協力を求めたが、同税理士は従前と変わらず、代理権侵害と調査理由の開示がないことを理由に調査を断ると述べた。Gは、なおも調査に対する協力を要請したが、E税理士は抗議文に対する回答を要求したため、Gは、「文書による回答はできないことを了解していただきたい。また、税理士の代理権侵害の有無と調査の受任義務とは別の問題であるから、調査に対しては協力をお願いしたい。調査に協力していただかないと、本意ではないが、反面調査や銀行調査を行わざるを得ないことになる。」と説明し、重ねて調査の協力を要請した。しかし、同税理士は「今回の調査は異常な調査であり、それに基づく反面調査や銀行調査も違法なものである。」などと述べ、Dも、「企業防衛の立場から、取引先や取引銀行あてに、当社の委任状がない限りは調査に応じないよう要請する文書を用意しているし、反面調査等を強行されれば損害賠償を要求していくつもりである。」などと述べた。Gは、更に、「調査に協力してもらえれば、直ちに銀行調査や反面調査を行うとは考えていませんし、仮に銀行調査等を行うことになれば会社の信用問題にもなりますので、よく考えていただきたい。」、「会社の従業員やその家族のことも十分に考えて、調査に協力してほしい。」と説得を続けたが、Dは、「仮に信用問題になり、会社の存続ができないような事態になれば、会社を解散してでも徹底的に争っていく。」、「私としても、穏便に調査を進めていただいて、早期にこの問題を解決したいと考えていますが、税務に関しては先生に全面的に委任していますので、先生の了解を得てほしい。」と述べ、調査に応じようとはしなかった。そこで、GはE税理士に対し、「今回の調査と税理士の代理権侵害問題とを切り離して調査に協力していただけませんか。」と申し入れたが、E税理士はこれにも応じられないと答えた。
また、当日の最後に、同税理士は、Gの再度の調査協力依頼に対し、「ほとんど可能性はないと思うが、検討して連絡する。」と述べた。
(17) そこで、同月29日、GがE税理士に電話をし、上記(16)の検討の結果について尋ねたところ、同税理士は、やはり税務代理権等について説明がないと調査には応じられないと述べ、Gが、できれば会社に迷惑をかけたくないなどと述べて説得したが、同税理士の主張は変わらず、「会長も私と一緒に戦っていくと言っています。」と述べた。
(18) 同年12月4日、Gらが原告事務所に臨場してDと面談し、調査を早期に実施したいと協力を求めたところ、同人は、同日にでも税務調査を受けることについてE税理士に連絡すると述べた。
(19) Gは、同月18日、上記連絡の結果の確認のためDに電話したところ、同人は、E税理士とだいぶ長く話したが、やはり調査理由の開示と代理権侵害に回答がないと了解できないと述べていたと報告し、「何か両方とも丸く収まる方法はないのでしょうか。」と述べたため、Gは、「署の方でももう一度検討してみます。」と答えた。
(20) Gらは、平成11年1月13日、再度原告事務所に臨場し、Dに調査協力を求め、「このまま調査について協力いただけないのであれば、本意ではないが、反面調査や銀行調査を進めざるを得ないし、そうなれば、御社だけでなく、取引先にまで迷惑をかけることになってしまいます。また、帳簿等を見せていただけないのであれば、青色申告承認の取消しや、消費税については課税仕入れが認められないという処理も行わなければならないことになります。そこで、会長から先生に対し、調査協力してもらえるよう取り計らっていただきたい。」との説明ないし協力要請を行った。これに対して、Dは、自分としても解決すべく努力したいと思っており、被告側としてもE税理士に協力して欲しいと述べた。
(21) Gらは、同年3月12日、原告事務所に臨場し、調査協力を要請し、上記(20)と同様の説明を繰り返した。これに対して、Dからは「4月に西脇市(E税理士の事務所)に行ってきっと土産を持って帰りたいと思っている。」と返答した。
(22) Gらは、同年4月12日にも原告事務所に臨場した。Dは、E税理士が文書による回答を求めていたとして、Gに対し、文書による回答を求めるとともに(税務署としての回答でなくても、G名義の回答でもよいなどとも述べた。)、同年7月上旬、E税理士が来熊した際に話合いで解決できるのではないかと思うと述べたが、Gは、「文書による回答はできません。7月には税務署の人事異動があり、担当者が替わるかもしれません。先生の心が開かれなかったことは大変残念なことですが、私達も調査を終了しなければなりません。先ほどから申し上げているとおり、会社の方で元帳等の提示がされず、調査に協力していただけない場合には、取引先や銀行への反面調査の実施や、青色申告承認の取消し、消費税の課税仕入れを否認する等の処理を進めていくことになると思います。」と説明し、今後の方針について改めて連絡すると伝えた。
(23) Gは、同年4月27日、Dに電話をし、反面調査及び銀行調査を行うことになり、青色申告の取消しと消費税の仕入税額控除の否認の更正も合わせて行うことになったとの税務署の方針を伝えたところ、Dは、E税理士に伝えると述べた。
(24) その後の経緯
D及びBは、同年4月30日、被告に対し、「当社は税理士と顧問契約をしている以上契約無視の独自判断による税務調査は受けられないので、税理士に対する誠意ある対処が先である旨主張しているものである。にもかかわらず、再三再四に亘る脅迫を受け、やむを得ず、顧問税理士に加え下記の弁護士先生に税務調査を含めた法的対応をお願い致しましたので、今後は全て下記に連絡されるよう通知する。」として、受任弁護士名等を記載した文書を内容証明郵便で送付した(乙5の1・2)。
また、E税理士も被告に対し、同日、本件調査における調査担当者の対応を非難するとともに、「今後は貴署の小生に対する代理権侵害の賠償請求と共に、Aの委任契約の副代理人として税務調査を含めた法的手続の一切を、下記の先生に委託すべく準備中であることを通知する。」として弁護士事務所名を記載した文書を内容証明郵便で送付した(乙6の1・2)。
他方、被告側は、同年6月以降、原告について反面調査や銀行調査を行い(証人G33)、同年7月2日付けで本件各課税処分がなされた。
原告は、本件各課税処分後の同年8月21日、E税理士を解任した(甲9)。
その後、原告は、被告に対し、同年8月30日又は31日、本件青色取消処分及び本件各更正処分について異議申立てをしたが、同年11月24日付けでいずれも棄却された。そこで原告は、同年12月22日、国税不服審判所長に対し、本件青色取消処分、本件各更正処分及び異議決定を経ていない本件各賦課決定について審査請求をしたが、平成13年12月17日付けで上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決がなされた。
なお、異議審理庁における異議調査において、その担当職員は、原告が、本件各年度に係る消費税法30条7項ないし9項に規定する課税仕入等の税額控除に係る帳簿及び請求書等を保管し、本件事業年度に係る法人税法126条1項に規定する帳簿書類を保管していることを確認し(甲4の9頁)、国税不服審判所は、平成12年12月7日、原告の求めに応じて原告事務所に臨場し、上記帳簿等書類を保管していることを確認しており(甲4の20頁)、本件訴訟係属中においても、原告は、上記帳簿等書類を保管している。
3 上記2の事実を前提として、以下、原告の反論(1)のうち問題となる点につき、順不同で検討する。
(1) 調査の事前通知と調査理由の開示の必要性について
まず、原告主張の国会で採択された請願は税務執行に当たって法的な拘束力を有するものではなく、国税庁長官の答弁に係る税務運営方針も税務行政を進めていく上での原則論を示したものであり、税務調査に当たって一律に事前通知及び調査理由の開示を行うべきことを定めたものではないと解される。
次に、調査理由の開示については、納税者に対して具体的に開示することは法律上の要件とされておらず、また、調査の事前通知についても法律上の要件とされているものではない。
更に、質問調査権に基づいて行う税務調査は、適正な租税負担の実現のために行うものであるから、過少申告の疑いが存する場合に限らず、そのような疑いが明らかでない場合であっても、申告の真実性、正確性を確認するために行い得るのであり、質問調査権の行使の時期、場所、範囲、程度、方法等については、これを行使する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解するのが相当である。
そして、前記2(4)のとおり、平成10年4月22日の本件調査に当たり、調査担当者は、原告に対し、所得金額の確認のための調査である旨告げており、それ以上に具体的な調査理由を開示する必要があったとは認められない。
また、事前通知をしなかったことについても格別これを不相当とするような事由は認められず、質問調査権の行使の時期等についての調査担当者の判断に不合理なところがあったともいえない。
(2) E税理士の代理権侵害について
原告は、原告の反論(1)イ(イ)のとおり、平成10年2月3日の臨場調査の際、調査担当者がBに対し、「税理士は関係ない。」と声荒く威圧的に言いE税理士へ電話をさせなかったと主張し、甲19(別件訴訟におけるBの証人尋問調書)には同主張に沿う部分がある。
しかし、反対の趣旨の乙14(乙の陳述書)に照らすと、上記甲19はたやすく採用することはできず、他に上記原告の主張を認めるべき証拠はない。
また、仮に調査担当者が「税理士は関係がない。」と発言したことがあったとしても、結果的には、BがE税理士の意見に従い、調査に応じなかったのであるから、E税理士の代理権の侵害があったとまでは認められず、上記発言により本件調査自体が違法となるとも解しがたい。
(3) 本件調査と宇土税務署の調査の関係及び宇土税務署員の言動について
まず、原告とCとに対する調査は、被告と宇土税務署とがそれぞれの管轄区域内の納税義務者に対し、その行政機関に所属する職員に付与された質問検査権に基づいて行ったものであり、行政組織法上の問題は生じないというべきである。
また、原告は、原告の反論(1)ウのとおり、Mの言動を問題とするが、Mは宇土税務署の職員であり、宇土税務署の職員のCに対する調査の違法をもって、本件調査の違法とすることはできない。
(4) 第2回臨場調査における戊の行為について
原告は、戊が、E税理士に対し、「主はなんか・・・・」等と罵声を浴びせながら、走りかかって同税理士に飛びかかろうとしたと主張し、甲17(別件訴訟におけるDの証人尋問調書)、19(別件訴訟におけるBの証人尋問調書)には、同主張に沿う部分があるが、反対の趣旨の乙14(乙の陳述書)に照らすと、上記甲17、19はたやすく採用することはできず、他に上記原告の主張を認めるべき証拠はない。
(5) Gが反面調査等を行う旨伝えたことについて
原告は、原告の反論(1)カのとおり、Gらが原告事務所に臨場し、E税理士との面談を希望し、「お会いできなければ反面調査をする。」という半ば脅迫的発言を行ったと主張する。
この点、前記2(14)のとおり、GがDに対し、帳簿等の提出がなされなければ、反面調査や銀行調査等を行うことになると告げたことは認められる。
しかし、法人税法154条は、税務職員が取引先等に対する調査(いわゆる反面調査)ができる旨規定しており、この取引先等に対する反面調査は、納税者本人に対する調査と同様に、適正な租税負担を実現するために必要な資料を的確に収集することを目的に行われるもので、これを行うかどうかは、納税者の事業内容、申告内容、調査に対する協力度等その納税者の個別事情からみて、調査権限を有する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解される。
本件では、原告が被告側の度重なる説得にもかかわらず、帳簿書類等の提出を行わず、現にGが上記教示した調査を行っているのであり、Gの発言の趣旨は、税務調査に対する協力を何度も要請する中で、法によって付与されている権限の執行を適切に教示したものであり、その発言に脅迫などという違法な点は認められない。
よって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(6) 原告は、抗議文等に対する被告の文書による回答が調査に応じるための前提条件であったと主張するが、被告側にこのような文書回答の法律上の義務があるとは到底認められず、被告が文書で回答しなかったことをもって違法ないし不当であるとは認められない。
(7) その他、本件調査における調査担当者らの個々の行為に違法な点があったことを窺わせるに足りる証拠はなく、全体としても、前記2のとおり、調査担当者らは、約1年3か月の間に、原告事務所に9回臨場し、10回以上にわたり電話連絡をし、税務調査に応ずるよう粘り強く説得を続けたものであって、本件調査は社会通念上相当なものであり、適法なものであったと認められる。
よって、本件調査が違法ないし不当である旨の原告の主張は、採用することができない。
4 次に、原告の反論(2)(帳簿書類等の提示に関して)のうち問題となる点につき検討する。
(1) 適法な帳簿書類等の提示要請の有無
原告は、原告の反論(2)アのとおり、帳簿書類等の適法な提示の要請はなかったと主張する。
しかしながら、前記2(14)、(20)、(22)のとおり、平成10年9月9日にGは、Dに対し、「元帳等を見せていただけないと、反面調査、銀行調査等をさせていただいて所得を確認することになります。」旨伝え、また、平成11年1月13日にGらは、Dに対し、「このまま調査について協力いただけないのであれば、・・・反面調査や銀行調査を進めざるを得ないし、・・・また、帳簿等を見せていただけないのであれば、青色申告承認の取消しや消費税については課税仕入れが認められないという処理も行わなければならないことになります。そこで、会長(D)から先生(E税理士)に対し、調査協力してもらえるよう取り計らっていただきたい。」旨述べ、更に、同年4月12日にGは、Dに対し、「文書による回答はできない。7月には税務署の人事異動があり、担当者が替わるかもしれません。先生(E税理士)の心が開かれなかったことは大変残念なことですが、私達も調査を終了しなければなりません。会社の方で元帳等の提示がされず、調査に協力していただけない場合には、取引先や銀行への反面調査の実施や青色申告承認の取消し、消費税の課税仕入れを否認する等の処理を進めていくことになると思います。」旨説明しており、これらによれば、Gらは原告に対し、平成10年9月9日、平成11年1月13日及び同年4月12日の少なくとも3回にわたり帳簿書類の提示を求めたといえる。
また、Dは、国税不服審判所に証拠として提出した平成12年2月9日付け陳述書において、「E税理士の了解を得ない調査には応じられないとして、帳簿書類の提示に応じなかったものです。」、「税理士にすべてを任せておけば税法上も問題ないものと思い、帳簿書類の提示には応じられなかったのです。」と述べ、同審判所からの質問に対し、「Gから、法人帳簿の1か所あるいは2か所を見せてもらいたい旨の発言があった。」と答述している(甲4の26頁)。
以上の事実及び前記2の事実経過によれば、Gら調査担当者は、本件調査において1年3か月にわたり原告に対し、調査への協力を求めるとともに帳簿書類の提示を求めていたと認められ、上記認定を覆すに足りる証拠はない。
よって、前記原告の主張は、消費税について帳簿提示要請がなかったという部分を含めて理由がない。
(2) 原告が帳簿書類等の提示を拒否したか否か
原告は、原告の反論(2)イのとおり、帳簿書類等の提示を拒否していないと主張するが、上記(1)の認定判断及び前記2の事実経過によれば、原告は、調査担当者らの帳簿書類等提示の要請を拒否したと認められ、上記認定を覆すに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。
(3) 原告が帳簿書類等の提示に応じなかったことについての正当な理由又はやむを得ない事情の有無
原告は、原告の反論(2)ウにおいて、帳簿書類等の提示に応じなかったのは、本件調査に不審を抱き、E税理士の説明や指示に合理性があると考え、同税理士の指導に従った結果であり、正当な理由又はやむを得ない事情があったと主張する。
しかし、本件調査は、調査担当者の個々の行為についても、全体としてみても違法であったと認められないこと、E税理士のいう代理権侵害、抗議文等に対する被告側の文書による回答義務その他の主張が理由がないものであったことは、前記3で認定判断したとおりであり、したがって、E税理士が原告に対し、本件調査ないし帳簿書類等の提示要請に応じないようにと指導したことも不合理なものであったと認められる。
そして、前記2の事実経過によれば、原告は、同税理士との関係において、同税理士の指示指導に反し、本件調査に応じ、帳簿書類等を提示することにより具体的に損害を被るおそれがあったとは考えられないこと、調査担当者は、本件調査において約1年3か月の間に9回臨場し、10回以上電話連絡をして、原告に対し調査に応ずるよう説得し、その間少なくとも2回にわたり、反面調査、青色申告の取消し、消費税の仕入税額控除の否認の更正処分を行うことのありうることを指摘・予告していたのであるから、原告としても、E税理士の指示指導が不合理であることに気付くことが十分に可能であったと認められることに照らすと、原告がした帳簿書類等の提示拒否に正当な理由ないしやむを得ない事情があったということはできないから、原告の主張を採用することはできない。
5 被告の主張(3)(本件各更正処分の適法性)、原告の反論(4)(帳簿及び請求書の「保存」について)について
(1) 本件各更正処分に係る消費税及び地方消費税の課税の経緯は、原告において争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。
(2) 消費税法30条1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入を行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から前記課税仕入に係る消費税額等を控除する旨を規定する。これがいわゆる仕入税額控除である。そして、消費税法は、事業者の納付する消費税について、申告納税制度を採用しており、事業者に課税標準額、課税標準額に対する消費税額及び同消費税額から控除されるべき課税仕入れ等に係る消費税額等を記載した申告書を税務署長に提出することを義務付けている(同法45条)から、税務署長等が納税者のした申告が正確であることを確認するためには、課税要件事実に関する資料の入手が必要不可欠である。
そこで、同法は、消費税に関する調査について必要があるときには、税務署長は納税義務がある者等に対し、質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる旨を定め(同法62条)、質問に対する不答弁並びに検査の拒否、妨害等に対しては、刑罰をもってこれに臨んでいる(同法68条1項)。また、同法は、課税仕入れ等の税額控除に係る帳簿には、それが課税仕入れに係るものである場合には、イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称、ロ 課税仕入れを行った年月日、ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容、ニ 課税仕入れに係る支払対価の額を記載すること(同法30条8項1号)を、また、課税仕入れ等の税額の控除に係る請求書等には、それが課税仕入れに係るものである場合には、イ 書類作成者の氏名又は名称、ロ 課税資産の譲渡等を行った年月日、ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容、ニ 課税資産の譲渡等の対価の額、ホ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称を記載すること(同法30条9項1号)をそれぞれ求めている。更に、消費税法施行令50条1項は、帳簿等の保存期間を7年間と定めており、これは課税庁が課税権を行使し得る最長期間である7年間(国税通則法70条5項参照)と正に符合している。
このような消費税法が採用している消費税の制度内容及び関連諸規定にかんがみると、同法30条7項が仕入税額控除の適用を受けるための要件として帳簿等の保存を要求しているのは、税務職員が税務調査において納税者の保存している前記帳簿等を検査し、申告の正確性を確認することができるようにするためであると解される。かかる趣旨からすると、税務職員が消費税の調査に当たって質問検査権を行使して、単に帳簿等が保管されていることさえ確認されれば、それだけで仕入税額控除が認められるというわけではなく、税務職員が保管されている帳簿等を調査し、その申告書類及び計算明細書の記載内容が一致していることを確認することができてこそ、仕入税額控除が認められるものと解するべきである。したがって、同法30条7項にいう「帳簿等の保存」とは、単なる物理的な帳簿等の保管にとどまるものではなく、税務職員による質問検査権に基づく適法な調査により直ちにその内容を確認できるような状態での保管を意味するものと解するのが相当である。
本件においては、前記2ないし4で認定判断したとおり、本件調査が適法であり、適法な帳簿又は請求書等の提示の要求が、平成10年2月から平成11年4月にかけて再三にわたってあったにもかかわらず、原告が合理的理由なく提示を拒否していることからすると、原告は、税務職員による質問検査権に基づく適法な調査により直ちにその内容を確認できるような状態で帳簿等を保管していなかったことが推認される。
この点につき、前記2(24)のとおり、平成11年8月以降の異議審理庁における異議調査において、その担当職員は、原告が、本件各年度に係る消費税法30条7項ないし9項に規定する課税仕入等の税額控除に係る帳簿及び請求書等を保管し、本件事業年度に係る法人税法126条1項に規定する帳簿書類を保管していることを確認したこと、国税不服審判所は、平成12年12月7日、かかる書面を保管していることを確認したこと、本件訴訟係属中においても、原告は、かかる書面を保管していることが認められるが、他方、異議審理庁によって原告がかかる書面を保管していることが確認されたのは、本件調査が開始された平成10年2月から約1年半経過していること、前記2で認定した原告の提示拒否態様からすると、前記推認が覆されるものではない。
なお、原告は、帳簿等の「提示」と「保存」は文言が異なること等を理由に、帳簿等の提示拒否を理由にして仕入税額控除を認めないのは法解釈の域を超えるものである旨批判するが、前記のとおり、当裁判所は、帳簿等の提示拒否自体を仕入税額控除の消極的要件とするものではなく、「帳簿等の保存」という文言を、単なる物理的な帳簿等の保管にとどまるものではなく、税務職員による質問検査権に基づく適法な調査により直ちにその内容を確認できるような状態での保管を意味するものと解釈し、かかる保存のないことを仕入税額控除の消極的要件としているのであるから、かかる批判は当を得ていない。
以上のとおり、原告の本件各年度の消費税については、消費税法30条7項の「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当し、仕入税額控除の適用要件を欠くことになるから、そのことに基づき被告がなした本件各更正処分は適法である。
6 被告の主張(4)(本件各賦課決定の適法性)について
上記5のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、かつ、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法65条4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、本件各賦課決定はいずれも適法である。
7 被告の主張(5)(本件青色取消処分の適法性)、原告の反論(5)(青色申告承認取消事由の解釈及び本件青色取消処分の取消しについて)について
(1) 青色申告制度(法人税法121条)は、青色申告書により申告することにつき税務署長の承認を受け、その承認を受けた年分以後青色申告書を提出する者に対しては、推計課税を認めないなどの課税手続上の特典及び事業専従者給与や各種引当金・準備金の必要経費算入、純損失の繰越控除など所得ないし税額計算上の種々の特典を与えるものである。そこで、この青色申告の承認は、課税手続上及び実体上種々の租税優遇措置を伴う特別の青色申告書により申告することのできる法的地位ないし資格を納税者に付与する設権的処分の性質を有するものと認められる(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・判例時報1262号91ページ参照)。
(2) しかし、その反面、青色申告法人には、同青色申告制度の前提となる帳簿書類の正確性を担保するため、その帳簿書類につき次のような規定が置かれている。
ア 青色申告法人は、大蔵省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存する義務がある(法人税法126条1項)。青色申告法人がこの義務に違反した場合には、税務署長は、その青色申告承認を取り消すことができる(同法127条1項1号)。
イ 税務署長は、必要があると認めるときは、青色申告法人に対し、同帳簿書類について必要な指示をすることができ(同法126条2項)、青色申告法人がこの指示に従わなかった場合には、税務署長は、その青色申告承認を取り消すことができる(同法127条1項2号)。
ウ 青色申告法人の帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる相当な理由がある場合には、税務署長は、その青色申告承認を取り消すことができる(同法127条1項3号)。
エ 同法153条1項は、税務署長等は、法人税に関する調査について必要があるときは、青色申告法人を含む法人に質問し、又はその帳簿書類その他の物件を検査することができると規定する。この検査権は、税務署長が更正又は決定をするためばかりでなく、前記青色申告承認の取消し等の処分をする場合の調査のためにも行使し得るものであって、それが適法な検査である限り、帳簿書類の提示その他の検査に応ずる義務があるというべきである。
(3) 前記(1)、(2)を総合すれば、同法127条1項1号が「その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないこと」を青色申告承認の取消事由としている趣旨は、青色申告法人の帳簿書類について税務署長が同法153条の規定に基づく調査をなし得ることを前提として、その調査により帳簿書類の備付け等が大蔵省令に従って正しく行われていること及び帳簿書類の記載内容の不備、不正の有無を確認することができた場合にのみ青色申告の承認による特典を与えるとの点にあると解すべきである。
なぜならば、青色申告法人が税務職員の帳簿書類の提示を正当な理由なく拒否した場合、もし、同法127条1項1号に該当しないとすれば、この場合においては、同項2号、3号にも該当しないから、結局、税務署長は、帳簿書類を調査していないし、しかも、青色申告の承認を取り消すことができず、したがってまた、課税標準又は欠損金額を推計することもできないから、法律上、更正処分をすることができないことになって(同法130条1項、131条)、他の誠実な納税者との課税上の公平を著しく欠く結果を生ずることとなるからである。
そうすると、たとえ帳簿書類の備付け、記録及び保存自体が行われていても、青色申告者が税務職員からの調査に正当な理由なく応じようとせず、帳簿の提示を拒否したため、税務当局においてその備付け、記録又は保存が正しく行われているか否かを確認することができないときも、上記の規定にいう青色申告の承認の取消事由に該当する事実があるものと解するのが相当である。
本件において、原告は、前記2ないし4のとおり、正当の理由なく帳簿書類の提出を拒否し続けたのであり、帳簿書類の備付け、記録又は保存が行われていなかったと認められ、本件青色取消処分は適法であり、これに反する原告の主張は採用することができない。
8 被告の主張(6)(権利濫用ないし信義則違反について)、原告の反論(6)(権利濫用又は信義則違反の主張)について
原告は、原告の反論(6)のとおり主張する。
しかし、上記主張のうち、以下に述べる点以外の部分については、それ自体権利の濫用・信義則違反事由とはいえないか、前記2ないし7の認定判断に照らし理由がないことが明らかであるか、あるいはまた独自の見解に基づく失当なものであるかのいずれかであるといわざるを得ない。
まず、平成10年4月22日の本件調査の際、乙らが、E税理士らに対し、ビデオカメラによる撮影の停止を要求した点については、上記撮影は、乙らの承諾もない上、同人らの国家公務員としての守秘義務の対象となる、原告の取引先に関する事項や税務調査の方法が写され、流布されることになる可能性があるものであるから、乙らが撮影停止を求め、停止されなかったことを調査拒否と判断したことに格別非難すべきところはない。
また、原告は、平成11年4月28日付け内容証明郵便(乙5)で、本件調査に関し弁護士に委任したので、同弁護士に連絡されたい旨被告に通知した後、被告から何の連絡もなく、突如として同年7月2日付けで本件各処分がなされたことを問題とするが、同書面には、E税理士に対する誠意ある対処が先である等従前と変わらない原告の主張が記載されており、被告が、原告が調査協力に応じる見込みはないとして、同書面記載の弁護士に連絡しなかったからといって非難すべきところはない。
したがって、権利の濫用又は信義則違反をいう原告の主張は採用することができない。
9 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中哲郎 裁判官 中島栄 裁判官 堀部麻記子)
別紙1
<省略>
別紙2
消費税及び地方消費税の課税の経緯表
(平成9年5月期課税期間)
<省略>
(平成10年5月期課税期間)
<省略>