熊本地方裁判所 平成5年(ワ)196号 判決 1994年4月28日
主文
一 被告は原告に対し、金五六六万四七一一円及びこれに対する平成三年一月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを九分し、その八を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、六四〇万四五六八円及びこれに対する平成三年一月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の運転する自動車に衝突された原告が民法七〇九条により損害賠償請求をした事案である。
一 争いのない事実
事故の発生
1 日時
平成三年一月二七日午後四時五〇分ころ
2 場所
熊本市水前寺六丁目三七番二八号大銀東ビル先路上
3 加害車
普通乗用車(以下、「被告車」という。)
右運転者 被告
4 被害車
原動機付自転車(以下、「原告車」という。)
右運転者 原告
5 事故の態様
被告は、別紙図面(以下、同図面記載の地点は符合のみで示す。)記載のとおり、上水前寺方面から神水本町方面へ向け、県庁東門から東バイパスへ結ぶ道路を交差する道路(以下、「交差道路」という。)を横断すべく、まず一時停止規制に従い、<1>点で一時停止した。交差道路は、被告の進行方向右方よりの車両が渋滞していたので、被告は、さらに交差道路手前で停止した。
このとき、交差点では、被告の進行方向左前方に車両が渋滞停止しており、その後方から来た車両が被告の通行可能な余地を残して停止して道を譲つた。
そこで、被告が時速約五ないし六kmの速度で交差点を直進したところ、<×>点で左方より直進してきた原告車の右前部に被告車の左前部が衝突し、原告が転倒し、右脛骨腓骨開放骨折の傷害を負つた。
6 責任原因
被告は、信号機のない右交差点を横断するに際し、交差道路が渋滞したのであるから、左方からの交通の安全を十分に確認すべきであつたのにこれを怠つた過失がある。
二 争点
1 本件事故による原告の損害額
主たる争点 原告、被告及び原告が治療を受けた熊本託麻台病院を経営する原告補助参加人(以下、「訴外病院」という。)間で、平成三年一月三一日、治療費について、社会保険診療として、すなわち、一点単価一〇円で算定する旨の合意が成立したか。
2 過失相殺
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 治療費
証拠(丙一ないし四、弁論の全趣旨)によれば、原告は、前記傷害の治療のため、訴外病院に、平成三年一月二七日から同年五月二日まで入院し、同月三日から平成四年三月二四日まで通院し(実日数三日)、同月二五日から同年四月七日まで入院した(右入通院の事実は、争いがない。)ところ、原告は、訴外病院から右入通院期間中の治療費として三五八万二七四〇円の請求を受けたが、右請求額は、いわゆる自由診療として一点単価二〇円で算定されたものであつたことが認められる。
この点につき、被告が主張する、右治療費については、原告、被告及び訴外病院間で、社会保険診療として、すなわち、一点単価一〇円で算定する旨の合意が成立したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
かえつて、証拠(乙二、証人村川博昭、原告法定代理人藤本惠三)によれば、原告の父親で、当時妻とともに共同親権者であつた藤本惠三(以下、「惠三」という。)は、本件事故の翌日である平成三年一月二八日、被告から、任意保険に入つているから安心して治療してほしいと言われ、訴外病院の松本係長から、治療費をどうするかと質問された際、加害者(被告)が全部(任意)保険で処理することになつていると答えたところ、被告が前部(任意)保険で処理することになつていると答えていたところ、被告が加入していた任意保険を取り扱う富士火災海上保険株式会社の従業員村川博昭は、保険金の支払額を抑えるため、同年二、三月ころ、惠三に対し、訴外病院における原告の治療をいわゆる社会保険診療として行つてもらうよう申入れたが、惠三は、訴外病院の求めに応じて健康保険証を二回ほど提示したことがあつたものの、前記のとおり、被告の加入した任意保険による、単価の高い、いわゆる自由診療としての治療を希望する態度をとつていたもので、同年三、四月ころになつて初めて、村川の申入れどおり、訴外病院に対し、診療開始時に遡つて、社会保険診療とすることを求めたが、訴外病院の承諾を得るに至らなかつたことが認められる。
そうすると、原告の損害の一つとしての治療費は、証拠(丙一ないし四)により、右自由診療として算定した三五八万二七四〇円と認めるのが相当である。
2 入院雑費 一三万二〇〇〇円
入院雑費は、本件の場合、原告の実家が原告の肩書地であり、遠方であつたことを考慮しても、一日あたり一二〇〇円と認めるのが相当であり、一一〇日間で右金額となる。
3 付添看護料 三万七五〇〇円
証拠(原告法定代理人惠三、弁論の全趣旨)によれば、原告の母及び祖母中村久子は、平成三年二月七日に行われた手術の前後一五日間、原告に付き添い看護したこと、原告は入院中いわゆる完全看護の下に置かれていたが、原告の年齢(一六、七歳)及び傷害の部位、程度に照らすと右付添看護はやむをえないものであつたと思われることが認められ、本件において、付添看護料は、原告主張のとおり、一日当たり二五〇〇円と認めるのが相当であるから、一五日間で右金額となる。
4 交通費 三万九一五〇円(争いがない。)
5 宿泊代 一八万円
証拠(原告法定代理人惠三、弁論の全趣旨)によれば、原告の母は、原告の肩書地に居住しているところ、前記3の付添看護の期間中、ホテルに宿泊し、宿泊代として一日当たり一万二〇〇〇円合計一八万円を要したことが認められるので、右金額も原告の損害と認められる。
6 下肢装具代 六万六三七八円(争いがない。)
7 文書代 八〇〇円(争いがない。)
8 慰謝料 一七〇万円
前記入通院期間中の原告に対する傷害の慰謝料としては、一七〇万円が相当である。
9 以上1ないし8の合計 五七三万八五六八円
二 争点2について
証拠(乙四ないし七)によれば、原告は、本件事故当時、時速二〇ないし三〇kmの速度で前記交差点に進入したものであるところ、優先道路を進行していたとはいえ、反対車線が渋滞中で、交差点を横断できる余地があつたのであるから、右交差点を右方横断進行してくる車両のあることを予見し、右方の安全を十分確認するべきであつたのにこれを怠つた過失があり、原告と被告との過失割合は、一対九であるとするのが相当であると認められる。
そこで、原告の損害額五七三万八五六八円に被告の過失割合九割を乗ずると、五一六万四七一一円(円未満切り捨て)となる。
三 弁護士費用 五〇万円
本件事故と因果関係のある弁護士費用としては、五〇万円が相当である。
(裁判官 田中哲郎)
別紙図面