熊本地方裁判所 平成9年(行ウ)1号 判決
原告
くまもと・市民オンブズマン(X)
右代表者
遠藤隆久
右訴訟代理人弁護士
青山定聖
板井優
内川寛
衛藤二男
加藤修
国宗直子
塩田直司
園田昭人
立山秀彦
西清次郎
藤田光代
三角恒
吉井秀広
吉田賢一
被告
熊本県地事(Y) 福島譲二
右訴訟代理人弁護士
竹中潮
津留清
右指定代理人
中村和道
出水信治
佐藤祐治
竹下喜造
事実及び理由
三 本件条例が規定する公文書開示請求権の法的性格及び本件条例八条各号の非開示事由の解釈指針について
本件条例が規定する公文書公開請求権は、憲法二一条に基礎をおく知る権利に奉仕するものではあるが、直接同条によって保障された権利ではなく、本件条例の制定によって初めて具体的請求権として創設された権利であると解される。
したがって、本件条例八条各号の非開示事由については、同一条の規定する目的並びに同三条の規定する解釈及び運用の指針を前提として、その文言に即して合理的に解釈すべきであるところ、平成八年六月に熊本県総務部私学文書課が発行した「情報公開事務ハンドブック」(〔証拠略〕、以下「ハンドブック」という。)によれば、同一条は、県の保有する情報で、県民福祉の向上に必要な情報を県民に対し積極的に提供するための施策の拡充を図る県の基本方針を明らかにしており、情報公開の制度化により、県民の県政に対する理解と信頼を深め、ひいては、県民の県政への参加を促進し、開かれた県政の推進に資しようとする本件条例の目的を明らかにするものであり、同三条は、実施機関が公文書の開示請求に対し同八条各号の規定に照らして公文書を開示する旨又は開示しない旨の決定を行う際には、公文書の開示を請求する県民の権利が十分保障されるように、原則開示を基本として解釈運用しなければならない旨規定し、そのうえで、思想、心身の状況、病歴、学歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他個人に関する情報については、情報公開制度下においても、最大限の配慮をすべきであり、実施機関は正当な理由なく、個人に関する情報を公にしてはならないことを明らかにしているのであるから、同八条各号所定の各非開示事由については、右の趣旨を踏まえたうえで合理的に解釈すべきことになる。
なお、被告は、本件条例八条に「各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができる。」と規定されている点について、右規定は、請求のあった公文書に本条各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合は、原則開示の例外として、当該公文書の開示をしないこととしたものであり、実施機関に公文書を開示すること又は開示しないことについての裁量を許す趣旨ではなく、このような場合は当該公文書を非開示としなければならない義務を負っている旨主張し、ハンドブックにも右主張に沿う記述があるが、右の規定は、同条各号の文言について合理的な解釈を行ったうえで、当該公文書について開示すること又は開示しないことを決することを否定する趣旨ではないと解される。
四 本件文書部分(一)及び(二)が本件条例八条各号所定の非開示事由に該当するか否かについて
1 本件条例八条二号該当性について
本件条例八条二号の趣旨について、ハンドブックは「本号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーについては、最大限に保護することとし、特定の個人が識別され得るような情報が記録されている公文書については、非開示とすることを定めたものである。」とし、また、「本号はプライバシーに係る情報をすべて類型化することが困難であることから、原則として個人に関する一切の情報は非開示として保護することとしている。」としており、同号のイないしハに規定する例外に該当する場合を除き、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの、すなわち、特定の個人が当該公文書から直接識別できる情報(例えば、住所又は氏名が考えられる。)だけでなく、当該情報からは直接特定の個人が識別されなくとも(他の情報と組み合せることにより、特定の個人が識別されうるような情報は、すべて非開示としなければならない旨定めている趣旨に読めないわけではない。
しかしながら、他方、ハンドブックは、「個人に関する情報」についての例示として、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況等を挙げており、右例示の内容に鑑みれば、本号により保護が予定されているのは、個人が識別され得る情報のうち、私生活上の事実に関するもので、性質上公開に親しまないような個人情報をいうものと解するのが相当である。
そこで、右解釈を前提に、本件各処分において本号に該当するとして非開示になった情報が本号に該当するか否かについて検討する、
被告が本号に該当するとして非開示としたものは、本件文書(一)関係では懇談会の目的並びに懇談会の出席者として記載されている個人の所属名、職名及び氏名であり、本件文書(二)関係では、旅行命令簿中、旅行者の職名及び氏名、旅費仕訳(請求)書中、旅行者の氏名、口座名義人及び口座番号、復命書(添付書類も含む。なお、被告は復命書には添付書類を含まないとの解釈を採っているが、復命書の添付書類は復命書と一体のものであると解するのが相当である。以下同じ。)中、復命者の職名及び氏名、会議及びシンポジウム等の講師等並びに出席者の職名及び氏名等である。(弁論の全趣旨)
(一) 本件文書(一)に係る懇談会の目的並びに懇談会の出席者として記載されている個人の所属名、職名及び氏名について
(1) 右懇談会は、熊本県の公務として開催されたものであり、これに出席した者が、土木部管理課の職員及び国等の担当職員等の公務員である場合には、右懇談会の出席者は、いずれも右懇談会に公務員の職務の遂行として出席しているのであって、懇談会の目的並びに懇談会の出席者として記載されている個人の所属名、職名及び氏名は、特定の個人が識別され又は他の情報と組み合せることによって特定の個人が識別され得る情報ではあるものの、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開に親しまないような個人情報に該当すると認めることもできないので、同号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。
(2) また、右懇談会に出席した者(懇談会の相手方)が公務員以外の者である場合には、右懇談会に出席することは公務にはあたらないものの、公費による県職員との懇談会は公的会合であり、右懇談会への出席に関する情報は、特段の事情がない限り、相手方にとっても私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開に親しまないような個人情報に該当すると認めることもできないと解される。そして、被告から右特段の事情についての主張立証がない以上、この場合も右懇談会の目的並びに懇談会の出席者として記載されている個人の所属名、職名及び氏名が同号により保護が予定されている情報に該当すると認めることはできない。
(3) 以上によれば、これについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
(二) 本件文書(二)のうち、旅行命令簿中の旅行者の職名及び氏名、旅費仕訳(請求)書中の旅行者の氏名、並びに復命書中の復命者の職名及び氏名について
当該旅行者による県外出張は、いずれも当該職員が公務員の職務の遂行として行ったものであるから、旅行命令簿中の旅行者の職名及び氏名、旅費仕訳(請求)書中の旅行者の氏名、並びに復命書中の復命者の職名及び氏名については、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開に親しまないような個人情報に該当すると認めることもできないので、同号により保護が予定されている情報には当たらない。
よって、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
(三) 本件文書(二)のうち、旅費仕訳(請求)書中の口座名義人及び口座番号について
熊本県における職員の旅費等が振り込まれる預金口座の指定は、各職員の申し出に基づいて行われており、右預金口座は、各職員等の純然たる私的口座であると認められるが(弁論の全趣旨)、個人が利用する預金口座に関する情報は、当該公務員の私生活においても財産管理に関する非常に重要な情報であるといえ、そうである以上、旅費等が振り込まれる預金口座の口座名義人及びその口座番号は私生活上の事実に関する情報であり、右情報を誰に対してどのような範囲で明らかにするかは、当該公務員個人の意思に委ねられるべきものであって、たとえ公務員といえどもこれらの情報が広く県民に開示されることを受忍すべきであるということはできないのであるから、右情報は、性質上公開に親しまないような個人情報に該当すると解すべきである。
よって、これらについて本号に該当するとした被告の判断に違法はなく、これを非開示とした処分は適法である。
(四) 本件文書(二)のうち、復命書中の会議及びシンポジウム等の講師等並びに出席者の職名及び氏名等について
本件文書(二)のうちの復命書(〔証拠略〕)の記載内容をみるに、〔証拠略〕については、出張先が建設省で、出張内容が「平成六年度決算検査報告に関する説明会」であること、〔証拠略〕については、出張先が建設省であり、出張内容が「都道府県・政令指定都市担当者に対する平成八年度予算の説明会」及び「全国土木・建築主管局部長会議」であること、〔証拠略〕については、出張先が建設大学校であり、出張内容が「建設大学校全国研修担当者会議」への出席であることからすれば、少なくとも、これらの文書中に記載されている会議等の出席者の氏名は、いずれも公務員が公務として会議等に出席したことに関する情報であると認められるうえ、その他の復命書についても、その体裁上、会議及びシンポジウム等の出席者として公務員以外の者の氏名が記載されているような事情を窺うことはできない。
また、会議及びシンポジウムの講師等の氏名についても、これらの者がこれらの会議及びシンポジウムへの講師としての出席を私事として行ったと認めることはできず、右の事実が性質上公開に親しまないような個人情報であると認めることはできない。
よって、右情報が本号により保護が予定されている情報に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
2 本件条例八条三号該当性について
本件条例八条三号の趣旨について、ハンドブックは、「県は、許認可、補助金交付等の事務事業を通じて、法人等又は事業を営む個人の情報を収集しているが、これらの情報は原則として開示する。」としたうえで、「しかしながら、法人等又は事業を営む個人は、雇用の場の確保、社会への財やサービスの供給等を通じて、社会全体の利益に寄与しており、その適正な活動は尊重、保護されなければならない。したがって、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持のため、競争上の地位を害すると認められる情報その他正当な利益を害すると認められる情報が記録されている公文書については、開示しない」とする。
そして、ハンドブックによれば、「当該事業に関する情報」とは事業内容、事業用資産、事業所得等、事業活動に関する一切の情報をいい、当該事業活動と直接関係のない個人に関する情報は除く。」とされ、また、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」の例として、「(1)法人等又は事業を営む個人の保有する生産技術上又は販売上の情報であって、開示することにより、当該法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの、(2)経営方針、経理、人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する情報であって、開示することにより、法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの、(3)その他開示することにより、法人等又は事業を営む個人の名誉、社会的評価、社会的活動の自由等が損なわれると認められる情報」を挙げている。
そこで、本号の趣旨に基づいて、本件各処分において本号に該当するとして非開示になった情報が本号に該当するか否かについて検討する。
被告が本号に該当するとして非開示とした情報は、本件文書(一)関係では懇談会の場所名、債権者名及び口座番号であり、本件文書(二)関係では復命書中、会議、シンポジウム等の会場名、協力団体名及びシンポジウム事務局名等である。(弁論の全趣旨)
(一)本件文書(一)のうち、懇談会の場所名及び債権者名について
被告は、右の情報が開示されれば、当該法人等又は事業を営む個人の得意先情報を開示する結果になり、また、既に開示されている飲食物等の単価と併せ判断すれば、営業方針の基本である価格の設定の仕方が明らかになり、更に、一定期間にわたる情報の蓄積により、得意先や利用内容等の営業の実態や営業方針が推察されることになり、当該法人等又は事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれる旨主張する。
しかしながら、たしかに、右情報が開示されれば、債権者である飲食業者における土木部管理課という特定の顧客の一定期間の利用状況や、どの程度の単価で飲食物等の提供を行ったかについては明らかになるが、それ以上に当該飲食業者の営業上のノウハウや経営方針又は営業の実態などが明らかになるわけではない。よって、右の事実が明らかになることによって、当該法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれるとは認められない。
したがって、右情報が本号に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
(二) 本件文書(一)のうち、債権者の口座番号について
被告は、口座番号は、法人等又は事業を営む個人の内部管理に関する情報であり、一般に秘密性が高い旨主張する。
しかしながら、たしかに、右情報は内部管理に関する情報ではあるが、通常、右情報は飲食業者が秘密に管理しているような性質のものではないし、右情報は、その体裁からみて一般的に発行しているものと認められる飲食代金等の請求書に記載されている事項にすぎないことを考慮すると、その開示によって、債権者である飲食業者等が不測の不利益を被り、その事業活動が損なわれると認めることはできない。
よって、右情報が本号に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
(三) 本件文書(二)のうち、復命書中、会議、シンポジウム等の会場名、協力団体名及びシンポジウム事務局名等について
被告は、会議等の主催者と特定の法人等又は事業を営む個人との取引関係が公表されることは、当該法人等又は事業を営む個人の得意先情報を開示することになる旨主張するが、右情報は、当該法人等及び事業を営む個人の営業上のノウハウや経営方針などとして秘密に管理されなければならないものであるとは認め難く、その公開によって競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認めることはできない。
よって、右情報が本号に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
3 本件条例八条五号該当性について
本件条例八条五号の趣旨について、ハンドブックは、「県と国等との協力関係又は信頼関係を継続的に維持するため、開示することにより、県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められる情報が記録されている公文書については、非開示とする」ことを定めたものであるとする。そして、本号に該当すると考えられる情報の例として、「(1)国等から公表してはならないと指示されている情報、(2)国等の承認なしに公表してはならないとされている情報、(3)国等において公表するまで公表してはならないとされている情報、(4)国等において公表しないこととしている情報、(5)その他開示することにより国等との協力関係、信頼関係を損なうと認められる情報」を挙げる。
被告が本件条例八条五号に該当するとして非開示としたものは、本件文書(一)関係の懇談会の目的並びに出席者の所属名、職名及び氏名である。(弁論の全趣旨)
そこで検討するに、まず、本件文書(一)は、会食実施伺と支出命令書及び添付資料であり、これ自体は国等との協議、依頼等に基づいて実施機関が作成し、又は取得した情報であるとは認められない。また、仮に、本件文書(一)が国等との協議、依頼等に基づいて実施機関が作成し、又は取得した情報に当たるとしても、右情報が開示されることによって明らかになるのは懇談会の外形的事実にすぎず、右情報からは懇談会の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等が明らかになるものでないことは明白である。
被告は、当該懇談会が特定の具体的な事案の執行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行ったものである旨主張するが、これを客観的に窺わせるような具体的根拠は示しておらず、また、右情報の公表によって懇談会の相手方の氏名等が明らかにされることになれば相手方に不快、不信の感情を抱く者が出、県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれる旨主張するが、右主張も、被告自身の判断において右のようなおそれが抽象的に認められるというものにすぎない。
すなわち、被告は、右情報を開示することによって県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれるおそれがあることを根拠づける具体的な事実を主張立証すべきところ、この点についての具体的な主張立証を行っていない。
よって、右情報が本号に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
4 本件条例八条六号該当性について
本件条例八条六号の趣旨について、ハンドブックは、「開示することにより、県又は国等の事務事業に係る意思形成に支障が生じると認められる情報が記録されている公文書については、非開示とすること」を定めたものであるとしたうえ、「特定の事務事業における個別の事案について、当該事案に係る決済等の手続が終了しても、当該事務事業についての最終的な意思決定が得られていない情報を開示することにより、県民に無用の誤解を与え、又は無用の混乱を招くおそれがあり、また、行政内部の審議、検討、調査研究等を適正かつ効率的に行うことに支障を来す場合があることから、このような場合には非開示とする」としたものであるとする。そして、「開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障があると認められるもの」の例として、「(1)行政内部で審議中の案又は内容の正確性の確認をしていない資料、データ等で、開示することにより、県民に誤解を与えたり、混乱を招くと認められる情報、(2)審議、検討、調査研究等に関して作成し、又は取得した情報であって、開示することにより、請求者等に不当な利益又は不利益を与えると認められるもの、(3)各種会議、意見交換等の記録等で、開示することにより、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられると認められる情報、(4)附属機関の会議に係る審議資料、会議録等の情報で、開示することにより、会議の構成員の公正な判断が妨げられると認められるもの、(5)事務事業の企画、検討のために収集した資料で、開示することにより、行政内部の意思形成に必要な資料を得ることが困難になると認められる情報、(6)その他開示することにより当該事務事業又は将来同種の事務事業に係る意思形成に支障があると認められる情報」を挙げる。
被告が本件条例八条六号に該当するとして非開示としたものは、本件文書(一)関係の懇談会の目的並びに出席者の所属名、職名及び氏名である。(弁論の全趣旨)
そこで検討するに、被告は、右情報を開示すればまだ審議中の事案について関係者との接触が公になることにより、県民に誤解を与えたり、混乱を招く旨主張するが、右情報が開示されることによって明らかになるのは懇談会の外形的事実にすぎず、右情報からは懇談会の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等が明らかになるものでないことは明白であるから、これが開示されたとしても、それによって具体的に県民にどのような誤解を与えたり、混乱を招くことになるのかが明らかではない。また、被告は、県又は国等の当該事務事業又は将来の同種の事務事業にかかる意思形成に支障が生ずることを根拠づける具体的な事実を主張立証すべきところ、この点についての具体的な主張立証も行っていない。
よって、右情報が本号に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
5 本件条例八条八号該当性について
本件条例八条八号の趣旨について、ハンドブックは、「開示することにより、事務事業の公正又は円滑な執行の確保に支障が生ずると認められる情報が記録されている公文書については、非開示とする」ことを定めたものであるとする。
そして、「当該事務事業の目的が損なわれるもの」とは、「事務事業の性質上、これらに係る情報を開示すれば、事務事業を実施しても予想どおりの成果が得られず、実施する意味がなくなる場合などの情報をいう」とされ、「特定のものに不当な利益若しくは不当な不利益が生ずるもの」とは、「事務事業の性質上、開示することにより、情報を得たものと得ていないものとの間に不公平が生じ、特定のものに対して不当な利益又は利益をもたらすおそれがある場合などの情報をいう」とされ、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの」とは、「事務事業には定期監査、用地買収計画などのように反復、継続して実施する事務、事業も多いため当該事務事業のみならず将来の同種の事務事業に支障が生ずるおそれがある場合などの情報をいう」とされている。
被告が本件条例八条八号に該当するとして非開示としたものは、本件文書(一)関係では懇談会の目的、懇談会の場所名及び債権者名並びに出席者の所属名、職名及び氏名であり、本件文書(二)関係では旅行命令簿中の旅行者の職名及び氏名、復命書中の会議などの出席者の職名及び氏名等並びにシンポジウム事務局名等である。
そこで、検討するに、右情報が本号の非開示事由に該当するか否かは、本件各処分の適法性を基礎づける事項であり、また、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるか否か、又は県の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかであるか否かについては行政機関例の事情であり、被告は本件文書(一)及び(二)の記載内容等を了知しているのであるから、被告の側で、右情報が当該事務事業の目的が損なわれるものであること、特定のものに不当な利益若しくは不当な不利益が生ずるものであること、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるものであることを具体的に主張立証する必要があるというべきである。
しかるに、被告は、まず、本件文書(一)関係について、土木部管理課は、土木部施策の企画調査や予算に関する事務等を所掌しており、県庁内部あるいは土木部においても他の各課とは事業内容が大きく異なっており、土木部全体の事業執行について、土木部を代表して国及び他機関等との調整及び折衝にあたることも多く、このような事業を行っている土木部管理課が実施した懇談会は、事業の執行のために必要な事項についての関係者との調整等を目的として行われたものであり、関係者の情報等が明らかになれば、熊本県の土木行政における相手方の位置づけ、評価等が明らかになることから、今後、合理的な裁量が著しく制限され、又は相手方に不快、不信の感情を抱かせ、懇談会を適切に実施することに著しい支障が生ずるおそれがあり、また、懇談会の所期の目的が達成できなくなるおそれがある等、熊本県の土木行政の円滑な執行に支障を来すおそれがある旨主張するものの、そもそも、土木部管理課の行う懇談会は、すべてその事務の遂行として行われているものであって、懇談会における関係者の情報等が明らかになることによって、相手方に不快、不信の念を抱かせるおそれがあるということはできないし、また、右情報で明らかになることは、懇談会の外形的事実にすぎないものであり、右情報からは懇談会の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等が明らかになるものでないことは明白であるから、被告が主張するように、右事情を開示することによって熊本県の土木行政の円滑な執行に支障を来すおそれがあると認めることはできない。
また、被告は、本件文書(二)関係の情報は、公表されることを前提として作成されたものではないため、公表すると、相手側との協力関係及び信頼関係が損なわれ、必要な情報の入手などに協力が得られなくなるおそれがある旨主張するが、右の情報も、懇談会の外形的事実にすぎないものであり、右情報からは懇談会の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等が明らかになるものでないことは明白であるから、被告が主張するように、右情報を開示することによって、国等との協力関係及び信頼関係が損なわれ熊本県の土木行政の円滑な執行に支障を来すおそれがあると認めることはできない。
以上によれば、本件において、被告は、前記のような弊害が生ずるおそれを根拠づける具体的な事実を主張立証するところがないといわざるを得ない。
よって、右情報が本号に該当すると認めることはできず、これらについて本号に該当するとして非開示とした処分は違法というべきである。
五 なお、原告は、本件各処分が原告に対する不利益処分であるにもかかわらず、本件各処分の各決定通知書に理由が付記されていないとして本件各処分は違法である旨主張するが、本件各処分は不利益処分ではないうえ、本件通知書(一)及び(二)においては、処分理由中に本件条例のどの条項中のどの要件に該当するかが明らかにされているのであるから、理由付記としては十分であり、この点についての原告の主張は失当である。
六 以上の次第であるから、本件各処分のうち、別紙文書目録一記載の部分を開示しないとした処分、及び別紙文書目録二記載の出張者の職名及び氏名、出席した会議の議事内容に含まれる個人の肩書及び氏名、並びに出席したシンポジウムの会場、協力団体、パネリスト及びコーディネーターの紹介、プ口グラムにおける個人の肩書及び氏名、シンポジウム事務局に関する情報の部分を開示しないとした処分はいずれも違法であるからこれを取り消すこととし、同目録二記載の出張者の口座名義人及び口座番号の部分を開示しないとした処分は適法であるから、右の部分に係る請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山正士 裁判官 足立謙三 金地香枝)