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熊本地方裁判所 昭和24年(行)32号 判決

原告 富岡茂

被告 菊池村選挙管理委員会

一、主  文

熊本縣菊地郡菊池村選挙管理委員会が昭和二十四年六月二十日現在を以て調製した同村農地委員会委員選挙人名簿に訴外富岡登、同富岡チヨ、同富岡明、同富岡正剛、同坂口タメ、同中村勝美を登載してある部分はこれを取消す。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその一を原告、その余を被告の負担とする。

二、事  実

原告は、「熊本縣菊池郡菊池村選挙管理委員会が昭和二十四年六月二十日現在を以て調製した同村農地委員会委員選挙人名簿に訴外富岡登、同富岡チヨ、同富岡明、同富岡ミサヲ、同富岡正剛、同坂口タメ、同中村勝美を登載してある部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、「熊本縣菊池郡菊池村選挙管理委員会は昭和二十四年六月二十日現在を以て、同村農地委員会委員選挙人名簿を調製し、同年八月一日よりこれを縱覧に供したが、右名簿には同年六月二十日現在において右農地委員会委員の選挙資格を有しない訴外富岡登、同富岡チヨ、同富岡明、同富岡ミサヲ、同富岡正剛、同坂口タメ、同中村勝美の七名が登載されていたので、原告は右名簿の縱覧期間内である同年八月五日右選挙管理委員会に右名簿の修正を申立てたところ、同委員会は同月十一日原告の申立を正当でないと決定し、同月十三日原告にその旨の通知をなした。然しながら訴外富岡登、同富岡チヨ、同富岡明の三名は数年前より同郡隈府町に居住していて、菊池村には居住しておらず、同村には住家もなく、同村において縣民税や村民税も賦課されず、又衆議院議員選挙人名簿にも登載されていないのであつて、同人等は同年六月二十日当時同村に住所を有していなかつたもの、訴外富岡ミサヲは、同村に住所を有し且つ同村で一反歩以上の農地を所有して耕作の業務を営んでいる訴外富岡募の同居の妻であるが、同人は以前より隈府町小学校に教官として奉職していて農耕には全く関與せず、年間概ね六十日以上耕作の業務に從事する者でなく、而も同村に本人名義の農地を所有しないもの、訴外富岡正剛は右募の長男であるが、昭和二十三年三月一日熊本地方裁判所において住居侵入、強盜罪により懲役二年六月執行猶予四年の言渡を受け、昭和二十四年六月二十日当時右刑の執行猶予中のもの、訴外坂口タメ及び同中村勝美はいづれも一反歩以上の農地に付耕作の業務を営む者若は同村において同面積以上の農地を所有する者又は此等の者の同居の親族若は配偶者のいづれにも該当しないもので、殊に右勝美は当時鹿兒島縣に住所を有し、同村には住所を有していなかつたのであつて、結局以上登、チヨ、明、ミサヲ、正剛、タメ及び勝美の七名は本件選挙人名簿に登載せらるゝことを得ないものである。從つてこれに右七名が登載されているのは誤りであつて、原告は前記選挙管理委員会の決定に不服であるから、右名簿の修正を求める爲本訴請求に及んだ次第である。」と陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、「農地調整法における農地委員会委員選挙人名簿修正に関する訴訟は同委員会委員の選挙の公正を期する爲に認められたものであつて、右名簿に誤りがある限りこれによつて行われた選挙の結果に影響があると否とを問わず、右名簿の修正を求めることができるのであるから、被告の右抗弁は理由のないものである。」とこれを反駁し、本案に対する被告主張に対し、「訴外登が菊池村に一反歩以上の農地を所有し、これをその家族である訴外チヨ、同明と共に耕作していること、訴外タメが訴外募と同居していること、訴外勝美が訴外中村千惠の夫であることはいづれもこれを認めるが、右タメは右募の妾であつて募、タメ及び右千惠の間には戸籍簿上被告主張のような身分関係はない。」と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、「菊池村選挙管理委員会が昭和二十四年六月二十日現在を以て同村農地委員会委員選挙人名簿を調製し、原告主張の日よりこれを縱覧に供したこと、右名簿に訴外富岡登、同富岡チヨ、同富岡明、同富岡ミサヲ同富岡正剛、同坂口タメ、同中村勝美の七名が登載されていること、原告がその主張の日、その主張の如く、右選挙管理委員会に対し右名簿の修正を申立てたが、同委員会が右申立を正当でないと決定し、原告にその旨の通知をなしたことは爭わない。然しながら右名簿によつて行われた菊池村農地委員会の総選挙は既に終了し、右選挙によつて同村農地委員会の委員は確定しているのであるから、原告の主張する理由に基き右選挙の効力を爭うは格別、單に右名簿の修正を求めることは無意味であり、而も右名簿の誤りは何等右選挙の結果に影響を及ぼすものではないから、原告の本訴請求は訴訟の利益を欠くものとして棄却せらるべきものである。」と述べ、次に本案につき、「訴外富岡ミサヲが、菊池村に住所を有し、且つ同村で一反歩以上の農地を所有して耕作の業務を営んでいる訴外富岡募の同居の妻で以前より隈府町小学校の教官として奉職していること、訴外富岡正剛が右募の長男で昭和二十三年三月一日熊本地方裁判所において住居侵入、強盜罪により懲役二年六月執行猶了四年の言渡を受け、原告主張の頃右刑の執行猶予中であつたこと、右ミサヲ及び訴外坂口タメ、同中村勝美がいづれも菊池村に農地を所有していないことの原告主張事実はこれを認めるが、その余の原告主張事実はすべてこれを爭う。訴外富岡登は同村に一反歩以上の農地を所有し、これをその家族である訴外チヨ、同明と共に耕作していて、いずれも同村に居住し、すべての配給並びに選挙関係の籍を同村に置き同村に住所を有していたのである。尤も同人等は隈府町にも居住していて、同町と往き來はしていたが、同町では配給も受けず、縣民税や町民税の賦課もなく、且つ昭和二十二、三年度の各衆議院議員選挙人名簿及び昭和二十四年度の同町農地委員会委員選挙人名簿にも登載されていないのであつて、同人等の住所は同町にはなく、菊池村にあつたというべきである。又訴外ミサヲは前記教職の傍ら、自ら農耕に從事する外、夫募と共に直接同人方の農業経営に当つていて、年間優に六十日以上耕作の業務に從事していたものであり、訴外坂口タメは右募の娘である訴外中村千惠の母、訴外勝美は右千惠の夫で、右タメ及び勝美の両名は共に右募の同居の親族に該当し、且つ又夫々同村において一反歩以上の農地につき耕作の業務を営んでいたのであつて、右登、チヨ、明、ミサヲ、タメ及び勝美はいずれも昭和二十四年六月二十日現在において同村農地委員会委員の選挙資格を有し、本件選挙人名簿に登載せらるべきものである。從つて原告が前記七名のすべてが選挙無資格者であるとしてなす本訴請求は失当である。」と答えた。(立証省略)

三、理  由

熊本縣菊池郡菊池村選挙管理委員会が昭和二十四年六月二十日現在を以て調製した同村農地委員会委員選挙人名簿に訴外富岡登、同富岡チヨ、同富岡明、同富岡ミサヲ、同富岡正剛、同坂口タメ、同中村勝美の七名が選挙有権者として登載されていること、原告が右名簿の縱覧期間内である同年八月五日右七名をいずれも選挙無資格者であるとして右選挙管理委員会に同名簿の修正を申立てたが、同委員会が同月十一日右申立を正当でないと決定し、同月十三日原告にその旨の通知をなしたことは当事者間に爭のないところである。そこで先ず被告の本案前の抗弁につき按ずるに、そもそも農地調整法における農地委員会委員選挙人名簿修正に関する訴訟は本來右選挙の前提となる選挙人名簿自体を正確ならしめようとする独自の訴訟目的を有するものであるのみならず、本件選挙人名簿は昭和二十六年三月四日迄据置かれ、右期間中或は行われることあるべき農地委員会委員の諸種の選挙に使用されるのであるから、右名簿によつて行われた総選挙が終了したと否と、或いは又その選挙の結果に影響があると否とを問わず、右名簿の登載が誤りである限り、右期間中はこれが修正の必要はなお失われないといわなければならない。從つて被告の右抗弁は理由がない。

仍て進んで本案の爭点につき考察すると、訴外富岡正剛が昭和二十三年三月一日熊本地方裁判所において住居侵入、強盜罪により懲役二年六月執行猶予四年の言渡を受け、昭和二十四年六月二十日当時右刑の執行猶予中であつたこと、訴外富岡ミサヲが菊池村に住所を有し且つ同村で一反歩以上の農地を所有して耕作の業務を営む訴外富岡募の同居の妻で、以前より隈府町小学校に教官として奉職していること、訴外坂口タメ、同中村勝美がいずれも同村に一反歩以上の農地を所有していなかつたことは当事者間に爭がない。原告は訴外富岡登、同チヨ、同明の三名は当時菊池村に住所を有していなかつた旨主張し、被告はこれを爭うのであるが、成立に爭のない甲第一号証及び同第九、十号証並びに証人中原新吾、同富岡正清、同渡辺靜馬、同田中ひさゑの各証言を綜合すれば、右登及びその家族であるチヨ、明の三名は隈府町に居住していて、菊池村にある右登所有の農地を耕作する爲(同人が同村に一反歩以上の農地を所有し、これをその家族である右チヨ、明と共に耕作していることは当時者間に爭がない)両地を往き來し、配給物資の一部は同村で受けているが、同村においては昭和二十二乃至二十四年度の村民税の賦課もなく、衆議院議員選挙人名簿にも登載されず、又右登に対しては昭和二十四年四月頃行われた同村の新制中学校に対する寄附の割当に際し、同人がその頃同村に居住していなかつたとの理由で、その割当がなされなかつたこと等の事情を認めることができるのであつて、以上の事実を綜合して考えれば、同年六月二十日当時において、右三名の住所は菊池村になかつたものというべきであつて、他に右認定を覆えし、同人等の住所が同村にあることを肯認するに足る証拠はない。次に原告は訴外富岡ミサヲが年間概ね六十日以上耕作の業務に從事していなかつた旨主張するが証人富岡募の証言によれば、右ミサヲは自宅より同村と隣接町の前記小学校に通勤していて、教職の傍ら自ら農耕に從事している外、妻として夫募と共に同人家の農業経営の面に携わつていることが窺われるのであつて、このような事情の下においては同人が年間優に六十日以上耕作の業務に從事していることはこれを推察するに充分であり、これを否定すべき何等の反対証拠もないから、原告の右主張は採用できない。次に成立に爭のない甲第十七号証及び証人富岡募の証言によれば、訴外中村勝美、同坂口タメは前記募と同居していて、当時同村に住所を有していたこと、右勝美及び訴外坂口タメは單に右募方の農耕に從事していたにすぎず、いずれも本人名義で耕作の業務を営んでいなかつたことを認めることができる。被告は右タメは右募の娘である訴外中村千惠の母右勝美は右千惠の夫でいずれも募の親族に該当する旨主張するので按ずるに証人富岡募、同富岡正清はこれに沿う趣旨の証言をしているけれども、農地調整法において農地委員会委員の選挙資格を有すべき親族(同法第十五條の三)とは、いわゆる法律上正式な親族関係を有する者を意味すると解すべきところ、右各証言によつては未だ以て右の意味に於ける正式な親族関係の生じている事実は認めることができず却て成立に爭のない甲第三号証同第八号証同第十七号証に本件弁論の全趣旨を参酌して判断すれば右タメと募の間及び右千惠と募、從つて又同人と右勝美の間には何等法律上の親族関係はなかつたものということができるので、右タメ及び勝美が募の親族に該当するとの被告の主張はこれを排斥する。然りとすれば訴外富岡正剛、同富岡登、同富岡チヨ、同富岡明、同坂口タメ、同中村勝美の六名は昭和二十四年六月二十日現在において、菊池村農地委員会委員の選挙資格を有しないもので、いずれも本件選挙人名簿に登載せらるゝことを得ないものというべきであるが、訴外富岡ミサヲはこれに登載せらるゝ資格を有していたものであつて、右名簿に前記六名が登載されたのは誤りであるけれども、右ミサヲが登載された点においては誤りはないといわなければならない。果して然らば原告の本訴請求中右六名に関する部分は正当としてこれを認容すべきであるが、訴外ミサヲに関する部分は失当としてこれを棄却すべきである。仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十二條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 浦野憲雄 青山友親 下門祥人)

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