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熊本地方裁判所 昭和24年(行)38号 判決

原告 木村重喜

被告 熊本県知事

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

被告が別紙目録記載第一号物件につき昭和二十二年十二月二日附、同第二号物件につき昭和二十三年三月二日附、同第三号物件につき同年十月二日附、同第四号物件につき同年十二月二日附を以て夫々なした買收処分並びに賣渡処分はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。

三、事  実

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、「別紙目録記載第一号乃至第四号の各物件はもと原告の養父亡木村新平の所有であつたが、昭和二十年一月十九日同人の死亡により原告が家督相続人としてその所有権を取得したものである。然るに被告は右各物件が既に死亡した右新平の所有であるとなし、同人を名宛人として買收令書を発行することにより、第一号物件については訴外菊池郡合志村農地委員会の定めた買收計画に基き、昭和二十二年十二月二日自作農創設特別措置法第三條第一項第一号に該当する農地として、又第二乃至第四号物件については訴外菊池郡西合志村農地委員会の定めた買收計画に基き、第二号物件は同法條に該当する農地として昭和二十三年三月二日第三号物件は同法第十五條に該当する宅地建物として同年十月二日、第四号物件は同法條に該当する宅地として同年十二月二日夫々これを買收する旨の処分をなし、いずれも右各買收と同時に、前記各農地委員会の定めた賣渡計画に基き、第一号物件中(イ)の農地は訴外佐々木廣に、(ロ)の農地は訴外橋爪己義に、(ハ)の農地は訴外長野範之に、(ニ)の農地は訴外三島廣喜に、(ホ)(ヘ)の農地は訴外泉田マツエに、(ト)の農地は訴外三島廣喜、泉田マツエの両名に、第二乃至第四号物件はすべて訴外泉田マツエに、夫々同法第十六條、第二十九條により賣渡す旨の処分をなした。然しながら被告の前記各買收処分は既に死亡して存在しない者を相手方としてなされたもので何等法律上の効果を発生しない無効の処分であり、從つてこれを前提としてなされた右各賣渡処分も又結局無効である。原告はこのような行政処分の存在により、本件物件に対する所有権の行使を妨げられるので、右各処分の無効確認を求める爲本訴に及んだ次第である」と陳述し、被告の答弁に対し、「原告が從來より東京都に居住し、合志村及び西合志村に住所を有しないこと、本件買收令書が被告主張の頃訴外泉田マツエを通じて原告の許に送付されたこと、右マツエが亡新平の長女で本件第三号物件の住家に居住していることは認めるが、同訴外人が右物件を管理していること及び原告の代理人として同人に買收令書の受領権限があるとの被告主張事実は否認する。原告は同人に右物件を貸與したこともこれが管理を委任したこともなく、又本件買收令書は受領権限のない同人により受領された上原告の許に送付されたので、原告は訴外三島某を通じてこれを右マツエに返還しており、これ迄正式に令書の交付を受けたことはない。なお本件買收令書の誤記訂正がなされたことは知らないが、仮に訂正がなされたとしても、本件買收処分は本來全く無効の行政行爲であるから、被告主張のような訂正による追完は許されないものである」と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張事実中、原告主張の物件がもと原告の養父亡木村新平の所有であつたが、同人の死亡により原告が家督相続人としてその所有権を取得したこと、本件物件について被告が原告主張の日、夫々その主張のような買收並びに賣渡処分をなしたこと、及び右各買收処分について被告の発行した買收令書の名宛人が新平名義となつていたことは認めるが、右新平の死亡日時は不知、その余の点はこれを爭う。そもそも原告は以前から東京都に居住し、昭和二十年十一月二十三日当時は勿論現在に至る迄、本件物件の所在地である合志村及び西合志村に住所を有しないもので、自作農創設特別措置法第三條第一項第一号にいわゆる不在地主であり、且つ本件第一、二号物件はいずれも小作地、第三、四号物件は同法第十五條にいわゆる農業用施設に該当するので、被告は右両村の各農地委員会によつて定められ、且つ熊本縣農地委員会の承諾を経た買收計画に基き、右の物件を買收した上いずれも正当な買受権者にこれを賣渡したものである。而して本件買收令書の名宛が亡新平名義となつているのは、公簿上本件物件の所有者が同人名義となつていた爲、前記両村の農地委員会に於て買收計画樹立の際、買收計画には眞の所有者の氏名が記入されるべきところ、右新平の氏名が誤まつて記入され、被告も又公簿上の所有名義に從い買收令書の名宛を同人名義として表示した結果であつて、結局被告のなした本件買收処分は錯誤によりその所有名義を誤つたことになるが、自作農創設特別措置法の規定する買收要件のうち処分を無効ならしめるような重要な部分については何等の誤りはなく、右の錯誤は單なる誤記程度にすぎず、本來相続人である原告名義として表示すべきであつたことは明らかであるから、本件買收処分は右のような瑕疵により無効となるものではなく、当然相続人である原告に対する処分としてその効力を生ずるものである。なお本件買收令書は昭和二十四年四月二十二、三日頃右新平の長女で、新平の死亡前より同人と同居しており、又本件第三号物件の住家に居住し、原告の代理人として本件物件のすべてを管理し正当な受領権限のある訴外泉田マツエを通じ、原告に交付されたものであるが、その後被告は右買收令書に前記のような誤記があることを知つたので昭和二十五年二月六日誤記訂正の処分をなし、同年三月四日その旨の通知を原告宛発送したから、これが到達により前記瑕疵は除去され、本件買收処分は名実共に有効な処分となる訳である。以上の次第であるから本件賣渡処分も又有効であることは勿論であつて、原告の本訴請求はすべて失当である」と述べた。(立証省略)

四、理  由

別紙目録記載の第一乃至第四号物件はもと原告の養父亡木村新平の所有であつたが、同人の死亡により原告が家督相続人としてその所有権を取得したこと、本件物件について被告が原告主張の日夫々その主張のような買收並びに賣渡処分をなしたこと及び右各買收処分について被告の発行した買收令書の名宛人がいずれも新平名義となつていたことは当事者間に爭がなく、成立に爭のない甲第一号証によれば右新平は今次農地買收開始前の昭和二十年一月十九日既に死亡していた者であることが明らかである。ところで原告は本件買收処分は死亡者を相手方としてなされたもので無効である旨主張するので按ずるに、自作農創設特別措置法に基く農地等の買收処分が死亡者に対してなされたものゝように表示されてあつても、諸般の事情により該処分に意思と表示の不一致があつて、その眞意とするところは相続人に対してなされたものであると推測し得られる場合に於ては当該買收処分はこれを無効と解すべきでなく、その眞意に從つて効力を生ずるものと解するを相当とする。本件についてこれをみるに、本件買收処分は買收令書の名宛人が亡新平として表示されてはいるが、前段認定並びに本件弁論の全趣旨によればもと本件物件の所有者であつた右新平は既に本件買收手続開始前(昭和二十年一月十九日)死亡し、原告が家督相続によつて実質上その所有権を承継取得していたもので、本件買收処分当時公簿上の所有名義人が亡新平になつていた関係に過ぎないことが窺われるのであつて、これ等の事実に原告は以前より東京都に居住し、本件物件の所在地である合志村及び西合志村のいずれにも住所を有しないもので、本件物件は自作農創設特別措置法第三條第一項第一号、第十五條に該当する農地乃至宅地、建物として買收手続がなされたものであることの爭のない事実を併せ考え、更に当裁判所が眞正に成立したと認める乙第一号証及び成立に爭のない乙第七号証により認定せられる如く、被告がその後本件買收令書の名宛人を原告名義に訂正している事情を参酌すれば、本件買收処分によつて企図せられる眞の目的は原告を不在地主であるとしてその所有に係る本件物件を買收することにあるのであつて、買收令書の名宛人が亡新平名義として表示されているのはもともと誤りであることを推認するに難くないので、本件買收処分は買收令書の名宛人が死亡者になつていることのみの理由を以て直ちにこれを無効であると解すべきでなく、その眞意に從い亡新平の相続人である原告に対してなされたものとしてその効力を生ずるものと解すべきである。

然りとすれば原告が本件買收処分は死亡者を相手方としてなされた無効な処分であると主張して右買收処分並びにこれを前提としてなされた賣渡処分の無効確認を求める本訴請求はすべて失当として棄却を免れない。

仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 川井立夫 鍜冶四郎 下門祥人)

(目録省略)

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