熊本地方裁判所 昭和27年(行)18号 判決
原告 中野長久太郎 外八名
被告 八代郡郡築村議会 外一名
一、主 文
原告等の訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は「被告郡築村議会が昭和二十七年四月三十日議案第二十一号、同村諸給与条例改正案及び同第二十二号同村昭和二十七年度歳入歳出予算案につきなした議決はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告尾崎竹造は熊本県八代郡郡築村において公民権を有する同村住民、その他の原告等はいずれも同村議会の議員であるが、同村においては昭和二十七年会計年度の歳入歳出予算案が当該年度の当初に至るまでに成立しなかつた関係上、同年四月十八日右予算案は同村議会に議案第二十二号として、同第二十一号郡築村諸給与条例中一部改正案と共に審議に付せられたのであるが、右はいずれも同日中に議決せられるに至らず、同月三十日に続行せられることになつた。そうして原告尾崎を除く他の原告等八名は前記議員の職責上慎重に右両議案に検討を加えた結果、右は同村における現下の経済的実情等に照し、到底満足すべきものではないとの結論に達し、同月二十三日連名を以て該議案につき修正案を提出したのである。よつて、同月三十日同村議会において議長山田実年は前記第二十一号及び同第二十二号議案に、原告山下外七名提出の右修正案及び訴外上村松生外六議員提出の修正案を一括審議に付したところ、議事は紛糾を極め、同議長は一議員として討論に加わる目的で休会を宣し議長席を降り、副議長石川幸三郎は理由を構えて議長席に着かず、議員上村松生が仮議長として会議を続行したのであるが、議長席に着くことを要請した仮議長の指示に従わないと見るや、右副議長に対し地方自治法第百三十四条、同村議会々議規則第三十条を適用の上懲罰による退場を命じ、前記第二十一号及び同第二十二号議案を原告山下外七議員提出の修正案の如く修正することにつき賛否を諮つたところ、右賛成者として中野、内田、森、坂田、黒木、山下、木下、石川の八議員が賛成し、山田、岡村、釜賀、宮田、稲木、上田、植田の七議員が之に反対した。次に両議案を前記上村外六議員提出の修正案の如く修正することにつき同様賛否を問うたところ、今度は先の修正案につき反対の議員が賛成と呼び起立し、賛成した各議員が反対と呼び起立した。従つて其の賛否の数は八対七で原告等議員提出の修正案が可決され、上村松生等提出の修正案が否決された筈であるに拘らず上村仮議長は石川議員は退場を命ぜられているの故を以て、その賛否は右表決の数に算入しないと述べ、右表決の結果はいずれも賛否同数であるから議長は上村議員外六名提出の修正案に賛成する。従つて原案は右修正案通りに可決された旨を宣し閉会した。
しかし乍ら(一)元々地方公共団体の議会において正副議長共に支障があり、仮議長を選任しなければならない場合においては、地方自治法第百六条第二項、第百七条の規定により、年長の議員において臨時に議長の職務を行い、同法並に公職選挙法の規定に従い仮議長の選挙をなさなければならないにもかかわらず、本件の場合、上村議員は単に休会中副議長より仮議長に推薦せられたに止まり、右の如く正当の手続を以て選任せられた者ではないので、同議員に何等仮議長の資格は生じなかつたものと云わなければならない。従つて、右の議決は議長の資格を欠く者の運営の下になされた点に於て、既に不適法たるを免かれない。(二)次に議員懲罰の主体が議会であることは言うまでもないことで、其の懲罰の種類は地方自治法第百三十四条同法第百三十五条により戒告、陳謝、一定期間の出席停止及び除名の四に限られているに拘らず、本件においては石川議員に対する右懲罰の点は何等会議に上程されず、前記の如く上村仮議長は全くその専断を以て前記法条に定めのない退場命令を発したのであつて、右は全く法の適用を誤つた違法の処分と云わなければならない。従つて、石川議員に対する懲罰は無効であるから同議員の賛否を前記議決の表決の数に算入すれば、前記上村議員外六名提出の修正案は当然否決せられ、原告山下外七名提出の修正案が通過した筈であつて、本件議決はいわゆる多数決の原理に反する違法があり、右何れの点より見るも本件議決は無効であることを免れない。
よつて之が無効であることの確認を求めるため、本訴請求に及ぶと陳述した(立証省略)。
被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告等主張事実中、原告等が夫々その主張の地位に在ること及び郡築村議会に於いてその主張の如き議案の審議がなされたこと、並びに次に述べる部分を除き、その主張の如き経過を以てその主張の議決がなされたことは認めるが、右議決に瑕疵があるとの点は否認する。
即ち(一)上村仮議長は第一回の休会中議員協議会において選任せられたが、右選任につき議会の同意を得ていなかつた関係上、同議長は議事運営中このことに気付き従前の手続はこれを一旦取消した上改めて右仮議長の承認を議会に求め、満場一致によるその承認を受け、それ迄になされていた議員山田実年による発言は自発的に同議員により取消されたから、同日の同議長による議事運営には別段の瑕疵もないことに帰した。(二)次に、上村仮議長において議員石川幸三郎に対し退場を命じたのは同議員に対する懲罰としてではなく地方自治法第百二十九条、同村議会々議規則第二十九条の定めによる議場の紀律維持のためになしたものである。すなわち、同議員は再三、再四議長席に着くよう要請せられたにもかかわらず、正当の理由なくこれに応じなかつたため、上村仮議長はその職権を以て紀律維持の必要上同議員に退場を命じたのであつて、同議員の起立を以て賛否の票数に加えなかつたのは固より当然のことで、本件議決には原告主張の如き無効原因は存しないので、原告等の本訴請求は失当である旨述べた(立証省略)。
三、理 由
先ず本訴の適否につき検討する原告尾崎竹造が熊本県八代郡郡築村において公民権を有する同村の住民で、その他の原告等がいずれも同村議会の議員であること及び昭和二十七年四月三十日同村議会において、原告主張の議決がなされたことは当事者間に争がない。
およそ三権分立の原則から言つても司法権は行政権に対する一般的監督権を有するものではなく、司法権が行政に関して有する権限は当事者間に具体的の争のある場合に法の適用を保障するに限られるものと解すべきである。然るに村議会は地方公共団体たる村の意思機関として、執行機関たる村長に相対し村に関する事件につき村の意思を決定するを任務とするものである従つて村議会の議決は単に村の内部的な意思決定をなすと云うに止まり、未だそれだけでは其の意思は外部に表明されたものではないから村の住民に対しては勿論、右議会を構成する議員に対しても何等その権利義務に直接の影響を及ぼすものとは云い難い、従つて、本件の予算決議も該議決を以て直ちに行政訴訟の対象とはなし得ないことは明白であつて、本訴は結局訴訟上の要件を欠き不適法たることを免かれないから、他の争点につき判断するまでもなく、これを却下すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 浦野憲雄 安仁屋賢精 松本敏男)