熊本地方裁判所 昭和29年(行モ)5号 決定
申立代理人は「熊本市藪の内町十五番地の五宅地百八十一坪九合八勺に対する熊本地方法務局昭和二十六年十一月二十八日受付第一〇九七二号の差押登記に基く被申立人熊本国税局長の公売処分は本案判決に至るまで基の執行を停止する。」との決定を求め、その申立の理由として「前記宅地は同地上家屋とともに申立人が申立外高柳健次から昭和二十五年五月十九日金四十万円で買受け代金の支払を了して之が引渡を受け現に申立人が住宅として占有使用中のものであるが、右宅地については申立人の買受け以前高柳健次から申立外竹原アキノに売渡されたとして其の旨の仮登記が為されていた関係上、申立人に対する所有権移転の登記手続が遷延するうち竹原は高柳に対し所有権移転登記手続請求訴訟を熊本地方裁判所に提起した為め申立人は改めて竹原から前記宅地に関し同人の有する権利を譲受け前記竹原高柳間の訴訟に当事者参加の手続をし現に右訴訟は同裁判所に係属中である。右の経過により明かなように本件宅地は申立人が其の所有権を有するもので、只登記簿上高柳健次の所有名義となつているに過ぎない。ところが被申立人は同人に対する租税滞納処分として右物件に対して差押をなし昭和二十六年十一月二十八日差押登記を経由した上申立人に対し同二十九年十月十二日同物件を公売する旨の通知を為し現在右手続は進行されている。しかしながら申立人は前記のとおり被申立人が前記高柳に対する滞納処分による差押をする以前既に同人から本件宅地の所有権を取得しており之の間の事情は被申立人に於ても之を知悉しながら爾来四年近くを経過した現在に至つてこれを公売処分に付するなどは全く違法であるのみならず右差押当時における高柳の滞納税金は殆んど存在せず仮に残存するとしてもそれは五年の経過により時効により既に消滅していると思料されるに拘らず之を無視して為された本件公売処分は全く不当と言ふの外なく申立人は被申立人を被告として熊本地方裁判所に前記申立人の所有宅地に対する違法な公売処分の取消の訴を提起しているのであるが、このまゝ右公売が執行されて本件宅地の所有権を失うことは回復しがたい損害が生ずるので、これを避けるため緊急の必要があるから本案の裁判に至るまで右公売処分の執行の停止を求めるため本申立に及ぶ。」と云うにある。(疎明省略)
よつて按ずるに本件宅地が登記簿上申立外高柳健次の所有名義であること、及び右宅地が申立人主張の如く高柳に対する租税滞納処分のため公売に付されていることは本件申立書添附の各疏明書類に徴し明かである。
申立人は右宅地の真実の所有者は高柳に非ずして申立人であるから高柳に対する租税の滞納処分により右宅地が公売に付されるいわれはないと主張するのであるが本件宅地の登記簿上の所有名義が高柳に存する以上、被申立人が之を高柳の所有と看做し同人に対する租税の滞納処分のための公売処分に付したことは、民法第百七十七条の第三者に、租税債権による差押債権者たる国も当然該当するものと解するを相当とする以上、もとより当然の措置と云ふべく申立人の右主張は理由がない。
次に申立人は本件宅地差押当時前記高柳の滞納租税は殆ど存在せず仮に然らずとしても時効により消滅していたと抗争しているが斯る主張は滞納処分を受けた高柳自身により為さるるのであれば格別公売の目的物の所有権が滞納者以外の者に属することを以て請求原因とする本件申立に於て其の理由の無いことも亦明かと言はなければならない。
以上何れの点からしても申立人の申立は理由がないから、これを却下すべきものとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 浦野憲雄 下門祥人 田原潔)