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熊本地方裁判所 昭和31年(行)5号 判決 1958年2月18日

原告 宮崎産業株式会社

被告 熊本国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告が申立てた昭和二十六年度(第十二期事業年度)以降の青色申告書提出承認取消に対する審査請求につき被告のなした請求棄却の審査決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告会社は臼杵税務署長から法人税法第二十五条により青色申告書をもつて確定申告をすることの承認を得ていたものであるが、原告会社の昭和二十五年十二月一日から昭和二十六年十一月三十日までの第十二期事業年度には百六十八万六千七百七十五円の欠損のあつた旨の確定申告を昭和二十七年一月三十一日青色申告書によつて申告したが、その後右計算に誤りがあり、欠損はなく逆に所得があつたことが判明したので、昭和二十八年十二月十六日所得金額を四百七十三万千三百円として被告に対し修正申告書を提出したところ、右は昭和二十九年一月二十二日臼杵税務署に回付された。

(二)  その後原告会社においてさらに調査した結果、右修正申告の額以上に所得のあつたことが判明したので、昭和二十九年三月十六日臼杵税務署に対し、所得金額を六百一万三千円として再修正申告書を提出し、これに基く法人税は同年九月十五日までに完納した。

(三)  しかるに臼杵税務署長はそれから一年二カ月を経過した昭和三十年十一月十八日に至り第十二期事業年度(昭和二十六事業年度)以降の青色申告承認を取消す旨の処分をなしてこれを原告会社に通知した。そこで原告は昭和三十年十二月二十一日被告に対し審査の請求をしたところ、同人は昭和三十一年三月十九日付で原告の審査請求を棄却する旨の決定を為し同月二十日原告に対しその旨の通知をなした。

(四)  しかしながら被告のなした右の処分には、次のような違法がある。

(イ)  原告は前記のように自己のなした申告の誤りを発見するや、自発的に再度にわたつて修正申告をなしてその瑕疵を補正したのであるから、その補正以前なら格別、右のようにその瑕疵が治癒された後に至つて、原告が当初になした申告に虚偽があつたとして、青色申告書提出の承認を取消すことは権利の濫用であつて許されない。

(ロ)  仮りにそれが権利の濫用でないとしても、再修正申告に基く法人税の納付を完了した後一年二カ月を経過してなされた臼杵税務署長の処分は、法人税法第二十五条第七項にその取消期間の制限がないからといつて、何時にてもその取消が許されると解することは納税者を長期間不安に曝すことになるので、かゝる長期間を経過した後の取消は許されないと解すべきであるからこの点においても違法というべきである。

(ハ)  なお臼杵税務署長は原告の作成した帳簿等に不実の記載があつたとして昭和二十五年十二月一日から始まる第十二期事業年度に遡つて青色申告の承認を取消したのであるが同署長が原告の帳簿等を調査したのは原告の第十一期(自昭和二十四年十二月一日至昭和二十五年十一月三十日)及第十二期(自昭和二十五年十二月一日至昭和二十六年十一月三十日)の二ケ年度分だけであつて第十三期分以降については何らの調査もしていない。

従つて第十三期分以降の帳簿等については何ら真実性を疑うに足る不実記載があつたと認むべき事実も証憑も無いものであるから本件の場合すくなくとも昭和二十六年十二月一日に始まる第十三期事業年度以降の分に対する同署長の認定は全く臆測を範囲を出でず何ら根拠の無い認定と云う外はなくその違法であることは多言を要しない。

右のとおり臼杵税務署長の青色申告承認取消処分は違法として取消さるべきであるにも拘らず、これを認容した被告の本件審査決定も亦違法であるから、その取消を求めるため本訴に及んだと述べ、原告は昭和三十年十二月一日から始まる第十七期事業年度から改めて青色申告書の提出を承認され、現に青色申告をなしているとつけ加えた。(立証省略)

被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中被告及び臼杵税務署長のなした処分が違法であるとの点を除きその余はすべて認めると述べ、右処分の適法であるゆえんを次のとおり述べた。

(一)  原告は昭和二十七年一月三十一日第十二期事業年度(自昭和二十五年十二月一日至昭和二十六年十一月三十日)の確定申告課税標準を欠損百六十八万六千七百七十五円として申告したが、昭和二十八年七月十日法人税逋脱容疑で査察を受けるに至り、多額の法人税追加を予知して同年十二月十六日課税標準を四百七十三万千三百円として修正申告し、昭和二十九年三月十六日査察官の調査の進展に伴い、右修正申告では更正のあることを察知して、さらに課税標準を六百一万千三百円と再修正したが、昭和三十年十一月十八日第十二期事業年度(昭和二十六事業年度)以降の青色申告提出承認について臼杵税務署長から取消処分を受け、同年十一月二十二日同人から課税標準について五百六十四万七百円と減額更正処分を受けたのである。

(二)  臼杵税務署長は査察の結果原告が作成した帳簿等の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足る不実記載があつたと認めたので法人税法第二十五条第七項第三号によりその不実記載の事実があつたと認められる時まで遡つて青色申告の承認を取消したものであつて、臼杵税務署長の処分にはなんら違法な点はない。原告は瑕疵補正後の取消や税金完納後相当期間経過後の取消は許されないと主張するが、法人税法第二十五条第七項にはなんら取消期間の制限規定もなく、原告が違法事由として主張するところは、行政庁に対する私人の公法行為において、私人が自己のため不法に利益を図る目的に出た脱法行為を行政庁に発見されたゝめ、その遂行が困難又は不可能となつた後においてその意図を変更すれば、その瑕疵が治癒されるということに帰着し、この理が失当であることは明らかである。と述べ、なお原告は昭和二十九年十一月二十七日熊本国税局査察官から大分地方検察庁に告発されたため、同年十二月二十七日法人税逋脱の嫌疑で大分地方裁判所に起訴され、現に公判係属中であるとつけ加えた。(立証省略)

理由

原告会社が法人税法所定の確定申告を青色申告書によつて行うことの承認を得ていたものであること、その昭和二十五年十二月一日から昭和二十六年十一月三十日に至る第十二期事業年度(昭和二十六事業年度)の決算の結果当初課税所得がなく百六十八万六千七百七十五円の欠損のあつた旨の確定申告を昭和二十七年一月三十一日青色申告書によつて申告し、さらに昭和二十八年十二月十六日所得金額を四百七十三万千三百円として被告に対し修正申告書を提出し、これが昭和二十九月一月二十二日臼杵税務署に回付されたこと、その後同年三月十六日所得金額を六百一万三千円として再修正申告書を提出し、これに基く法人税を同年九月十五日までに完納したこと、臼杵税務署長が昭和三十年十一月十八日第十二期事業年度(昭和二十六事業年度)以降の青色申告承認を取消す旨の処分をなしてこれを原告会社に通知したこと、原告会社のなした審査請求に対しこれを棄却する旨の通知が昭和三十一年三月二十日原告会社に対しなされたことは当事者間に争いがない。

原告は被告のなした原告の審査請求を棄却する旨の処分は違法であると主張するに対し、被告は臼杵税務署長は法人税法第二十五条第七項第三号に基き取消したものであつて適法であるから、これを是認した被告の処分も亦適法であると主張するので先づ同条項に該当する取消事由が原告会社にあつたか否かについて判断する。

証人城戸悟の証言と成立に争のない乙第二乃至九号証及び甲第四号証を綜合すると、原告会社は昭和二十四年十月頃法人税逋脱の疑いで熊本国税局の査察を受けたが、さらに昭和二十八年七月頃から脱税の疑いありとして、再び査察を受けるに至りその結果原告会社は鋼鉄船購入資金を捻出するため、第十一期事業年度(自昭和二十四年十二月一日至同二十五年十一月三十日)と第十二期事業年度(自昭和二十五年十二月一日至同二十六年十一月三十日)で約六百九十万円、第十三期事業年度(自昭和二十六年十二月一日至同二十七年十一月三十日)を加えると約一千万円に近い所得が故意に帳簿に記載されていなかつたことが明らかとなつた。しかして不正記帳の具体的方法は(一)架空の社員や船員を作つてその人件費を計上し、(二)原告会社が傭船した場合その燃料費は船主負担であるにも拘らず原告会社がこれを負担したように記帳し、又社船の燃料については、船長に実際の消費量より水増した虚偽の航海報告書を提出させ、これに基いて記帳し、(三)預金額を実際の額より少く記帳し、反対に借入金の額を実際の額より多くし、又借入金に対する利率を実際より高くし、実際支払つた額以上に利息を支払つたように記帳し、あるいは全く架空の借入金を記帳したりなどしていた。そこで、原告会社としては、当初の申告に対し当然更正決定のなされることを予知し、昭和二十八年十二月十六日修正申告をなし、さらに査察の進展に伴い昭和二十九年三月十六日これを修正する再修正申告をなしたことが認められる。

以上認定の事実に徴する時は臼杵税務署長が青色申告の承認を取消した原告会社の第十二期事業年度に於ける帳簿書類の記載には法人税法第二十五条第七項第三号に該当する取消事由の存在したことを認めるに十分であつて原告提出援用の全証拠によつても到底右認定を覆すことはできない。

(イ)  原告会社は自己のなした申告について誤りを発見するや自発的に修正申告をなし、それに基く法人税を納付してその瑕疵を補正した後においては、青色申告提出承認の取消は権利の濫用で許されないと主張するが、原告会社は査察の進展に伴い不正記帳の事実が明らかとなつたので、修正申告をなしたものであり、なんらの強制もなく自発的に修正申告をなしたものでないことは先に認定したとおりであり、原告の主張は行政庁に対する私人の公法行為において、私人が自己のため不法に利益を得る目的でなした脱法行為を行政庁に発見されたためその遂行が困難又は不可能となつた後において、その意図を変更修正すれば、瑕疵が治癒されるということに帰し、これが採用できないことは明らかである。

(ロ)  さらに原告会社は再修正申告に基く法人税完納後一年二カ月を経てなされた青色申告承認取消処分は違法である旨主張する。法人税法第二十五条はその承認取消期間になんらの制限規定がないばかりか本件では青色申告承認取消処分のなされた数日後、臼杵税務署長が更正決定をなしているところからその間調査が続けられたであろうことが窺い知られ、その期間もさして長いとは云えないから臼杵税務署長の本件処分が原告の主張する期間経過により違法ということはできない。

次に原告が違法事由の(ハ)として主張する点につき考えてみる。法人税法第二十五条第七項は同項に列記する事由に該当する場合はその事実があつたと認められる時に遡つて青色申告の承認を取消すことができるのであるから臼杵税務署長が前認定のとおり、原告の第十二期事業年度に於て同条第七項第三号に該当する事由ありとして原告に対する青色申告の承認を取消した以上、第十三期事業年度以降の分につき同様の取消事由があると否とを問わず、取消の効力は第十三期事業年度以降に及ぶことは当然であつて、第十三期事業年度分以降については同条項に該当する証憑が無いので同署長の処分はすくなくとも第十三期事業年度以降には及ばないと為す原告の所論は法の解釈を誤つたものとして採用の限りでない。

以上説明したところで明らかなように、原告会社の記帳は単なる過失に基く一部脱漏ではなく、計画的に取引の一部を正規の帳簿に記載しなかつた場合と認められるから、臼杵税務署長がこれを法人税法第二十五条第七項第三号に該当するとして、原告会社の第十二期事業年度以降の青色申告書提出承認を取消したのは相当であつてなんら違法な点はないから、これを認容した被告の審査決定も亦違法な点はないものといわねばならない。

よつて被告の処分の違法を理由とする原告の本訴請求を棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浦野憲雄 今富滋 藤光巧)

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