熊本地方裁判所 昭和32年(行)4号 判決 1958年6月19日
原告 天草ゴム製品販売株式会社
被告 熊本国税局長
訴訟代理人 小林定人 外四名
主文
天草税務署長が原告の昭和二十八年度分法人税に関してなした原告の同年度の所得額を金七十四万五千百円とする再更正決定のうち金五十七万九千六百円を超える部分及び同二十九年度分法人税に関してなした原告の同年度の所得額を金九十六万七千四百円とする更正決定のうち金七十七万五千五十円を超える部分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。
「原告は肩書地にてゴム製品の販売業を営んでいるものであるところ、天草税務署長に対し昭和二十八年度(自昭和二十八年四月一日、至同二十九年三月三十一日)の法人税に関し、同年度の所得額を金五十七千九百二十六円と申告したのに、同署長は同二十九年十月十五日之を金五十七万九千六百円とする更正決定をなし、更に同三十年六月三十日之を金七十四万五千百円とする再更正決定をなした。又同二十九年度(自昭和二十九年四月一日、至同三十年三月三十一日)の法人税に関し同年度の所得額を金七十七万五百五十三円と申告したのに対し天草税務署長は同三十年六月三十日之を金九十六万七千四百円とする更正決定をなした。
ところがその後原告において調査したところによると、原告の昭和二十八年度の所得額は金五十七万九千六百円、同二十九年度の所得額は金七十七万五千五十円であり、原告算出の右所得額と天草税務署長のなした昭和二十八年度更正決定及び同二十九年度更正決定における所得額との間に前叙のような差異が生じたのは、原告がその使用人山下義一に対し使用人給料及び賞与として支給した昭和二十八年度における給料金二十一万千五百円、賞与金四万四千円以上合計金二十五万五千五百円、同二十九年度における給料金二十七万三百五十円、賞与金六万八千円以上合計金三十三万八千三百五十円を、右各年度の所得額算出上損金処分としたのに対し、天草税務署長は原告が山下義一に支給した右給料及び賞与を役員報酬及び賞与と認定し、前叙金額のうち昭和二十八年度分においては金十六万五千五百円、同二十九年度分においては金十九万二千三百五十円につき、その損金処分を否認しこれを益金として夫々各年度の原告主張の所得額に加算したことによることが判明した。
しかし乍ら山下義一は原告の使用人としてゴム製品の仕入れ、販売等の業務に従事しているのであつて名義上原告の取締役となつているに過ぎないのである。即ち原告はその設立当時ゴム製品の販売等の経験者を欠いていたのでその適任者を探し、当時訴外天草鉄工株式会社に就職中の山下義一がこの方面の経験者であることを知つて、同人を引抜き採用した関係上、同人に対する優遇策として原告の株式発行目標千株のうち僅か三十株を持たせて取締役の肩書を与えたに過ぎず、同人はその後昭和二十九年七月十二日原告の専務取締役に選任され、被告主張の通り原告の重役会議には出席しているが、これらは何れも単に形式的に選任され、且出席していたものであつてその実質が使用人であることには変りがない。従つて山下義一は原告の使用人兼務役員であり原告は同人に対して、昭和二十四年度から同二十七年度までには、使用人としての給料の外に平取締役としての報酬又は賞与を支給していたことがあるが、これは誤りであるとの株主総会の意見に基き、同二十八、九年度においては役員としての報酬等は一切支給せず、単に使用人給料及び賞与として前叙の金額を支給したのである。尚原告の昭和二十八、九年度における役員報酬に関する株主総会承認額及び役員に対する報酬支給額(山下義一の分を除く)が被告主張の通りであることは認めるが、山下義一に対して役員報酬を支給していないことは前述の通りであるから、原告が役員に対して支給した報酬額は右両年度共株主総会の承認額を超過していない。
以上の通り天草税務署長のなした原告の昭和二十八年度の所得額を金七十四万五千百円とする再更正決定のうち金五十七万九千六百円を超える部分及び同二十九年度の所得額を金九十六万七千四百円とする更正決定のうち金七十七万五千五十円を超える部分は、何れも原告が山下義一に対し使用人給料及び賞与として支給した金額を、同署長において役員に対する報酬及び賞与であると誤認し、右所得額算出につきその損金計上を否認した結果なされたもので、違法な処分であるから取消さるべきである。
そこで原告は本件昭和二十八年度分再更正決定及び同二十九年度分更正決定に対し、同三十年七月十五日天草税務署長に再調査の請求をなしたが、同年八月二十五日右請求は何れも棄却され、更に同年九月三日熊本国税局長に審査請求をなしたところ同三十二年四月五日之も棄却され、同月六日その旨通知をうけたので止むなく前叙各処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ。」
被告代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として次の通り述べた。
「原告主張事実のうち山下義一が原告の使用人であり、原告が同人に対して支給した給料及び賞与は使用人給料及び賞与として本件各年度における原告の所得額算出につき損金に計上されるべきものであるとの点を除きその余は全部認める。しかして天草税務署長が本件の昭和二十八年度分の所得額につき再更正決定、同二十九年度分につき更正決定をなした理由は次の通りである。
原告は山下義一に支給した報酬(昭和二十八年度金二十一万千五百円、同二十九年度金二十七万三百五十円)及び賞与(昭和二十八年度金四万四千円、同二十九年度金六万八千円)を全額使用人に対する給料及び賞与としてその所得税算出につき損金に計上しているのであるが、これは役員に対する報酬及び賞与であり、右賞与全額及び報酬額中賞与とされる額(昭和二十八年度金十二万千五百円、同二十九年度金十二万四千三百五十円)は益金に計上すべきものである。即ち原告は昭和二十四年八月三十日設立に際し、発起人中にゴム製品販売の経験者がいなかつたので、山下義一が昭和十八年企業整備に至るまでゴム製品販売業を営んでいた経験を買つて、同人を取締役に迎え、以来同人は原告の販売責任者として経営を担当し、同二十九年七月その経営手腕を認められ専務取締役となつたものである。
原告は、山下義一は単に使用人として採用したのであり同人を取締役としたのは実権の伴わない名義上の優遇策に過ぎないものであると主張するが前述のように同人は原告の設立当初から営業担当の取締役として会社経営に尽力し、その業績を高く評価され専務取締役に選任されたこと及び取締役乃至専務取締役の資格をもつて別紙第一表記載の通り原告の重役会議に出席していることにより、使用人でなく原告の役員であることが明らかである。
又、山下義一が原告の使用人兼務役員に該当しないことも以下述べるところにより明白である。
そもそも税法上、法人の使用人兼務役員として使用人給料及び賞与の支給を受け得られるものは、使用人としてその職務に従事していた者が職能、経験、功労等により役員に昇任したが、その職務の内容が従前の職務の種類とほぼ同様である場合又は個人の使用人であつた者が法人設立に際して役員数の関係、経験等により役員となつた場合のように従来と同様に使用人としての職務に従事しながら単に名義上役員になつた者を指すのであつて税務行政の実際においても斯様に取扱われている。又実務においては右のような場合に該当する者であつても代表取締役、専務取締役又は常務取締役等の代表社員若しくは表見代表社員であるときは使用人兼務役員に該当しないものとして取扱つている。
これらのことは商法の面からも云い得ることである。即ち法人が役員に対して委任の報酬として支払うべき金額の決定は、理論的には業務執行権に属すべきものであるが、それを商法第二百六十九条が定款又は株主総会の決議により定むべきものと規定しているのは、いわゆるお手盛の弊を避けんとするものに外ならない。それを若し役員が自由に決定し得る従業員給料の名目でその報酬を支給され得るならば右法条の立法の趣旨は全く没却されるに至るからである。この点からしても使用人兼務役員は使用人給料額の決定を含め経営について実質的な権限を有しない名義上の役員に限られるべきである。
しかして山下義一は原告会社設立の当初から株主であり取締役に選任され、会社経営を担当して来たのであるから、仮に一部使用人としての業務を担当することがあるとしても、このことは使用人兼務役員に該当しないとの結論が左右するものではない。
以上の次第で山下義一は原告の使用人たる資格を有しないのであるから原告が山下義一に対し使用人給料及賞与の名義で支給した金額は同人に対する役員報酬及び賞与と云うべきであり、天草税務署長は原告が昭和二十八、九年度の所得額算出上山下義一に支払つた報酬及び賞与の全額を損金に計上したのに対し、別紙第二記載のように山下義一を含む原告の全役員に支払つた報酬総額のうち役員報酬に関する株主総会承認額を超える額及び山下義一に支払つた役員賞与額(昭和二十八年度合計金十六万五千五百円同二十九年度合計金十九万二千三百五十円)につきその損金処分を否認した。
しかして右否認は「法人がその役員に対し支給した賞与は、これを損金とした場合であつてもすべて益金処分の賞与とする」との国税庁長官の法人税基本通達第二六二号及び「法人が株主総会承認額を超えて役員に報酬を支給した場合、そのこえる金額は利益処分による賞与とする」との同基本通達第二六八号に基いてなしたものである。
その結果、天草税務署は原告の昭和二十八、九年度の所得額につき本件再更正決定及び更正決定をなしたのであるから、右処分には原告主張のような違法な点はない。」
証拠<省略>
理由
原告はゴム製品の販売を営む株式会社であること。
原告が天草税務署長に対し昭和二十八年度(自昭和二十八年四月一日、至同二十九年三月三十一日)の法人税に関し、同年度の所得額を金五十七万七千九百二十六円と申告したのに同署長は同二十九年十月十五日之を金五十七万九千六百円とする更正決定をなし、更に同三十年六月三十日之を金七十四万五千百円とする再更正決定をなしたこと。
同様に同二十九年度の法人税に関し同年度の所得額を金七十七万五百五十三円と申告したのに対し、天草税務署長は同三十年六月三十日之を金九十六万七千四百円とする更正決定をなしたこと原告は天草税務署長のなした右昭和二十八年度分の再更正決定及び同二十九年度分の更正決定につき、同三十年七月十五日同署長に対し再調査の請求をなしたが同年八月二十五日右請求は何れも棄却されたもので、更に同年九月三日被告に審査請求をなしたところ、同三十二年四月五日之も棄却され、同月六日その旨通知をうけたこと。
原告が山下義一に使用人給料及び賞与の名義で支払つた金額が損金処分とされるべきか又は益金処分とされるべきかの点を除き原告その余の所得額が原告主張の通りであること。
以上の事実は当事者間に争がない。
しかして被告は、山下義一は原告の取締役員であるから、原告が同人に対し使用人給料の名義で支払つた昭和二十八年度金二十一万千五百円、同二十九年度金二十七万三百五十円の金額は役員報酬と認むべく、同じく使用人賞与で支払つた昭和二十八年度金四万四千円、同二十九年度金六万八千円は役員賞与と認むべきもので右金額のうち報酬額については、これと原告の他の役員に支払われた報酬額との合算額中役員に関する原告株主総会の承認額を超える部分、賞与については全額が夫々右各年度の所得額算出上益金に計上されるべきものであると主張するのに対し、原告は之を争い山下義一は名義上原告会社の取締役に選任されているが実質的には原告の使用人に過ぎず原告が同人に支払つた給料及び賞与は使用人給料及び賞与として、右各年度の損金に計上されるべきものであると主張する。
そこで先ず山下義一が原告の役員であるか、それとも使用人であるかについて検討するに、山下が原告会社設立の頃である昭和二十四年頃から原告会社の取締役に選任され、同二十九年七月には専務取締役となり、原告会社の重役会議には取締役又は専務取締役の資格をもつて出席していることは当事者間に争なく、右事実によると山下義一は原告会社の取締役員であることが明らかであるが他面成立に争いない甲第七号証の一乃至六によると原告会社においては昭和二十四年十月設立以来同三十年三月迄は概ね常勤の役員として代表取締役には柿久繁太郎、専務取締役乃至常務取締役に金子仁平が選任され、他の取締役は非常勤の役員であつたが、平取締役中ひとり山下義一は常勤となつていたこと及び山下が専務取締役に選任された昭和二十九年七月の前後において同人の報酬乃至給料の額に差異がないことが認められ、右事実と証人山下義一の証言、原告代表者金子仁平の尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合して認められる山下ゴム製品の販売等の経験を買われて原告会社に迎えられ、ゴム製品の販売等の経験者のない原告会社において仕入、販売等に関する事務全般、荷受、出荷等の業務に従事していること及びこれらの職務内容は同人が専務取締役に選任された前後を通じて変らないとの事実とを併せ考えると山下は原告会社の役員としては業務執行の権限を有していないのに、業務執行に関し労務を提供しているのであり、これは同人が原告の使用人としての職務にも従事しているものと認めるのが相当である。尤も成立に争いない乙第一号証によると山下は昭和二十六年八月四日常務取締役に選任されていることが認められるが前顕山下証人の証言及び原告代表者金子仁平の尋問の結果によると山下はその選任の前後を通じてその職務内容に差異はなく、その選任の取消乃至解任がなされないまま前任者金子仁平が引続いて常務取締役の職務を行つていたことが認められるから、山下が右選任によつて会社業務執行の担当者になつたとは云い難く、又成立に争いない乙第二号証によると山下は昭和三十年二月頃私財を会社債務の担保に提供したことが認められるがこれによつては未だ同人が原告会社の使用人として職務に従事していたとの前認定を覆すに足らず他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そこで進んで原告会社の取締役員であると同時に使用人としての労務に服していると認められる山下義一に対し、原告が支払つた報酬或は給料及び賞与が法人税の課税標準である原告会社の所得額算出上如何に取扱われるべきものかについて考究することとする。
証人武田昌輔の証言によると税務当局においては株式会社の役員が同時に使用人として労務に服している場合であつても、ただその役員が(一)代権及び表見代表権を有せず、(二)社長、専務取締役、常務取締役でなく、(三)毎日常勤であり、(四)職制上使用人たる職名を有し、(五)監査役でない場合にのみ、これを使用人兼務の役員と解し、この使用人兼務役員に対しては使用人給料が支給された場合でも之を役員報酬として取扱い、賞与については役員賞与と使用人賞与とを明瞭に区分して支給されておれば使用人賞与中その金額が妥当であると認められる部分に限り損金に該当する使用人賞与と認めるとの取扱いをなしていることが認められ、右見解によると山下義一が所謂使用人兼務役員に該当するか否か疑問であるのみならず、原告が山下に支給した賞与につき役員分と使用人分とを区分していないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、右税務当局の取扱いに従う限り原告が山下義一に対し給料及び賞与名義で支給した金額はすべて役員報酬及び賞与とされることとなるわけである。
しかし乍ら或る役員が使用人兼務の地位にあるか否かは当該役員が現実に従事している職務内容の実質より見て、自ら業務執行担当の役員として事務処理をなしているものか或は他の業務執行担当役員の指揮の下にその職務に従事しているかによつて決すべきであり、必ずしも前叙税務当局の示す基準に合致する者のみが使用人兼務役員であると断定することは相当でない。何故ならば現行商法は株式会社においては取締役会を業務執行に関する意思決定の機関とし、これとは別に代表取締役を業務執行の担当役員としているため、代表取締役以外の取締役は取締役会の構成員として業務執行に関する会社意思の決定に参加すること及び取締役会において直接に指定された事務を処理することを職務内容とするに過ぎないから、具体的な会社業務の執行に従事することは一般の取締役の任務外のことである。ただ業務執行担当者である代表取締役はその業務を執行するについては、所謂使用人である補助者を用いることができるが、この場合、一般の取締役が会社の業務執行に従事することを禁止する理由はないから、これらの取締役を業務執行の補助者として用いることも許されるわけであり業務執行の補助者として用いられる一般の取締役員は会社との関係において取締役たる地位と使用人たる地位とを兼ねるものと解されるし、法人課税に関する使用人兼務役員の意義につき特別の定めがない以上、税務行政に関しても、これを右商法上の解釈と別異にすべき根拠はないからである。成程、前叙税務当局の見解に示すように、代表権ある取締役員及び監査役員が使用人たる地位を兼ね得ないことはその職務の性格上明らかであるが、常勤であること及び職制上使用人たる職名を有していることは使用人兼務役員の必須要件とは解し難く、表見代表は代表権を有しないのに代表権があるような外観をもつ役員の行為について、善意の第三者保護のため会社の責任を定めるものであつて、当該役員が使用人たる地位を兼ね得るか否かとは関係ないところである。従つて被告が主張するように使用人として職務に従事していたものが職能、経験、功労等により役員に昇任したが、その職務内容が従前の職務とほぼ同様である場合や個人の使用人であつた者が法人設立に際して役員数の関係、経験等により役員となつた場合のように従来と同様使用人としての職務に従事しながら単に名義上の役員になつた者が、多くの場合使用人兼務役員の地位にあると解されるが必ずしもこのような場合にのみ役員の使用人兼務が認められるのではないし、又その役員の会社における名称如何にも直接関係はないのである。
本件につき之を観るに山下義一は原告の本件昭和二十八、九事業年度において原告会社の取締役員であつたが、役員としては業務執行の権限を有せず、代表取締役の業務執行の補助者として労務に服していたことは前認定の通りであるから、同人は原告の所謂使用人兼務役員であつたと認めるのが相当である。
しかして税務当局においては株式会社の使用人兼務役員に対しては使用人給料の支給を認めず、之に対し使用人給料として支給された金額は同人に対する役員報酬として取扱い、又賞与についても使用人分と役員分と明瞭に区分されている場合で使用人賞与として支給された金額中妥当と認められる部分に限り使用人賞与と認めるとの取扱いをなしていることは前認定の通りであるから之に従う限り原告が山下義一に対し使用人給料及び賞与として支給した金額はすべて役員報酬及び賞与として取扱われることになるが、もともと使用人兼務役員は、役員の資格で会社との委任乃至準委任契約に基いて委任事務の処理にあたると同時に、使用人の資格で一定の労務に服するのであるから、役員としての事務処理の結果に対しては、その報酬及び賞与の支払いを受くべく、使用人として提供した労務に対しては、その対価として使用人給料及び賞与の支給を受け得られるものと解するのが相当であるし、法人税の課税標準となるべき所得額の算出に関しても、之を別異に解すべき根拠はないから原告が昭和二十八、九年度において山下に対し使用人給料及び賞与の名義で支払つた金額には反証のない限り役員報酬及び賞与と使用人給料及び賞与とが共に包含されているものと解するのが相当であり、この金額全部がその名義如何に拘らず使用人給料及び賞与とは認められないことと同様に、直ちに役員報酬及び賞与であるとは認められない。
しかして行政訴訟においても一般民事訴訟の立証責任の法理に従うべきものと解すべく、従つて本件のような法人税についての税務訴訟においても使用人としての地位と役員としての地位を兼ねている前顕山下義一に支給された金額のうち何程の額が役員報酬及び賞与に当り、何程の額が使用人給料及び賞与に該当するかを計上し、益金及び損金を確定して法人税額算定の基準となる金額を定めることは、法人税課税の根本的な課税あつて之を主張立証する責任は被告側にあるものと解しなければならない。然るに被告は他に右金額全部が役員報酬及び賞与であることの根拠を示さないし、又右金額の内役員報酬及び賞与と認むべき部分如何についても何らの主張立証をしない。
以上の次第で原告が山下義一に使用人給料及び賞与の名義で支給した金額即ち給料として昭和二十八年度金二十一万千五百円、同二十九年度金二十七万三百五十円、賞与として昭和二十八年度金四万四千円、同二十九年度金六万八千円の全部が役員報酬及び賞与とは認められないのに天草税務署長がこれを全額役員報酬及び賞与と認定し、原告の所得額算出上昭和二十八年度分に関し金十六万五千五百円、同二十九年度分に関し金十九万二千三百五十円につき原告のなした損金処分を否認し、右金額を所得額に加算してなした本件昭和二十八年度分再更正決定及び同二十九年度分更正決定中、右損金処分否認額の部分則ち昭和二十八年度においては金五十七万九千六百円を超える部分、同二十九年度においては金七十七万五千五十円を超える部分は、その余の点につき判断するまでもなく違法と云うべきである。
そうすると右各部分の取消を求める本訴請求は理由があるので正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 西村文次 今富滋 三代英昭)
第一、二表<省略>