熊本地方裁判所 昭和40年(行ウ)8号 判決 1968年10月21日
原告 宮原製氷株式会社
被告 八代税務署長
訴訟代理人 島村芳見 外五名
主文
一 被告が、昭和三八年一二月二七日付でなした、原告の、昭和三二年一一月一日から昭和三三年一〇月三一日までの事業年度の所得金額を金二二九万六、六五一円、法人税額を金七七万二、七〇〇円と更正し、重加算税を金三二万四、五〇〇円とした処分の内、所得金額金二二八万一、五七六円、法人税額金七六万六、九九〇円、重加算税金三二万一、九〇〇円を超える部分、同じく昭和三三年一一月一日から昭和三四年一〇月三一日までの事業年度の所得金額を金一五八万六、三九一円、法人税額を金五二万三、四七〇円と更正し、重加算税を金一六万八、〇〇〇円とした処分の内、所得金額金一五七万一、三九一円、法人税額金五一万八、五五〇円、重加算税金一六万六、〇〇〇円を超える部分はいずれもこれを取り消す。
二 被告が、原告に対し、昭和三八年一二月七日付でなした(昭和四〇年八月一二日の熊本国税局長の裁決により変更されて効力を有する処分)、中川精喜に対する個人所得課税標準を昭和三三年一二月分金二〇万二、七七八円、源泉所得税を三万二、〇〇〇円、同じく課税標準を昭和三四年一二月分金二三七万七、三四〇円、源泉所得税を金六七万八、三四〇円、同じく課税標準を昭和三五年一二月分金三万八、七二九円、源泉所得税を金七、九二〇円、同じく課税標準を昭和三六年一二月分金二八万〇、六七六円、源泉所得税を金三万七、五〇〇円とする、各源泉所得税の強制徴収処分、並びに、同じく課税標準を昭和三七年一二月分金二二万七、七五五円、源泉所得税を金一万八、九三〇円として、不納付加算税金一、八九〇円とする同上処分の内同課税標準金七万六、〇〇〇円を超える部分および同強制徴収、不納付加算税の賦課処分は、いずれもこれを取り消す。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
事 実 <省略>
理由
第一昭和三二年一一月一日から昭和三五年一〇月三一日までの三事業年度の法人税額などに関する更正処分および重加算税の賦課処分の取消を求める原告の請求について検討する。
一 <省略>
二 被告は、原告は右各事業年度中、原告の売上金を第三者名義で銀行に簿外預金していたもので、原告には右各事業年度につき、売上計上洩、簿外預金利息計上洩があると主張し、原告はこれを争うので調べてみる。
(一) <証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 原告の代表者であつた中川精喜は、原告の事業経営上肥後銀行宮原支店、肥後相互銀行宮原支店から融資をうける便宜のため、これら銀行に預金の実績を作つておくことの必要から、これら銀行に対し、原告別名預金という趣旨で、架空人または第三者名義で、預金をなし、製氷という業態の関係から、売上げの多い毎年七、八月に、売上げ金を預金するもののごとく預金をしておくと、これら銀行から、その頃には、原告は多額の金員を保有し原告に弁済能力があるような評価をうけられるということで、殊に、肥後銀行宮原支店長大田黒一男のすすめもあつて預金をなした。
右事業年度中、右預金として、
肥後銀行宮原支店に、
(1) 前田利之名義、普通預金、通帳番号一、八三七、
(2) 中村幸子名義、普通預金、通帳番号 六六三、
(3) 中野光平名義、普通預金、通帳番号一、九三九、
肥後相互銀行宮原支店に、
(1) 坂井松雄名義、普通預金、通帳番号一、九五五
の各預金取引があつた。
右各預金の預入、払出しの関係についてみると、
(1) の預金(前田利之名義普通預金)は、昭和三三年六月二一日から取引が開始され、同年一二月二五日解約したが、その間その預入、払出しについてみると、次のものがある。
同年八月一日金二〇万一、四五〇円を払出し、原告の手形金債務金四〇万円の内金二〇万円と利息金一、四五〇円の支払いに充て、
同月三〇日金二一万〇、四〇〇円を払出し、原告の中小企業金融公庫に対する償還金元金二〇万円、利息金一万〇、四〇〇円の支払いに充て、
同年九月八日原告の当座預金番号R〇〇四七一八から払出された金二〇万円が預入され、
同年一〇月三日原告振出しの小切手(〇〇四九五七)で金六万五、〇〇〇円が預入され、
同月四日住友銀行熊本支店から同年九月三〇日付金一万六、〇〇〇円の原告受取手形で同金額が預入され、
同年一〇月一四日金二〇万円を払出し、同日同銀行特別定期預金額面金二〇万円、66/1004(六六期の一、〇〇四番の意、以下同旨。)が設定された(これは後日山元名義で払出し、後記(9) の預金となつた。)
同年一二月一日金二万八、四八〇円を払出し、原告の中小企業金融公庫に対する償還金元金二万円、利息金八、四八〇円の支払いに充て、
同月一二日金五万円を払出し、原告の手形金債務の弁済に充当し、
同月二五日に解約し、預金残金六万九、三九八円を払出し、同日その全額を後記(4) の預金に預入した。
同年六月二一日から同年九月頃にかけて約金二万五、〇〇〇円から約金九万円位までの金額が四〇回弱位の回数にわたつて預入されている。
(2) の預金(中村幸子名義普通預金)は、昭和三一年九月三日以前から取引がなされていたが、昭和三三年九月一五日解約した。その預入、払出しについてみると、
昭和三二年七月三一日金二六万〇、四〇〇円を払出し、原告の中小企業金融公庫に対する同額の償還金の支払いに充て、
同年八月二六日金三一万四、六六九円を払出し原告の手形金債務の支払いに充て、
同年一一月二五日原告の小切手で金一五万九、〇〇〇円が預入され、
同月三〇日金三万九、二四〇円を払出し、原告の中小企業金融公庫に対する償還金同月分元金三万五、〇〇〇円、利息金四、二四〇円の支払いに充て、
昭和三三年九月一五日解約し、預金残金五、二七二円を払出してその全額を同日前記(1) の預金に預入れ、
昭和三二年七月一二日頃から同年九月頃までの間に約金二万円前後から約金一〇万円位までの預金が約二五回位の回数にわたつて預入されている。
(3) の預金(中野光平名義普通預金)は、昭和三三年一二月二五日から取引が開始され、昭和三五年七月一六日解約した。その預入払出しについてみると、
昭和三四年三月二日金八万円および金九万円を払出し、原告が支払義務を負う手形金の支払いに充て
同月三日前記特別定期預金66/1004の利息金三、三二二円を預入し、
昭和三五年一月二五日金四万八、〇〇〇円を払出し、原告の中小企業金融公庫に対する返済金同月分元金三万五、〇〇〇円、利息金一万一、〇八二円の支払いに充て、残金一、九一八円が再び預入された、
同月三〇日金二万三、九〇〇円を払出し、原告の中小企業金融公庫に対する償還金同月分金二万円、利息金三、二五五円の支払いに充て、残金六四五円が再び預入された。
昭和三四年七月二日頃から同年九月頃までの間に約金四万円前後から金一〇万円以上にわたる金額が一〇回以上預入されている。
(4) の預金(坂井松雄名義の預金)は、昭和三五年七月一五日取引が開始されているが、同月から同年九月頃にかけて約金二万円位から金一〇万円以上にわたる金額が三〇回以上預入されている。
なお、昭和三五年八月二六日金八〇万円を払出し、同日同銀行額面金三〇万円無記名定期預金、54/77、54/78の二口、額面金二〇万円無記名定期預金54/79を設定し、同年九月二日金二〇万円を払出し、同銀行額面金二〇万円の特別定期預金54/38を設定し、同月三日二〇万円を払出し、肥後銀行額面金二〇万円の無記名定期預金69/513を設定しているが、これら定期預金はいずれも原告の別口預金としてなされた。
2 次に、以上の外に、
肥後銀行宮原支店に、
(5) 中村幸子名義、定期預金、二〇万円39/60、昭和三二年一二月七日預入、昭和三三年一二月一三日払出。
(6) 中村友治名義、定期預金、二〇万円64/300、昭和三二年一二月三〇日預入、昭和三三年一二月三一日払出。
(7) 同 46/47、昭和三四年一一月一四日預入、昭和三五年五月一四日払出。
(8) 無記名特別定期、二〇万円43/2(山元名義で引き出されている。)、昭和三三年一〇月三一日預入、昭和三四年一一月一四日払出。
(9) 同 66/492(同 右)、昭和三四年三月二日預入、昭和三五年三月二日支出。
(10) 同 66/514(同 右)、昭和三四年三月七日預入、昭和三五年三月七日払出。
がなされており、
右(8) の預金は、原告振出しの額面金四〇万円の小切手BL〇〇四九六六によつて支出された金額の内金二〇万円をもつて設定され、これを払出した金銭をもつて右(7) の預金がなされた。
右(9) の預金は、前記1の預金のところに記載したように、(1) の預金から払出されて設定された特別定期預金額面金二〇万円66/1004を払出した金銭をもつて設定した。なお、右66/1004の預金利息金三、三二二円は当時(3) の預金に預入された。
(10)の預金は、原告の同崎ミエに対する架空の貸付金の返済金名下の金銭によつて預入設定されたことになつている。
以上の事実を認めることができ、<証拠省略>中叙上認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すにたる証拠はない。
(二) 被告は、右預金は原告の簿外預金であり、その中でも、(1) (3) (4) の預金は原告の売上金を預金したものであると主張し、原告は、右預金はすべて中川精喜個人の手持資金をもつて操作したにすぎないもので原告の資産となるべきものではないと争うので調べてみる。
1 <証拠省略>によると、中川精喜は、原告の製氷事業のほかに原告主張のような各事業をなし、原告主張第三、二掲記のような取引をしたことがあつたことはこれを窺うことができる。しかし、原告提出の全証拠によつても、これら事業、取引によつてえた金銭をもつて前記各預金のすべてをなしたものであることは認め難く、他にこれを認めるにたりる証拠はなく、右中川精喜の証言によつても右金銭は直接前記各預金として預け入れられたものでもなかつたことが窺われる。
のみならず、前記のように、前記預金をもつて度々原告の債務の支払いのために払出しその支払いに充当されながら、これに対して特に原告の支出、会計処理をもつて返戻されたことも認めるにたりる充分の立証も存しないことからすると、(<証拠省略>のみをもつてしては右返戻事実を認めるには充分でない。)、右原告の主張は採用しえない。
2 もとより、右預金のすべてが原告の売上金をもつてなされたものであると確認するにたりる証拠はなく、また右各預金の中に、間接的にせよ、またはその一部分にしても、右中川精喜個人の取引によつてえた金銭、或いは、同人の他の手持の現金が、預入されたものであることを全く否定するにたりる証拠も存しないところである。
しかし、以上認定事実によれば、前記各銀行殊に肥後銀行に対する関係において、原告の別口預金として原告の製氷卸売業の売上高が一年を通じて最も多くそれに見合う収入が予測される毎年七ないし九月頃の時期にかけて預金高、預金回数共多額、多数回にわたつて売上金に見合うような金額の預入れをなし、恰も原告の売上金をもつて預入したような状況を示し、前記のように、その預入も原告からなされたと確認される部分およびその預金が原告のために支出され、原告の債務の支払いに充当されている部分があり、これに対して原告の会計処理をもつて戻入されていることも認められず、しかも、原告の収入としては製氷卸販売による収益以外に収入の存在の認められないところからすると、かかる場合には、国との関係においても、右中川精喜個人の金銭の預入れ部分について明らかにされない限り、その全額について原告の売上金をもつて預入れたものと認められてもやむをえないものといわなければならない。
もつとも、前記証拠によると、肥後銀行宮原支店の太田黒支店長は、中川精喜個人が本件原告の製氷事業以外に多くの事業をなしておりこれら事業によつてえた金銭をも保有することを知り、これら金銭をも預金させる趣旨において預金の勧誘をなしており、同銀行としてこれら預金が必ずしも原告の売上金のみでなく以外の金銭のありうることも予測していたことが窺われるけれども、これら事実が右認定に反するものでもない。
(三) 売上計上洩について、
1 右認定事実によると、右(1) (3) (4) の普通預金の期中預入、引出しの関係から、その期中売上げ額を推計することも、他の諸般の事情を綜合しても不合理と認められない限り、許されるものというべきである。
そして、右推計につき、期中預入れ金額(ただし売上金以外の預入と認められるものを除く)、並びに、払出し金額については、明らかに資産化されたものまたは個人で消費されたものを除き、かつ使途不明の分については、払出しの日に密着する日に預入れをしている金額がある場合には、同預入れ金額中の全部または一部を右払出し分によつて預入れられたものとみて、これを交流分として除外し、当該預入金額の全部または一部を売上金をもつて預入れたものとみないで推計、計算することも、被課税者にとつて不利益となるものではないから、許されるものというべきである。
2 原告は、所定の帳簿を備え所定の記載事項を記載していた
ので、所得額確定は同帳簿によるべきで、みだりに推計は許すべきでない旨主張する。本件がいずれも青色申告にかかるものでないことは原告自ら認めるところである。しかし、所得額算定につき帳簿が存在記帳されている場合には、青色申告の適用のない法人であつても、その記帳が不正確虚偽などのためこれによれない場合など特段の事由のない限り、同帳簿、記録について調査算定すべきで、みだりに推計すべきでないことは、原告主張のとおりである。しかしながら、前記のように、原告が売上金をすべて売上金として原告の帳簿に記載することなく、第三者または架空人名義の預金として預入し、これを原告の帳簿上に登載していないのであるから、このように帳簿の記載内容が適正でなく、脱漏があるような場合には、その脱漏部分についてこれら預金の預入、払出しの点から売上計上洩の金額を推計算出することも違法ではなく、また交流分なる金額の認定も前記のように払出した金額を再び預入れたものとみて、その額は売上金額として預入れたものとはみないとするものであつて、原告の利益となつても不利益とみるものではないから、右交流分なる金額を認定し、前記のように、簿外預金金額によつて売上計上洩と認定したことは、原告主張のように法人税法第一三一条(旧法第三一条の四第二項)に違反し、租税法律主義に反する違法のもとはいいえない。
3 右の方法によつて、叙上掲記の証拠によつて算出してみると、
被告主張一(一)の事実については、
第一事業年度申における、前記(1) の前田利之名義普通預金の期中預入総額金二六六万二、七五七円から、前記方法による交流分と認められる金七五万八、二二二円を控除すると、残額は金一九〇万四、五三五円であること、
被告主張二(二)(イ)の事実について、
第二事業年度中における前記(3) の中野光平名義普通預金の期中預入総額金二四五万二、六八七円から、前記方法による交流分と認められる金一二四万四、三九八円を控除すると、残額は金一二〇万八、二八九円であること、
被告主張三(二)の事実について、
第三事業年度中における前記(4) の坂井松雄名義普通預金の期中預入総額金一七九万七、一七六円から、前記方法による交流分と認められる金二三万七、五〇〇円を控除すると残額は金一五五万九、六七六円であること、
を各認めることができる。
4 被告は、第二事業年度につき原告の製氷能力および売上高の点からしても同年度につき簿外預金相当の売上計上洩があつたと主張し、原告は製氷能力および各事業年度の売上高からして主張のような売上洩金額の生ずる余地はない旨主張するので按ずるに、昭和三二年一一月から昭和三五年一〇月頃までの間原告の氷の生産設備である結氷管が一三六本であつたことについてはこれを確認するにたる充分の証拠は存在せず、<証拠省略>によると、原告の製氷設備は、冷却管はハシゴ型、流れ込み式油分離機、冷凍機七吋、二気筒、六吋二気筒のもので、普通使用されている氷かん式、高圧式油分離機を備えた設備に比して、製氷能力は勝るものではなかつたことおよび夏季には水温が二〇度を超えるようなこともあつたことが認められる。
しかし、<証拠省略>によると、原告は、昭和二九年一〇月三一日結氷管を一〇八本備付け、これに加うるに、昭和三〇年三月二八日五〇本、昭和三二年一二月三一日約三七本前後の結氷管を購入し累計本数は約一九五本となつていることおよび原告が昭和三七年三月二六日肥後銀行宮原支店に呈出した資金の貸付けをうけるための稟議書では、昭和三一年二月二日当時製水能力七屯、貯氷能力三七〇屯、昭和三三年一月八日当時製氷能力一〇屯、貯氷能力四五〇屯で、製氷売上金額は昭和三三年度、金六二〇万円、昭和三四年度金六三二万四、〇〇〇円、昭和三五年度金六四四万六、〇〇〇円であつたとしており、このような申出における主張、記載内容が多少事実より誇大になされる傾向のあることは否定しえないにしても、格別の事情のない限り、右に近い能力売上げがあつたものと認められるから、そうすると、これら金額と前記各簿外預金金額と原告の申告利益およびその他諸経費などを彼此較量してみると、前記のように原告が売上金をもつて右簿外預金をなしうることを否定しなければならないことになるものでもない。
5 被告主張二(二)(ロ)の事実および同三(二)後段の事実について、
第二事業年度中、原告の八代冷房に対する売上金一万五、〇〇〇円の計上洩については、これを特定しうる主張もなく、<証拠省略>によつてもこれを認め難く、他に同事実を認めるにたりる証拠はない。
第三事業年度中、肥後銀行宮原支店中川精喜名義の口別掛金期中掛金高金三〇万円の内金一九万円が原告の売上金から預金をしたものであることについては、これを認めるにたりる充分の証拠は存しない。
(四) 簿外利息について、
叙上掲記の証拠によると、被告主張の簿外利息については、次のとおりであることが認められる。
被告主張一(二)の事実について、
同年度中における利息として、
前記(2) の中村幸子名義の普通預金につき、昭和三三年三月三日付金一、四〇二円、同年九月八日付金六六円、同月一五日付金二円、計一、四七〇円の存在が認められるが、同金額を超える利息の存在はこれを認めるにたりる証拠はない。もつとも、中川精百名義の定期預金の利息金一万〇、二一五円、同銀行63/68なる定期預金の利息金四、八六〇円の存在が窺われるけれども、これは右(2) の預金の利息とは認められない。
右(1) の前田利之名義普通預金につき、同年九月八日付金二、二六二円が存在することが認められる。
以上、計金三、七三二円の存在が認められる。
被告主張二(三)の事実について、
同年度中の利息として、
前記(1) の前田利之名義普通頂金につき昭和三三年一二月五日付六、三二七円、
右(3) の中野光平名義普通預金につき、昭和三四年三月三日付金三、三二二円、同月九日付金七八八円、
右(5) の中村幸子名義定期預金につき、昭和三三年一二月三一日金五、九三六円
右(6) の中村友治名義定期預金につき、同日付金一万二、〇一四円、
右計金二万八、三八七円の存在が認められる。
被告主張三(三)の事実について、
同年度中における利息は、
右(3) の中野光平名義普通預金につき、昭和三五年三月七日付金三、九〇三円、同年七月一六日付金一三〇円、
右(7) の中村友治名義定期預金につき同年五月一四日付金五、三〇〇円、
右(8) の無記名特別定期預金につき昭和三四年一一月一四日付金九、三九六円、
右(9) の同預金につき昭和三五年三月二日付金一万円、
右(10)の同預金につき同月七日付一万円、
右(4) の坂井松雄名義普通預金につき同年八月二二日付金一、五三二円、
計金四万〇、二六〇円の存在が認められる。
以上認定を覆すにたる証拠はない。
三、以上認定事実によると、被告が、
第一事業年度につき
売上計上洩 金一九〇万四、五三五円
簿外預金利息計上洩 金三、七三二円
第二事業年度につき、
売上計上洩 金一二〇万八、二八九円
簿外預金利息計上洩 金二万八、三八七円
第三事業年度につき、
売上計上洩 金一五五万九、六七六円
簿外預金利息計上洩 金四万〇、二六〇円
の限度において、原告の課税標準を各認定したことは相当というべきであり、かつ、前記当事者間に争いのない事実を併せると、原告の所得金額は第一事業年度が金二二八万一、五七六円、第二事業年度が金一五七万一、三九一円、第三事業年度が金一九八万五、四〇六円となるから、その法人税額は、第一事業年度は金七六万六、九九〇円(一〇円未満切捨、以下同旨)、第二事業年度は金五一万八、五五〇円、第三事業年度は被告課税の金額のとおりとなり、また、叙上認定の経緯に鑑み被告が右につき重加算税を課税したことは相当で、右各税額および成立に争いのない甲第一ないし三号証によると、重加算税額は、第一事業年度分については金三二万一、九〇〇円、第二事業年度分については金一六万六、〇〇〇円、第三事業年度分については被告課税金額のとおりとなることが認められる。
そうすると、右第一、二事業年度につき、右各所得金額を超える部分についてなされた更正処分および右法人税額、重加算税額を超える部分についてなされた処分は失当で、その取消を求める原告の本訴請求は正当というべく、その余の部分および第三事業年度についてなされた更正、処分は正当であるから、その取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。
第三源泉徴収所得税について検討する。
原告主張第二、一の事実並びに第二、二の事実中、中川精喜に対する同主張のような賞与金七万六、〇〇〇円があることは当事者間に争いがない。
<証拠省略>によると、被告は、原告の簿外預金における各事業年度の期末資産から期首資産を差引いて増加分がある場合、その増加分の内、資産化されたものおよび所在が判明しているものを除き、どのように処分消費されたか不明のものすべては原告の当時の代表者中川精喜個人が消費したものとしてこれを同人に対する賞与として認定しており、その額も前記簿外預金に基づいて計算し算出されていることが認められる。
しかしながら、原告が代表者個人に賞与を支給したものとして源泉所得税を賦課するには、代表者個人に対し賞与として支給されたことおよびその支給額の確定されたことを要するものというべきところ、本件各年度において被告が賞与として認定した支給額については、すべて右中川精喜個人に支給され、個人がこれを自己のために消費し、払出しによつて同人が利益をうけたものであることを確認するにたりる証拠はない。もつとも、原告が同族会社であることは原告において認めるところであり、また前記証処によると、原告と個人の経理内容が必ずしも判然となされていなかつたことが窺われるけれども、それ以外に、原告の企業実態も何ら明らかにされていないし、右中川精喜が個人で自由に右簿外資産を処分していたことおよび右不明の分については同人が個人のためにのみ使用していたことを認めるにたりる立証はない。
のみならず、原告においては、中川昭憲(この後昭和四〇年四月中川精喜の養子となつた。)も工場の責任者として金銭出納関係を担当し、現金を保管し、原告の預金の預入、払出しは中川精喜はもとより中川昭憲はもこれをなしていたことが窺われ、また原告が昭和三三年二月三日熊本県八代郡カガミ町セイデン一九五の五宅地四九、四五坪、金五ないし一〇万円相当を購入し、同年一〇月一〇日同地上に鉄筋コンクリート造冷凍室一二三、九四平方米、金三七、八万円相当を建築し、いずれも原告の負担において右購入、建築しているが、いずれも原告の帳簿上にその旨の記載はなされていないこと、更に昭和三四年一一月頃から原告の製氷工場の建物が木造から坪金三万円ないし三万五、〇〇〇円相当の建築費を要する鉄筋造りに改築されていることが認められるが、これらに要した経費が、前記本件金銭によつて支出されているものでないことを否定する証拠も存しないから、前記各期中資産増加分とみられるものの内、預金上資産化されたものとみうるものを除いた金額の内には、原告の用途に使用されそれが記帳されていない場合などもありうるわけで、それが右本件金員から支払されたものでないことも否定しえないかがり、このような状況の下においては、他に原告のために消費しまたは会社代表者以外の者に支給したことの立証のない限り会社代表者個人に支給したものと認めるにたりる事情の立証があつた場合にもあたらないから、仮に、税法上右のような金額を個人に対する認定賞与としての取扱いをしていたことがあつたとしても、中川精喜個人に支給し同人が消費をしていることについて調査し資産転化の裏付けもなされていない本件においては、右金額をすべてそのまま中川精喜個人に支給された賞与と認めることはできない。
もつとも、中川精喜が昭和三四年一〇月二九日頃宅地を金四〇万円位で、同年一二月頃および昭和三七年一〇月頃宅地を、それぞれ購入していることが窺われるが、それらの代金が本件被告の主張する金員によつて取得したものであることの証拠も存しない。
また、原告は、原告主張第二、二記載のように、昭和三七年一〇月岡崎末太郎、中村幸子、岡崎ミエへの各支払利息として合計金七万六、〇〇〇円を賞与として支給をうけたことを認めているところであるが、同事実が右金額を超えて同年度の、および他の年度の被告主張の賞与の支給を認めることになるものでもない。
更に、昭和三二年一一月から昭和三五年一〇月までの年度において、前記認定のように売上計上洩のあること並びに昭和三五年一一月から昭和三七年一〇月までの事業年度に被告主張のような売上計上洩、簿外預金利息計上洩があることは原告において明らかに争わないところであるけれども、これの事実が被告主張事実を認めうることになるものでもない。
そうすると、被告が、中川精喜に対する所得課税標準(賞与)を、昭和三三年一二月分から昭和三六年一二月分まで各被告主張のように支給額を認定し、昭和三七年一二月分については金七万六、〇〇〇円を超える金額を認定したこと、および右認定金額につき原告に対し源泉所得税の強制徴収および源泉徴収不納付加算税を賦課した処分はいずれも失当であり、これら処分の取消を求める原告の本訴請求は正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。
第四よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 後藤寛治 菅浩行 矢野清美)
別表<省略>