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熊本地方裁判所 昭和42年(ワ)803号 判決 1968年4月26日

原告

熊本東芝商品販売株式会社

被告

合資会社白雲荘

主文

被告は原告に対し、金五一二、七八〇円およびこれに対する昭和四二年一二月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決中、原告勝訴の部分に限り、原告が金一五〇、〇〇〇円の担保をたてたときは仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金五六五、一五二円およびこれに対する昭和四二年一二月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者の主張

(請求の原因)

(一)  原告会社の従業員松本吉清が、昭和四二年五月二六日午後六時三〇分頃、自動車(トヨペツト、登録番号四ぬ九七三七以下本件自動車という)を運転して、熊本県阿蘇郡阿蘇町赤水一、三二一番地上道路上を、一の宮方面から熊本市方面に進行中、反対方向から時速七〇キロメートルで進行してきた被告使用人訴外小夏一(以下小夏という)の運転する普通乗用車がハンドルをとられて前記松本の運転する自動車に衝突し(以下本件事故という)本件自動車を大破させた。

本件事故は小夏の過失によるものであり、同人は被告の事業の執行として前記自動車を運転していたものである。

(二)  本件事故により原告はつぎのとおりの損害を蒙つた。すなわち本件自動車は原告が昭和四二年四月一八日、熊本トヨタ自動車株式会社から、月賦代金五九五、一五二円が完済されるまで所有権を売主に留保する約定のもとに買い受け占有使用中(昭和四三年三月三一日に右月賦代金を完済したので、同日付をもつて本件自動車の所有権を取得した。)であつたところ本件事故により、本件自動車は修理不能の程度に大破し、事故後の自動車の現存価格は三〇、〇〇〇円になつた。したがつて、原告は買入価格五九五、一五二円から右現存価格を差引いた五六五、一五二円の損害を受けたことになる。

(三)  よつて小夏の使用者たる被告に対し、損害の賠償として右金五六五、一五二円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四二年一二月四日から支払ずみまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(答弁)

(一) 第一項中、原告主張の日時、場所で、主張の運転者の車と被告の被用者小夏の運転する車が衝突事故を起した事実は認めるが、小夏の過失の内容は知らない。

(二) 第二項の事実中自動車の所有権取得の経緯は知らない。損害額は争う。

三、証拠 〔略〕

理由

(一)  請求原因第一項中、原告主張の日時、場所で、原告会社員松本吉清運転の自動車と被告の被用者小夏の運転する自動車とが衝突事故を起こした事実は当事者間に争いがない。また、小夏が、被告の事業の執行として右自動車を運転していた事実については、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

(二)  そこで小夏に過失があるか否かを判断する。

〔証拠略〕によれば、小夏は阿蘇町赤水一、三二一の一番地付近道路(幅員八・九メートル)を熊本市方面から内牧方面に向け時速約六〇キロメートルで道路中央寄りを進行中、約三〇〇メートル前方道路左側に対面進行する松本吉清運転の普通貨物自動車を認めたが、前記速度のまま進行し、対向車と約八〇メートルに接近してからハンドルを左に切つたところ、当時降雨のため路面が滑り易い状態であつたので、ハンドルを左に取られあわてて右に切り返したが、自車を道路右側に半回転させ、よつて自車の後部を折から進行して来た前記松本運転の普通貨物自動車の左前部に衝突させたことが認められる。右の事実によれば小夏は、当時降雨で滑り易い路面を時速約六〇キロメートルの高速度で進行中対向車を認めたのであるから、このような場合にはあらかじめ減速してハンドルを確実に操作し進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と前記速度のまま道路中央寄りを進行したことの過失があるといわなければならないし、小夏の使用者である被告において被用者の選任監督につき過失がなかつたことの主張、立証がないので、本件事故による原告の損害につき被告はこれが賠償の責任を免がれえない。

(三)  よつて、次に原告の損害について判断する。

〔証拠略〕によれば、原告が昭和四二年四月一八日に、熊本トヨタ自動車株式会社から本件自動車を、割賦代金五九五、一五二円が完済される迄所有権を売主に留保する約定のもとに買い受け、占有使用中であつた事実が認められ、又、証人島崎政和の証言によれば本件自動車の代金は、昭和四三年三月三一日に完済され、原告が完全にその所有権を取得した事実も認められる。そこで、このように自動車を割賦で購入し、事故当時には、まだ所有権がなかつた原告に賠償を請求する損害があるか否かを検討するに、本件のごとく所有権留保の約定の下に割賦で購入した自動車が第三者の行為によつて毀損した場合には、その危険の負担は買主に帰し買主たる原告は残金の支払義務を免がれない反面売主が右第三者に対して取得した損害賠償請求権を買主たる原告が承継し、原告が損害賠償請求権を取得すると解すべきであるが、また割賦で購入した自動車は、代金完済を停止条件として、原告に所有権が移転するとみるべき性質のものであり、その意味で原告は条件付権利を有し、しかも、本件の如く、買主たる被告が、残代金を売主に弁済している以上は、原告の条件付権利の侵害による損害は所有権侵害と同程度のものとして、原告はこれが損害の賠償を請求する権利があると解することもでき、いずれにしても原告に請求権のあることに変りはない。

そこで本件事故による原告の損害額について考察する。

〔証拠略〕によれば、本件自動車の現金による取引価格は、五六〇、〇〇〇円であつたこと、原告は本件自動車を昭和四二年四月二四日から、同年五月二六日までの約一ケ月間使用していた事実が認められ、これに反する証拠はないので、定率法により「減価償却資産の耐用年数に関する省令」で定める償却率〇・三六九にもとづき一ケ月間の減価償却額を計算すると、一七、二二〇円となり、先の現金取引価格五六〇、〇〇〇円から右の償却額一七、二二〇円を差引いた五四二、七八〇円が事故直前における本件自動車の交換価格であると認めるのが相当である。そして、〔証拠略〕によれば、自動車は本件事故により修理不能となり三〇、〇〇〇円の交換価格しかなくなつてしまつたことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠もない。そうすると、原告のこうむつた損害は、本件事故直前の交換価額五四二、七八〇円から、事故後の交換価額三〇、〇〇〇円を差引いた五一二、七八〇円と認めるべきである。(原告は月賦販売価格を基準とし、償却額を考慮せずに損害額を算出しているが、右は正当とは認められない。)

よつて、原告の本訴請求は右認定の範囲内においては正当であるから認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適用し、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤寛治)

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