熊本地方裁判所 昭和43年(ワ)392号 判決 1971年5月06日
主文
被告らは各自原告に対し金一四六万六六六七円とこれに対する昭和四三年六月八日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
原告は「被告らは各自原告に対し金三四六万六六六七円とこれに対する訴状送達の翌日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。
(一) 原告は昭和四二年五月二〇日午後〇時一〇分頃熊本市京町一丁目五〇番地先国道三号線の熊本地方検察庁正門前横断歩道を向側京町郵便局方向に歩行中、被告坂本政利が、被告坂本和子所有の軽四輪乗用自動車を運転し京町より千葉城方向に進行してきたところ、前方注視義務を怠り、横断歩道直前で一時停車の措置を講ずることなく漫然歩道内に進入したため、車の右側前照灯を原告の右大腿上部に衝突させて同人を突き倒し、よつて原告に対し右大腿骨転子内骨折により入院治療一〇ケ月・退院治療約六〇日を要する傷害を負わせた。
(二) 本件事故は、既述のとおり被告政利の過失に基因するものであり、又被告和子は自己所有の車を運行の用に供していたものであるから、被告政利は民法第七〇九条により、被告和子は自動車損害賠償保障法第三条により、いずれも原告の蒙つた損害を賠償する責に任ずべきである。
(三) 右損害は次のとおりである。
(イ) 金一六万六六六七円(入院・通院治療費等)
(ロ) 金六〇万円(逸失利益―原告は弁護士であり、昭和四二年五月二〇日入院して同年九月二日退院したが、その後も歩行不能で殆んど臥床し勝ちであり、結局およそ一年間は弁護士業務をとることができず、生活費を控除し少なくとも一ケ月平均五万円以上の得べかりし利益を喪失したことになる)、
(ハ) 金三〇〇万円(慰藉料)
以上合計金三七六万六六六七円となるところ、原告は自動車損害賠償保障法による保険金三〇万円を受領したので、残金三四六万六六六七円となる。
(四) よつて原告は被告らに対し各自右金員とこれに対する訴状送達の翌日以降支払済まで民事法定利率による遅延損害金の支払いを求める。
被告坂本政利は請求棄却の判決を求め、答弁として
「請求原因事実中、(一)のうち原告主張の事故発生の事実のみ認め、その余を争う。同被告運転の車が原告を突き倒した事実はない。なお右車は、被告和子の所有名義となつているが、被告政利が事業に失敗し、多額の債務を負担している関係上、形式的に妻である和子の名義としているに過ぎず、従つて同女の所有ではない。(二)は争う」
と述べた。
被告坂本和子は、いずれも適式な呼出をうけながら、一〇回にわたる口頭弁論期日のうち僅か一回(第四回期日)出頭したに過ぎず、而もそのときは被告政利と共に弁護士を選任するからとて延期を求めただけで何らの弁論をもしなかつたので、民事訴訟法第一四〇条により原告の主張事実を全部自白したものと看做すべきである(なお、被告和子は、本件第三回口頭弁論期日である昭和四三年九月一〇日受理の答弁書を提出しているが、民事訴訟法第一三八条の解釈上、これを陳述したものと看做すことはできない)。
(証拠関係)〔略〕
理由
第一、原告の被告坂本政利に対する請求について
一、〔証拠略〕によれば、原告主張の日時・場所において、被告坂本政利の運転する軽四輪乗用自動車が原告に衝突し、同人に対し右大腿骨転子内骨折により入院治療約四ケ月・通院治療数ケ月を要する傷害を負わせたこと、同被告は右現場である横断歩道上に原告を発見しながら注視義務を怠り、同歩道の直前で一時停車をせず、漫然時速約二〇粁で歩道内に進入したため、本件事故を惹起したこと(道路交通法の定めるところによれば、歩行者が横断歩道を通行しているときは、運転者は一時停車すべきことになつている)、以上の事実がたやすく認められ、してみると本件事故は同被告の過失に基因するものであつて、同被告は原告の蒙つた損害を賠償すべき義務のあることは明らかなところである。
二、そこで右損害額について判断するに、〔証拠略〕によると、(イ)原告の入院・通院治療費等は合計金一八万二八六七円であること、(ロ)原告が約一年間弁護士業務をとることができなかつたことによる逸失利益は少なくとも金六〇万円であることがそれぞれ認められ、なお、(ハ)原告の蒙つた肉体的・精神的苦痛に対する慰藉料としては、同人の年令(明治二三年五月二五日生)・職業・社会的地位その他諸般の事情を考慮すると、金一〇〇万円が相当であり、以上合計金一七八万二八六七円となるところ、原告が自動車損害賠償保障法に基づく保険金として金三〇万円を受領したことは、原告の自認するところであるから、右金三〇万円を控除すると、原告が同被告に対して請求しうる損害額は金一四八万二八六七円となる。
三、ところが、原告は右(イ)につき金一六万六六六七円を請求するに過ぎないから、結局原告の同被告に対する請求は金一四六万六六六七円とこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四三年六月八日以降支払済まで民事法定利率による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であるが、その余は失当というべきである。
第二、原告の被告坂本和子に対する請求について
一、同被告の自白にかかる原告の請求原因事実によれば、同被告は原告に対し、被告坂本政利におけると同様に、合計金一四八万二八六七円を支払う義務があるものといわなければならない(なお、被告坂本政利の言分によると、被告坂本和子は本件事故車の単なる名義人に過ぎず、自動車損害賠償保障法第三条の「保有者」には該当しないというのであるが、かりに被告政利主張のような事情があつたにせよ、一旦名義人となつた以上は、必ずしも保有者としての責任を免れうるものと解すべきではないであろう)。
二、そうすると、原告の被告坂本和子に対する請求は、被告坂本政利に対するのと同一の範囲内で正当であり、その余は失当というべきである。
第三、結語
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・第九一条・第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤次郎)