大判例

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熊本地方裁判所 昭和43年(ワ)418号 判決

〔主文〕

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

〔事実〕

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は、ホテル営業の宣伝、広告、その他営業上の施設及び活動について、「火の国」なる呼称を生ずる文字を使用してはならない。

2  被告は、「火の国」なる呼称を生ずる文字を表示している看板、パンフレツト広告物、その他営業表示物件から「火の国」なる呼称を生ずる文字を抹消せよ。

3  被告は、日本電信電話公社熊本支社に対する電話加入権五三局〇三六一番の表示中、「火の国」なる呼称を生ずる文字を抹消せよ。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二 被告

主文同旨の判決

第二 原告の請求原因<以下、事実略>

〔理由〕

一  原告が、昭和三四年一月二一日、「有限会社火の国観光ホテル」として設立され、爾来右商号を用いて旅館営業をなして来たが、旅館営業における看板には昭和四三年九月に改築工事をなすまでは「観光旅館火の国ホテル」と表示し、その後は「火の国観光ホテル」と表示して営業し、被告は昭和三八年一二月二日に「火の国弁当有限会社」として設立され、昭和四二年六月二七日には会社の目的を変更して旅館営業を行なうこととし、熊本市船場町三番地に「火の国ニユー観光ホテル」なる看板を掲げて旅館営業を開業し、日本電信電話公社熊本支社に対する五三局〇三六一番の電話加入権につき、「火の国ニユー観光ホテル」及び「火の国弁当旅館部」の二個の名義を表示していたことは当事者間に争いがない。

被告代表者佐藤仁本人尋問の結果によれば、被告は昭和四二年六月に熊本県下で最も古い綿屋旅館を買収して被告の旅館部とし、その営業表示は被告の商号の一部である「火の国」を冠して「火の国ニユー観光ホテル」なる名称を使用していたが、昭和四七年一〇月に鉄筋七階建に改築した機会に営業表示を「ニユー火の国ホテル」と改称し以後これを使用して営業していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被告は本件口頭弁論終結時においては既に「火の国ニユー観光ホテル」の営業表示を使用していないことが明らかである。

してみると、原告の被告に対する本訴請求中、被告が原告の商号と類似する「火の国ニユー観光ホテル」なる営業表示を使用している旨主張し、右営業表示中の「火の国」の文字の使用差止を求める部分については、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

二  原告の商号の周知性、著名性の有無について

<証拠>によれば、原告は熊本市西水前寺町に所在し、開業当時は木造瓦葺三階建の建物で客室一八であつたが、昭和四三年九月に改築して設備を良くしたかわりに客室数を一一としたこと、原告は熊本市旅館組合に加入して営業しているが、代表者である榊原秋義が唐手の師範であるため九州一円を廻る関係上、その子弟及びこれを伝にした旅客も少なくないものの、顧客の大半は熊本市内の者であること、原告はホテル営業の広告、宣伝活動は電話帳の公告欄に掲げるほかは全く行なつていないこと、原告は昭和四〇年七月から昭和四三年八月までの宿泊人員が一万二、七八一名で一か月当り平均三三六名であり、創業以来、健全に営業を続けて来ていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告の商号である「有限会社火の国観光ホテル」は少なくとも熊本市内においては広く認識され、周知性を有するものと判断される。しかしながら、「火の国」なる呼称は霊火山阿蘇に因んだ肥後熊本の代名詞とも云うべきもので熊本県下で広く使用されているものであり、原告の商号及びその他の営業表示中の「火の国」なる呼称が原告の営業上の施設又は活動を表象する呼称として著名性があるとは到底認められないというべきである。

三  商号及び営業表示の類似性について

<証拠>によれば、被告は昭和三八年一二月二日に「火の国弁当有限会社」なる商号で弁当を製造する目的で設立されて以来、交通公社や旅行関係の大手会社と弁当を納入する契約を締結して営業していたが、昭和四〇年一〇月にはレストラン部を設けて一度に一、〇〇〇人位の客を収容できる「火の国レストセンター」を開設し、昭和四二年六月には熊本県下で最も古い綿屋旅館を買収して被告の旅館部とし、同年一二月一日から被告の商号の一部を取つてこれを冠して「火の国ニユー観光ホテル」なる名称の下に、看板、パンフレツト、鉄道の時刻表等旅行案内に広告して宣伝活動を行ない、昭和四七年一〇月には鉄筋コンクリート七階建に改築して客室も五七室とするに及びその機会に営業表示としての名称を「ニユー火の国ホテル」と改称したこと、被告は県外の観光客を対象として営業をなし、交通公社の協定旅館で結成した熊本市観光旅館組合に加入し、全国的な国際観光旅館連盟にも加入しているところ、更に最上級の政府登録のホテルとするために申請中であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そこで、考察するに、商号等の営業表示の類似性を判断するには、表示自体の全体としての対象は勿論のこと、さらに一般人をして彼此の区別ができずに混同誤認を生ぜしめるかどうか、特にその主要部分、通称ないし略称等の同一性ないし類似性を考慮すべきであると考えるところ、原告の商号である「有限会社火の国観光ホテル」と被告の旅館部の営業表示である「ニユー火の国ホテル」の類似性を検討すると、原告の商号を特徴づける主要部分は「火の国観光ホテル」であるが、これと被告の「ニユー火の国ホテル」とは、「火の国」なる呼称が同一で関連性が強いことは言うまでもないが、「火の国」なる呼称は肥後熊本の代名詞であつて原告の営業活動について特に著名性があるものでないことは前認定のとおりであり、ホテル営業の場合、「観光ホテル」となる「ホテル」とは通常は別個のものと意識されるものであつて、同一地域においてこれらに冠する重要部分が同一である両者があつても直ちに一般人をして誤認混同を生ぜしめるとは判断されず、このことは一方の側に「ニユー」なる文字が加えられても差異はないというべきであり、両者の通称ないし略称として考えられるのは、原告が「火の国観光」か又は「火の国ホテル」で、被告が「ニユー火の国」か又は「火の国ホテル」と呼称されることが予想され、このうち「火の国ホテル」の場合には全く同一の呼称となることになるが、原告は昭和四三年九月までは看板に「観光旅館火の国ホテル」と表示して営業していたものの、その後は「火の国ホテル」なる呼称は使用しておらず、これまでにおいても原告の営業表示として「火の国ホテル」なる呼称が広く周知認識されていると認めるに足りる証拠はなく、「火の国観光」と「ニユー火の国」又は「火の国ホテル」についても、「火の国」なる呼称が前記のような趣旨のもので、原告の営業表示として著名性のあるものではないから、これらが互に類似性があつて彼此につき混同誤認を生ぜしめるとはいえず、その他前認定の原、被告のホテル営業の規模、客室数、対象客如何、加入している旅館組合の別、宣伝活動の状況等諸般の事情などに照らしても、原告の商号たる「有限会社火の国観光ホテル」と被告の営業表示である「ニユー火の国ホテル」とが類似し混同誤認を生ぜしめるものとは到底認定できず、被告において原告の社会的信用等を利用する意図をもつて違法又は不公正な競合行為をなしたものとは判断できないというべきである。

四  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(玉城征駟郎)

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