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熊本地方裁判所 昭和47年(行ウ)15号 判決 1977年2月28日

熊本県上益城郡矢部町城平一九六二番地

原告

坂本袈市

右訴訟代理人弁護士

山田一喜

熊本市東町三番一五号

被告

熊本東税務署長 尾方清一郎

右訴訟代理人弁護士

篠原一男

右指定代理人

大歯泰文

永杉真澄

村上久夫

田川修

藤井昭美

主文

被告が原告に対し昭和四六年一〇月六日付でした原告の昭和四二年分所得税の更正処分のうち総所得金額一二五万三、八三八円を超える部分及び重加算税賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

主文同旨の判決を求める。

二、被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者の主張及び認否

一、請求原因

1  原告は昭和四二年分所得税について、昭和四三年三月四日総所得金額を一二五万三、八三八円(内訳 農業所得六六万六、三四〇円、不動産所得二三万九、四〇〇円、譲渡所得三四万八、〇九八円)、税額を一〇万二、八〇〇円として確定申告をしたところ、被告は昭和四六年一〇月六日付をもつて総所得金額を三六六万七、六七二円(内訳 農業所得六六万六、三四〇円、不動産所得二三万九、四〇〇円、譲渡所得二七六万一、九三二円)、税額を八三万二、八〇〇円と更正する処分(以下「本件更正処分」という。)をし、かつ、重加算税二一万九、〇〇〇円を賦課決定する処分(以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)をした。

2  原告はこれを不服として同月一五日被告に対し異議申立をしたが、昭和四七年一月六日被告はこれを棄却する旨の決定をし、その頃原告に対しその通知をした。

そこで、原告は同月一三日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同年六月三〇日同所長はこれを棄却する旨の裁決をし、原告は同年七月二五日その通知を受けた。

3  しかし、被告が原告の昭和四二年分所得のうち譲渡所得金額につき原告の確定申告額を超えて二七六万一、九三二円と認定したのは事実誤認である。

よつて、本件更正処分のうち総所得金額一二五万三、八三八円を超える部分及び重加算税賦課決定処分は違法であるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1、2の各事実は認めるが、同3の主張は争う。

三、抗弁

本件更正処分及び重加算税賦課決定処分は以下に記す根拠に基づくものであつてもとより適法である。

1  本件更正処分のうち原告の争う譲渡所得金額二七六万一、九三二円の認定根拠は次のとおりである。

(一) 右譲渡所得金額算定の計算関係について

<省略>

(二) 本件宅地二筆の譲渡及び取得状況について

(1) 原向は昭和四二年一〇月二〇日訴外原田礼四郎(以下「原田」という。)に対し、本件宅地二筆を代金六〇〇万円で売却し、同人から同日五〇万円、同月二三日、同年一一月一三日、同月二二日、同年一二月七日各一〇〇万円、同月二七日一五〇万円をそれぞれ受領した。

したがつて、本件宅地二筆の譲渡価額は六〇〇万円である。

(2) 原告は昭和三一、二年頃訴外増永敏(以下「増永」という。)に対し、当初二〇万円、その後五万円の計二五万円を貸付けたが、昭和三二年一二月二七日同人から右貸金の返済に代えて本件宅地二筆を取得したものである。

したがつて、本件宅地二筆の取得価額は、右貸金相当額の二五万円と右宅地の所有権移転登記費用等四万六、一三五円(印紙代等三万九、六五〇円、分筆料六、四八五円)の計二九万六、一三五円である。

2  本件重加算税賦課決定処分の根拠は次のとおりである。

即ち、

原告に対し、本件更正処分がなされているが、原告は、前記(二)(1)のとおり本件宅地二筆を代金六〇〇万円で原田に売渡したにも拘らず、これを代金一〇〇万円で売渡したとする土地売買契約書を作成し、かつ、一〇〇万円を基準にした譲渡所得金額を計算して昭和四二年分の所得税確定申告書を提出し、もつて、国税の課税基準の基礎となる事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたものである。

よつて、被告は国税通則法(昭和三七年四月二日法律第六六号)六八条一項に基づき本件重加算税賦課決定処分をした。

四、抗弁に対する認否

1  抗弁冒頭の主張は争う。

2  同1(一)の事実のうち、譲渡所得の特別控除額、本件山林の譲渡価額、その取得価額は認めるが、その余は否認する。

同(二)(1)の事実のうち、売買の年月日、相手方は認めるが、その余は否認する。原告は二番一の宅地の一部(三四七・二九平方メートル)を代金一〇〇万円で売却し、昭和四二年一一月二〇日六〇万円、同月二二日四〇万円をそれぞれ受領したものである。

同(2)の事実は否認する。原告は昭和三二年一二月二七日訴外増永進から二番一の宅地の一部(三四七・二九平方メートル)を代金六八万七、〇〇〇円で買受けたものである。なお、原告は本件宅地二筆の取得価額として一二万三、八〇四円と確定申告してあるが、これは原告の息子が被告係官の指導を受けて申告したものであり、原告にはその詳細は不明である。

3  同2の事実は争う。

第三、証拠

一、原告

1  甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四乃至第七号証、第八号証の一、二、第九乃至第二二号証、第二三号証の一、二、

2  証人原田礼四郎(第二回)、同永野大次郎、同池田国夫、同渡辺豊久、原告本人

3  乙第六号証中、国武不可止作成部分の成立は不知、その余は認め、第七号証中、増永敏作成部分の成立は不知、その余は認める。第八、第九号証の成立は認める。その余の乙号各証の成立は不知(なお、第五号証の二乃至八は原本の存在も不知)。

二、被告

1  乙第一乃至番三号証、第四号証の一、二、第五号証の一乃至八、第六乃至第九号証

2  証人増永敏、同原田礼四郎(第一回)、同国武不可止(第一、二回)

3  甲第四号証中、受付年月日欄を除く登記官作成部分の成立は認めるが、その余は否認する。第六、第七号証、第八号証の一、二の成立は不知(但し、第八号証の一中郵便官署作成部分の成立は認める。)その余の甲号各証の成立は認める(なお、第一七号証乃至第二二号証、第二三号証の一、二は原本の存在も認める。)。

理由

一、請求原因1、2の事実並びに原告の昭和四二年分所得のうち農業所得金額が六六万六、三四〇円、不動産所得金額が二三万九、四〇〇円であること及び本件山林の譲渡価額が一四万円、その取得価額が二万円であることは当事者間に争いがない。

二、そこで、本件の争点である本件宅地二筆(原告は二番一の宅地の一部と主張する。)の譲渡価額及び取得価額並びに昭和四二年分の譲渡所得金額について検討する。

1  売買に至る経緯について

原告が昭和四二年一〇月二〇日原田との間に売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結したことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第六号証(国武不可止作成部分を除く。)、乙第七号証(増永敏作成部分を除く。)、乙第八、第九号証、証人原田礼四郎(第一、二回)、同増永敏の各証言、原告本人の供述(但し、後記措信しない部分を除く。)を綜合すると、原告は、昭和三二年一二月二七日訴外今村高久(以下「今村」という。)から依頼されて増永に貸渡した金員及びその利息の弁済に代えて買戻特約(買戻期限昭和三四年一二月三〇日)付で本件宅地二筆を買受けたのであるが、右土地のうち、表道路側の二番四の宅地には増永の経営する料亭の一部が存在し、残余の土地は右料亭の裏手に当る荒蕪地であり、原告は右買受後それを利用することなく放置してきたこと、昭和四二年七月頃訴外国武不可止(以下「国武」という。)は本件宅地二筆を買受けて転売する計画を立て、今村を通じ当時原告方に出入りしていた原田にその話を持ちかけて相談した結果、原田が原告から本件宅地二筆を買受け、それを国武に売却することとし、今村及び原田が原告との交渉に当つて本件売買契約が締結されたことを認めることができる。

原告本人の供述中、前主から本件宅地二筆の全部ではなくその一部を買受け、それを原田に売却したとの部分は、成立に争いのない甲第五号証、増永敏作成部分を除く乙第七号証、乙第八、第九号証に照らしにわかに措信し難く、ほかに以上の認定を左右するに足る証拠はない。

2  譲渡価額について

被告は、本件売買契約による土地譲渡価額は六〇〇万円である旨主張する。

なるほど、乙第五号証の二乃至八(原田の昭和四二年版県民手帳写し)には、原田が原告に対し、本件宅地二筆の売買代金として昭和四二年一〇月二〇日五〇万円、同月二三日、同年一一月一三日、同月二二日、同年一二月七日各一〇〇万円、同月二七日一五〇万円と計六回に亘り六〇〇万円を支払つた旨の記載があり、証人原田礼四郎の証言(第一、二回)によれば、右は原田自身が記載した手帳の写しであると認められる。

しかしながら、証人永野大次郎、同池田国夫の各証言によれば、原田は本件に関連した詐欺、偽証被疑事件の被疑者として取調べを受けた際、右手帳には後日書き加えて工作した部分があると供述していることが認められるし、また、右手帳につき、証人原田礼四郎は、第一回目の尋問の際には自分の現実になした行為を記入した趣旨の証言をしながら、右偽証被疑事件で取調べを受けた後である第二回目の尋問の際は、大部分は今村等から聞いたことを確かめないまま記入したものであると証言する等、右手帳作成者の供述に確たるところがない。

加うるに、六〇〇万円という多額の金員の支払方法についても、約二か月という短期間に六回に分割し、しかも支払日相互の間隔が区々である等不自然さを否定できないほか、後述のとおり実際の出資者である国武の資金の出処・資力にも疑問がある。

更に、前掲乙第八、第九号証、証人永野大次郎、同渡辺豊久、同国武不可止(第一、二回)の各証言を綜合すると、国武は原田らと共謀し昭和四二年一一月頃から同四三年六月頃までの間に亘つて訴外渡辺豊久(以下「渡辺」という。)に対し、本件宅地二筆があたかも九〇〇万円を超える有望な土地であるかのような芝居を打つて同人をだまし、これを同人に代金九〇〇万円で売却しながら、納税申告に際しては原田から代金一二〇万円で買受け渡辺に二二〇万円で売却したと申告したが、その頃、渡辺によつて警察署に詐欺による被害届が提出され(昭和四九年頃国武及び原田は詐欺被疑事件の被疑者として取調べを受けた。)、また、後日国武は渡辺に対する売買代金額について税務署の調査を受けて、渡辺に対する売買代金額を七七〇万円とすると共に原田からの購入金額を六二〇万円とする修正申告をしたことが認められる(右認定に反する証人原田礼四郎、同国武不可止の各証言<各第二回>は措信しない。)のであつて、この間の事情は、国武が渡辺に対する売買が詐欺にならないように取りつくろい、しかも、その売買代金額に符合するように後日原田らと原告からの購入代金額につき工作をしたのではないかという疑いを抱かせるものである。

よつて、乙第五号証の二乃至八は、それがそのとおり相違ないとする原田名義の証明書である同号証の一と共に、たやすく措信できないといわねばならない。

また、証人原田礼四郎の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第一号証(原田礼四郎の国税調査官に対する昭和四六年八月一〇日付上申書)、証人国武不可止の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第二号証(国武不可止の国税調査官に対する昭和四六年八月一〇日付上申書)、前掲国武不可止作成部分を除く乙第六号証(国武不可止の熊本国税不服審判所係官に対する昭和四七年三月二三日付陳述録取書)、証人原田礼四郎、同国武不可止の各証言(各第一、二回)中には、本件売買契約における本件宅地二筆の代金額は六〇〇万円であつて、右売買代金は国武の資金から昭和四二年一〇月二〇日五〇万円、同月二三日、同年一一月一三日、同月二二日、同年一二月七日各一〇〇万円、同月二七日一五〇万円とそれぞれ原告に支払われた(前掲乙第五号証の二乃至八の記載内容と一致する。)、右資金は山林売却代金一七六万五、〇〇〇円、手持金五三万五、〇〇〇円、叔父からの借入金八〇万円、渡辺からの借入金約二〇〇万円等をこれに充てた、との部分がある。

しかし、右購入資金の出処については、右渡辺からの借入金の点は証人渡辺豊久の証言に照らし措信できず(前掲乙第八、第九号証、右渡辺証言によれば、渡辺が国武に貸渡したのは昭和四二年一一月三〇日で一三〇万円であつたことが認められる。)、その余の資金の出処・資力についても必ずしも明らかではないし、支払方法についても前記のとおり不自然さが残る。

また、実際に六〇〇万円を原告に交付した者につき、前掲各証拠における原田及び国武の各供述内容は、いずれも当初のものから変転し、しかも、原田証言(第二回)と国武証言(第二回)とは符合しない等、区々であつて、原告が六〇〇万円の交付を受けたというのは甚だ疑問であるといわざるを得ない。

以上のとおり、前掲乙第一、二号証、国武不可止作成部分を除く乙第六号証、証人原田礼四郎、同国武不可止の各証言(各第一、二回)中被告主張事実に符合する部分は措信し難いのであつて、ほかに、前記土地譲渡価額が、被告主張のとおりであることを認めるに足る証拠がないのみならず、右価額が原告の主張する一〇〇万円を超える金額であることを認めうる確証がない。

却つて、前掲甲第五号証、原告本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第六号証、証人原田礼四郎の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一(郵便官署作成部分は成立に争いがない。)、同号証の二、証人永野大次郎、同池田国夫の各証言によれば、原田は原告から本件宅地二筆を代金一〇〇万円で買受け、右売買代金は二回に分割して支払い、原田が代金を完済したとき同人又は転買人に所有権移転登記手続をするというものであつた(但し、土地売買契約書<甲第五号証>は後日作成された。)こと、原田は、昭和四二年一一月二〇日初回金として国武から受領した六〇万円を原告に支払い、また、同月二二日同様に四〇万円を支払つて、前記売買代金を完済し、同日司法書士に対し、本件宅地二筆につき原告から国武へ所有権を移転する旨の登記手続申請の依頼がなされて同月二四日付で右登記がなされたことが認められるのである。

もつとも、前掲甲第五号証によれば、作成年月日昭和四二年一一月一七日、同日初回金六〇万円が支払われた旨記載されていることが認められるから、これは前記本件売買契約の日、初回金の支払日等に徴し、後日作成されたものと推認され、したがつて、一〇〇万円という譲渡価額についても疑問の余地が全くないわけではないが、そのことが被告主張の価額の裏付けになるというものでもない。

3  取得価額について

本件宅地二筆の譲渡価額は結局原告の確定申告のとおり一〇〇万円と認むべきことは前記のとおりであるところ、その取得価額につき、原告は六八万七、〇〇〇円であると主張し、被告は二九万六、一三五円であると主張するが、原告は右いずれよりも少額の一二万三、八〇四円と確定申告し、本件更正処分のうち確定申告額を超える部分の取消を求めているにすぎないから、原被告双方の主張の当否につき判断するまでもなく、本件宅地二筆の取得価額は一二万三、八〇四円であるとして譲渡所得金額を算定すれば足ることとなる。

4  譲渡所得金額について

本件宅地二筆及び山林の譲渡価額が一一四万円、取得価額が一四万三、八〇四円であることは前記のとおりであり、所得税法三三条四項により特別控除額が三〇万円となるから、これに基づき原告の昭和四二年分の譲渡所得金額を同法所定の算式によつて算出すると三四万八、〇九八円となること計算上明らかである。

三、結局、原告の昭和四二年分の総所得金額は計算上原告の確定申告のとおり一二五万三、八三八円となるから、本件更正処分は右金額を超える部分につき違法であり、したがつて、また、本件重加算税賦課決定処分も違法である。

よつて、本件更正処分のうち総所得金額一二五万三、八三八円を超える部分の取消及び重加算税賦課決定処分の取消を求める原告の本訴請求をすべて正当として認容することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 堀口武彦 裁判官 玉城征駟郎 裁判官 山口博)

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