熊本地方裁判所山鹿支部 昭和48年(ワ)50号 判決 1975年8月14日
原告
宮崎正信
被告
三潴運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告に対し金二九二万三四七〇円および、被告三潴運輸株式会社においてはうち金二六五万三四七〇円に対する昭和四七年一〇月一三日から、被告安田火災海上保険株式会社においては金二九二万三四七〇円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ支払済に至るまで各年五分の割合による金員を支払え。
二 原告その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決の第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
一 被告三潴運輸株式会社(以下被告三潴運輸という)は原告に対し、金四二四万八八八八円およびうち金三九四万八八八八円に対する昭和四七年一〇月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告安田火災海上保険株式会社(以下被告保険会社という)は原告に対し、金四二四万八八八八円およびこれに対する本件判決言渡の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言
(請求の趣旨に対する被告らの答弁)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二当事者の主張
(請求の原因)
一 事故の発生
(一) 訴外古賀節雄こと三家隆男(以下訴外三家という)は、昭和四六年一月三〇日午後三時頃、熊本県鹿本郡鹿北町大字岩野字小栗峠係国道三号線道路上において、普通貨物自動車(福岡一あ四七二七号以下加害車両という)を運転進行中、前方を同一方向に進行していた訴外戸上秀則運転、原告同乗の普通貨物自動車に追突した。
(二) 原告は右事故により頸椎捻挫の傷害を負い、橋本病院に昭和四六年二月二日から同年三月三一日まで五八日間入院し、同年四月一日から同月二六日まで二六日間中隔日通院し、同月二七日から同年一〇月二日まで一五九日間再入院し、同月五日から同年一二月一一日まで六八日間中三四回通院し、同月一二日から同月二三日まで一二日間再々入院し、植木病院に同月二四日から昭和四七年二月一二日まで五一日間入院し、同月一三日から昭和四八年一月三〇日まで三五三日間中七四日通院して治療したが、重症の頸椎捻挫により神経系統の機能に著しい障害を残し軽易な労務以外の労務に服することができない自賠法施行令別表所定七級該当の後遺症がある。
二 責任原因
(一) 訴外株式会社松尾運送(以下訴外松尾運送という)は訴外三家を雇傭し同人に加害車両を運転させて自己の業務のため運行の用に供していたところ、昭和四六年四月五日三潴運輸株式会社に商号を変更したものであるから、被告三潴運輸は自賠法三条により原告の損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告保険会社は、右加害車両につき訴外松尾運送との間に、保険金限度額一〇〇〇万円の対人賠償責任保険契約を締結し、本件事故の発生により被告三潴運輸に対し保険金の支払をなすべきところ、同被告には弁済の資力がないので、原告は民法四二三条により後記損害賠償債権を保全するため同被告に代位して、被告保険会社に対し右損害額の限度において保険金の支払を求める。
三 損害
原告に生じた損害は、次のとおりである。
(一) 治療費等
1 治療費
(1) 橋本病院におけるもの 一三万六〇三一円
(2) 植木病院におけるもの 六万九九七〇円
2 付添看護費 三万〇〇〇〇円
原告の妻が橋本病院において三〇日間付添看護に要した一日当一、〇〇〇円の割合によるもの
3 入院雑費 五万六〇〇〇円
前記入院合計二八〇日間の一日二〇〇円宛の雑費
(二) 農業における休業損害
1 水稲栽培について代替労務者の雇傭に要した費用 八万五一八〇円
原告は七二アールの田に水稲を栽培していたが、昭和四六年一月三一日から昭和四七年一一月まで農作業に従事できなかつたので、その間労務者を雇傭した。
2 西瓜栽培不能による損害 四三万五五九〇円
原告は昭和四六年同四七年には前年どおり三〇アールの畑に西瓜を大型ビニールトンネルによつて栽培する予定であつたところ、前記のとおり農作業に従事できず右栽培は不能となつた。西瓜の一〇アール当平均収益は、昭和四六年度が九万五三五一円、同四七年度が一一万二〇七三円であり、右栽培には原告と妻ミハルが従事しその寄与割合は原告七、ミハル三であつたから、原告の損害は四三万五五九〇円となる。
3 プリンスメロン栽培不能による損害 四四万三〇一七円
原告は昭和四六年、同四七年には前年どおり二〇アールの畑にプリンスメロンを栽培する予定であつたところ、前記のとおり農作業に従事できず右栽培は不能となつた。プリンスメロンの一〇アール当平均収益は昭和四六年度が一四万九六四三円、同四七年度が一六万六七九八円であり、原告の右栽培についての寄与割合は前記のとおりであつたから、原告の損害は四四万三〇一七円となる。
(三) 日雇労務における休業損害 一三九万三一〇〇円
原告は本件事故前農業の合間に年間一六五日日雇労務に従事していたところ、本件事故による前記治療および後遺症のため昭和四六年は一四六日、同四七ないし四九年は各一六五日、同五〇年六月末日までは九七日右労務に従事できなかつた。そして各年度の一日当の賃金は昭和四六年は一、一〇〇円、同四七年は一、五〇〇円、同四八年は二、〇〇〇円、同四九、五〇年はいずれも二、五〇〇円であつたから、本件事故後から昭和五〇年六月末日までに原告は一三九万三一〇〇円の休業損害を蒙つた。
(四) 慰藉料 一九〇万〇〇〇〇円
原告は前記各病院において合計二八〇日間の入院および四四七日間の通院による治療を受けて来たが、完全に治癒せず、前記後遺症のため軽易な労務以外の労務に服することができない状態にあり、これに対する慰藉料としては、一九〇万円が相当である。
(五) 損害填補 六〇万〇〇〇〇円
以上損害合計四五四万八八八八円となるところ、被告三潴運輸は原告に対し、昭和四六年四月一〇日から同四七年一〇月一二日までに合計六〇万円を支払つたので、これを控除すると、三九四万八八八八円となる。
(六) 弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円
被告三潴運輸は昭和四六年五月一九日原告に対し損害を賠償する旨約しながら、その後商号を変更し本社所在地を移転したのに原告に何ら通知をせず、かつ会社が異なるので同被告には賠償責任なしと抗争したため、原告は昭和四八年八月一三日本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し三〇万円の手数料を支払つた。
四 よつて、原告は被告らに対し各自、四二四万八八八八円および被告保険会社に対し右金員に対する判決言渡の翌日から、被告三潴運輸に対しうち三九四万八八八八円に対する最終弁済日たる昭和四七年一〇月一二日の翌日から各支払済に至るまでそれぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する被告三潴運輸の答弁)
被告三潴運輸が株式会社松尾運送から三潴運輸株式会社に商号を変更したことは認める。しかし同被告は訴外松尾運送の営業免許のみを昭和四六年六月頃譲り受けて発足した会社であつて、訴外松尾運送が所有していた車両は譲り受けておらず、訴外松尾運送とは別個の会社である。
被告三潴運輸が原告に対し昭和四七年一〇月一二日までに合計六〇万円支払つたことは認める。
その余の請求原因事実は不知である。
(請求の原因に対する被告保険会社の答弁)
一 請求の原因第一項中、(一)の事実は認めるが、その余の事実は不知である。
二 同第二項中、被告保険会社が訴外松尾運送との間に原告主張の保険契約を締結していたことは認めるが、その余の事実は不知である。
三 同第三項の事実は不知である。
(被告保険会社の抗弁)
前記保険契約の約款によれば、本件事故当時においては加害車両が無免許運転者によつて運転されたときは、保険会社は事故の損害を填補する責に任じない旨規定するところ、訴外三家は運転免許を有しないのに拾得した古賀節雄名義の自動車運転免許証に自己の写真を貼り変えて偽造し本件加害車両を運転したものであるから、右約款の規定により被告保険会社は免責され、保険金支払義務を負わない。
(抗弁に対する原告の答弁)
保険約款に右主張の免責規定があることは不知。
仮に右規定があつたとしても、被告三潴運輸が訴外三家が無免許であることを知りながら運転に従事させていた場合に限り、被告保険会社は免責されるべきであつて、本件の場合被告三潴運輸は訴外三家が無免許であることを知らなかつたのであるから被告保険会社は免責されない。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
(一) 訴外古賀節雄こと三家隆男は、昭和四六年一月三〇日午後三時頃、熊本県鹿本郡鹿北町大字岩野字小栗峠係国道三号線道路上において、普通貨物自動車(福岡一あ四七二七号)を運転進行中、前方を同一方向に進行していた訴外戸上秀則運転、原告同乗の普通貨物自動車に追突したことは、原告と被告保険会社間には争いはなく、原告と被告三潴運輸との間においては、〔証拠略〕によつて右事実が認められる。
(二) 〔証拠略〕によれば、原告は本件事故によりその主張のように傷害を受けて入通院し治療したこと、原告は遅くとも昭和四七年三月三一日までに症状固定したが、頑固な頭痛、肩こり、頸から肩への痛、発熱が頻発し、服する労務が相当程度に制限される後遺症が残り、これは自賠法施行令別表所定九級に該当するものであることが認められる。
二 責任原因
(一) 被告三潴運輸が訴外松尾運送株式会社から商号を変更したものであることは、原告と同被告間に争いはなく、〔証拠略〕によると、訴外三家は訴外松尾運送に雇われ、同社所有の加害車両を同社の業務のため運転中に本件事故を惹起したものであるところ、被告三潴運輸は昭和四六年四月五日訴外松尾運送の営業権、建物を譲受け、訴外松尾運送の発行済全株式の名称を同被告の名称に変更し、訴外松尾運送の役員であつた松尾欽三郎、品川利治を同被告の役員となし、同月八日株式会社松尾運送から三潴運輸株式会社への商号変更の登記をしたこと、同被告は、同年五月一九日訴外松尾運送名をもつて、原告の妻宮崎ミハルに対し休業補償として一〇万円を送金し、自賠責保険金額超過分については、被告保険会社との間に締結した任意保険により原告の損害を填補する旨誓約していることが認められ、さらに被告三潴運輸が昭和四六年四月一〇日から昭和四七年一〇月一二日までの間六回にわたり、合計六〇万円を原告に対し損害の填補として支払つたことは当事者間に争いはない。右事実からすれば、被告三潴運輸は訴外松尾運送の営業の一部を譲受けると共に本件事故によつて生じた自賠法三条による原告に対する損害賠償債務を引受けたものというべきである。
(二) 被告保険会社が訴外松尾運送との間に、前記加害車両につき保険金額一〇〇〇万円の対人賠償責任保険契約を締結したことは、当事者間に争いはない。福岡県公安委員会への調査嘱託の結果によると、訴外三家は運転免許を有しないで前記加害車両を運転し、本件事故を惹起したことが認められる。被告保険会社は右保険契約約款によると、無免許運転者の事故については免責条項が規定されているため、本件事故の損害については被告保険会社は免責されると抗弁するが、〔証拠略〕によると、免責条項の規定が存在することが認められるけれども、右規定は昭和四七年四月に改訂されたものであり、本件事故当時右免責条項が存在したことを認めるに足りる証拠はなく、現在においては無免許運転による事故についても被告保険会社は有責であることを自認しているから、同被告の抗弁は失当である。
(三) 〔証拠略〕によると、被告三潴運輸は六〇〇〇万円の損失を蒙り、負債額は三億円に達し、他からの援助がなければ営業の継続ができない状態にあつて、原告の損害額を支払う資力がないものと認められるから、原告は後記損害賠償債権を保全するため、同被告に代位して被告保険会社に対し右損害額の限度において保険金の支払を請求することができる。
三 〔証拠略〕を総合すると、本件事故により蒙つた原告の損害は、次のとおりであつて、右認定を覆すに足る証拠はない。
(一) 治療費等
1 橋本医院における治療費 一三万六〇三一円
2 植木病院における治療費 六万九九七〇円
3 橋本病院における付添看護費 三万〇〇〇〇円
原告は橋本病院での入院中最初の一ケ月間は付添看護を必要とし、原告の妻ミハルが三〇日間付添看護をしたことが認められるので、これに要した費用は一日当一、〇〇〇円を相当とする。
4 入院雑費 五万六〇〇〇円
原告は橋本病院、植木病院において、合計二八〇日間入院したことが認められるので、右期間の雑費として一日当二〇〇円を相当とする。
(二) 農業における休業損害
1 水稲栽培における代替労務者雇傭費
原告は七二アールの田に水稲を栽培していたが、本件事故当日から前示の症状固定日である昭和四七年三月三一日までは入通院のため農作業は全然できず、右症状固定日以後は前示の後遺症により労働能力が三五パーセント喪失したことが認められるので、その間に代替労務者を雇傭した費用のうち四万九八八〇円を原告の損害とすることができる。
2 西瓜栽培不能および能力低下による損害
原告は昭和四六年、同四七年には前年どおり三〇アールの畑に西瓜を栽培する予定であつたところ、前示のとおり昭和四七年三月三一日までは農作業に従事できず、症状固定後は前示の労働能力喪失によりその能力は低下した。西瓜の一〇アール当平均収益は、昭和四六年度が九万五三五一円、同四七年度が一一万二〇七三円であつたところ、右栽培には原告と妻ミハルが従事しその寄与割合は、原告が農業の合間に年間一四六日間日雇労務に従事していたことを斟酌すれば、原告六、ミハル四と認められるから、原告の損害は昭和四六年は一七万一六三三円、同四七年は七万〇六〇五円となる。
3 プリンスメロン栽培不能および能力低下による損害
原告は昭和四六年、同四七年には前年どおり二〇アールの畑にプリンスメロンを栽培する予定であつたところ、前示のとおり昭和四七年三月三一日までは農作業に従事できず、症状固定後は前示の労働能力喪失によりその能力は低下した。プリンスメロンの一〇アール当平均収益は、昭和四六年度が一四万九六四三円、同四七年度が一六万六七九八円であつたところ、原告の右栽培についての寄与割合は前示のとおりであつたから、原告の損害は、昭和四六年は一七万九五七一円、同四七年は七万〇〇五五円となる。
(四) 日雇労務における休業および能力低下による損害
原告は本件事故前農業の合間に日雇労務に従事し、昭和四五年は熊本市の株式会社津田屋に四七日間、植木町の鹿南陸運に九九日間就労し、合計一七万二三九〇円の給与の支払を受け、昭和四六年一月も一九日間鹿南陸運において就労していた。しかるに本件事故により前示のとおり昭和四七年三月三一日までは就業できず、症状固定後は後遺症による労働能力喪失による能力低下により損害を蒙つた。そして鹿南陸運における一日当の賃金は昭和四六年は一、一〇〇円、同四七年は一、五〇〇円、同四八年は一、八〇〇円、同四九、五〇年は各二、三〇〇円であつたから、本件事故後から昭和五〇年六月末日までの原告の損害は五一万九七二五円となる。
(五) 慰藉料
前示のとおりの原告の傷害の程度、入通院期間、後遺症の程度、その他の事情を斟酌すれば、原告の慰藉料は一九〇万円が相当であると認められる。
(六) 損害の填補
被告三潴運輸が原告に対し昭和四七年一〇月一二日までに合計六〇万円を支払つたことは、当事者間に争いはない。そこでこれをもつて以上の損害額合計三二五万三四七〇円から控除すると二六五万三四七〇円となる。
(七) 弁護士費用
原告が本件訴訟を弁護士である原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、昭和四八年八月一三日手数料として三〇万円支払つたことが認められるが、本件事案の難易度、被告らの抗争の程度、審理の経過等の諸事情を斟酌すると、本件事故による損害として原告が請求し得る弁護士費用は二七万円とするのが相当である。
四 よつて、原告は被告らに対し各自二九二万三四七〇円および、被告三潴運輸に対しうち二六五万三四七〇円に対する最終弁済日の翌日である昭和四七年一〇月一三日から、被告保険会社に対し二九二万三四七〇円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ支払済に至るまで各民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、原告の本訴請求を認容し、その余の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 河原畑亮一)