熊本家庭裁判所 平成9年(家)132号・平9年(家)133号
主文
1 申立人の寄与分を定める処分申立てを却下する。
2 別紙遺産目録記載の被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 同目録記載の2、8、11の各土地は申立人の取得とする。
(2) 同目録記載の1、3から7まで、9、10の各土地及び12の建物は相手方渋谷則子の7分の4、相手方中野美子、同大田清子及び同足立智子の各7分の1の割合による共有取得とする。
(3) ○○農業協同組合に対する出資金598,000円(出資総口数598口)は相手方渋谷則子の取得とする。
3 申立人は相手方渋谷則子に対し前項(3)の出資金につき出資組合員名を申立人から相手方渋谷則子に変更する手続をせよ。
4 本件手続費用は各自の負担とする。
理由
1 一件記録によれば、相手方渋谷則子(以下「相手方則子」という。)は被相続人(大正11年8月25日生)の妻であり、二人の間の、相手方中野美子(以下「相手方美子」という。)は長女、相手方大田清子(以下「相手方清子」という。)は二女、申立人は長男、相手方足立智子(以下「相手方智子」という。)は三女であること、別紙遺産目録記載の不動産(以下、その全部を「本件不動産」といい、個々の土地及び建物を「本件1の土地」、「本件2の土地」、「本件12の建物」というように表示する。)及び○○農業協同組合に対する出資金598,000円(出資総口数598口、以下「本件出資金」という。)が被相続人の遺産であり(ただし、出資金については相続開始後、出資組合員名が被相続人から申立人に変更されている。)、その処分について遺言はないことが認められ、この遺産を分割の対象とすることについては当事者間に争いはない。
以上の事実によれば、ほかに特段の事情がない限り、被相続人の遺産は法定相続分に従い相手方則子において2分の1(8分の4)、相手方美子、同清子、申立人及び相手方智子において各8分の1の割合でこれを承継取得したということができる。
2 そこで、この取得割合を変更するに足りる特段の事情があるかどうかについて検討するのに、一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 渋谷の一家はもともと農業を家業としており、本件不動産もそのほとんどは被相続人が先代から受け継いだものである。相手方則子は、昭和21年11月12日被相続人と結婚して以来、被相続人を助け、家業を支えてきた。特に、被相続人は過去の一時期会社勤めをし、町議会議員にもなったことがあり、この時期にはむしろ相手方則子が家業の中心になっていた。
(2) 被相続人と相手方則子との間の4人の子はいずれも両親の許で成長し、結婚その他によって独立して家を出たのであるが、その間、それぞれ家族の一員として、学業や会社勤めの傍ら家業を手伝った。なかでも、申立人は、ただ一人の男子であったため、ほかの三人の姉妹に比べれば家業に従事した度合いが高いといえないことはない。しかしながら、申立人は、家業を引き継ごうとはせず、昭和46年4月に高等学校を卒業すると、会社勤めをするようになり、勤務の都合で家を出た。そして、昭和61年ころに実家に帰り、家族ともども両親と生活を共にするようになったが、平成4年2月に被相続人が死亡したあと、遺産の分割を巡って相手方則子といさかいを生じたため家を出て近くに別居した。
(3) 申立人は、両親と同居している間に、遺産の維持、管理等に必要な費用として合計5,364,273円を自らの資産収入の中から支弁したと主張するところ、相手方則子も、このうち納屋補修費用1,572,100円、登記手続費用156,700円、建物共済掛金60,226円、固定資産税211,660円、養老年金掛金71,988円、農業用乾燥機代360,000円についてはその全部につき、そのほかの支弁についてはその一部につき、本来、被相続人又は相手方則子が負担すべきものであることを認めている。
(4) 4人の子は、結婚に際しては、それぞれ両親からそれなりのことをしてもらったが、さらに、結婚後、相手方美子と同清子は、自宅を新築するに当たり、それぞれ1,500,000円ずつの援助を受けている。そのほか、相手方清子は、被相続人から自動車運転免許を受ける費用として300,000円を出してもらったので、後に返還しようとしたが、その必要はないと言われた。
以上の事実によれば、申立人が家業である農業に従事したのは家族の一員としての域を出ないものであって、たとえ、その度合いがほかの三人の姉妹のそれよりも高いものであったにしても、もともと、本件不動産のほとんどは被相続人が先代から受け継いだものであり、申立人による家業の従事がその維持又は増加につき特別の寄与をしたとはとうてい認められない。また、申立人が支弁したという費用が本件不動産の維持又は増加とどのような関わりがあるのかも明らかではない。これらの費用の中には申立人が同居の家族の一員として自ら進んで負担したとみられるものもないではないし、相手方則子が自ら負担すべきものと認めているものについてはその支払を求めることもできないわけではない。したがって、申立人の寄与分を定める処分を求める申立ては理由がないので、これを却下すべきである。
一方、相手方美子と同清子が自宅を新築するに当たり被相続人から受けた1,500,000円の援助は特別受益に当たるから、それぞれの取得分の計算上いわゆる持ち戻しの対象になると解するのが相当である。しかし、相手方清子が自動車運転免許を受ける費用として拠出してもらった300、000円については被相続人による持ち戻し免除の意思表示がされたものと解されるので、特別受益には当たらないというべきである。
3 進んで、被相続人の遺産の分割方法について検討するのに、一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件不動産のうち、個々の土地・建物の固定資産評価額は別紙遺産目録記載のとおりである。
(2) 本件不動産のうち、1から3までの各土地(畑)は、現在、相手方則子がここで野菜等を栽培している。4から6までの各土地(宅地)の上には12の建物があり、相手方則子がここで一人で暮らしている。7から11までの各土地(田)は相手方則子が管理しているが、休耕田の状態にあり、耕作はされていない。
(3) 相手方美子、同清子及び同智子は、いずれも結婚して独立し、相手方則子とは離れた所で暮らしている。そのため、この三人は、相手方則子との間で、本件不動産を現物分割することは希望してはおらず、法定相続分による共有としておけば足りると考えている。一方、申立人は、現物分割を希望し、取得する土地の一部に自らの住居とする建物を建て、残りの土地を自分で耕作する意思を有している。
そして、一件記録によれば、本件調停においては、(1)申立人は、最終的に、本件2、10、11の各土地を取得したいと主張し、これに対して相手方らは申立人が本件2の土地を取得することには同意するものの、本件10、11の各土地を取得することには強く反対し、歩み寄りがみられなかったこと、(2)そこで、調停委員会では前記に認定の諸般の事情、なかでも申立人が支弁したと主張する費用の一部について、相手方則子が本来被相続人又は相手方則子が負担すべきものであることを認めていること及びその金額並びに調停の経過等を総合勘案して、申立人は本件2、8、9の各土地と本件出資金を取得し、相手方則子は本件3から6までの各土地と本件12の建物を取得し、相手方美子、同清子及び同智子は本件1、7、10、11の各土地を各3分の1の割合で取得するが、その管理を相手方則子に一任する、という調停案を提示したこと、(3)これに対して申立人は本件11の土地の取得にこだわり、取得する土地のうち本件9の土地と本件11の土地とを入れ替えて欲しいこと、そうすれば、本件出資金は相手方ら若しくは相手方則子の取得としてもよいと主張し、一方、相手方らは、申立人による本件11の土地の取得にはあくまで反対し、結局、調停案は申立人の受け入れるところとはならなかったこと、(4)申立人が本件11の土地の取得にこだわるのはこの土地に隣接する農道の方が本件9の土地に隣接するそれより広く、耕作するのに便利であるということにあり、相手方らが申立人のこの土地の取得に反対するのは申立人の言いなりになることへの抵抗感がその背景にあること、以上の事実が認められる。
4 以上のような一件記録上認められる諸般の事情、とりわけ本件調停の経過に鑑みると、被相続人の遺産は次のとおり分割すること、すなわち(1)申立人は本件2、8、11の各土地を取得する、(2)相手方らはその法定相続分に従い相手方則子において7分の4、相手方美子、同清子及び同智子において各7分の1の割合で本件1、3から7まで、9、10の各土地及び本件12の建物を取得する、(三)相手方則子は本件出資金を取得し、申立人は相手方則子に対し本件出資金につき出資組合員名の変更手続をする、以上のとおり分割するのが相当である。
よって、本件手続費用は各自の負担とし、主文のとおり審判する。
(別紙)
遺産目録
(所在地番) (地目・平方メートル)(固定資産評価額・円)
1 熊本市○○町字○×番 畑 485 8,148,000円
2 同所××番 畑 492 8,265,600円
3 同市○○町字○△×番 畑 280 4,704,000円
4 同所××番 宅地 16 616,000円
5 同所○××番 宅地 82 3,157,000円
6 同所×△×番 宅地 403 15,515,500円
7 同市○○町字○○△××番 田 991 164,467円
8 同市○○町字△○×××番 田 667 110,695円
9 同所×○×番 田 991 164,467円
10 同市○○町字△△××番 田 991 164,467円
11 同市○△町字○××××番 田 991 147,868円
12 同市○○町字○△××番地、×○番地 5,074,296円
家屋番号×××番
居宅木造セメント瓦葺二階建て
一階 168.38平方メートル
二階 64.21平方メートル