大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

熊本家庭裁判所 平成9年(家)1336号 審判 1998年3月11日

申立人 高橋明 外1名

相手方 高橋サワ 外2名

被相続人 高橋智彦

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立の要旨

被相続人高橋智彦が平成5年2月20日死亡し相続が開始したので、別紙(1)遺産分割申立書添付の物件目録(以下物件目録という。)記載の物件につき遺産分割を求める。

2  当裁判所の判断

(1)  問題の所在

被相続人につき相続が開始し、その相続人は本件当事者であるが、分割すべき遺産の範囲、特定について問題がある。物件目録番号21ないし26、28ないし31には特定の所在地、家屋番号の記載があるが、いずれも「(未登記)」の記載があり(未登記建物に家屋番号の記載があることは趣旨不明である。)、その種類、構造、床面積の記載がない。

そこで、当事者双方の主張する遺産分割に関連する物件を整理した結果は、別紙(2)遺産目録(以下遺産目録という。)記載のとおりである。次に、特定に問題のある建物について、現況(検証結果)、登記簿上の表示、固定資産課税台帳の表示を対比した結果は、別紙(3)建物一覧表記載のとおりであり、遺産目録(被相続人名義分)(以下遺産目録Iという。)の建物の一部の特定について問題がある。物件目録によれば、遺産目録I番号11ないし14、18及び19の建物は遺産目録(相続人サワ名義分)(以下遺産目録IIという。)番号58の土地上に所在する旨の表示がなされているが、検証(平成9年11月13日)の結果によれば、同地番には3棟の建物が所在し、現存建物の種類、構造、床面積と固定資産課税台帳上の建物のそれを対比するも、現存建物が固定資産課税台帳上建物のいずれに該当するか不明である。検証では各地番土地の範囲の特定が不能であり、各建物の所在地が特定できない。また、建物の床面積なども概数であり、的確に把握するには鑑定の必要がある。これまでの長年の間に、上記関連建物の滅失、新築、増築、改築などが行われ、それに伴う建築確認、登記申請などが放置されたものと推測できる。

熊本地方法務局三角支局登記官○○の調査嘱託回答によれば、遺産目録II番号57の土地を所在地とする建物図(二階建床面積一階135.733平方メートル二階34.9281平方メートル)があるが、遺産目録II番号55、56、58土地については法務局に建物図の届出がなく、法務局はその他の建物について把握していない。しかも、検証結果によれば公図、現地の地形、付近道路から同目録番号57の土地は材木置き場として利用され、建物は存在していないものと認められる。法務局届出の前記建物は、建物一覧表記載のとおり登記簿上の表示によると遺産目録I番号17に符合するが、同建物は現存建物の別紙(3)建物一覧表現況欄イ若しくはニ建物に類似するが、イ、ニ建物のいずれに該当するか断定はできない。遺産目録II番号57土地上に登記された家屋番号1855番72の建物が所在する旨の表示があるが、前記のとおり同土地上の現況は更地である。同土地は昭和25年6月19日自作農創設特別措置法によって被相続人が取得し、平成5年2月20日相続人サワに相続を原因として所有権移転登記され、同建物は被相続人が昭和48年12月10日新築を原因として所有権保存登記をしている。このような経緯から、同建物が現況建物のいずれであるかを特定する手掛かりとはなり得ない。

(2)  参与員(不動産鑑定士)○△は、現地を検分調査した結果に基づく意見として、遺産目録II番号55ないし58の土地上に所在する建物の状況は、概ね別紙(3)建物一覧表の現況欄記載のとおりであり、これらの建物を登記簿上の表示、法務局の建物図、固定資産税課税台帳上の表示によって特定することは推論すらできない状況であると述べる。

(3)  上記認定のとおり、申立人らの主張する遺産目録II番号55ないし58の土地と遺産目録I番号11ないし14、16ないし19の建物の関係、各建物の特定は現状の資料では明らかにできない。これを特定するには、遺産目録II番号55ないし58の土地の境界を確定し、現存建物の所在範囲を測量確定することにより建物と所在地番との関係を明らかにし、建物の種類、構造、床面積などを鑑定によって明確にする必要があり、滅失建物の登記は滅失登記手続を、既存登記に符号する建物については実体に沿う更正登記手続を、未登記建物はその保存登記手続を行う必要がある。

当裁判所は当事者全員に対し、上記遺産目録I番号11建物など8棟の特定を釈明したが、申立人らは特定のための費用を負担できないので釈明に応じられない旨を表明し、相手方らも釈明に応じない。申立人らは、相手方サワ及び昌夫を被告として被相続人の預金の返還を求める損害賠償請求訴訟(熊本地方裁判所平成9年(ワ)第1337号)を提起し、本件を維持する意思のないことを表明した。相手方らは、申立人らを被告として土地所有権確認訴訟(熊本地方裁判所平成9年(ワ)第1332号)を提起し、両事件は現に係属中である。(なお、前記第1332号事件の訴状添付の物件目録三及び請求原因第三の物件目録二という建物の特定には疑問がある。)

遺産分割事件は、相続財産の分配という私益の優越する手続であり、司法的関与の補充性が要請される性質を有するところ、特に遺産の特定については家事審判規則104条の趣旨から当事者主義的審理に親しむ事項であり、遺産分割事件の当事者は当事者権の実質的保障を受けて主体としての地位を認められる反面として、手続協力義務ないし事案解明義務を負うものと解することができる。本件申立人らは、上記認定のとおり物件目録の大部分の建物についてその特定に必要な事項を明らかにしないのみならず、本件申立てを維持する意思のないことを表明し、当裁判所の釈明にも協力する意思が認められない状態である。これは申立人らの事案解明義務懈怠であり、結局、本件申立は不適法として却下を免れないものということができる。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 若林昌子)

別紙(1) 物件目録<省略>

別紙(2) 遺産目録(被相続人智彦名義)

1  所在 天草郡×○町大字△字○○○

地番 7130番2

地目 公衆用道路

地積 96m2

2  所在 天草郡×○町大字△字○○

地番 5461番13

地目 畑

地積 2.70m2

3  所在 天草郡×○町△字○△

地番 1872番

地目 畑

地積 488m2

4  所在 天草郡×○町△字○×

地番 1702番

地目 畑

地積 766m2

5  所在 天草郡×○町△字○×

地番 1782番1

地目 田

地積 435m2

6  所在 天草郡×○町△字○×

地番 1783番

地目 田

地積 685m2

7  所在 天草郡×○町△字○×

地番 1796番

地目 田

地積 1040m2

8  所在 天草郡×○町△字○×

地番 1784番

地目 公衆用道路

地積 53m2

9  所在 天草郡×○町△字○×

地番 1789番

地目 田

地積 524m2

10 所在 天草郡×○町△字○×

地番 1799番

地目 田

地積 376m2

11 所在   天草郡×○町大字△字○○△1858番地の4

家屋番号 未登記

種類   倉庫(その他)

構造   木造トタン葺平屋建

床面積  39.62m2

12 所在   天草郡×○町大字△字○○△1858番地の4

家屋番号 未登記

種類   付属家(一般)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  65.35m2

13 所在   天草郡×○町大字△字○○△1858番地の4

家屋番号 未登記

種類   農家住宅

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  78.51m2

14 所在   天草郡×○町大字△字○○△1858番地の4

家屋番号 未登記

種類   倉庫(その他)

構造   鉄骨造スレート葺二階建

床面積  157.00m2

15 所在   天草郡×○町大字△字○○△1855番地

家屋番号 未登記

種類   付属家(一般)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  158.30m2

16 所在   天草郡×○町大字△字○○△1855番地の72

家屋番号 未登記

種類   工場(その他)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  49.50m2

17 所在   天草郡×○町大字△字○○△1855番地の72

家屋番号 1855番72

種類   居宅兼倉庫

構造   木造セメント瓦葺弐階建

床面積  1階135.73m2・2階34.92m2

18 所在   天草郡×○町大字△字○○△1858番地の4

家屋番号 未登記

種類   専用住宅(一般)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  68.66m2

19 所在   天草郡×○町大字△字○○△1858番地の4

家屋番号 未登記

種類   付属家(一般)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  45.00m2

20 所在   天草郡×○町大字△字○△1872番地

家屋番号 未登記

種類   倉庫(その他)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  33.18m2

21 所在   天草郡×○町大字△字○△1917番地

家屋番号 未登記

種類   付属家(一般)

構造   木造セメント瓦葺平屋建

床面積  14.40m2

22 所在   天草郡×○町大字△字○○5430番地の4

家屋番号 5430番4

種類   工場兼居宅

構造   軽量鉄骨造スレート葺弐階建

床面積  1階144.50m2・2階34.00m2

23 所在   天草郡×○町大字△字○△△5462番地の5

家屋番号 5462番5

種類   居宅

構造   木造瓦葺弐階建

床面積  1階91.14m2・2階27.44m2

以上

遺産目録(相続人サワ名義)

51 所在   天草郡×○町△字○○

地番   5430番1

地目   宅地

地積   214.85m2

取得原因 昭和56年4月27日贈与

52 欠番

53 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番76

地目   畑

地積   1029m2

取得原因 昭和56年4月27日贈与

54 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番73

地目   宅地

地積   739.50m2

取得原因 昭和56年4月27日贈与

55 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番71

地目   宅地

地積   784.53m2

取得原因 昭和56年4月27日贈与

56 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番63

地目   宅地

地積   550.46m2

取得原因 平成5年2月20日相続

57 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番72

地目   宅地

地積   441.86m2

取得原因 平成5年2月20日相続

58 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1858番4

地目   宅地

地積   418.94m2

取得原因 平成5年2月20日相続

59 所在   天草郡×○町△字○×

地番   1709番

地目   山林

地積   657m2

取得原因 平成5年2月20日相続

60 所在   天草郡×○町△字○△×

地番   7031番

地目   山林

地積   308m2

取得原因 平成5年2月20日相続

61 所在   天草郡×○町△字○△×

地番   7034番

地目   山林

地積   1460m2

取得原因 平成5年2月20日相続

62 所在   天草郡×○町△字○△×

地番   7042番

地目   池沼

地積   976m2

取得原因 平成5年2月20日相続

63 所在   天草郡×○町△字○△×

地番   7044番1

地目   畑

地積   5431m2

取得原因 平成5年2月20日相続

64 所在   天草郡×○町△字○○○

地番   7130番1

地目   池沼

地積   423m2

取得原因 平成5年2月20日相続

65 所在   天草郡×○町△字○△×

地番   7040番

地目   山林

地積   3939m2

取得原因 平成5年2月20日相続

66 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番24

地目   田

地積   968m2

取得原因 昭和56年4月27日贈与

67 所在   天草郡×○町△字○○△

地番   1855番25

地目   田

地積   779m2

取得原因 昭和56年4月27日贈与

以上

遺産目録(相続人昌夫名義)

68 所在   天草郡×○町大字△字○○△

地番   1855番251

地目   宅地

地積   393.69m2

取得原因 昭和56年4月27日被相続人から贈与(高橋サワ名義)

平成6年12月16日贈与(持分2分の1)

平成7年1月6日贈与(持分全部移転)

以上

別紙(3) 建物一覧表<省略>

別紙(4) 検証結果<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例