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熊本家庭裁判所 昭和56年(家)191号 審判 1982年1月20日

申立人 山中恒

被後見人 畑本晴行 外一名

主文

申立人の被後見人畑本晴行に対する後見人就任後その終了に至るまでの間の報酬を金二五〇万円と、被後見人畑本桂子に対する後見人就任後昭和五六年一二月三一日までの間の報酬を金二〇〇万円と、それぞれ定める。

理由

(申立の趣旨とその実情)

申立人は、「被後見人畑本晴行、同畑本桂子に対する後見人報酬として相当額の付与決定を求める。」と述べ、その申立の実情として、「(1)申立人は昭和五二年三月九日被後見人両名の後見人に選任されて以来、被後見人両名の監護教育及び財産関係の管理に従事してきた。(2)しかし、何分にも財産の種類、金額が多いため、その整理、管理には多大の労力を要し、また被後見人両名に対する監護・養育についても、右両名が若年であつたため腐心するところ大であつた。(3)ところで、被後見人晴行は昭和五六年二月一七日成人に達して後見が終了したが、被後見人桂子についてはなお相当期間後見が続くことになる。(4)そこで、ここに被後見人晴行に対する後見人就任後その終了に至るまでの間の、被後見人桂子に対する後見人就任後昭和五六年一二月三一日までの間の、それぞれ後見人報酬として相当額の付与決定あるを求める。」と述べた。

(当裁判所の判断)

一  本件記録及び各関係記録並びに申立人(第一乃至三回)及び被後見人畑本晴行各審問の結果によると、申立人が被後見人両名の後見人に選任された事情は以下のとおりであつたことが認められる。

1  被後見人両名の実父母は小児科医院を経営していたものであるが、右両名の実父事務長利男が昭和五〇年八月一六日、次いで実母医師邦が同五一年一〇月二二日いずれも癌で死亡したため、右両名の親権を行使するものがいなくなつた(当時被後見人晴行高校一年生、同桂子小学四年生)。

2  ところで、申立人は、上記利男、邦と生前より親交が深く、殊に申立人夫婦が邦の生前中、同人の長年の念願であつた社会福祉法人○○○○○(保育園の経営)設立に尽力し、また利男及び邦の入院中の同人らの療養看護及び被後見人両名の世話等に努めたためか、邦の死後に同人が昭和五一年二月一〇日付で作成した遺言書(以下「本件遺言書」という。)で申立人が被後見人両名の後見人に指定されていることを知るに及んだが(当庁昭和五一年(家)第一一八三号事件)、申立人と被後見人両名とは全く血縁関係がなかつたこと、申立人と前記○○○○○とが共同で右○○○設立に関し邦に対し金一四〇〇万円の債務を負つていたこと、その他本件遺言書中に父方親族の事がほとんど書かれていなかつたこと、邦生存中に邦と父方伯父とに感情的対立があつたこと等の事情もあつて、申立人が被後見人両名の後見人になるについては父方伯父小田光雄の反対があり(これに反し、母方伯母沼誠子はこれに当初より賛成していた。)。また申立人自身も被後見人両名の近親者から後見人を選任するのを相当と考え、申立人自ら被後見人両名の後見人に右両名の父方伯父小田光雄を後見人候補者として後見人選任の申立をなすに至つたが(当庁昭和五一年(家)第一二七六、第一二七七号事件)、その後の申立人、小田光雄及び沼誠子の話し合い、更には被後見人両名の希望等が考慮されて、結局、申立人が昭和五二年三月九日被後見人両名の後見人に選任された。

3  そこで、申立人は、後見事務を遂行するにつき、近親者の理解、協力、監督が不可欠と判断し、後見監督人選任の申立をしたところ(当庁昭和五二年(家)第四九〇、第四九一号事件)、当裁判所は昭和五二年六月一三日後見監督人として、前記小田光雄及び沼誠子の両名を選任した。

二  叙上の経緯・事情のもとに、申立人が上記後見監督人両名の監督のもとに被後見人両名の後見を行うことになつたのであるが、前掲各証拠によると後見事務の実情は以下のとおりであつたことが認められる。

1  前認定のとおり申立人が後見人に選任された当時被後見人晴行は高校一年生、同桂子は小学四年生であつたことから、まずその生活維持、教育、監督等に問題を生じたが、晴行は一時(二〇日位)申立人方に居住するも、その後は熊本市内に下宿し、また桂子は佐賀県の前記沼誠子のもとで監護・養育を受けることとなり、現在、晴行は京都市内に下宿して大学三年生として、桂子は右沼方で中学三年生として、それぞれ元気に通学していること、その間現在に至るまで被後見人両名は春・夏・冬の各休みには長い時には申立人方に一か月位滞在して申立人の助言・指導をうけたり、殊に晴行は高校在学中はよく土、日曜日にも申立人方に滞在したこと(この間の食事等全て無償)、又晴行の大学受験(京都、奈良、別府、大分)に際しては申立人が一部付添うなどしたほか、被後見人両名の相続財産の中から毎月右両名に対し生活費等を送金するなど、申立人は被後見人両名、特に思春期にあつた晴行に対しては、小学校教師としての経験を生かし、また下宿先へ定期にお礼をするなどこまやかな神経を使つてその生長を見守つてきたこと、そのためか、大学一年生時、自殺を企て入院した(この時、申立人も京都に赴いている。)こともある晴行も現在では中学教師を夢みて元気に勉学に励み、当裁判所の審問に対しても自らの考えをはつきり述べる等立派に成人していること。

2  また、財産関係についてであるが、昭和五六年一一月二七日付遺言執行書(最終)〔これに基づき昭和五七年一月五日遺産分割がなされ、晴行分については同日各種財産の引渡も完了している。〕によると、同日現在、宅地二筆、建物一棟、車庫一棟(晴行、桂子の共有。評価額金一〇、〇五一、一八〇円)、預貯金三六種類(晴行分金三一、四〇〇、七七七円、桂子分金二五、三四八、五八五円、合計金五六、七四九、三六二円)、一般債権・保険金等二〇種類(晴行分金八、九一三、六三八円、桂子分金一三、六八五、二四二円、合計金二二、五九八、八八〇円)、動産六五種類数百点、(評価額、晴行分金二五九、五三六円、桂子分金二七八、〇〇〇円、合計金五三七、五三六円)、以上合計金八九、九三六、九五八円相当の財産が存することが認められるが、申立人は、これら財産目録の整理からはじめ、邦の生命保険金の受領(継続分を除き当時の受領額は金三四、七九五、五四〇円にのぼるが、この内三社、各社数種類の保険については、邦加入後一年内死亡の為、邦の告知義務違反を理由に当初保険金の支払を拒絶されたが、申立人が度々交渉に赴き、結局全額支給されるに至つている。)、継続保険については保険金の定期的支払、積立金の定期的積立、各不動産の維持・管理、動産、証券等の管理、各債権の回収(尚、申立人の前記一2記載の債務金一、四〇〇万円のうち金六〇〇万円は約旨どおり昭和五六年二月一五日に回収されている。)、各種税金の支払等極めて多種類・多額の財産の管理運用を几帳面かつ誠実に、また適切に実行してきたこと(当庁昭和五二年(家)第一〇三三号、昭和五三年(家)第九五号事件、本件記録中の後見事務決算報告書等)。

3  ところで、申立人は、当初は小学校教師として、昭和五二年九月一日からは○○○保育園園長としての職務と二児(現在、長男中学一年生、長女小学三年生)の監護・教育とに追われる中、叙上認定のとおり後見事務を誠実に遂行してきたにも拘らず、上記一2記載の後見人選任の際の複雑な事情が絡んで、小田監督人の有形、無形の圧力があり、それは単に申立人の後見事務処理の内容にとどまらず、上記保育園の経営上の事項にまで及んでおり、その間の申立人の心痛は十分に推察されうること(当庁昭和五三年(家)第六五〇、六五一号事件等)。

4  他方、晴行は、申立人の後見事務について、当審判廷において「人を得、運がよかつた。」旨陳述し、申立人に対し感謝の念を抱き、申立人のこれまでの後見事務が満足すべきものであつたとしていること。以上の事実が認められる。

三  叙上認定の諸事実を綜合すると、申立人は、被後見人両名とは全く血縁関係がないにも拘らず、後見人選任の複雑な事情も絡んで後見監督人小田光雄の誹謗・中傷があるなかで、被後見人両名、とりわけ晴行の監護・養育に努力するとともに多種類、多額の財産の維持・管理に意を払い、収支明細を几帳面に整理し、適切な後見事務を執行してきたこと明らかであり、これら後見事務の複雑・困難さ、労力負担、精神的負担、後見事務処理期間、被後見人両名に対する監護・教育に関する関与の度合、被後見人両名の財産の額、その他、本件記録並びに申立人(第三回)及び被後見人晴行各審問の結果によつて認められる申立人の資産・収入、更には、申立人と晴行との間で申立人の後見終了後財産引渡時(昭和五七年一月五日)までの財産の維持・管理の報酬を月額金五万円(総計約金五〇万円)と定めたこと、本件遺言執行(第一次)に当つて前記二2認定の申立人の保険会社に対する種々の交渉の努力が配慮されていること〔本件遺言書で、邦は申立人夫婦に対し生前の御世話料として金四〇〇万円余を差上げる旨の意思を表明している(邦は、生命保険金を金二、四〇〇万円余と予定し、金二、〇〇〇万円の端数金四〇〇万円余を申立人夫婦に対する御世話料としていた。)のに対し、申立人の交渉・努力の成果もあつて保険金の受領額が邦の予定額をはるかに上回つたため、結局申立人夫婦に対し金五〇〇万円が分与されている。〕等を総合勘案すると、申立人に対し、被後見人晴行に対する後見人就任後その終了に至るまでの間の報酬として金二五〇万円を、被後見人桂子に対する後見人就任後昭和五六年一二月三一日までの間の報酬として金二〇〇万円を、それぞれ付与するのが相当である〔尚、付言するに本件遺言書によると、邦は、遺言で申立人に対し御世話料として被後見人両名の遺児年金を受け取つて貰いたい旨の意思を表明していること(当初二人で年約金四五万円、現在は桂子分年約金四八万円)が認められるが、そもそも後見人に対し報酬を付与するか否か、付与する場合の額如何は、裁判所が具体的事案に応じ、各種の事情を考慮して適正な額を決定すべきものであるから、本件遺言書は邦の生前における一応の希望を表明したものにすぎないと解釈し、前叙の各種事情を総合勘案して上記のとおり決定した。〕。

よつて、主文のとおり決定する。

(家事審判官 萱嶋正之)

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