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田川簡易裁判所 昭和36年(ハ)204号 判決 1962年2月02日

原告 白土猪之助

右訴訟代理人弁護士 石井幸雄

被告 野田沢春隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

成立に争いのない乙第一号証(判決正本)、同第二号証(和解調書正本)、同第三号証(債権差押及び転付命令正本)並びに証人古川茂の証言(原告に対する本件債権譲渡に関する後記措信しない部分を除く)を綜合すると、

訴外古川茂は、自己が世話人となつていた宮崎講の講員訴外中野弘が、同講への掛戻金六万九〇〇〇円及び訴外中野弘のために立替え同講に支払つた金四万一〇〇〇円(この部分は後記のとおり本件債権と同一のものと認められる)合計金一一万円の債権につき、被告及び訴外中野清一両名に連帯保証債務ありとして、昭和三四年一二月二四日支払命令の申立をした。その後これに対し被告らから異議申立があり、福岡地方裁判所田川支部において審理された結果昭和三五年八月五日「原告(訴外古川茂)の請求棄却」の判決があつた。訴外古川は右判決に対し福岡高等裁判所に控訴し、昭和三六年三月二二日同裁判所において、当事者間に「被控訴人等(被告ら)は連帯して控訴人(訴外古川)に対し金二万一〇〇〇円を昭和三六年三月三一日限り控訴人方に持参若くは郵送して支払うこと。控訴人は本件に関するその余の請求を放棄すること。」との和解が成立した。ところが訴外川辺正二は訴外古川茂に対し金五二万余円の債権ありとして、昭和三六年六月一〇日被告らを第三債務者として右和解金を債権差押を為し転付命令を得たとの事実が認められる。

一方成立に争いのない甲第二号証、証人古川茂の証言により成立が認められる甲第三号証によれば、訴外古川茂は、原告主張の本件債権を、それが真実であるか否やは別として、昭和三五年四月二〇日原告に譲渡し、同訴外人は同年六月一五日その旨被告に対し通知したとの事実が認められる。

被告の前示答弁の趣旨によると、被告は右訴外人が原告に譲渡した本件債権は、前記訴外人が被告らに対して提起した訴訟物の一部である旨争うものであるところ、原告においてそれが別異の債権であるとの主張立証はなく、却つて前掲証人古川茂の証言及び乙第一号証中に記載の判決理由並びに原告の主張自体に徴すると、前記二個のものは同一の債権であることが認定される。そうすると訴外古川茂は自己が被告らに対し訴訟上請求中の債権を原告に譲渡したものであるから、同訴外人としてはその部分を訴訟において減縮すべきに拘らず、減縮をしていないことは証人古川茂の証言により認められ、又そのまま請求を維持するとすれば原告が訴訟参加をすべきに、これをしていない事実は前掲乙第一号証の判決理由により認められる。

そして前掲乙第一号、同第二号証によると、訴外古川茂が原告に本件債権を譲渡した当時、前示訴訟において被告らは、本件債権の存在を争つていたものであり、第一審判決においてその存在は否定されたものである(第二審においては和解で金一一万円の請求中、被告らは金二万一〇〇〇円を支払いその余の請求は放棄されたものであるが、その金二万一〇〇〇円が全部本件債権の一部であるとしても、その残余は存在を否定された結果となる)ことが認められる。このような存在並びに弁済の不確実な債権を譲り受け、且つその債権について譲渡人(訴外古川茂)が債務者(被告ら)に対し減縮することなくそのまま訴訟上請求中であるに拘らず、譲受人(原告)においてこれを看過放置し、何らの措置を講じていない事実から推すと、本件債権譲渡は、訴外古川茂と原告とが通じて為した虚偽の意思表示であるか、或は同訴外人が真実譲渡の意思のないのに原告を偽罔して譲渡の形式を整えた架空の譲渡であると推認され、この推定に反する趣旨の証人古川茂の証言は措信できず、他にこれを覆すに足る資料はない。そうすると本件債権譲渡は法律上の効果を生じていないものであつて、原告は被告に対し本訴請求権はないものと謂わざるを得ない。

なお仮りに前記譲渡が真実のものとしても、前示のとおり本件債権については、その権利又は法律関係について確定判決(和解は確定判決と同一の効力がある)があつたものであるから、その確定判決後、これを取消し又は変更する法律上の利益若くは必要を生じない以上(これらの事情が発生したとの主張立証はない)新訴によつて再び審判を求めることはできない。しかし原告は前示訴訟の口頭弁論終結前の承継人であるから、前訴の確定判決の効力は及ばないものと一応解せられるのである。なるほど民事訴訟法第二〇一条第一項によると「口頭弁論終結前の承継人」には確定判決の既判力は及ばない趣旨に規定されている。その理由は訴訟提起前の承継の場合はしばらく措き、訴訟係属中の承継の場合は、それが一般承継であれば中断した訴訟の受継により、その他の承継の場合は同法第七三条、第七四条等によりその訴訟に参加し、自ら攻撃、防禦の方法を講じ得るからである。そして前訴の口頭弁論終結後の承継の場合は、新訴を提起するについての特別の利益なきかぎり、当事者の法的安定などの事由により承継人に対し前訴の確定判決の既判力を及ぼすものとしたのである。ところで原告は前示認定のような不確実な債権を、しかもそれが債務者(被告ら)によつて訴訟上争われている時に譲受け、なお譲渡人は原告への譲渡を無視して自己の債権として請求しているに拘らず、譲受人である原告において、その訴訟に参加し得ない特段の事由の認むべきもののないのに訴訟に参加せずして、確定判決があつたものであり、その後約六ヶ月、債権を譲受けたとする時より一年四ヶ月余(債権の弁済期日後二年一ヶ月余)経過した昭和三六年九月八日に本訴を提起した(起訴の日は本件記録上明らかである)ものである。従つて以上のような権利の行使は、たとえ原告が口頭弁論終結前の真実の承継人であるとしても、民法第一条の「信義に従い、誠実に為された」ものと謂うを得ず、前示「口頭弁論終結後の承継人」と同じく、本件被告に対し、自己が訴外古川茂の承継人であることを主張して、前訴の確定判決の効力を否定し、新訴を提起してその請求を為し得ないものであると認めるを相当とする。

よつてその余の原告主張について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないので棄却すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉松卯博)

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