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甲府地方裁判所 平成23年(行ウ)7号 判決 2014年3月18日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件差押処分の適法性)について

(1)  前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、本件差押処分は、本件滞納税を支払わなかったAを相続した原告らに対し、原告らの各財産につきされたもので、地方税法及び同法が準用する国税徴収法に違反するものではなく、適法なものと認められる。

(2)  これに対し、原告らは、① 処分行政庁が長期間にわたり平成2年差押処分による差押物件の換価を怠ったことなどにより、原告らは、平成2年差押処分による差押物件(本件差押解除後のもの)の換価処分がされないであろうとの信頼を有するに至ったから、本件滞納税に係る徴収権限は、遅くとも平成22年公売の時点までに、失権の法理(失効の法理)により消滅したこと、② 一旦差押解除をした後の追加差押えは禁止されること、③ 本件差押処分は、追加差押えがされないとの原告らの信頼を破壊するものとして信義則に違反し、また裁量権の逸脱ないし濫用に該当することを理由に、本件差押処分が違法であると主張する。

しかしながら、上記①については、そもそも、滞納処分による差押物件が長期にわたり換価されず、滞納者が差押物件の換価がされないであろうとの信頼を有するに至った場合に、当該滞納税に係る徴収権限が消滅するとの失権の法理(失効の法理)なる主張は、租税関連法規にその根拠を見出すことができず、原告らの独自の見解であって、これを採用することができない。また、証拠(乙15の1~5)によれば、処分行政庁は、少なくとも、平成16年から平成19年までの間、毎年、A又は原告らに対し本件滞納税に係る催告書を送付していたことが認められることからすると、処分行政庁がA又は原告らに対し本件滞納税を徴収する意思を表明し続けていたことは明らかであり、原告らが、本件差押解除後、平成2年差押処分による差押物件の換価処分がされないとの信頼を有していたとはいい難い。原告らの主張は採用できない。

上記②については、差押物件の一部を一旦差押解除した場合、後に追加差押えをすることができないとの主張は、租税関連法規にその根拠を見出すことができず、原告らの独自の見解であって、これを採用することができない。

上記③については、滞納者の財産に対して滞納処分としての差押えがされ、その後、差押物件の一部の差押えが解除されたとしても、その後の差押物件の資産価値が減少するなどの事情により、別途追加差押えの必要性が生じることは十分に考えられるところであり、租税関連法規上、上記のような場合に追加差押えを禁止する根拠は見出せない上、差押物件の資産価値下落等のリスクを徴税機関側に負わせるべき合理的理由も見当たらないから、滞納者の財産に対して滞納処分としての差押えがされ、その後、差押物件の一部の差押えが解除されたことなどの事情により、滞納者が追加差押えがされないであろうとの信頼(客観的にみれば「期待」という程度のものと考えられる。)を有するに至ったとしても、特段の事情のない限り、当該信頼は、法的保護に値するものとはいえず、これに沿わない滞納処分がされたとしても、この滞納処分が信義則に違反し、又は裁量を逸脱ないし濫用するものとして違法となることはないというべきである。そして、本件滞納税について平成2年差押処分がされ、その後、差押物件の一部の差押えが解除されたことなどの事情及び本件全証拠によっても、本件滞納税につき差押えがされないであろうとの原告らの信頼が法的保護に値すべき特段の事情を認めることはできないから、本件差押処分は、信義則に違反し、又は裁量を逸脱ないし濫用するものとして違法とは認められない。原告らの主張は採用できない。

(3)  したがって、本件差押処分は適法である。

2  争点(2)(被告が平成22年公売及び平成23年公売による売得金を法律上の原因なく取得したか)について

原告らは、本件滞納税に係る徴収権限は、遅くとも平成22年公売の時点では消滅していたから、平成22年公売及び平成23年公売は無効であり、被告は、平成22年公売及び平成23年公売による売得金を法律上の原因なく利得したと主張する。

しかしながら、前記1で判示したとおり、平成22年公売までに処分行政庁の本件滞納税に係る徴収権限が消滅したとはいえないから、被告が上記売得金を法律上の原因なく利得したとはいえない。原告らの主張は採用できない。

3  争点(3)(本件差押処分等が違法な公権力の行使に当たるか)について

原告らは、本件差押処分が違法であることを前提に、本件差押処分が国家賠償法上違法な公権力の行使に該当すると主張するが、前記1で判示したとおり、本件差押処分が違法とはいえないから、原告らの主張は採用できない。

また、原告らは、A及び原告X1が、平成4年ないし平成5年頃、処分行政庁に対し、本件滞納税につき差押物件を公売に付するよう求めたにもかかわらず、処分行政庁は、長期にわたり、差押物件を公売に付すことなく原告らに対し自主納付を強要し続けてきたことが国家賠償法上違法な公権力の行使に該当すると主張する。しかしながら、仮に、A及び原告X1が、平成4年ないし平成5年頃、処分行政庁に対し、本件滞納税につき差押物件を公売に付するよう求めたとしても、処分行政庁がこれに従う義務はないから(そもそも、Aや原告X1が不動産価格の下落を心配するのであれば、自ら買主を見付け、代金を納税に充てることとして、差押えの解除を求めるなどの方策をとることができた。)、処分行政庁が本件滞納税に係る差押物件を長期にわたり公売に付さなかったとしても、そのことが国家賠償法上違法な公権力の行使に該当するとは認められない。原告らの主張は採用できない。

4  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐久間政和 裁判官 砂古剛 大木健一郎)

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