甲府地方裁判所 昭和23年(ワ)18号 判決
原告 五味庄二郎
被告 石原長政
一、主 文
被告は原告に対し、甲府市桜町八番地所在木造板葺バラツク建建物一棟建坪六坪を明け渡し、且つ昭和二十四年一一月一日からその明渡ずみに至るまで一ケ月につき金六〇〇円の割合による金員を支払うべし。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、原告から被告に対し金三〇、〇〇〇円に相当する担保を供するときは、原告勝訴部分を限つて、仮に執行することができ、被告から原告に対し同額の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し主文記載の建物を明け渡し、且つ昭和二三年三月一日からその明渡ずみまで一日金二〇円の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として陳述した事実の要旨は次のとおりである。
「一、主文記載の建物は原告の所有であるが、原告は、昭和二一年六月五日、被告に対し、物品交換所を開設するため、一時使用の目的で、期間を同年一二月三一日までと定め、賃料は電話使用料、水道料金等を含めて一日金二〇円の約束で賃貸したところ、右期間満了の日である同年一二月三一日に至り被告は原告に対し、更に一年間同一条件で借り受けたい旨申し出たので、原告は一年を最長期とし、その間でも原告が必要とするときは何時でも明け渡すことの約束のもとに、右一時賃貸借の契約を継続し、右契約は昭和二二年一二月三一日の経過とともに期間満了により終了した。そこで原告は被告に対し昭和二三年一月以来再三右家屋の明渡を請求するも、被告はこれに応じない。
二、仮に本件家屋の賃貸借契約が一時使用の目的に出でたものでないにしても、右家屋はバラツク建であつて、基本資材は殆んど腐朽し、被告は仮処分中であるにもかゝわらず、屡々修理をして辛うじて使用しているが、危険この上もなく、甲府市の中心街においてこのような建物が存在することは火災予防の点からもそのまゝにしておくことはできないので、大修理又は改築を必要とする。これがためには被告から明渡を受ける必要があり、これは本件賃貸借契約を解約するにつき正当な事由のある場合に当るので、原告はこれを理由として本訴において右賃貸借契約解約の意思表示をする。被告は右解約の結果としても本件家屋を原告に対し明け渡すべき義務があるものである。
よつて、原告はこゝに被告に対し、その明渡及び被告は昭和二三年三月一日から賃料又はこれに相当する損害金の支払をしないので、同日から右家屋明渡ずみに至るまで、一日金二〇円の割合による賃料又はこれに相当する損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだものである。」<立証省略>
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を、なお被告敗訴の場合につき仮執行免脱の宣言を求め、次のとおり答弁した。
「原告主張事実中、被告が原告からその所有の主文記載の建物を、原告主張の頃賃借したこと及び昭和二三年一月以来原告から本件家屋の明渡請求があつたことは認めるが、その余の事実は全部否認する。
原被告間の本件家屋の賃貸借は原告が主張するように一時使用の目的に出でたものではなく、通常の賃貸借で、期間の定めなく、賃料は昭和二一年六月一五日から毎月末日限り、電話及び水道の使用料を含めないで、一ケ月につき金六〇〇円ずつを支払う約束であつた。昭和二三年三月一日からの賃料は原告に対し支払のため提供したが受領を拒絶されたので、弁済のために供託した。」<立証省略>
三、理 由
主文記載の建物が原告の所有であつて、昭和二一年六月被告が原告からこれを賃借したものであることは当事者間に争がない。原告はこの賃貸借契約は賃料を一日金二〇円と定めた一時的賃貸借であると主張し、成立に争いがない乙第二号証の賃料受領証には一日金二〇円という記載があるが、同号証中他の部分の記載によるも、毎月きまつて金六〇〇円ずつ受領していたことが明らかで、一日金二〇円と書いたのは、単に賃料の基準を示したに過ぎないことが窺われ、且つ証人五味とみじ及び五味悌(第一回)は原告の前記主張にそうような供述をしているが、次に挙げる各証拠と対照して考えると、その供述内容はにわかに信用できない。すなわち、成立に争いのない乙第一、二号証に証人石原綾子の証言、被告本人尋問の結果及び証人五味とみじの証言の一部を綜合するときは、却つて、右賃貸借は賃料を一ケ月につき金六〇〇円とし、期間の定めのない通常の賃貸借であると認定するのが相当である。従つてこれが一時賃貸借であることを理由とする原告の請求は理由がない。
けれども、検証及び鑑定の各結果に証人五味悌(第一、二回)の証言を合せ考えれば、本件家屋はバラツク建であつて、すでに修理を加えなければ使用にたえない段階に来ており、現に被告も数回応急的処置を施して辛うじて使用しているしまつである。而かも本件建物は甲府市の繁華街に位置し、近隣の建築も漸次改善されて行く状勢にあることからしても、このような粗末な建物は早晩改築少なくとも大修理をしなければならないものであつて、そのためには被告がこれを占有使用しているのでは、とうてい十分な手入をすることができないであろうことが認定に難くない。原告は本件家屋に隣接する家屋をも所有して、他に賃貸していたが、これはすでに明渡を受けて改築をしたものであつて、そのことからも本件家屋も同様の必要があることがわかるのである。
右のような事情は本件賃貸借契約を解約するにつき正当な事由がある場合に該当するというべく、原告が本訴においてこの理由で明渡を請求するということを記載した準備書面を提出し、その副本が昭和二五年九月二三日被告代理人に送達されたことは、本件記録に徴し明らかであるので、同日を以て原告から本件賃貸借契約の解約の申入があつたものと見ることができる。従つて右解約申入の日から借家法所定の六ケ月が経過した昭和二六年三月二三日を以て右賃貸借契約は解約に因り終了したものと云わなければならない。
原告は昭和二三年三月一日からの賃料及びこれに相当する損害金の支払を請求しているが、証人五味悌の証言(第一回)の一部及び被告本人尋問の結果によれば、被告は昭和二三年二月からの賃料を支払のため提供をしたが、原告が受領を拒絶したので、被告は昭和二三年二月一日から昭和二四年一〇月末日までの賃料を、弁済のため甲府地方法務局に供託したことが認められるので、昭和二四年一〇月末日までの賃料支払義務は履行されているものと認められる。
果して然りとするならば、原告の本訴請求中、被告に対し本件建物の明渡及び昭和二四年一一月一日からその明渡ずみまで一ケ月につき金六〇〇円の割合の賃料及びこれに相当する損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条但書を、担保を条件とする仮執行の宣言及びこれが免脱の宣言については同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 入山実)