甲府地方裁判所 昭和28年(行)13号 判決
原告 三神かね
被告 国
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し遺族年金を支払うべき義務があることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は、訴外亡塚田利明が原告の子、訴外三神てるよと入夫婚姻し、戸主となつてから、右利明によつて生活を維持し且つ同訴外人と生計を共にしていたのであるが、同訴外人は、昭和二〇年六月一五日、戦死した。而して戦傷病者戦没者遺族等援護法第二四条が遺族年金を受くべき遺族として婚姻の届出はしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者をも認めた法の精神からみて、原告のような地位にある者も養親と同様同条の母に当ると解するので、原告は、被告に遺族年金を受ける権利の裁定を求めたところ、これに応じないから、被告が原告に対して遺族年金を支払うべき義務があることの確認を求める」と述べた(立証省略)。
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実は、全部認める。然しながら、戦傷病者戦没者遺族等援護法第二四条に定められている遺族年金を受くべき遺族のうちの母とは、死亡者と法律上の親子関係にある者を指すと解するところ、入夫とその妻の母との間には姻族関係が存するだけで、法律上の親子関係は存しないから、親子関係のある養親子関係と同一にみることはできない。又同条は、婚姻の届出はしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者をも配偶者と認めているが、これは、事実上婚姻関係にあり、届出をしさえすれば法律上配偶者となることができた者を単に届出を欠くということだけで、配偶者としての保護を与えないことは、反つて立法の趣旨にそわないから特に法が認めたものであつて、このことからして入夫とその妻の母との関係を養親子関係と同一視することはできない。従つて原告には、遺族年金を受ける権利がない。そればかりか遺族年金の具体的な金額の支給を現実に請求することができる権利は、遺族年金を受ける権利がある者の請求に基く厚生大臣の裁定によつて始めて生ずるのであるところ原告は、その裁定を受けていないから、遺族年金を受ける具体的請求権もないと述べた。(立証省略)。
三、理 由
原告主張の事実は、すべて当事者間に争いないところである。そこで、原告に遺族年金を受ける権利があるかどうかについて考えてみるのに、戦傷病者戦没者遺族等援護法第二四条によれば、遺族年金を受くべき遺族のうちに母を定めているが、同条にいう母とは、死亡した者の尊属である一親等の直系血属である女を指すものと解するところ、入婦婚姻に於ける入夫とその妻の母との間には姻族関係が生ずるに止まり、養親と養子との間の如くその間に血族関係と同一の親族関係が生じないから、入夫の妻の母は入夫の母とはならない。従つて入夫である訴外亡三神利明の妻の母である原告は同訴外人の母ということができない。もつとも、同条は、婚姻の届出はしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者をも配偶者として遺族年金を受くべき遺族の範囲に入れているが、これは、婚姻について我国の法制が事実婚主義をとらないで、法律婚主義を採用し婚姻は、戸籍法の定めるところによつて戸籍吏に届出をすることによつてその効力を生ずるものとした結果、事実上夫婦としての生活を営み、戸籍吏に届出をしない点を除いては、婚姻関係と全く同様な事情にある者もその届出をしなかつたという事だけで、配偶者としての法律上の保護を受けないという不利益を蒙ることとなるので、遺族年金の支給については、右のような事情にあつた者にもかような不利益を蒙らせないで配偶者と同様な地位を与え遺族年金を受ける権利を認めることが国が特定の者に遺族年金の支給を認める目的に合うものとして、特に規定したものであつて、これと事情を異にする入夫とその妻の母との関係にこの法理を適用して入夫死亡の場合、入夫の妻の母に遺族年金を受ける権利を認めることは、とうていできないばかりか、ほかに入夫の妻の母に入夫死亡の場合遺族年金を受ける権利を認めた何等の規定もないから、原告は、被告から遺族年金を受ける権利がないといわなければならない。従つて被告が原告に対して遺族年金を支払うべき義務があることの確認を求める原告の本訴請求は、すでにこの点で失当であるから、ほかの争点に付いての判断を省略して、理由ないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎四郎)