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甲府地方裁判所 昭和42年(ヨ)86号 決定 1968年4月22日

申請人 角田英信外三名

被申請人 有限会社住吉タクシー

主文

一、被申請人は、申請人角田英信に対しては金一二、二一七円を申請人山本友良に対しては金一五、八八五円を、申請人小池英雄に対しては金九、九二五円を、申請人辻好一に対しては金一二、七四二円を仮に支払え。

二、その余の本件仮処分申請はこれを却下する。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、当事者の主張

一、申請人らの求めた裁判

1  被申請人は申請人らに対し別紙一覧表(ホ)欄記載の各金員を仮に支払え。

2  申請費用は被申請人の負担とする、

との裁判。

二、被申請人の求めた裁判

本件仮処分申請は却下する、との裁判。

三、申請の理由

1  被申請人会社(以下会社という)は、肩書地に本店、及び甲府市太田町に営業所を設け、営業車一二台を有してハイヤー業を営むもの、申請人らはいずれも会社の従業員(運転手)である。

2  申請人らは会社の運転手一四名で組織する住吉タクシー労働組合(以下組合という)の組合員であるが、組合は会社に対し給与体系の改善等を要求して交渉を行い、昭和四二年五月一八日いつたん右交渉は妥結した。ところが会社は同月三一日の同月分賃金(会社においては賃金は二五日締切り、末日支払いとなつている)の支給にあたつて、右妥結した新給与体系を守らず、これを故意にまげた計算方法によつてその額を算出した為、申請人らは本来支給さるべき額より数千円少い額の賃金を支給された。そこで組合は直ちに会社に対して右の点の是正を要求したところ、会社はこれに応ぜず、その為組合はこの問題については山梨県地方労働委員会(以下地労委という)の解釈を求め、その仲立ちによつて紛争の解決を図る為右委員会に斡旋申請をすることを決めて、六月五日にその旨の申請を地労委になした。そこで右地労委の斡旋により会社は組合の三役と団交に応ずることとなり(但し非番の組合員はオブザーバーとして参加させる)、そこで六月一〇日、一一日の両日にわたり、右問題についての団体交渉がもたれるに至つた。

3  ところが翌一二日朝会社は突然申請人らの乗務すべき営業車の鍵をまとめてこれを会社側で保管し、車も車庫に入れその周囲に縄を張つて申請人らの立入りを禁じ、組合に対してロツクアウトに入る旨の通告をして組合員の就労を拒否した。そこで申請人らは(イ)右六月一二日当日直ちに組合執行部を通じて会社代表者石井朝夫に対して書面により就労意思を表明したが、同人の回答は得られなかつた。(ロ)翌六月一三日前同様組合執行部から会社側専務に対しロツクアウト解除及び就労につき団体交渉に応ずるよう申し入れたが、右石井不在の為明確な回答は得られず、その申し入れは拒否された。(ハ)同年六月一四日第二回目の地労委の斡旋もあつて、組合から会社に対して前項同様の団体交渉を申し入れた。これに対し会社代表者石井朝夫は、ロツクアウト解除及び組合員の就労の条件として、水揚げ月額金一四万円の確保及び業務命令遵守のこと、また右金一四万円の水揚げ確保については組合がこれを保証すること、右二条件が守られない場合は解雇されても異議はない旨の誓約書を組合員各自が提出すること、を挙げた為、組合としては右解雇を認める旨の文書を予め作成することは労働組合の使命に反するとして結局右条件を拒否した為就労ができなかつた。(ニ)同年六月一六日組合は第三回目の地労委の斡旋に際し、ロツクアウトの解除と就労を求めたが、右石井朝夫は前項と同様の条件をくり返し、誓約書の提出をあくまで主張した為、委員会の斡旋は不調となつた。(ホ)同年六月二〇日、組合は右同様の就労請求を書面によりなすも会社は依然従来と同様の回答をなすのみでロツクアウトを解除しなかつた。以後数回にわたつて組合は就労請求をなしてきたが会社はこれに応ぜず同月二八日迄ロツクアウトを継続した。

4  以上のとおり、被申請人は昭和四二年六月一二日からロツクアウトをなしたが、その際右ロツクアウトは正当なものであり、従つて六月分賃金中右六月一二日から二五日(計算上の締切日)迄の間の申請人らに対する賃金支払いの義務はないと称してその支払いをなさない。

5  しかし右ロツクアウトはその経緯からしても明らかに攻撃的、先制的ロツクアウトであつて違法なものであつたといわなければならない。被申請人は右ロツクアウトをなした理由として申請人らが右ロツクアウト前に車庫待ち営業のみをなした行為をとらえて、これを争議行為たる怠業行為であるといい、右怠業行為によつて被申請人会社の存立も危ぶまれるに至つたことを挙げるが、申請人らがなした右車庫待ち営業によつて実害が生じたことはないし、右行為は、被申請人会社に対する行政上の営業免許が、車庫待ち営業のみを許していることに従つたものであり、いわゆる遵法闘争であつて争議ではない。従つて右申請人らの車庫待ち営業行為に対してロツクアウトをもつてこれに対抗することは許されないというべきである。従つて右ロツクアウトは違法であつて、それによつては賃金支払義務を免れるものではない。

更に、会社のロツクアウト後申請人らが組合を通じて就労請求を再三なしてきたことは前記のとおりであるから、仮にロツクアウトが適法としても右就労請求の時からロツクアウトは違法となり、右同様賃金支払義務を免れることにはならない。

6  ところで申請人らは、本件仮処分申請後の六月末日、六月分賃金として被申請人から別紙一覧表(イ)欄記載の額の金員の支給を受けたが、このうち会社が勤務日数、出来高、事故回数等と関係なく固定給として支払つたのは家族手当だけであり、右家族手当の額は同表(ハ)欄記載のとおりである。これに対し、申請人らの本件ロツクアウト直前の三ケ月分平均月額賃金は同表(ロ)欄記載のとおりであり、被申請人会社では一ケ月に二五日稼働するものとして賃金体系が作られているから前記一覧表(ロ)欄記載の金員から固定給与部分である同表(ハ)欄記載の金員を控除した残額を二五日で除すれば、非固定給与部分の日額を得ることができる。これが同表(ニ)欄記載の額である。即ち、昭和四二年五月二六日から、同年六月二五日迄の間に申請人らが正常な状態で稼働すれば、家族手当以外に一日あたり右(ニ)欄記載の額の賃金の支払いを受けられたはずである。

そうすると前記のとおり被申請人会社では一ケ月の稼働日数を二五日としているから、その割合でいけば申請人らは本件ロツクアウトがなければ昭和四二年六月一二日から同月二五日(締切日)迄の一四日間に少くとも一一日は稼働しえた筈であり、従つて前記一覧表(ニ)欄記載の金員に一一を乗じた額、即ち同表(ホ)欄記載の額の賃金を得られた筈である。それにも拘らず被申請人は前記のとおり右賃金を支払わない。

よつて申請人らは被申請人に対し、本件違法なロツクアウトがなければ申請人らが昭和四二年六月一二日から同月二五日迄の間に稼働して得られたであろう同表(ホ)欄記載の額の賃金の支払いを求める。

7  なお申請人らはいずれも賃金を唯一の生活の資とする労働者であるから、本案判決の確定を待つていては、その経済生活は破綻し、回復し難い損害をこうむるおそれがある。

四、被申請人の答弁

1  申請人の申請理由第1、4項の事実は認める。

2  右同第2項中、五月分賃金支払いの際会社が新給与体系を故意にまげた計算方法をとつたとの点は否認するも、その余の事実は認める。

3  右同第3項の事実は認めるも、会社が本件ロツクアウトをなすに至つた事情は次のとおりである。即ち、昭和四二年五月一八日に締結された新給与体系は、労働組合が組合員が月額一人最低金一四万円の営業成績を確保する旨を公言して確約した誓約に基づいて妥結したものであるが、その後申請人主張の如く右新給与体系の解釈に争いが生じ、組合はその要求を会社に認めさせる為、昭和四二年六月三日に至り、従来からなしていた駅構内における営業(いわゆる駅待ち営業)及び街頭営業(いわゆる流し営業)の運転業務を中止して、専ら車庫において客の注文を待つ車庫待ち営業のみに従事する怠業行為を始めた。その為申請人らを含む組合員の営業収入は従前の二割程度にまで激減し賃金の支給も困難に陥いるに至つた。そこで会社は同日就労するよう業務命令を掲示するほか一日も早く正常な業務に戻るよう組合に要請したが、組合はこれを拒否して聞き入れず前記怠業行為を続けた為会社の存立も危ぶまれるに至つたので、やむなく会社自衛上被申請人会社は組合に対し同月一二日朝、ロツクアウトを通告したのである。その後会社が組合からの就労請求を拒否した理由は次のとおりである。即ち、右の如き状況のもとでなされた組合からの就労請求は、その内容において、前記主張の如く従前から会社が要求していた通常の業務、即ち車庫待ち営業のみならず、駅待ち及び流し営業の業務に就くこと及び新給与体系妥結時の条件であつた月額金一四万円の営業成績を確保することの二条件を含んでいるとは思われなかつたからであり、その就労請求そのものが一つの戦術であり、ロツクアウト解除を認めれば再び組合は怠業行為をなす虞れがあつたからである。右金一四万円の水揚げ確保につき組合の保証を文書で要求したのも右の如き懸念があつたからであり、何ら不当なものではない。しかも会社は、組合が右文書による誓約ができないならば地労委の席上でこれを言明することでも良いとしたが、組合はこれをも拒否した為地労委の斡旋も不調になつたのである。右月額金一四万円の営業成績の確保は従前からの例をみても困難なことではないのである。

4  右同第5項は争う。本件ロツクアウトは前項主張の事情からも明らかな如く組合の怠業行為により会社の存立が危くなつた為会社存立の自衛手段として一時的にやむを得ずなした正当行為であるから、会社には申請人らに対して右ロツクアウト期間中である六月一二日から二五日迄の賃金支払義務は存しない。また同様に会社がロツクアウト後、組合の就労請求を拒否したこともやむを得ないものであつて会社には責むべきところはない。従つて会社がロツクアウトを継続したことも違法とはいえず、やはり賃金支払義務を免れるものというべきである。

また被申請人会社に対する一般乗用旅客自動車運送事業の免許は、その営業形態について限定をしてなされているものではない。たゞ山梨県下においては行政指導の形式で車庫待ち営業を原則とするように指示されているのであるが、しかし右車庫待ち営業のみでは経営がなりたつていかない為、実際には駅待ち営業、流し営業をもなすことが黙認されており、被申請人会社でも昭和三五年からこれをなしてきているのである。従つて右駅待ち営業等は法に禁止されている違法なものではなく、申請人らの車庫待ち営業のみをなした怠業行為は遵法闘争であるとはいいえないものである。

5  右同第6項中、六月分賃金及び各給与項目中で固定給とされている家族手当が申請人主張の額で支払われたこと、平均月額賃金が申請人主張の額であることは認めるも、その余の点は争う。

第二、証拠関係<省略>

第三、当裁判所の判断

一、申請人の申請理由第一項(雇傭)の事実、同第2項(本件ロツクアウトに至る経緯)の事実、同第3項(本件ロツクアウト)の事実は、右第2項中五月分賃金の計算において会社が新給与体系に故意に従わない方法をとつたとの点を除けば当事者間に争いがない。右事実からすれば、被申請人会社との労働契約上の地位にある申請人らは、昭和四二年六月一二日から二五日迄の間、会社が申請人らの勤務する事業所をロツクアウトする旨の通告をなし、右事業所において申請人らの乗務すべき車の鍵を保管し、縄を張る等の行為をなしたことにより、会社に対し右労働契約の本旨に従つた労務の提供をなすことができなくなり、その結果右労務提供義務の履行は、その義務の性質上不能になつてしまつたものといわなくてはならない。そうすると右履行不能の原因となつたロツクアウトが債権者たる被申請人会社の「責に帰すべき事由」に該当するものであれば、その場合は民法五三六条二項により債務者たる申請人は反対給付たる賃金請求権を失わないものといわなくてはならないから、以下被申請人会社の右ロツクアウトが右「責に帰すべき事由」に該当するものであつたか否かについて検討する。

二、民法五三六条二項の「責に帰すべき事由」の意義及びロツクアウトの効果については種々の見解もあるが、当裁判所は本件の如く債権者たる会社がロツクアウトをなした場合そのロツクアウト自体が正当のものとして許容されるときには、右の「責に帰すべき事由」に該当しないけれども、然らざる場合であるにも拘らず、これを開始継続した場合は右「責に帰すべき事由」に含まれると解すべきが相当と考える。

三、そこで会社による本件ロツクアウトが正当なものとして許され得るものであつたか否かについて考えるに、果していかなる場合にロツクアウトが許容され得るものかについても種々の見解が存するが、労働組合法の労使対等実現の理念と、憲法二八条の団体行動権の保障の規定から考えれば、労働者の争議行為に対して、その対抗行為としてなされる場合で、しかも右団体行動権の保障を無意味ならしめない限度においてのみこれをなすことが許されるものというべきである。後者について更にいえば、争議状態にある労使双方の負担する損失の釣合が失われて使用者に過重となつたとき、或いはその危険が明白である場合にロツクアウトが許されるものと解すべきである。ところで本件についてこれをみるに、まず、本件ロツクアウトが第一の要件である労働者の争議行為に対抗するものであつたか否かについては、被申請人は本件ロツクアウト以前に行われていた申請人らの車庫待ち営業のみに従事する行為は争議行為たる怠業行為に該当し、従つて右に対抗してなした本件ロツクアウトは労働者の争議行為に対抗したものと主張するが、申請人らは右車庫待ち営業は法に従つたもので争議とはいえないと主張する。そこでこの点について判断するに、道路運送法第三条ないし第六条の文言及び疎甲第三号証、同乙第一〇号ないし第一二号証によれば、東京陸運局長が昭和三四年九月四日になした被申請人に対する一般乗用旅客自動車運送事業の経営に対する免許は、格別その営業形態を制限してなしたものではないことが認められまた法律上一定の営業形態を会社に強制もしくは禁止しているものとは解し得ない。たゞ右疎明資料によれば山梨県においては被申請人主張の如く辻待ち客による輸送需要の発生地が特定個所に限られている為、営業所の適正配置による車庫待ち営業を原則とし、みだりに辻待ち、流しを行わないよう行政上の指導がなされてきたことが認められる。しかし右行政指導に法律上の効力を認めることもできないから、いずれにしても会社が従前から行つてきた駅待ち営業、流し営業等は適法なものといわなければならず、従つて申請人らが車庫待ち営業のみに従事したことは(この事実は争いがない)従前からの被申請人会社における業務の正常な運営を阻害したものというべきであり、しかもその目的が新給与体系について組合の解釈を会社に認めさせる点にあつたのであるから、右申請人らの車庫待ち営業のみに従事した行為は、明らかに労働者の争議行為たる怠業であつたといわなければならない。そうするとこの点についての申請人らの前記主張は採ることはできず、しかも会社が本件ロツクアウトをなすに至つたのは、後記認定の如く右申請人らの怠業行為による損害を免れる為になしたものということができるのであるから、結局本件ロツクアウトは使用者たる会社によつて、労働者の争議行為に対抗してなされたものということができる。

次に本件ロツクアウトが第二の要件を充たしたもの、即ち労働者側の争議行為により会社に受忍できない程の過重な損失が生じ、もしくは生ずる明白な危険が存在した為になされるに至つたものか否かを検討する。疎乙第一号証の一ないし五、同第二号証、同第三号証の二、三、六、同第四号証の四、一三、一七、一八、同第八号証の一によれば、申請人らが車庫待ち営業のみに従事した昭和四二年六月三日から一一日迄の申請人ら組合員の営業成績は、それ迄の二割程度に減少し右は一日一台当りの経費の約二〇数パーセント程度にしかあたらず、従つて使用者たる被申請人は相当程度過重な損失をこうむつたものということができる。そうすると申請人らの右怠業行為により、申請人らもそれに相当する賃金部分を喪失するにしても、なお右の如き状況が約一週間続いた場合に使用者がその損失に耐えられないと考えてロツクアウトに出たことは許容さるべきであり、且つその必要があつたものというべきである。

以上のとおりであつて、被申請人会社が六月一二日朝行つた本件ロツクアウトは法理論上これが許されるべき限度内のものであつたといわざるを得ず、従つて前記「責に帰すべき事由」には該当しないといわなければならない。よつて申請人らは民法五三六条二項によつては賃金請求権を取得しないものというべきである。

次に申請人らは、数度に亘り就労請求をしている旨主張し前記認定の事実からしても申請人らは本件ロツクアウトが開始せられた直後から被申請人に対し就労請求を組合を通じてなしていることが認められるが、その就労請求によつて右ロツクアウトの適法性がいかなる影響をこうむるかについて検討する。

もともと前記説示の如く、ロツクアウトは使用者が労働者の争議行為によつてこうむる損失の度合いが過重になると思われる場合に認められるのであり、本件においては右損失は申請人らの車庫待ち営業のみに従事するという怠業行為によつて生じていたものであるから、ロツクアウト後に右怠業行為がもはやくり返されないと考えられうる状況になつた場合には、会社にロツクアウトを継続する必要がなくなるものというべきであり、にも拘らずこれを継続した場合には、その時点から当該ロツクアウトは違法にならざるを得ないというべきである。

ところで本件では、前記認定事実からすると、六月一二日には組合は直ちに文書をもつて就労を請求したが、右請求は疎甲第一号証によれば単にロツクアウトが不当であり、就労の意志があることのみを通告しているにすぎない。そうすると、既に五月中から新給与体系の解釈について争いが継続しロツクアウト以前一週間にわたり組合により現実に怠業行為を続けてこられた会社としては、右の如き就労請求をうけてもその就労の内容が果して組合として真実従前の営業形態に戻る趣旨のものか否か不明確であるとし、且つ右就労請求が真意ではなく、単なる戦術ではないかとの強い不安を覚えたことは、理由があるというべきであり、従つて会社が本件ロツクアウトを解かなかつたとしても直ちにこれを不当ということはできず、この時点においては右ロツクアウトを継続したことは違法とはいいえない。

右の理由は、その状況において右一二日の場合と格別異つたところのない翌六月一三日の就労請求についても同様というべきである。

ところで前記認定のとおり六月一四日の地労委の斡旋による会社と組合の団体交渉の席上においては、組合は従前どおりの駅待ち営業等にも就くとの申し入れをなしたのに対し、会社代表者石井朝夫は、水揚げ月額金一四万円の確保及び業務命令遵守のこと、また右金一四万円の水揚げ確保については組合がこれを保証すること、右二条件が守れない場合は解雇されても、異議はない旨の誓約書を組合員各自が提出することをロツクアウト解除の条件として要求し、組合はこれを拒絶したことが認められる。そうすると右会社側の出した要求中、月額金一四万円の確保と、業務命令遵守を組合に文書で保証させ、又右条件を守れない場合の解雇を了承する旨の誓約書の提出までも求めたことは、これを合理的妥当な範囲内のものと見ることは困難であるといわざるを得ない。しかし右要求内容は組合員に対し金一四万円の水揚げと、業務命令を遵守する意思の確認に重点があるものと認められるところ右二点は、要するに組合員に対し、怠業前の勤務状態に復帰することの具体的内容を示しているものと解されるから、組合がその点を了解しない限り会社が右要求を固執して本件ロツクアウトを解除しなかつたとしてもこれを直ちに不当であるとばかりもいいえない。しかし続いてもたれた一六日には疎明によれば公的な労働委員会の席上において、しかも組合が金一四万円の水揚げを確保することを確実に保証することはできないが、その目標に添うよう組合員としても努力すると申し入れたことが認められるのであるから、このような状況のもとにおいては組合の就労請求は客観的に明確になつたもの、且つその申出に真意があるものと認めるべきであり会社は一応右申し出を信頼してロツクアウトを解除するのが相当であつたというべきであるから、これに対してなお前記の如き誓約書の提出等の要求にまでも固執したことは就労請求に対する態度としては過大な要求をしているものというのほかなく、従つてこの時点においては会社においてもはや本件ロツクアウトを継続すべき合理的な理由は消滅したものというべきである。

四、以上のとおりであるから、本件ロツクアウトは六月一七日以降はその理由を欠き許されないものになつたというべく、従つて右日時以降申請人らの労務提供義務の履行不能は、会社の右不当なロツクアウトに基づくもの、即ち債権者たる被申請人会社の責に帰すべき事由に基づいたものといわなければならない。そうすると前記判示の如く申請人らは民法五三六条二項により右六月一七日以降ロツクアウト継続中の同月二五日迄の間の賃金請求権を失わないものといわなければならない。そして申請人らが賃金を唯一の生活の資とする労働者であることは被申請人の明らかに争わないところであるから、その額によつては申請人らに仮に右期間の賃金の支払いを受けさせる必要があるものといわなければならない。

そこで右六月一七日から同月二五日迄の申請人らの受領し得べき賃金について考えるに申請人らの本件ロツクアウト直前三ケ月の平均月額賃金が別紙一覧表(ロ)欄記載のとおりであり、なお会社から六月分賃金として、同表(イ)欄記載の額の金銭の支払いを受け、且つ右賃金中同表(ハ)欄記載の家族手当のみがいわゆる固定給であつて右を除いてはすべて日割り計算で賃金が算出されていることは当事者間に争いがない。そうすると右(ロ)欄記載の平均賃金額から同(ハ)欄記載の六月分家族手当てを控除した額を二五日で除した額が非固定給与分の日額となること、その日額が同表(ニ)欄記載の額になることは申請人らの主張のとおりである。ところで右の如く被申請人会社の賃金計算は一ケ月二五日としてなされていることが認められるからその割合を六月一七日から二五日迄の日数にあてはめると七・五日となる。従つて申請人らの得べかりし賃金額は、別紙一覧表(ニ)欄記載の金額に各七・五日を乗じた額、即ち主文掲記の額となり、右額は申請人らの平均月額に比較して少くない額であつて従つてその仮払いの必要があるというべきである。

五、よつて右の限度で申請人らの本件仮処分申請は理由があることになるから、判示限度においてこれを認容し、その余の申請部分はこれを却下することとし、申請費用については民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小河八十次 清水嘉明 須藤繁)

(別紙省略)

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