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甲府地方裁判所 昭和45年(ワ)205号 判決 1974年8月30日

主文

一  被告大堀晁、被告渡辺源作、被告渡辺ちゑは、連帯して原告樋上紀子に対し金七七九万円及びこれに対する昭和四五年七月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。(第二〇五号事件)

二  被告大堀晁は、原告三森ます子に対し金四七三万円及びこれに対する昭和四五年七月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。(第二四四号事件)

三  被告大堀晁は、原告渡辺源作、原告渡辺ちゑに対し各金一八四万円及びこれらに対する昭和四二年七月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。(第二九二号事件)

四  原告樋上紀子の被告三森ます子に対する請求及びその余の被告らに対するその余の請求並びに原告三森ます子、原告渡辺源作、原告渡辺ちゑのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は全部を通じてこれを一三分し、その三を原告樋上紀子の負担とし、その一を原告(被告)三森ます子の負担とし、その三を原告(被告)渡辺源作、同渡辺ちゑの負担とし、その余を被告大堀晁の負担とする。

六  この判決は、第一項乃至第三項に限り、仮に執行することができる。

七  但し被告大堀晁が原告樋上紀子に対し金五〇〇万円、原告三森ます子に対し金三〇〇万円、原告渡辺源作、原告渡辺ちゑに対し各金一二〇万円の担保を供するときはその原告に対する、被告渡辺源作、被告渡辺ちゑが原告樋上紀子に対し各金二五〇万円の担保を供するときは、その被告は同原告に対する、各仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第二〇五号事件原告樋上)

一  被告(他事件においては原告たる地位をも有するが、通常の表示として以下単に被告という。他の者もすべて同様とする。)三森、同大堀、同源作、同ちゑらは、連帯して原告樋上に対し金一一、一三五、六五九円及びこれに対する昭和四五年七月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は右被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

(第二四四号事件原告、第二〇五号事件被告三森)

(第二四四号事件について)

一  被告大堀は、被告三森に対し金五、四九五、一二五円及びこれに対する昭和四五年七月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告大堀の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

(第二〇五号事件について)

三 原告樋上の請求を棄却する。

四 訴訟費用は原告樋上の負担とする。

との判決。

(第二九二号事件原告、第二〇五号事件被告源作、同ちゑ)

(第二九二号事件について)

一  被告大堀は被告源作、同ちゑに対し各金三、七六三、四五七円及びこれらに対する昭和四二年七月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告大堀の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

(第二〇五号事件について)

三 原告樋上の請求を棄却する。

四 訴訟費用は原告樋上の負担とする。

との判決。

(第二〇五号事件、第二四四号事件、第二九二号事件各被告大堀)

(全事件について)

一  原告らの各請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

次の交通事故が発生し、後述の死傷者があつた。

(一)  日時 昭和四二年七月一六日午前四時四〇分項

(二)  場所 富士市日吉町三、四一〇番地先交差点

(三)  事故車甲(以下甲車という)

普通乗用自動車(山梨五ひ第七八三号)

右運転者 被告三森(原告樋上主張)

被告大堀(被告三森主張)

〔東方から西方へ直進〕

右所有者 被告大堀

(四)  事故車乙(以下乙車という)

普通乗用自動車(静岡五れ第三〇一九号)

右運転者兼所有者 亡渡辺敦〔南方から北方へ直進〕

(五)  態様 甲車と乙車とが出合頭に衝突。

二  責任原因

(第二〇五号事件)

(一) 被告三森は甲車を運転して時速約五〇粁の速度で前記交差点にさしかかつたが、同交差点南東角には工場建物があり交差点南方の道路は見通し困難であつたから、かかる場合自動車運転者としては減速または徐行、一旦停止し他車との衝突等による事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然そのままの速度で同交差点に進入した過失により本件事故を惹起せしめた。

(全事件)

(二) 被告大堀は甲車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

(第二〇五号事件)

(三) 亡敦は乙車を保有し、自己のため運行の用に供していたものであるが、同人は前記事故のため同日午前五時三五分頃死亡し、被告源作、同ちゑがその損害賠償債務を相続により承継取得(各二分の一)した。

三  損害

(第二〇五号事件)

原告樋上は、右の事故により頸椎等六圧迫骨折、第一腰椎横突起骨折、仙骨斜骨折の傷害を負い、このため一年二ケ月以上の長期間に亘り米山病院、巨摩共立病院、山梨県立中央病院、長田医院等に入院、治療を受けたが必ずしも完治せず、右下肢筋力減退、歩行五〇米以上困難、階段歩行困難、爪先立不可能、右手握力五瓩、右半身不全麻痺(出産不能)等の外傷性頸髄損傷後遺症(第一級該当)を残しており、これらによつて左の損害を蒙つた。

(一) 治療費 六四二、九五九円

米山病院(静岡県富士市日吉町一丁目)入院分

(右の他巨摩共立病院、山梨県立中央病院、長田医病入院分は後記自動車損害賠償保険金(自賠責保険金という。)のうち後遺症補償費として受領した金一五〇万円を以てこれにあてた)。

(二) 得べかりし利益の喪失 六、三九二、七〇〇円

原告は事故当時二四歳の健康な女性であるが、本件事故による前記後遺症により一生就労不可能な体となり、その得べかりし利益の額は、原告の事故当時の給料収入月額金二五、〇〇〇円、年額三〇万円、就労可能年数三九年に基き、現時点で一時に請求するためホフマン式計算法により中間利息を控除して計算すれば、金六、三九二、七〇〇円となる。

(三) 慰藉料 五〇〇万円

以上の各事情に照し、原告の精神的肉体的苦痛を癒すには慰藉料として金五〇〇万円とすることが相当である。(自賠責保険金により支払われた一五〇万円を本訴請求外の治療費に充当し、且これを本訴請求分から控除していることも斟酌せられるべきである。)

(四) 弁護士費用 一一〇万円

着手金一〇万円を支払い、報酬として金一〇〇万円を支払う旨約した。

以上合計 一三、一三五、六五九円

(五) 支払いを受けた金員

自賠責保険金から治療費として金五〇万円、後遺症補償費として金一五〇万円合計金二〇〇万円の支払いを受けた。

(第二四四号事件)

被告三森は右の事故により後頭部挫傷、脳内出血、頸椎骨折、両膝部挫傷等の傷害(一旦は死亡かといわれた程)を負い、このため

自昭和四二年七月一六日至一二月二六日 入院(芦川病院)

自四二年一二月二七日至四三年二月二八日 通院(塩山病院)

自四三年二月二九日至六月二八日 入院(国立甲府病院)

各治療を受け、以後も引続き自宅療養中であるが、完治せず顔面神経麻痺、右下肢知覚障害、頭部頸部下肢疼痛、歩行困難等の後遺症を残しており、これらによつて左の損害を蒙つた。

(一) 治療費 一、〇九一、九一五円

芦川病院入院費一、〇六六、三六五円、塩山病院診察費二、五〇〇円、国立甲府病院入院費一三、五六八円、右病院薬代九、四八二円である。

(二) 付添費 二九五、七一〇円

芦川病院分二五〇、七一〇円、甲府病院分四五、〇〇〇円である。

(三) 栄養補給費 二一、〇〇〇円

(四) 治療具費 一六、五〇〇円

(五) 交通費、雑費 三万円

(六) 後遺症治療費 五〇万円

同被告は前記後遺症のため今後の治療費として金五〇万円を要する。

(七) 得べかりし利益の喪失 五四万円

同被告は、事故当時純収入一五、〇〇〇円(月収三万円、消費支出一五、〇〇〇円)を得ていたが、本件事故のため昭和四二年七月一七日から以降生涯に亘り稼働不能となつたので、昭和四五年七月一七日までの間の得べかりし利益を計算すると、五四万円となる。

(八) 慰藉料 三〇〇万円

以上の各事情に照し、原告の精神的、肉体的苦痛を癒すには、慰藉料は少くとも三〇〇万円を下らない。

(九) 弁護士費用 八二四、二六八円

(一〇) 内払い(自賠責保険金) 五〇万円

(第二九二号事件)

亡敦は右の事故により死亡し、これによつて左のとおりの損害を受けた。

(一) 得べかりし利益の喪失 七、〇三九、〇八〇円

亡敦は事故当時自動二輪車、バイク、自転車等の販売修理業を経営し、月収約七乃至八万円を得ていたので、生活費を差引いても最低三万円の純収益があつたところ、当時二九歳で就労可能年数三四年間を見込まれるから、これらによつて法定利率に基く単利年別ホフマン式計算法により現価を算定すれば、金七、〇三九、〇八〇円となる。

(二) 慰藉料 二〇〇万円

亡敦は被告源作、同ちゑの長男であり、事実上の一家の働き柱であつたのに、これを失つた苦痛は甚大であり、それを癒すには、被告源作、同ちゑの慰藉料として各金一〇〇万円とすることが相当である。

なお、慰藉料を除く損害費目で認容されない額がある場合には右の他、その額を慰藉料として請求する。

(三) 支払いを受けた金員

自賠責保険から一、五一二、一六六円の支払いを受けた。

(四) 相続

被告源作、同ちゑは亡敦の相続人であり、亡敦の(一)の損害賠償請求権を相続分に応じ各二分の一宛承継取得し、(三)の保険金も二分の一宛配分した。

四  結論

(第二〇五号事件)

よつて原告樋上は被告ら全員に対し(一)乃至(四)の合計額から(五)を控除した残額金一一、一三五、六五九円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四五年七月二四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(第二四四号事件)

よつて被告三森は被告大堀に対し金五、四九五、一二五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四五年七月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(第二九二号事件)

よつて被告源作、同ちゑは被告大堀に対し各金三、七六三、四五七円及びこれに対する死亡の翌日である昭和四二年七月一七日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する答弁

(被告全員)

一  第一項の事実は認める。但し甲車の運転者については、被告三森は、被告大堀と、被告大堀は、被告三森とそれぞれ主張している。

(被告三森)

二 第二項(一)の事実は否認する。

(被告大堀)

三 同項(二)の事実は認める。

(被告源作、同ちゑ)

四 同項(三)の事実中、運行供用者の点を争い、その余の点を認める。

(被告全員)

五 第三項(第二〇五号事件)の事実は争う。(但し内払の点は認める。)

(被告大堀)

六 同項(第二四四号事件、第二九二号事件)の事実は争う。

(但し内払の点は認める。)

第四被告の主張

一  (第二四四号事件)甲車を運転したのは被告三森であるから、自己の運転により生じた事故による損害を、運転供用者たる被告大堀に対して請求することは許されない。(被告大堀)

二  (第二〇五号事件、第二四四号事件)原告樋上、被告三森(前項の主張が認められない場合)は、いずれも好意同乗者であるから、賠償額の算定に当り斟酌されるべきである。(被告ら)

三  (第二九二号事件)亡敦は無免許で且所謂車検のない乙車を運転し、左右の安全を確認せずに本件交差点へ高速度で漫然進入した過失により本件事故を発生せしめたから、賠償額算定につき過失相殺がなされるべきである。(被告大堀)

第五右に対する答弁

(被告三森)

一  第一項の事実は否認する。

(原告樋上、被告三森)

二  第二項の事実は認めるが、賠償額の減額はなされるべきでない。

(被告源作、同ちゑ)

三 第三項の事実中、無免許、無車検との点は認めるが、その余は争う。

第六証拠〔略〕

理由

一  請求の原因第一項の事実は当事者間に争いがない。(但し甲車の運転者については争いがある。請求の原因第二項、被告の主張第一項に関わりを持つ問題点であるから、それらについて検討する際併せて判示する。)

二  同第二項(二)の事実、(三)のうち運行供用者たる点を除くその余の事実も当事者間に争いがない。

三  そこで同項(一)及び被告の主張第一項の事実の存否について考える。

成立に争いのない甲第一乃至第一二号証、乙第一乃至第五号証、第一〇号証、第一一号証の一乃至三、丙第一乃至第五号証、丁第五号証、被告源作尋問の結果により成立の真正なことの認められる丁第三号証に、被告三森、原告樋上(第一、第二回)各本人尋問の結果(但しこのうち後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を綜合すれば、

被告三森は本件ドライブに際して途中、白糸の滝付近で一時運転したが、ヒユーズ修理のため停車した後は運転を被告大堀に委ね、事故時助手席に同乗していたにすぎないこと、事故直前被告三森を含む同乗車全員が居眼り状態であつたこと、事故直後の目撃者によれば、被告三森の身体は助手席ドアからはみ出して頭部は側溝内へ垂れ下がつていたと窺われること、衝突部位は甲車左前面から左側面にかけて、乙車右前面から右側面にかけてであること、傷害の部位程度は、被告三森は頭部を中心として極めて重傷(詳細は後に判示する)であるのに対し、被告大堀は尾骨骨折、右足骨折、全身打僕の傷害を負つていること、

以上の事実が認められ、右認定の趣旨に反する原告樋上の供述部分は前掲各証拠に対比し、にわかに採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によれば、甲車を運転していたのは被告大堀であるものと認めることが相当であり、衝突部位及び被告大堀と同三森との傷害の部位程度の対比も右認定を裏づけるものである。

四  次に請求の原因第二項(三)のうち争いの存する部分について考えるのに、前掲各証拠及び弁論の全趣旨を綜合すれば、同項(三)は原告樋上の主張するとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

五  以上の各事実(当事者間に争いのない事実を含む。)によれば、被告大堀は自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条により(全事件につき全員に対し)、被告源作、同ちゑは亡敦の相続人として自賠法第三条により(第二〇五号事件につき原告樋上に対し)、それぞれ事故によつて生じた損害を賠償すべき義務(第二〇五号事件について、被告大堀と被告源作、同ちゑとは連帯してこの義務を負う。)を負うことは明らかであるが、被告三森は賠償義務を負うことはない。

六  そこで損害について考える。

成立に争いのない甲第一三号証の一乃至四、第一五乃至第一七号証、乙第二乃至第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一乃至三、丁第一号証、原告樋上本人尋問(第一回)の結果により成立の真正なことが認められる甲第一四号証(被告大堀は成立に争いがない。)、被告源作本人尋問の結果により成立の真正なことの認められる丁第四号証に、上記各供述、被告三森本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すれば、

原告樋上は、本件事故により頸椎第六圧迫骨折、頸髄損傷、第一腰椎横突起骨折等の傷害を負い、このため、

自昭和四二年七月一六日至八月二〇日 入院(米山病院)

自八月二一日至一〇月一二日 入院(甲府共立病院)

自一〇月一三日至四三年八月一〇日 入院(山梨県立中央病院)

自昭和四五年四月八日(期間不明) 入院(長田医院)その他

各治療を受けたが完治せず、ほぼ原告樋上の主張するとおりの後遺症状(自賠法施行令別表第三級該当)を残しており、

被告三森は、本件事故により後頭部挫傷、脳内出血、頸椎骨折、両膝部挫傷、意識不明、瞳孔左側面偏位、頸部後頭腫脹著明、後頭部挫創、眼底、乳頭浮腫状、脳脊髄圧兀進等の傷害を負い、このため

自昭和四二年七月一六日至一二月二六日 入院(芦川胃腸科病院)

自一二月二七日至四三年二月二八日 通院(塩山病院)

自四三年二月二九日至六月二七日 入院(国立甲府病院)

自四三年三月一一日至四七年八月一八日(実二日) 通院(山角病院)

自四三年六月二八日至四五年三月九日通院(国立甲府病院) その他

各治療を受けたが完治せず、ほぼ被告三森の主張するとおりの後遺症状(他に右半身知覚障害をも。以上を綜合して自賠法施行令別表第三級該当と認められる。)を残しており、

また亡敦は本件事故により脳内出血、全身打僕の傷害を負い、同日午前五時三五分頃死亡するに至り、

以上によつて蒙つた損害額は左のとおりであつたこと(以下においては、以上の事情を綜合し、被告に負担せしむべき相当性、必要性の範囲内の額に関する評価判断をも併せ加えることとする。)、

(第二〇五号事件、原告樋上分)

(一)  治療費 六四二、九五九円

(二)  得べかりし利益の喪失 六、二九一、〇〇〇円

原告樋上の主張のとおり相当(但し就労可能年数は三八年間と認めることが相当である。)と認められ、これによつて計算すれば、六、二九一、〇〇〇円となる。

(三)  慰藉料 四〇〇万円

以上の各事実、殊に受傷内容、部位程度、入院等治療の経過、後遺症の内容、程度その他諸般の事情(但し好意同乗に関する事情は後記において別途斟酌するのでこれを除く。)に照し、原告樋上の蒙つた精神的肉体的苦痛を癒すには慰藉料として金四〇〇万円とすることが相当である。

(四)  弁護士費用 額は後に判示する。

以上合計 一〇、九三三、九五九円

(第二四四号事件、被告三森分)

(一)  治療費 一、〇三三、五八四円

芦川病院入院費一、〇一一、八二七円、塩山病院診察費二、五〇〇円、国立甲府病院診療費一九、二五七円について相当と認められる。

(二)  付添看護費 一六一、九七〇円

職業家政婦による分七〇、九七〇円、母による付添分(一日一、〇〇〇円の割合による)九一、〇〇〇円について相当と認められる。(芦川病院、国立甲府病院を通じて。)

(三)  栄養補給費 不認容

後記雑費の一態様として斟酌する。

(四)  治療具費 一六、五〇〇円

(五)  交通費、雑費 五万円

(六)  後遺症治療費 不認容

全証拠によるも、将来幾何を要するか全く明らかでないから、これを認めることはできない。慰藉料算定の資料として斟酌する。

(七)  得べかりし利益の喪失 五四万円

少くとも同被告の主張するとおり相当と認められる。

(八)  慰藉料 四〇〇万円

以上の各事実、殊に受傷内容、部位程度、入通院治療の経過、後遺症の内容、程度その他諸般の事情(但し好意同乗に関する事情は後記において別途斟酌するのでこれを除く。)に照し、被告三森の蒙つた精神的肉体的苦痛を癒すには慰藉料として金四〇〇万円とすることが相当である。

(九)  弁護士費用 額は後に判示する。

以上合計 五、八〇二、〇五四円

(第二九二号事件、被告源作、同ちゑ分)

(一)  亡敦の得べかりし利益の喪失 七、〇三八、〇〇〇円

亡敦は事故当時父(被告源作)名義を以て自動二輪車、バイク、自転車等の販売修理業を経営し同人の月額収益として少くとも六万円を得ていたが、これをすべて失つたので、当時二九歳、独身の同人の生活費として二分の一、就労可能年数三四年間に基いて、同人の失つた得べかりし利益の現在額を算定すれば、金七、〇三八、〇〇〇円となる。

(二)  慰藉料 各一五〇万円

以上の各事実及び同被告らの主張のとおりの事実その他諸般の事情(但し亡敦の過失に関する事情は後記において別途斟酌するのでこれを除く。)に照し、同被告らの蒙つた精神的苦痛を癒すには慰藉料として各金一五〇万円とすることが相当である。

以上合計 一〇、〇三八、〇〇〇円

(三)  同被告らの相続の点はその主張のとおりの内容であること、以上のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

七  次に被告らの主張(第一項に関しては既に判断済であるから除く。)について考える。

(一)  第二項の主張事実(好意同乗)について

原告樋上、被告三森が好意同乗者であることについては当事者間に争いがない。そして前掲各証拠によれば、甲車の運転者、同乗者は、いずれも前日、共に多忙な食堂業務に従事した上、そのまま深夜のドライブに同行したものであつて、事故発生時刻に照しても疲労と眠気とが重なつて(現に運転者以外の同乗者がすべて居眠り中であつた。)、正常な運転を保し難い実情にあつたことはた易く推認せられるのであるから、これらの事情と本件同乗の経緯(被告三森にあつては、前記認定のとおり一時とはいえ交替運転の事実をも含む。)とを併せ考えれば、原告樋上、被告三森とも所謂好意同乗者として、賠償額の算定に当りこれらの事情を斟酌されるべきものであり、以上に照せば右両名ともに損害額の概ね一割五分を減額することが相当である。(この点の理論については、法律時報昭和四八年九月号、一〇月号各参照。)従つて原告樋上は九二九万円、被告三森は四九三万円(以上については事柄の性質上、四捨五入の方法によつて端数を調整した。)の賠償請求権を有する。

(二)  第三項の主張事実(過失相殺)について

亡敦の無免許、無車検の点については当事者間に争いがなく、前掲各証拠(理由欄第三項掲記のもの)及び弁論の全趣旨を綜合すれば、本件事故発生の交差点は信号機の設置その他交通整理が行なわれておらず、交差する双方の道路(車道部分)の幅員もほぼ同じであること、事故の衝撃の強さから双方とも相当な高速であつたものと窺われること、乙車のスリツプ痕が僅か(約五米)に残されている他双方とも始どノーブレーキに近く、漫然と交差点に進入したものと窺われること、等の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、以上によれば、本件事故については亡敦にも過失があつたことが明らかである。

そこで双方の過失割合その他諸般の事情に照して双方の負担割合を定めれば、概ね原告側五対被告側五とすることが相当であり、以上を斟酌して被告に賠償義務を負わしむべき損害額を算定すれば、各二、五九六、〇八三円(負担割合は主たる斟酌事情にすぎないとの過失相殺の事柄の性質上、端数は適宜調整した。)とすることが相当である。

八  内払いの点については当事者間に争いがない。これを控除した残額は、

原告樋上 七二九万円

被告三森 四四三万円

被告源作、同ちゑ各一八四万円

となることは計数上明らかである。

九  弁護士費用

以上の経緯、殊に事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情に照し、原告樋上、被告三森のそれぞれ負担する弁護士費用のうち、相手方に負担義務を負わしむべき相当性の範囲内の額は、

原告樋上 五〇万円

被告三森 三〇万円

とすることが相当である。

一〇  結論

そうすると被告大堀、同源作、同ちゑは連帯して原告樋上に対し以上の合計額、被告大堀は被告三森、被告源作、同ちゑに対して以上の各金員及びこれらに対する請求者の主張する趣旨のとおりの遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務を負い、請求者らの各請求は右の限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余(原告樋上の被告三森に対する請求を含む。)をいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行及びその免脱の宣言について同法第一九六条を適用し、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本嘉弘)

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