甲府地方裁判所 昭和52年(手ワ)33号 中間判決 1977年5月09日
原告 須藤一
右訴訟代理人弁護士 古屋福丘
被告 宮原清治
被告 宮原土建株式会社
右代表者代表取締役 宮原清治
右両名訴訟代理人弁護士 古明地為重
主文
被告らの本案前の申立を却下する。
事実
被告らは本案前の申立として「原告の訴を却下する。」との判決を求め、その理由として次のとおり述べた。
訴外両角保は原告の支配人として昭和五二年二月一五日当庁に本件訴えを提起したが、原告はいわゆる金融業者であって商法五〇二条八号所定の「両替其他ノ銀行取引」に該当する行為を業としていず、他に商人と認むべき事情がないので商人といえないから、ひいて右両角は支配人の資格を有する者とはいえない。それゆえ、右両角がなした右訴え提起の訴訟行為は無効であり、そのことは原告が適法に訴訟代理人を選任し、その訴訟代理人が、右訴訟行為を追認しても何ら異なるところはない。よって、本件訴えは訴訟要件を欠くものとして却下されるべきである。
理由
被告主張のとおり訴外両角保が原告の支配人として本件訴えを提起したこと、原告は昭和五二年四月二二日訴訟代理人弁護士古屋福丘を選任し、右訴訟代理人が第四、五回口頭弁論期日に出頭して右両角のなした訴え提起の行為を追認する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著な事実である。
一般にある特定の者が原告の支配人として訴えを提起する等の訴訟行為をしたのち、原告が商人といえず、そのために支配人もその適格性を欠くことが判明した場合、原告が自ら又は適法に選任した訴訟代理人が口頭弁論期日に出頭し、右支配人と称した者の訴訟行為を追認する旨の意思表示をしたときは、民訴法五四条を類推適用して、右訴訟行為は行為の時に遡って効力を生じるものと解すべきである。なぜなら、なるほど、支配人は法令上の訴訟代理人であるので、本件のような場合は、法定代理権の欠缺も、訴訟行為を為すに必要なる授権の欠缺も問題となりえず、民訴法五四条の明文の規定がない場合といわなければならないが、当事者又は適法に選任された訴訟代理人が右支配人のなした訴訟行為を追認した場合に、これを行為の時に遡って有効とみなすことは右当事者の利益を害したり、訴訟手続を混乱に導いたりするものではなく、かえって訴訟経済の理念に合するものであり、それゆえ同法五四条の立法趣旨に適合するからである。
これを本件につきみるに、原告が商人であるか否かは未だ判断すべき訴訟の段階ではないけれども、仮にこの点に関する原告の主張を前提として考えると、前認定のとおり、原告が適法に選任した訴訟代理人が口頭弁論期日において支配人のなした訴え提起の行為を追認したのであるから、本件訴え提起の行為はその訴え提起の日に遡って効力を生じるというべきである。それゆえ、被告らの本案前の申立は、その理由がないこととなり、失当として却下を免れない。よって主文のとおり判決する。
(裁判官 東孝行)