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甲府家庭裁判所 昭和61年(家)222号 審判 1986年8月22日

申立人 榎本喜美代

主文

申立人の氏名「榎本喜美代」を「与田礼子」に変更する

ことを許可する。

理由

1  申立人の戸籍謄本、家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書を供せ考えれば、申立人は、大正元年8月1日、榎本修、同フミ間の長女として大阪市で出生し、同地の女学校を卒業して新聞記者となったが、後舞踊家に転じ、戦後上京して草絵と呼ばれる独特のはり絵(切り絵)を創始したほか、舞踊、書道等の諸分野で幅広い活動を続け、その業績は国内のみならず米国等においても注目されていること、これら創作活動に従事するに当たつて「与田礼子」という氏名を用い、30年以上にわたつてこれが通称として社会的に定着し、別に本名があることを知る者は殆どいないこと、数年前から住所地付近に美術館を中心とする芸術活動のための教育、研修等を目的とする大規模な集合施設(地元では芸術村とか芸術家村等と呼ばれている)建設の構想を抱き、現在県や町の全面的な協力を得てその具体化に努めているが「与田礼子」が本名でないため、諸契約手続や寄附行為等を進めるうえで種々の支障が生じていること、なお申立人は独身で、申立人を筆頭者とする戸籍に同籍者はいないこと、以上の事実が認められる。

2  ところで、本件申立ては、通称として長年使用したことを理由に氏名全体の変更を求めるものであるから、その許否を決するに当たつては、慎重のうえにも慎重でなければならないが、上記認定事実を総合して判断すれば、申立人の通称である「与田礼子」は、既に30年以上の長きにわたつて申立人の呼称として社会生活のあらゆる場面において定着しており、本件申立てを認容しても格別の弊害は予想されず、却つてこれを許可しないことは種々の社会的混乱を生じさせるおそれがあるものと認められる。

よつて、本件申立ては戸籍法107条の要件を満たすものとして認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 大東一雄)

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