盛岡地方裁判所 事件番号不詳 判決
本籍並住居
宮古市宮古乙第一地割字築地四番地の二
漁業貫洞義郞
明治二十七年三月二十七日生
右の者に対する財産税法違反被告事件について当裁判所は副検事高橋栄三郞出席の上審理を遂げ次の通り判決する。
主文
被告人を罰金六万円に処する。
右罰金を完納できないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
被告人は同人が昭和二十二年二月上旬山本安兵衞、佐々木藤次郞、上野幸作の各代理人として下閉伊税務署に同人等の財産税法に基く財産価額申告に際し山本の分につき金四万四千円佐々木の分につき金六万六千円上野の分につき金二十二万円を除外して不正申告をしよつて財産税山本分金一万七千九百七十円佐々木分金二万九千二百二十円上野分金十三万八千二百円を逋脱したとの点につき無罪。
訴訟費用はその四分の一を被告人の負担とする。
理由
事実
被告人は昭和十八年七月甘柏合名会社とその持分を二分の一宛と定め貫洞漁業部たる任意組合を組織し宮古市宮古第一地割字築地に営業所を置いて漁業を経営し右甘柏合名会社の持分は表面上上野幸作名義としてその後被告人の持分の一部を讓渡し組合員に異同を生じ昭和十九年頃以後はその持分右上野五割、被告人二割五分、山本安兵衞一割、佐々木藤次郞一割五分の組合となり主として被告人がその業務を施行して来たのであるが同年一月頃より神経衰弱症のため医療を受ける至り病勢惡化にともない同二十一年十一月中家政は長男貫洞愼一郞に右漁業部の業務は同人及び当時右漁業部の事務員であつた山本安兵衞、関口正一郞に委かせて同二十二年十月頃まで気仙郡広田村又は宮城郡定義温泉に転地療養をしていた。
ところが其の間財産税法が施行されたので右愼一郞及び正一郞は同法に基き昭和二十二年二月十二日所轄下閉伊税務署に同二十一年三月三日午前零時における被告人の財産税課税価格等申告をするに当り当時被告人には岩手殖産銀行に預金してあつた右漁業部の営業資金四十四万円(佐藤佐平外十一名名義で分割予金してあつたもの)につきその二割五分である金十一万円相当の持分があつたのにこれを除外して財産価格金十七万九千九百二十二円と不正な申告をしてその後財産価格金三十九万七千九百円と更正決定があつたが右除外した金十一万円はこれに加算されず結局右不正申告によつて当時右更正された財産価格に右金十一万円を加算した財産価格に対する財産税金二十二万千百三十五円中金六万六千三百九十五円を逋脱したものである。
証拠
一、被告人の当公廷における供述
二、公証人有永昇作成公正証書謄本
三、証人道又元吾の当公廷における供述
四、同山本ヒサの同供述
五、検察事務官作成の昭和二十四年四月八日附山本安兵衞に対する第二回供述調書
六、証人山本安兵衞の当公廷における供述
七、同佐々木藤次郞の同供述
八、同貫洞愼一郞の同供述
九、証第一号(財産税課税価格等申告書)の存在並同記載
十、大蔵事務官菊池善八作成昭和二十四年六月二十一日附更正決定証明書
十一、同作成同日附財産税法第七十六條第四項に因り貫洞義郞外二名に対する財産価格逋脱額の決定明細表
法令の適用
被告人に対する判示事実は財産税法第七十九條第七十六條に該当するから所定罰金額の範囲内で被告人を罰金六万円に処し右罰金を完納できないときは刑法第十八條に則り金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置するものとする。
公訴事実中被告人は昭和二十二年二月上旬山本安兵衞、佐々木藤次郞、上野幸作の各代理人として財産税法に基く同人等の財産額を下閉伊税務署に申告するに際し山本の分については判示漁業部の営業資金四十四万円に対する持分一割に相当する金四万四千円を、佐々木の分については同一割五分に相当する六万六千円を、上野の分については同五割に相当する金二十二万円を各除外して不正申告をし、よつて山本に関し金一万七千九百七十円、佐々木に関し金二万九千二百二十円、上野に関し金十三万八千二百円の各財産税を逋脱したものであるとの点については
前掲証拠一、三、四、によれば判示の如く被告人は昭和十九年十一月頃より神経衰弱症となり家政や業務を執ることは困難な状態で特に同二十一年十一月頃より同二十二年十月頃までは転地療養をしておりその間病勢は相当惡化し到底計数的事務を執ることは不可能の状態にあつたことを認められるのみならず被告人が前記三名の代理人としてその財産額の申告をしたことについてこれを認める資料となる証拠がないから刑事訴訟法第三百三十六條に則り無罪を言渡すべきものとする。
なお前判示事実に関する右認定の如き訴因と択一的な訴因である「被告人は昭和二十二年二月上旬財産額を下閉伊税務署に申告するに際し判示十一万円を除外して不正な申告をしよつて財産税金六万六千三百九十五円を逋脱したものである」との点については他の一方について審判したから判断をしない。
弁護人は貫洞愼一郞関口正一郞等が被告人の代理人として被告人の財産税課税価格について不正申告をして財産税を逋脱したとしても当時被告人は心神喪失の状態にあつたものであるからこれにつき刑責を負うべきものでないと主張するが財産税法第七十九條は人の代理人又は使用人等が不正行為によりその人の財産額を逋脱した場合はその人の意思能力に拘わらずその人を処罰する法意であると解するから右弁護人の主張は採用しない。
よつて訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一條に則りその四分の一を被告人に負担させることとして主文の通り判決する。
(判事 降矢良)