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盛岡地方裁判所 平成16年(ワ)276号 判決 2005年3月11日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告岩手県及び同山形村農業委員会は、亡A(旧姓A1)に対し、昭和22年7月2日、地主Bからの第二期農地買収売渡計画書により、売渡小作地を23筆から5筆に偽造されたことを原因とする別紙物件目録1記載の6から23の各土地(以下「6から23の土地」という。)の所有権移転登記手続をせよ。

(2)  被告山形村、同Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5は、原告らに対し、別紙物件目録2記載2の(1)ないし(5)の学校施設(以下「本件学校施設」という。)を撤去し、同目録2記載1の(1)ないし(6)の各土地(以下「本件学校用地」という。)を明け渡せ。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(被告岩手県)

主文同旨

(被告岩手県を除く被告ら)

(1) 主位的答弁

原告らの請求を却下する。

(2) 予備的答弁

主文同旨

第2  当事者の主張

1  請求原因

(1)  所有権の取得原因

Cは、昭和22年7月2日、第二期農地買収・売渡計画書により山形村農地委員会から小作権が認められ、別紙物件目録1記載の1ないし23の各土地(以下「23筆の土地」という。)の代金を支払い、所有権を取得した。

(2)  被告Y2による偽造行為

しかるに、被告Y2(Cの義弟。)は、Cの財産の乗っ取りを企て、昭和23年5月2日に山形村農地委員会の地主代表となり、嘱託書記の立場となったことを利用して、上記買収・売渡計画書を偽造し、Cに対して売り渡されるはずの土地を23筆から8筆に減らし、かつCが支払ったのは8筆分の土地代金である旨の納付領収証書を偽造した。

上記偽造により、本来Cに売り渡されるはずの23筆の土地のうち別紙物件目録1記載6ないし15の10筆が全く小作事実のない被告Y2に、また、同目録記載16ないし19の4筆が同じく小作事実のないGにそれぞれ売り渡され、所有権移転登記手続がされた。さらに23筆の土地のうち前同目録1記載20ないし22の3筆の土地については買収前の所有者であるBの子Dに返還され、その旨登記がされた。

(3)  本件学校用地について

本件学校用地は、いずれも23筆の土地の一部であり、Cはこれらの土地を昭和12年から山形小学校の用地として賃貸してきたところ、昭和50年、Eは、PTA会長兼山形小学校建設促進委員会長の立場を利用して、山形小学校用地を自分の土地であると称して山形村に勝手に売却した。このとき山形村村長であった被告Y1と被告Y2は事情を知りながらこれを無視し、被告Y5に土地測量をさせた。昭和51年、Eは、Cの相続登記や交換登記をすると称して、被告Y5をして、目の見えないCから委任状や印鑑を交付させて、でたらめな登記をした。被告山形村は、上記学校用地の対価として、Eに700万円を支払ったが、Cには何も知らせなかった。

その後、昭和58年に被告山形村から、Cから借りていた学校用地を返還し、必要な校舎周りの土地を譲ってほしいとの申入れがあり、被告山形村、C、E及び被告Y2の4者で交渉が持たれ、校舎敷地と運動場を区別した約定書が交わされた。被告山形村はCに対し、昭和48年に取り交わした賃貸借契約書に基づき賃借料を支払うことを認めた。

その際、前述のEがCに無断で土地を売却したことに関し苦情を言ったが、後に話し合うと言いつつこれを無視し、さらに、昭和60年にCが病死した後、被告山形村は、被告Y2に対し、学校用地内にある旧・教員住宅を払い下げた。

(4)  不法な占有

被告山形村、同Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5は、本件学校用地上に存在する本件学校施設(山形小学校校舎、屋内体育館等)を所有又は管理することにより、同地を不法に占有している。

(5)  相続

Cは、昭和60年2月28日死亡し、その法定相続人であるF(Cの長女。)は、平成13年4月7日死亡した。原告X1、同X2、同X3及び同X4は、Fの法定相続人である。

(6)  小括

よって、原告らは、被告岩手県及び同山形村農業委員会に対し、6から23の土地について、所有権に基づき所有権移転登記手続を求めるとともに、被告山形村、同Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5に対し、所有権に基づき、本件学校施設を撤去して、本件学校用地を明け渡すことを求める。

2  請求原因に対する認否

(被告岩手県)

請求原因のうち、昭和22年7月2日に、Cに対し、8筆の土地を売り渡す旨の計画が存在したこと、また、原告らが主張する23筆の土地のうち、7筆が被告Y2に、4筆がGにそれぞれ売り渡されたことについては認める。

その余の請求原因は不知ないし否認する。

(被告山形村)

請求原因は不知ないし否認する。

ただし、本件学校用地に関して、昭和50年にEが被告山形村に本件学校用地を売却したこと、被告山形村は被告Y5に学校用地を測量させ、Eから700万円でこれを買い取ったことを認める。また、被告山形村が旧教員住宅を被告Y2に払い下げたことは認める。

(被告岩手県及び同山形村を除く被告ら)

請求原因は不知ないし否認する。

理由

1  所有権に基づく所有権移転登記請求について

土地の所有権に基づき所有権移転登記手続を求める場合、その相手方は対象地の現在の登記名義人とすべきであるが、原告らが所有権移転登記手続を求める6から23の土地の登記名義人は、被告岩手県及び同山形村農業委員会ではない(〔証拠略〕)。

そうすると、被告岩手県及び同山形村農業委員会に対する原告らの請求は理由がない。

2  所有権に基づく本件学校施設の収去及び本件学校用地の明渡請求について

(1)  〔証拠略〕によれば、Cが、昭和22年7月、自作農創設特別措置法17条により8筆の土地(別紙物件目録1記載1から5、20、21、23の各土地。このうち本件学校用地に含まれるのは、同目録記載20及び21の各土地である。)の買受けを申し込み、上記8筆の土地の所有者であるB(Cの父)からCにそれらの土地が売り渡される旨の農地売渡計画書が作成され、岩手県知事により上記8筆分の所有権移転を許可する手続がとられたものと認めることができる。しかし、23筆の土地のうち上記8筆の土地を除いた15筆の土地については、Cへ売り渡される旨の農地売渡計画の手続がとられたこと、Cが、昭和22年7月にそれらの土地の代金を支払い、所有権を取得したこと、及び被告Y2が、買収・売渡計画書を偽造し、Cに対して売り渡されるはずの土地を23筆から8筆に減らし、かつ納付領収証書を偽造したことを認めるに足りる証拠はない。

すると、別紙物件目録2記載1の本件学校用地のうち同目録2記載1の(3)ないし(6)の土地(別紙物件目録1記載6、22、7、8の各土地)は、そもそもCが所有権を有していたものと認めることはできない。

(2)  他方、本件学校用地のうち別紙物件目録2記載1の(1)の土地(別紙物件目録1記載20の土地。以下「14の1の土地」という。)及び同1の(2)の土地(別紙物件目録1記載21の土地。以下「14の2の土地」という。)については、上記のとおり農地売渡計画の手続が進められたが、〔証拠略〕によれば、上記両土地の登記簿上は、BからDに、DからEにそれぞれ相続を原因とする所有権移転登記がされた上、昭和51年6月25日付け交換契約を原因としてEからCに対する所有権移転登記がされたことが認められる。この事実に照らせば、Cが上記農地売渡手続により、上記両土地の所有権を確定的に取得したものとまでは認めることができない(なお、このうち14の2の土地は、昭和57年3月25日、FがCから贈与を受けた後、平成4年5月10日にFが第三者にこれを売却し、その所有権移転登記手続を完了している。)。

(3)  しかも、上記両土地のうち14の1の土地については、最新の登記簿謄本が証拠として提出されていないため(〔証拠略〕)、現在の土地所有者が誰であるのかは必ずしも明らかとはいえないが、仮に同土地の現在の所有者が原告らであるとしても、以下のとおり、被告山形村は同土地を適法に占有しているものと認められる。

原告らは、その主張において、昭和58年、Fと被告山形村との交渉により、本件学校用地のうち小学校管理上の必要な土地を売却し、残地を1年間だけ賃貸することになったと述べており(訴状6頁)、およそ本件学校用地のうちCの所有地については、売却あるいは賃貸することにより被告山形村が適法な占有権限を取得したことを自認している。そして、原告らの提出に係る約定書(〔証拠略〕)及び学校用地賃貸借契約書(〔証拠略〕)によると、昭和58年、被告山形村とFは、山形小学校の運動場付近に該当する土地部分(この土地は、後記のとおり14の1の土地と認められる。)の賃貸借契約を締結しているのであり(契約期間は1年ごとの自動更新)、確かに原告らの上記主張に沿った事実を認めることができる。

なお、〔証拠略〕の契約書には賃借物件の表示として「九戸郡山形村大字川井第10地割字後口表14番の2」(14の2の土地)と記載されているが、賃貸借契約の対象地を示す上記契約書添付図面の斜線部分は山形小学校の運動場付近に当たる土地である一方、14の2の土地は小学校校庭から離れたところにあること(〔証拠略〕)、当時、14の2の土地の地積は20平方メートルであった(〔証拠略〕)のに対し、上記賃貸借契約書の記載では3059.86平方メートルと大幅に異なっており、むしろ同契約書の記載は上記約定書記載の14の1の土地の地積(3094平方メートル)とほぼ一致していること等の事情からすれば、上記賃貸借契約書の「14番の2」の記載は誤記であり、当該対象地は14の1の土地であると認めることができる。

すると、被告山形村は、14の1の土地について賃貸借契約に基づき適法な占有権限を有していると認められるから、被告山形村に対する原告らの請求は理由がない。

加えて、被告Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5に対する請求については、本件学校施設を所有又は管理していることを認めるに足りる証拠はなく、また、同Y2が払い下げを受けたという旧職員住宅が、現在、14の1の土地上にあることを裏付ける証拠もない。

(4)  以上からすると、原告らの主張は理由がないから、これを採用することはできない(原告らの訴えを却下する根拠は見当たらない。)。

3  結論

したがって、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙橋譲 裁判官 吉村美夏子 須田雄一)

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