盛岡地方裁判所 平成20年(ワ)866号 判決 2010年6月11日
原告 甲野花子
原告 甲野次郎
原告ら訴訟代理人弁護士 大西洋一
同 楓真紀子
同 村上雅彦
原告ら訴訟復代理人弁護士 野中英樹
被告 株式会社北日本銀行
同代表者代表取締役 佐藤安紀
同訴訟代理人弁護士 高橋耕
被告補助参加人 日本生命保険相互会社
同代表者代表取締役 石橋三洋
同訴訟代理人弁護士 織田貴昭
同 長谷川宅司
同 谷健太郎
同 加藤文人
同 李麗華
同 小松明広
同 小佐野麻子
同訴訟復代理人弁護士 森万里妹
主文
1 原告らと被告との間において,被告が被告・被告補助参加人間の別紙2「契約目録2」記載の保険契約に基づき被告補助参加人に対して保険金1023万9490円の請求権を有することを確認する。
2 訴訟費用のうち補助参加によって生じたものは被告補助参加人の負担とし,その余の費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求(原告らは第1項と第2項の関係を選択的併合としている。)
1 原告らと被告との間において,被告・亡甲野太郎間の別紙1「契約目録1」記載の契約に基づく金1023万9490円の支払債務について,被告の被告補助参加人に対する別紙2「契約目録2」記載の保険契約に基づく保険金債権が存在することを理由に支払を拒絶する抗弁の付着しない債務は存在しないことを確認する。
2 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
本件は,被告から住宅ローンを借り入れた亡甲野太郎(以下,単に「亡太郎」という。)の相続人である原告らが,借入れの際に加入した亡太郎を被保険者とする団体信用生命保険契約に基づき被告に対して保険金が支払われると主張して,被告に対し,これを理由に住宅ローンの支払を拒絶することができる旨の確認又は被告の被告補助参加人(以下,単に「補助参加人」という。)に対する保険金請求権が存在することの確認を求めている事案である。
なお,被告が補助参加人に訴訟告知をした結果,補助参加人が被告側に補助参加した。
1 争いのない事実等(以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠等によって容易に認定することができる事実である。)
(1)原告甲野花子(以下,単に「原告花子」という。)は,原告甲野次郎(以下,単に「原告次郎」という。)の母であり,亡太郎の妻である。
(2)亡太郎は,昭和51年から岩手県釜石市で「A」という中華料理店を営んでいたが,平成5年に岩手県立釜石病院(以下,単に「釜石病院」という。)で慢性B型肝炎と診断され,その後入通院し,肝細胞ガンの疑いなどと診断されたこともあった(甲11,丙2ないし4,弁論の全趣旨)。
(3)亡太郎は,平成12ないし13年ころ,「A」の店舗兼住居を新築することにし,このための住宅ローンを住宅金融公庫から借り入れた(取扱店は被告)。また,亡太郎は,この住宅ローンの借入れに際し,団体信用生命保険への加入に同意することとした(甲9ないし11,原告次郎供述)。
(4)原告次郎は,盛岡市のホテルに勤務していたが,平成12年ころから,「A」を手伝うようになった(甲11,原告次郎供述)。
(5)亡太郎は,平成14年1月中旬から下旬にかけて,釜石病院の脳神経外科や耳鼻咽喉科で診察・検査を受け,睡眠導入剤等の処方を受けた。
また,亡太郎は,同月29日,同月30日,同月31日及び同年2月4日に釜石病院の消化器科(内科)の診察を受け,同年1月29日には血液検査を,同年2月4日には腹部超音波検査を受けた(甲11,丙2ないし4,原告次郎供述,弁論の全趣旨)。
(6)亡太郎は,上記(3)の住宅ローンから被告の住宅ローンに借り換えることにし,平成16年3月29日,別紙1「契約目録1」記載のとおり,被告から借入れをした。また,原告らが亡太郎の被告に対する債務を連帯保証した(甲1,6,15ないし17)。
(7)亡太郎は,この借換えに際し,亡太郎が死亡したときに住宅ローンの残債務相当額の保険金が支払われる団体信用生命保険への加入に同意した。
この保険の申込書兼告知書(以下「本件告知書」という。)では次の事項が告知事項とされていたところ,亡太郎は,平成16年3月4日,本件告知書の該当欄の「なし」の部分に丸をつけた。
そして,別紙2「契約目録2」記載の契約(以下,亡太郎に関する部分を「本件保険契約」という。)が締結された(甲2ないし4,丙1,弁論の全趣旨)。
ア 最近3か月以内に,医師の治療(指示・指導を含む)・投薬を受けたことがあるか。
イ 過去3年以内に下記の病気で,手術を受けたこと又は2週間以上にわたり医師の治療(指示・指導を含む)・投薬を受けたことがあるか。
・ 胃かいよう,十二指腸かいよう,かいよう性大腸炎,すい炎
・ 肝炎,肝硬変,肝機能障害
・ ガン,肉腫,白血病,しゅよう,ポリープ(その他省略)
(8)本件保険契約の普通保険約款では,次のことが規定されている(甲3)。
ア 保険契約者又は被保険者は,保険契約の締結又は追加加入の際,補助参加人が所定の書面をもって告知を求めた事項について,その書面により,告知することを要する。
イ 保険契約者又は被保険者が,故意又は重大な過失によって上記アの告知の際に事実を告げなかったか又は事実でないことを告げた場合には,補助参加人は,保険契約(のその被保険者についての部分)を将来に向かって解除することができるものとする。ただし,補助参加人がその事実を知っていた場合又は過失のため知らなかった場合を除く。
ウ 補助参加人は,被保険者が死亡した後においても,上記イによって解除することができ,この場合には保険金を支払わない。
(9)亡太郎及び原告らと被告は,平成16年3月29日,被告が補助参加人から保険金を受領したときは,受領金相当額の亡太郎の被告に対する債務につき期限のいかんにかかわらず,返済があったものとして取り扱うこと等を内容とする覚書を交わした(甲4)。
(10)亡太郎は,平成18年1月,釜石病院に入院し,肝細胞ガンと診断され,同年3月11日,肝臓ガン(肝ガン)を直接原因として死亡した。
なお,その日の時点の住宅ローンの残債務額は1023万9490円であった(甲5,11,弁論の全趣旨)。
(11)補助参加人は,保険契約者に対し,平成18年8月23日付けで,告知義務違反を理由として,本件保険契約を解除する旨の意思表示をした(甲7,弁論の全趣旨)。
(12)原告らは,被告に対し,上記(6)の住宅ローンを支払い続けており,現在のローン残額は七百数十万円程度である(甲6,17,弁論の全趣旨)。
2 争点及び当事者の主張
(1)争点1(亡太郎は医師から肝疾患に関して「指示・指導」があったにもかかわらず,これを告知書に記載しなかったか─「指示・指導」の意義,これに該当する事実があったか)(抗弁)
(補助参加人の主張)
ア 本件告知書の質問は,一連の傷病の治療に関して,初診から終診まで2週間以上の期間を要したかを問うものであり,「2週間以上にわたり」との限定は,医師の治療等を受けた場合であっても,2週間程度で完治したような場合を除くという趣旨のものである。また,「治療」の意味をより明確に「指示・指導」も含むとしている。
イ 平成5年以降,亡太郎のB型慢性肝炎は治癒しておらず,亡太郎は,釜石病院で肝疾患の治療・経過観察を受けていたところ,その一環として,従前の検査結果も踏まえ,平成14年1月29日,肝機能フォローアップを希望して釜石病院に行き,そのために同年2月4日には腹部超音波検査を受け,慢性肝炎との診断がされ,肝臓の所見として辺縁(肝縁)鈍化とされた。正常な肝臓であれば,その辺縁は鋭角であるが,慢性肝炎から肝硬変までの病態に相関して肝縁先端部分が鈍化し,肝臓全体が丸みを帯びてくるところ,上記所見は慢性肝炎について相当程度の進行がみられたこと(肝機能が悪化していること)を意味する。
B型慢性肝炎は,悪化すれば肝硬変,肝ガンと進展する疾患であり,継続的な検査が必要であることから,担当医師は亡太郎に対し,上記の検査結果を伝えたはずであるし,慢性肝炎が肝ガンに進展する旨を強く説明するとともに,飲酒の禁止及び定期的な通院・検査を受けることなどの必要性も繰り返し説明し,その指示・指導を行ったのである。
(被告の主張)
ア 原告らの下記主張は否認ないし争う。
イ 診療録(丙2)の記載を踏まえると,亡太郎が検査結果や慢性肝炎との説明を聞いたことがないということは通常あり得ない。また,病状と治療の必要性について医師から説明を受けて,放置していた場合も本件告知書の質問事項に該当すると考えるべきであり,亡太郎はそのような事情を認識しながら「なし」の部分に丸をつけたものと考えられる。
(原告らの主張)
ア 「2週間以上にわたり」の意義について,補助参加人主張のように考えると,保険会社が行った不明確な記載の責任を単なる一般人である被保険者に負わせることになりかねない。消費者保護の観点からすれば,文言解釈が基本であり,文字通り,2週間以上にわたって治療等があった場合と解釈すべきである。
イ 診療録には,肝炎に関して何らかの指示・指導を行った旨の記載は全くされていない。亡太郎の診察に同行した原告次郎は,肝炎に関する症状の説明や通院・日常の飲食等に関する指示・指導を聞いたことはない。
そもそも,亡太郎は,長年にわたって体調に異常はなく,肝炎の治療を受けることもなく,平成14年1月には不眠について診察してもらうために受診したのであり,肝臓の異常を感じて受診したのではない。そして,診察自体合計4回,1週間程度の通院の際に行われたにすぎないし,投薬にも肝炎に関するものはない。そして,検査は慢性肝炎の状況を検査したものとは断言できないし,その結果も肝臓の状態悪化以外の原因の可能性がある。また,亡太郎の感冒様の症状も慢性肝炎悪化から発生した症状ではない。このような経緯からして,医師も肝臓に対する治療の必要性を感じていたとは言い難い。
現に,亡太郎は,平成14年2月以降,定期的な通院・検査をしていないし,ビールを飲むなど飲酒していた。また,もし亡太郎が健康に問題があることを医師から告げられていたとすれば,保険金の支払がされないリスクのある借換えをするはずがない。
ウ 補助参加人及び被告の上記主張は,否認ないし争う。
(2)争点2(亡太郎が「指示・指導」を告知しなかったことについて故意・重大な過失があるか)(抗弁)
(補助参加人の主張)
ア 上記(1)の(補助参加人の主張)に記載の事実関係からすれば,亡太郎は,当然に平成5年以降,肝疾患の治療・経過観察を受けており,慢性肝炎の治療中であることや,平成14年初めにその肝疾患について継続的な禁酒・通院・検査などの指示・指導を受けたことを認識していたはずである。そのため,亡太郎は,平成14年から毎年健康診断を受けることとし,飲酒もやめた。
イ そして,本件告知書の記載からすると,今後も受診が必要と考えていた亡太郎においては,本件告知書に「あり」と回答すべきであった。にもかかわらず,「なし」と告知したのは,故意と評価せざるを得ないし,少なくとも重大な過失がある。
(被告の主張)
ア 原告らの下記主張は否認ないし争う。
イ 被告の一色一男行員が亡太郎に対し,金利差による負担軽減額が100万円以上になることを説明したところ,亡太郎も納得し,借換えを希望して契約締結に至ったのである。そして,本件告知書の作成手続のために一色行員が亡太郎と面談したが,その際に告知事項の記入に当たり指示・指導をした事実はなく,亡太郎は自己の判断で記入したのである。
(原告らの主張)
ア 亡太郎は,住宅ローンの借換えの必要はなかったが,被告の二宮次男支店長らに強く勧められて借換えをしたのである。亡太郎は,二宮支店長らに対し,昔肝炎にかかったことがあるという話をした。亡太郎は,二宮支店長らからの質問に対し,「治療もしていないし,薬も飲んでいない」と言うと,二宮支店長らから「薬も飲んでいないし,肝機能が安定しているから大丈夫」と言われたため,その指導に従い,本件告知書に「なし」と回答したのである。
イ 以上のことと上記(1)の(原告らの主張)に記載の経緯等を総合すれば,仮に亡太郎が肝疾患に関する指示・指導を受けていたと評価されたとしても,亡太郎には指示・指導があったという認識はなかったといえるし,告知義務違反について故意や重大な過失があるといえないことは明らかである。
(3)争点3(補助参加人に亡太郎の不告知を知らなかったことについて過失があるか)(再抗弁)
(原告らの主張)
亡太郎は,上記(2)の(原告らの主張)に記載のとおり,被告の行員の指導に従い,肝炎にかかったことがある事実を述べた。
被告の行員は補助参加人と密接な関係のある者であるから,亡太郎に告知義務違反があるとしても,補助参加人は少なくとも過失によってこれを知らなかったということができる。
(被告の主張)
原告らの上記主張は否認ないし争う(上記(2)の(被告の主張)参照)。
(補助参加人の主張)
原告らの上記主張は否認ないし争う。
(4)争点4(保険金請求権の発生を理由として住宅ローンの支払を拒むことができるか)(請求第1項関係)
(原告らの主張)
ア 住宅ローンの契約では,亡太郎が被告を保険金受取人とする団体信用生命保険契約の締結に同意し,加入手続をすることが条件とされており,関連契約として,亡太郎の死亡後,その相続人が被告の補助参加人に対する保険金請求権の存在を理由に住宅ローンの支払を拒絶することができる抗弁権が発生する旨の黙示の特約が締結された。
イ 万が一,住宅ローンの支払の拒絶が認められなかった場合には,期限の利益を喪失するなどの不利益が考えられるため,原告らは,亡太郎の死亡後,住宅ローンの支払を余儀なくされている。
ウ そこで,原告らは,請求第1項の確認を求めるものである。
(被告の主張)
ア 保険への加入が条件とされていたことは認め,その余の原告らの上記主張は否認ないし争う。
イ 通常,被保険者が死亡したとしても,保険金が支払われるまでには保険会社において審査がされる関係上,一定の期間を要するところ,その間に住宅ローンの返済が滞ってしまうと期限の利益が喪失しかねない。そのため,たとえ法的に保険金請求権が発生している場合であっても,相続人は継続して住宅ローンの支払をするものである。このようなことからすれば,亡太郎と被告との間で,明示のみならず黙示的にも,原告らが主張するような抗弁権の発生を内容とする意思表示がされたことはない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1に対する判断
(1)本件では「2週間以上にわたり」「指示・指導」があったかが争点となっている。そこでまず,これらの意義について検討することとする。
ア そもそも,補助参加人が本件告知書で疾病そのものの有無ではなく,疾病による治療等の有無を告知事項にしたのは,保険者の危険選択を実効的に行うということ等を考慮したものと考えられ,これ自体は合理的なことと考えられる。
しかし,告知書の文言の解釈に当たっては,保険者の危険選択の必要性だけを強調することは相当でなく,告知を求められた側が告知書における質問の内容や意味をどのように認識するかということも考慮すべきであり,近時,保険業界において,分かりやすい告知を求めるような努力がされている(裁判所に顕著な事実)のもその一環としてされているものと理解することができる。
イ そのようなことを踏まえ,本件告知書の記載について検討すると,まず,補助参加人は「2週間以上にわたり」の意義について,2週間程度で完治したような場合を除くという趣旨のものと説明している。確かに,治療や投薬,指示・指導がされた日数が14日(回数が14回)以上というような意味として捉えることは不合理と考えられる。しかし,治療や投薬については,それらが実際にされている期間と完治までの期間とがリンクするのが通常であろうから,補助参加人のいうような解釈も可能であろうが,「指示・指導」は通常単発的であり,それが実際にされている期間というものを直接観念しづらく,治療等と同列に考えることはできないように思われる。また,「指示・指導」は,後述のようにその意味があいまいであるだけでなく,本件告知書に例示はもちろん,具体的な説明さえないこともあって,これについて「2週間以上にわたり」がどのように機能するのかが必ずしも明らかでない(生命保険協会の「正しい告知を受けるための対応に関するガイドライン」(平成21年7月13日)18頁参照)(補助参加人主張のとおりだと「2週間以上にわたる指示・指導を受けた」と記載するのが素直とも思われる。)。本件告知書で告知を求めることにした趣旨や「治療」の後に「含む」という形で「指示・指導」が記載されていることを考慮すると,補助参加人の主張も理解しうるものの,告知書の記載が不明確であるときに,趣旨にさかのぼる解釈を無限定に許してしまうと,告知義務違反の効果が重大であるだけに,バランスを失することになりかねないという懸念も否定しきれない。
そして,本件では1月29日から1週間程度の通院期間中のやりとりが問題となっていることから,「2週間以上にわたり」の意義次第では,そもそもその要件が欠けると言われても仕方ないように考えられる。
ウ また,「指示・指導」の意義についても一義的ではなく,本件告知書には例示も具体的な説明も記載されていないところである。
この点について,本件告知書には,「治療(指示・指導を含みます)」と記載されていることから,治療に準ずるもの,すなわち,医師が医学的かつ専門的見地からする指示・指導を指すとも解される。しかし,医師の診察を受ければ,医師から何らかの「指示・指導」に当たりうるような話が出ることは容易に想定され,例えば,風邪でかかりつけ医の診察を受けた際に,「最近肝臓の具合はどうですか。酒は控えめにしてくださいね。」とか「今度暇になったら検査しましょう。」と言われた程度のことで,「指示・指導」に当たるのかは判然としない(上記ガイドライン17頁参照)。
なお,被告は,病状と治療の必要性について説明を受けて放置していた場合も「指示・指導」に当たると主張するようであるが,それは単なる「説明」であって「指示・指導」と言えないことは文言から明らかであり,この主張を採用することはできない。
(2)以上のようなことを前提として,必要な事実を確定した上で,補助参加人及び被告(以下,共通の主張をしている部分については,まとめて「補助参加人」ということもある。)の主張を一つずつ検討していくこととする。
ア 以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠等によって認定することができる事実である。
(ア)亡太郎は,平成5年以降,平成6年と平成7年に釜石病院に入院するとともに,少なくとも平成9年と平成11年に釜石病院に通院し,慢性肝炎や肝細胞ガンの疑い等と診断されていたが,平成11年10月6日以降,約2年3か月にわたって,同病院の消化器科に通院したことはなかった(丙2,3)。
(イ)亡太郎は,平成14年1月中旬以降,不眠や感冒様の症状を訴えて釜石病院の脳神経外科や耳鼻咽喉科で受診し,検査を受けたり,睡眠導入剤や抗生物質等の投薬を受けたりしていたが,同月29日に消化器科でも診察を受けることにした(甲11,丙2ないし4,原告次郎供述)。
(ウ)消化器科での診察等の状況は次のとおりである(甲11,丙2ないし4,原告次郎供述)。
a 平成14年1月29日
医師は亡太郎に飲酒の量を聞いたところ,亡太郎は1日当たりビール1本(350ミリリットル),焼酎2合と答えた。
また,亡太郎は,平成13年暮れから感冒様の症状があり,他の科で受診し,投薬された後に吐き気やむかつきの症状があることを訴えるとともに,肝機能検査を受けることを希望した。
医師は,超音波検査と血液検査を実施することとし,あとは内服薬の投与をしつつ経過観察することとした。そして,亡太郎は,血液検査を受け,胃潰瘍・胃炎薬と消化薬の投与を受けた。
b 同月30日
亡太郎は,後頭部の痛みとめまい感を訴えて救急外来にて診察を受け,医師に対して数日間寝ていないと言った。
c 同月31日
上記血液検査の結果はGOT61,GPT83,γ─GTP124,CPK557などであり,医師はその結果について亡太郎に話をした。
また,亡太郎は不眠や頻尿・残尿感を訴え,医師から泌尿器科を受診することを勧められた。なお,泌尿器科では前立腺肥大と診断された。
d 同年2月4日
亡太郎は腹部超音波検査を受けたところ,肝臓の辺縁が鈍化するなどしており,腎嚢腫と慢性肝炎と診断された。医師はその結果について亡太郎に話をするとともに,胃潰瘍・胃炎薬と消化薬を投与した。
e 診療録の表紙の「傷病名」の欄には,平成14年1月29日に「AE」(注:「adverseevent」(有害事象)のことと推測される。)と,同年2月4日には「CG」(慢性胃炎)と記載されているだけで,慢性肝炎などとは記載されていない。
(エ)亡太郎は,平成14年2月4日以降平成18年1月まで,釜石病院で肝臓についての検査・手術・投薬を受けたことはないし,肝疾患を理由として入通院したこともなかった(丙2ないし4,弁論の全趣旨)。
(オ)亡太郎は,平成5年以降,釜石市の健康診断を受けていなかったが,平成14年から再び受け始めるようになり,平成17年まで毎年これを受けていた(丙6ないし9,原告次郎供述)。
イ まず,補助参加人は,亡太郎が,平成5年以降,肝疾患の治療・経過観察を受けており,その一環として平成14年初めに診察を受けたと主張している。
(ア)確かに,補助参加人指摘のとおり,亡太郎の慢性肝炎は平成14年の時点で治癒していたとはいえないことは明らかであるし,慢性肝炎の性質上,亡太郎も平成11年以前の医師の説明等を受けて,完全にこれが治癒したとは認識していなかったことが推測される。
しかし,亡太郎は,平成11年を最後に平成14年まで2年以上にわたって釜石病院の消化器科に通院しておらず,平成14年2月の後は平成18年1月まで,肝疾患の手術や投薬はもちろん,検査さえも受けた形跡は見当たらないし,平成14年末から平成15年初めにかけて釜石病院に通院したことはあったものの,これはいずれも肝臓ではなく,胃の診察等を受けたものであった(丙2ないし4)。
そうすると,証拠上,亡太郎が平成5年から平成18年まで,継続的に肝疾患の治療・経過観察を受けていたとまで認めることはできない。
(イ)また,上記アで認定した事実を総合すれば,亡太郎が平成14年1月に釜石病院に通院したのは,肝疾患について診察・検査を受ける目的ではなく,むしろ,これとは関係なく,不眠や感冒様の症状の原因を知る目的であったといわざるを得ず,亡太郎が肝疾患の治療・経過観察の一環として受診したと認めることもできない。
なお,この点について,補助参加人は,亡太郎が従前の検査結果を踏まえ,肝機能フォローアップを希望して受診したと主張している。確かに,診療録には補助参加人指摘のような記載があるものの,これは医師の方から検査等をするか聞いたところ,亡太郎がこれを希望したという意味にもとれ,この記載だけから,受診の目的が肝機能のフォローアップであったとまで認めることは困難である。
また,補助参加人は,検査が慢性肝炎のフォローのためにされたと主張しており,そのような意味も含まれていたことはうかがわれるものの,診療録の記載をみると,投薬後の吐き気やむかつきの記載の後に「US(注:超音波検査),採血,内服でフォロー」と記載されており,さらに上記認定の事実関係を踏まえると,検査は主として吐き気等の原因を調べるためであったと認めざるを得ない。
(ウ)そうすると,補助参加人の上記主張を前提にすることはできない。
ウ 次に,補助参加人は,亡太郎の検査結果に照らせば,担当医師は,亡太郎にこれらの検査結果を伝えたはずであるし,定期的な通院・検査を受けることの指示・指導を行ったと主張している。
(ア)確かに,超音波検査の結果,慢性肝炎との診断がされ,肝臓に関して辺縁鈍化という検査結果が出ており,血液検査の結果も正常値を超えるものであり(弁論の全趣旨),その検査結果だけを見ると,医師から肝臓に関する何らかの話があったことが推測されるところである。
また,常識的に考えれば,担当医師は亡太郎に対して検査結果について話をしたと認められることは上記認定のとおりである。
(イ)しかし,診療録には,医師からの指示・指導に関する記載が見当たらず,医師が具体的にいかなる指示・指導をしたのか判然としない。
(ウ)それどころか,次のような定期的な通院・検査を受けることの指示・指導はされなかったことをうかがわせる事実関係もある。
すなわち,亡太郎は平成14年2月5日から同年12月まで釜石病院に通院した形跡がないし,同月から平成15年1月にかけての通院は胃に関するものであり,診療録の記載上も,肝臓に関する記載は一切見当たらない。そして,平成15年2月以降,平成18年1月まで通院の形跡は見当たらない。
特に,平成14年末から平成15年初めにかけて釜石病院の消化器科で受診したにもかかわらず肝機能検査をしていない(市の健康診断の結果さえ聞いた形跡がない)点は,平成14年初めに定期的な検査の指示・指導があったことを否定する方向に強く働く事実といわざるを得ない。
(エ)この点に関し,亡太郎が平成14年から市の健康診断を再度受け始めたことをどう評価すべきかという問題がある。
確かに,平成5年以降受診していなかった市の健康診断を平成14年から突然受け始めたのは,何らかのきっかけがあったと推測される。
しかし,平成14年2月に釜石病院の医師から指示・指導があったのであれば,従来からのかかりつけ医であった釜石病院で検査等をしてもらうのが自然な流れであり,市の健康診断を受け始めたことから平成14年2月に定期的な検査の指示・指導があったというのは論理の飛躍があるといわざるを得ない(平成14年初めころ1か月以上にもわたる体調不良が続いたことから自発的に受診するようになった可能性も否定しきれない。)。
また,市の健康診断は検査項目が限られており(丙6ないし9),丙10号証でも慢性肝炎のフォローアップとして使うことに否定的なことが記載されている。
そうすると,市の健康診断を受け始めたことから,定期的な通院・検査を受けることの指示・指導があったとまで認めることはできない。
(オ)さらに,補助参加人は検査結果の重大性を指摘しているが,上述のとおり,診療録の表紙には慢性肝炎とは記載されておらず,「AE」とか慢性胃炎と記載されており,これは医師の関心の度合いや認識を示す有力な証拠であるし(感冒様の症状が慢性肝炎によるものだと思ったのであれば,「AE」とか慢性胃炎とは記載しないか,少なくともそれまでの記載にならって肝疾患をも記載するのではないか。),市の健康診断の結果(丙6ないし9)と比べて数値が高く出ているところ,平成14年初めの検査結果を単に慢性肝炎の悪化の結果としてだけ捉えることでよいのかという問題もあるように考えられる(甲12ないし14参照)。
(カ)以上より,担当医師が亡太郎に対して定期的な通院・検査を受けることの指示・指導を行ったとまで認めることはできない。
エ 補助参加人は,診療録に飲酒に関する記載があることを指摘しつつ,担当医師は飲酒の禁止について指示・指導を行ったと主張している。
確かに,一般論として過度な飲酒が肝臓によくないことに照らせば,医師から飲酒を控えなさいとか,飲酒をやめなさいという話があったことも推測される。
しかし,平成14年2月以降,亡太郎が飲酒をやめたり,控えるようになったとの事実を認めることはできない(むしろ,原告次郎は,亡太郎が亡くなる直前まで飲酒をしていた旨供述しているところ,その供述態度や甲11に添付されている写真の内容に照らすと,同供述の信用性を否定することはできない。)し,診療録に飲酒の記載がされた平成14年1月29日には診療録の表紙に「AE」と記載されており,肝炎に関する記載はされていないから,証拠上,上記のような話が医師からされたとまで認めることはできず,飲酒に関する指示・指導があったというのは推測と言われても仕方ない(その他の日に飲酒が話題になったことを裏付ける適確な証拠は見当たらない。)。
なお,この点に関し,亡太郎は市の健康診断で,飲酒をやめたと回答していたことがうかがわれる(丙6ないし9)。しかし,この記載がされるに至った経緯は不明であるし,このことと,平成14年2月に飲酒に関する指示・指導があったということとは直接的な関連性はなく,この記載から指示・指導の事実を認定することはできない。
オ さらに補助参加人は,医学的な見地からの分析も加えている(丙10参照)。
確かに,丙10号証の内容のうち肝炎に関する医学的説明の部分については特に疑問を差し挟むべきところはないように考えられる。
しかし,本件では,慢性肝炎が治癒していたかどうかや,肝疾患に対する一般的な治療のあり方が問題となっているわけではなく,「指示・指導」があったかなどの事実認定が問題となっているのであり,そのような視点で検討する必要がある。
そして,丙10号証は,その前提としている事実関係に本判決の前提としている事実と異なるものが含まれている。例えば,亡太郎が肝臓の状態のフォローアップを希望して受診したという部分は上記判示のとおり言い過ぎであるし,胃腸薬しか処方されていないという点も,他の科で抗生物質や炎症・痛み・腫れ止めの薬剤等を処方されていること(丙2)を踏まえてのこととも考えられ,これをもって感冒様の症状の原因が慢性肝炎の悪化であると断ずることはできない(むしろ,他の科で投薬された後に吐き気やむかつきの症状が生じたという経緯に照らすと,投薬が原因である可能性を否定しきれない(甲12ないし14参照)。)。
また,平成14年末から平成15年初めの受診について,精密検査目的であったことを強調しているが,そもそも丙10号証のいうとおり「定期的に肝機能検査を受ける必要があ」ったのであれば,1年近く通院していない亡太郎が肝臓のかかりつけ医であった釜石医院の消化器科に来た以上,医師はそのときに肝機能検査をするよう強く勧めたはずであるが,そのような事実がないことをどのように考えるのかについて何も触れられていない。これでは説得力を欠くといわざるを得ないところである。
さらに,丙10号証では,亡太郎の慢性肝炎は治癒した状態ではなく,継続的な定期検査が必要な状態であり,亡太郎はそのことを認識していたと指摘されており,そのこと自体否定し難いとは考えられるが,本件で問題となっているのは,慢性肝炎に罹患している事実を告げなかったかどうかではなく,慢性肝炎について指示・指導がされたかどうか,そしてそれを亡太郎が平成16年3月の時点で認識していたかどうか等であるから,上記の指摘は本件の争点とずれがあることは否めないところである。
そうすると,丙10号証の内容を考慮しても,以上の判断は左右されないといわざるを得ない。
(3)以上より,補助参加人及び被告の主張を子細に検討しても,肝疾患について「指示・指導」があったとの事実を認定することはできない。
2 争点2に対する判断
(1)上記1で判示したとおり,肝疾患について「指示・指導」があったという補助参加人及び被告の主張を採用することはできないが,仮に「指示・指導」があったとして,亡太郎がこれを告知しなかったことについて故意又は重大な過失があったといえるかについても検討しておく。
(2)この点,補助参加人が主張する「指示・指導」は平成14年初めのものであるところ,本件告知書が作成されたのが平成16年3月であるから,2年以上も前の出来事であるし,特に,平成16年3月ころ亡太郎は体調が悪かったわけではないこと,そのころの健康診断では肝機能が特別悪いという結果は出ていなかったことなどに照らすと,亡太郎が同月の時点で約2年前の「指示・指導」の存在を認識していたにもかかわらず,あえてこれを告げなかったとまで認めることは困難である。また,亡太郎は既に平成13年に住宅ローンを借りており,わずか100万円程度の負担軽減のためにリスクを冒してまで住宅ローンを借り換える必要はなかったという原告らの主張は不合理とはいえないところである。さらに,亡太郎は被告の行員らにも入通院のことを話したということだが(乙1),故意であれば話さえもしないのが普通であろう。
なお,補助参加人は,亡太郎が今後も受診が必要と考えていたと主張しているが,上述したような診察や通院等の経緯に照らすと,亡太郎がそのような認識を有していたとまで認めることはできない(丙6ないし9号証の「慢性肝炎放置」との記載も,記載された経緯が不明であり,上記主張を採用する根拠とすることはできない。)。また,補助参加人は,亡太郎が平成5年以降,肝疾患の治療・経過観察を受けていたことを認識していたことを指摘しているが,このことと平成14年2月の「指示・指導」について認識していたかということは別のことであるし,以上判示したことや下記(3)で判示することを踏まえると,亡太郎が本件告知書作成の際に,平成14年初めに肝疾患について定期的な通院・検査を受けることなどの指示・指導を受けたことを認識していたとまで認めることもできない。さらに,補助参加人は,亡太郎が胃潰瘍等に関する事実を告知していないことを指摘しているが,肝炎についての指示・指導が問題となっている本件と直接の関連性はないといわざるを得ず,これをもって判断が左右されることにはならない。
以上のことを総合すると,亡太郎が故意であったとまで認めることには無理がある。
(3)問題は,亡太郎に重大な過失があったかということである。
この点,「重大な過失」の意義については議論があるところだが,告知義務制度の趣旨やその効果の重大性等にかんがみると,「重大な過失」とは,ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいうものと解すべきである(大審院大正2年12月20日判決(民録19輯1036頁),最高裁判所昭和57年7月15日判決(民集36巻6号1188頁)参照。なお,法制審議会保険法部会第10回会議・第17回会議等の議事録,同部会資料18─1「保険法の見直しに関する中間試案の意見募集の結果概要」34頁ないし35頁も参照)。
これについて検討すると,確かに,上述のとおり,亡太郎は平成5年に慢性肝炎と診断され,これが完全に治癒したとは認識していなかったと考えられる。
しかし,本件告知書で告知が求められているのは慢性肝炎の有無ではなく,それに関して指示・指導を受けたことの有無である。そして,「指示・指導」というのは,手術とか入通院とか投薬のような客観的に明確で,かつ本人も確実に認識し,容易には忘却しづらい事実ではなく,それ自体が必ずしも明確な概念ではなく,評価の入り込む余地がある上に,本件告知書には「指示・指導」の例示や具体的な説明の記載がないことも相まって,忘却や時期の認識についての混乱が生じやすい事項といわざるを得ない。
また,「2週間にわたる」という文言についても,本件告知書に例示や具体的な説明の記載がなく,どのような場合がこれに当たるのか直ちには判然とせず,平成14年ころから既にこの文言をめぐる紛争があったというのである(補助参加人の指摘する裁判例参照)。
以上のことに加え,上記1で判示したとおり,平成14年初めの通院は,本件告知書作成の2年以上前のことであるし,肝疾患の診察・検査を直接の目的としたものではなかったのである。しかも,「指示・指導」の内容は,補助参加人の主張によっても,飲酒の禁止や定期的な通院・検査を受けることの指示・指導というのであり,これは慢性肝炎に関する一般的・抽象的な指示・指導であり,亡太郎はそのようなことを医師から度々聞いていたことが推測される。そうすると,平成14年初めの診察の機会に肝臓に関する話があったとしても,それを明確に記憶していなかった(思い出さなかった)ことを責めることは困難といわざるを得ない。
それだけでなく,平成15年の市の健康診断における肝機能検査の結果は「オールa」であり,しかも前年度と比べて数値もよくなっていた(丙6,7)のであるし,体調に目立った不調がなかったこともあって,一般人である亡太郎としては,肝臓はそれほど問題ないと思っていたとしても不思議ではない。しかも,亡太郎は平成14年初めから2年以上,肝疾患により入通院したり,手術・投薬を受けたりしたこともなかったのであるから,時期の経過による忘却の可能性を否定しきれない。
以上のことを総合すれば,2年以上も前の「指示・指導」を告知しなかったとしても,これをもって,「ほとんど故意に近い」とまでいうことはできず,亡太郎に重大な過失を認めることはできない。
(4)以上判示したことを踏まえると,争点3について判断するまでもなく,補助参加人が亡太郎による告知義務違反を理由として本件保険契約を解除することはできないこととなる。
3 認容すべき請求について(争点4を含む。)
原告らは,請求第1項の請求又は同第2項の請求のどちらかを認容することを求めているが,当裁判所はこのうち第2項の請求を認容することとする。
その理由は次のとおりである。
すなわち,以上判示したことを前提とすれば,団体信用生命保険の被保険者である亡太郎が亡くなったことにより,保険金受取人である被告の保険者である補助参加人に対する保険金請求権が発生しているところ,亡太郎及び原告らと被告との間では,上述のとおり,被告が保険金を受領したときは,受領金相当額の亡太郎の被告に対する債務につき返済があったものとして取り扱う旨が合意されている。そして,本件訴訟には保険者が補助参加しており,本件訴訟の判決で被告の補助参加人に対する保険金請求権が存在することが確認されれば,補助参加人から被告に対して亡太郎の死亡時の住宅ローン残債務相当額の保険金が支払われ,それが住宅ローンの支払に充てられることとなり,紛争が終局的に解決されることになる。そうである以上,原告らにとって保険金請求権は他人間の権利関係であるものの,原告らにはこの存在の確認を求める法律上の利益があるというべきである。
これに対し,請求第1項の請求については,第2項の請求に重ねてこれを認容すべき利益(確認の利益)があるのかという疑問があるほか,そもそも判決の主文として非常に分かりにくいという問題があるし,原告らが住宅ローンの支払を続けており,現時点でその残額は七百数十万円程度となっていることから,そもそも1023万9490円全額の支払債務について支払を拒絶することができる旨の確認を求めることが可能かという問題もあると考えられる(仮に保険事故発生時に住宅ローン債務が消滅すると考えれば,そのような抗弁権はそもそも存在し得ないという問題もある。)。さらに,原告らが主張するような抗弁権があるといえるかは,明示的に交わされた覚書(甲4)の内容との関係で,どのように考えるべきか議論の余地があるところである(ただし,原告らが住宅ローンの支払をしなかったとしても期限の利益を喪失することはない,あるいは,被告が期限の利益の喪失を主張することは信義則に反するという解釈をすることは可能であろう。)。
第4 結論
以上より,原告らの被告に対する請求のうち第2項の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 野上誠一)
別紙1 契約目録1
債権者 被告
債務者 亡太郎
連帯保証人 原告花子及び原告次郎
契約の種類 消費貸借契約
金額 1170万円
利率 平成16年3月29日から平成19年3月3日までは年利1パーセント,同月4日から平成22年3月3日までは年利2.55パーセント,同月4日以降については変動金利
契約日 平成16年3月29日
返済開始日 平成16年4月3日(以後毎月3日が返済日)
月当たりの返済額 平成16年4月3日から平成19年3月3日までの期間は7万0023円,同年4月3日から平成22年3月3日までの期間は7万6635円,同年4月3日以降は金利が変動するために返済額は一定しない。
関連契約 債務者は,債務者を被保険者とし,債権者を保険金受取人とする団体信用生命保険契約の締結に同意し,加入手続をする。
別紙2 契約目録2
契約日 平成16年4月5日
保険の種類 団体信用生命保険
保険期間 割賦債務の償還期間
保険金額 保険事故発生時点での債務残高等
保険会社 補助参加人
保険契約者 訴外社団法人第二地方銀行協会
被保険者 亡太郎
保険金受取人 被告
告知義務 保険契約者又は被保険者は,保険契約の締結の際に,保険会社所定の事項について告知することを要する。
告知義務違反解除 保険契約者又は被保険者が,故意又は重大な過失によって上記告知の際に事実を告げなかったか,事実でないことを告げた場合は,保険会社は保険契約を将来に向かって解除することができる。ただし,保険会社が事実について悪意又は有過失の場合は解除することができない。