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盛岡地方裁判所 平成5年(わ)99号 判決 1993年8月23日

主文

被告人を懲役三年六月に処する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤結晶粉末四袋(<押収番号略>)を没収する。

被告人から金一万円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに

第一平成四年五月二〇日午前二時ころ、岩手県盛岡市<番地略>E方において、同人に対し覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約0.08グラムを代金一万円で譲り渡し

第二平成五年六月一日ころ、同市<番地略>○○駐車場において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約0.03グラムを含有する水溶液約0.25立方センチメートルを自己の右腕部に注射し、もって、覚せい剤を使用し

第三同月二日午後零時三五分ころ、同市<番地略>岩手県交通安全協会地下駐車場入口付近において、みだりに、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶8.087グラム(<押収番号略>は、その鑑定残量)を所持し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(覚せい剤の種類を認定した理由)

公訴事実における覚せい剤の種類は、判示第一の罪については「フェニルメチルアミノプロパン塩を含んだ結晶粉末」であり、同第二の罪については「フェニルメチルアミノプロパンを含んだ結晶」であり、同第三の罪については「フェニルメチルアミノプロパン塩を含有する結晶」であるが、当裁判所は、右いずれの罪についても覚せい剤の種類を「フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶」と認定した。その理由は、以下のとおりである。

判示第一及び第三の罪に係る覚せい剤の両鑑定書(<書証番号略>)によれば、いずれも、鑑定結果には、資料は「フェニルメチルアミノプロパン塩(塩の形は塩酸塩と推定)と認める」旨の記載があるから、その覚せい剤の種類は端的に「フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶」と認定すべきである。

また、被告人の当公判廷における供述によれば、被告人は、所持していた覚せい剤の結晶のうちの一部を使用して判示第二の罪の実行に費消し、その残部をもって判示第三の罪を実行したことが認められ、すると、この両犯行に用いた覚せい剤は同種であると見るべきであり、判示第二の罪に関して被告人の尿にフェニルメチルアミノプロパンの含有を認める旨の鑑定書(<書証番号略>)をも考慮すれば判示第二の罪に係る覚せい剤もまた、「フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶」と認定すべきである。

(累犯前科)

被告人は、(1)昭和六〇年一一月二六日当裁判所で覚せい剤取締法違反罪により懲役二年六月に処せられ、昭和六三年一二月二一日右執行を受け終わり、(2)同年五月一一日同裁判所で同罪により懲役三年に処せられ、平成三年一二月二一日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、平成三年法律第九三号(麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律)附則三項により同法による改正前の覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に、判示第二の所為は、覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条に、判示第三の所為は、同法四一条の二第一項にそれぞれ該当するところ、前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年六月に処し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤結晶粉末四袋(<押収番号略>)は、いずれも判示第三の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文によりこれを没収し、判示第一の犯行により被告人の取得した金一万円の現金は刑法一九条一項三号に該当するが、既に費消して没収することができないので、同法一九条の二を適用してその価額を被告人から追徴することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(裁判官井上薫)

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