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盛岡地方裁判所 昭和24年(行)115号 判決

原告 米内福蔵

被告 岩手県知事

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十四年七月十八日附二四農地第二七四一号をもつて岩手県九戸郡大川目村大字大川目第二十五地割百番の二畑一反九畝二歩及び同村同大字第二十四地割三十六番畑一反七畝二歩につきなした訴願棄却の裁決はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、請求趣旨記載の二筆の土地は原告の所有であるところ、右二筆のうち百番の二畑一反九畝二歩はこれを二分しそのうち九畝十六歩を小坂千松に、その余の九畝十六歩を佐々木初太郎に十数年前から、また三十六番畑一反七畝二歩を小倉善八郎に三十数年前から、いずれも期間の定めなく、原告が自作する場合は何時でも返還するとの特約でそれぞれ賃貸して来たところ、右小作人等は戦時中の労働力の不足に加えその耕作面積が比較的多かつたので人手が廻わらず、施肥も思うに任せなかつたため、従来村内の一等地であつた前記各土地が下等地に下落し、反当の収穫量も低減し営農成績極めて不良であつたので、精農であり郡内切つての農事改良家として知られ、他を指導し衆に垂範し来つた原告としては到底これを黙過するに忍びず、昭和二十年十一月二十一日前記小作人等に対しそれぞれの小作にかかる前記各土地の返還を求めたところ、同人等は快くこれに応じたので、ここに当事者等の任意に出でた合意に基き前記各小作契約を解約して即日右各土地の引渡を受け、翌二十二日から原告において手入を始めて耕作を準備し、昭和二十一、二十二、二十三、二十四年と平穏無事に耕作を続け来たつたものであるところ、その頃右小作人等が九戸郡大川目村農地委員会に対し、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第六条の二第一項に則り右各土地の買収請求をなしたが、村農地委員会は、右各土地は昭和二十年十一月二十三日基準時前に適法な合意解約に基き前記小作人等から原告に返還されたものであると認め、遡及買収をなすべき農地ではないとして右買収請求を却下したのである。ところがこれを不服とした右小作人等は更に県農地委員会に対し前記各土地の買収請求をしたので県農地委員会は村農地委員会の権限を代行して昭和二十四年三月二十九日右各土地につき昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き買収計画を樹立してその旨公告し書類を縦覧に供したので、原告は同年五月一日異議を申立てたところ却下され、更に同年六月一日被告に対し訴願したが同年七月十八日これまた棄却となり、右訴願裁決書は同年十月一日原告に送付された。しかしながら前記各土地は前叙のとおり基準時現在において原告耕作にかかる自作地であつたのであり買収し得べからざる農地であつたにかかわらず、県農地委員会は基準時現在における事実関係の認定を誤り前記買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに対する原告の訴願を棄却して右買収計画を維持した被告の前記訴願裁決もまた違法であり取り消さるべきである。よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中その主張の各土地が原告の所有でありその主張日時頃から小坂千松、佐々木初太郎及び小倉善八郎等がそれぞれこれを賃借小作して来たこと、右小作人等が村農地委員会に対し前記各土地の買収請求をなしたが却下されたので更に県農地委員会に対し右買収請求をなしたこと、原告主張日時県農地委員会が右小作人等の請求に基き村農地委員会の権限を代行して基準時現在の事実に基き自創法第三条第一項第三号に該当する農地として前記各土地につき買収計画を樹立してその旨公告し書類を縦覧に供したに対し原告がその主張日時異議次いで訴願したがそれぞれ却下、棄却され、右訴願裁決書が原告主張日時原告に送付されたことはいずれもこれを認めるが、前記各小作契約において原告主張の特約の存したことは不知、原告主張日時右各小作契約が合意解約せられ、基準時現在原告が前記各土地を自作していたとの点は否認する。基準時現在において右各土地は前記小作人等の賃借にかかる小作地であつたのであるから右小作人等の遡及買収の請求に基き県農地委員会の樹立した前記買収計画は適法であり、従つてこれを維持して原告の訴願を棄却した本件訴願裁決もまた適法で何等原告主張の違法はないから原告の本訴請求は失当であると述べた(立証省略)。

三、理  由

原告主張の本件二筆の畑が原告の所有であるところ、そのうち百番の二畑一反九畝二歩を二分して九畝十六歩づつを小坂千松及び佐々木初太郎にいずれも十数年前から、また三十六番の畑一反七畝二歩を小倉善八郎に三十数年前からそれぞれ賃貸して来たこと、右同人等がそれぞれその小作にかかる前記各土地につき大川目村農地委員会に対し遡及買収の申請をしたが却下されたので県農地委員会に更めて右請求をしたところ、同委員会は昭和二十四年三月二十九日村農地委員会の権限を代行して昭和二十年十一月二十三日基準時現在の事実に基き、自創法第三条第一項第三号に該当するものとして右各土地につき買収計画を樹立してその旨公告し書類を縦覧に供したこと、これに対し原告は同年五月一日異議を申し立てたが却下されたので同年六月一日被告知事に対し訴願したところこれまた棄却となり、右訴願裁決書が同年十月一日原告に送付されたことはいずれも当事者間に争がない。

本件各土地が基準時現在小作地であつたか否かにつき争があるのでまずこの点につき案ずるに、右当事者間に争のない事実に証人小坂千松(第一、二回)、佐々木初太郎(第一、二回)、小倉善八郎(第一、二回)小田島金一、外岡九郎、村田文一及び米内タツ(但し後記措信しない部分を除く)の各証言を綜合すれば、昭和二十年十二月二十四日頃原告の妻米内タツが原告の意を受けその指図に従つて小坂千松、佐々木初太郎及び小倉善八郎等の宅を訪れその頃右小坂千松は所要あつて不在であり、小倉善八郎も当日在宅しなかつたのでそれぞれその妻に、また佐々木初太郎はいまだ復員していなかつたのでその母に対し、「後でまた貸すことになるかもしれないが一まず小作地を返してくれ」と本件各土地の返還方の申入をなしたこと、原告の右申入に対し、右小坂千松の妻及び小倉善八郎の妻は、夫が不在中であるから自分の一存で返すとも返されぬとも即答し兼ねると明確な返事をしなかつたし、また右佐々木初太郎の母にしても、息子がいまだ復員していないことでもあるし、今直ぐ返事を致し兼ねるとこれまた明らかな返還の意思表示をしなかつたこと、越えて翌二十一年二月頃原告は右小坂千松本人、佐々木初太郎の母及び小倉善八郎の妻を自宅に呼び集め、更めて前記各土地の返還を求め、その際、若し同人等が原告の右申出に応じなければ、同人等に貸し付けてある他の小作地も全部取り上げることにすると強硬にこれが返還を迫つたので、右訴外人等は小作地全部を取り上げられるよりは本件各土地の返還に応ずるに如くはないと考え、即日原告の右申出に応じ、ここに当事者等合意の上それぞれの関係小作契約を解約し右各土地の引渡をなしたこと、その際既に右訴外人等において蒔き付けを終えていた麦の処置については、同年六月の刈取は右訴外人等においてこれをなし、昭和二十年度分の小作料として右収穫物の二分の一を従来どおり刈分として原告に納入することに決めたこと、右各合意解約において前記佐々木初太郎の母及び小倉善八郎の妻はそれぞれその本人を代理してこれをなしたこと、かくて同年春原告において、前記訴外人等の蒔き付けた麦の間に大豆を蒔き、次いで同年六月右訴外人等が麦を刈り取つた跡地に稗、続いて麦を蒔き爾来耕作を継続して現在に至つたこと、以上の事実を認めることができる。証人下畑千太、小坂茂三郎、松井端留之助、米内タツの各証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する供述部分は前記各証拠に照らしにわかに措信し難く、その他原告提出援用にかかる全立証をもつてしても右認定を覆し、原告が基準時以前に前記小作人等から本件各土地の返還を受けこれを自作していた事実を認めるに足りない。

しからば本件各土地は基準時現在前記小作人等の賃借にかかる小作地であつたといわなければならないところ、その後昭和二十一年二月頃、右各小作契約は契約当事者の任意に基く合意により解約されたのであるから、右各土地は自創法第六条の二第二項第一号の、昭和二十年十一月二十三日以後において適法に解約せられた小作地に該当するものといわなければならない。

ところで右法条は、仮令基準時現在小作地であつても、基準時以後において適法に解約せられた農地は、遡つて基準時現在の事実に基きこれを買収してはならないとする、いわゆる遡及買収に対する例外規定であるが、右法条の適用の要件として、右解約が単に適法であるのみならず、正当であることを要するとしているから、更に進んで前示各合意解約の正当性について判断しなければならない。

しかして右法条にいう正当性の判断の基準は、農地調整法第九条第一項及び同法施行令第十一条のいわゆる相当性ないしは正当の事由における判断基準と全く同一に解すべきところ、同施行令第十一条によれば、農地の賃貸人が賃貸借を解約するには、賃貸人の自作を相当とするか又はその他正当事由あることを必要としその相当性又は正当性は、当該賃貸人が自作をする上において必要なだけの経営能力及び施設等を有するかどうか、右賃貸人の自作により当該農地の生産が増大するかどうか、また賃貸借の解除解約又は更新の拒絶により当該農地の賃借人の相当なる生活の維持が困難となることがないかどうか等、当該農地を中心に生活を営む契約当事者双方に関する諸般の事情を考慮して認定しなければならない旨規定している。

本件についてこれを観るに、前顕証人小坂千松(第二回)、佐々木初太郎(第二回)、小倉善八郎(第二回)、村田文一、米内タツの各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すれば、前示各小作契約解約当時における原告の家族は五人であるに対しその所有農地は本件各土地を含めて四町四反二畝二十七歩であり、そのうち約一町歩を自作していた外馬二頭その他の家畜を有する大川目村における最上層部に位する豊裕農家であつたこと、一方前記小坂千松の家族は十人であるに対しその耕作面積は本件係争中の畑九畝十六歩を含めても僅かに五反八畝歩であり、佐々木初太郎は家族五人で同じく本件土地九畝十六歩を合してこれまた僅かに三反五畝歩を耕作するにすぎなかつたこと、もつとも前記小倉善八郎はその家族五人に対しその耕作面積は本件三十六番畑一反七畝二歩を加えれば一町二反七畝二歩であり、前記小坂千松及び佐々木初太郎に較べて有利な生活条件であつたが、これとて原告のそれに比し問題ではなく、以上三名とも本件各土地を取り上げられるにおいては直ちにその生活に脅威を受け、一家経済の基礎を覆される結果に立ち至るべきこと、しかも右訴外人等はこれまで小作人として嘗て不誠実、若しくは信義に反する所為に出でたことなく、いずれも長年月に亘り本件各土地を耕作しそれぞれその経済の重要なる支柱となし来つたものであること、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る何等の証拠がない。

この点に関し原告は右訴外人等の労働力及び施肥の不足により昭和二十年頃における本件各土地の収穫量が著しく低下し、従来村内の一等地であつたものが下等地に下落するに至つたのでこれが瘠悪化を防止するために前示解約の申入をなした旨主張するけれども、戦時中の労働力の不足就中肥料等営農資材の入手極めて困難であつたこと及びその結果が暫く農地の生産性に影響を及ぼしたことは当裁判所に顕著な事実であるから、この一事を捉えて右訴外人等の営農方法の拙劣若しくは怠慢と称することを得ないのは勿論であり、これのみをもつて前示解約申入の正当事由となし得ないこというを俟たない。

果してしからば、前示各小作契約解約当時における原告と前記訴外人等の本件各土地に対する必要性ないしその一家経済において占める重要性を、客観的事実に徴し彼此考量すれば、結局前示解約は正当性ないし相当性を欠くものであるといわなければならない。従つて原告と右訴外人等との各小作契約が当事者の任意に出でた合意に基き適法に解約せられたとしても、右合意解約は自創法第六条の二第二項第一号にいわゆる正当な解約ということはできないものといわなければならない。

してみれば、基準時現在における原告の所有農地は、自作地一町歩、小作地三町四反二畝二十七歩合計四町四反二畝二十七歩であつたこと前示認定のとおりであり、自創法第三条第一項第三号に基く岩手県における法定保有面積三町四反を超過すること一町二畝二十七歩であるから、県農地委員会が基準時現在における本件各土地の小作人であつた前記訴外人等の適法な遡及買収の請求に基き、基準時現在の事実に基き本件各土地につき前示買収計画を樹立したのは固より適法であり、従つて右買収計画を維持して原告の訴願を棄却した本件訴願裁決もまた適法であつて何等原告主張の違法はない。

よつて原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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